封印箱を探して 3
封印箱を受け取る前に、店主は奥の作業台へ二人を案内した。
「入れ替えはここでやるといい。簡易の結界が張ってある。開封は最小限にしなさい」
「ありがとうございます」
ミラは机に白花を置き、泉の水を一滴垂らした布を用意した。エリオットは少し離れた位置に立つ。
「痛みが出たら言ってください」
「ああ」
「黒い核が動いたら」
「言う」
ミラは封じ布を慎重に開いた。
黒い核が姿を見せる。
店主が低く息を呑んだ。
「……これは、ただの魔物核じゃないな」
「分かりますか」
「分かるさ。こんなに嫌なものを、ただの核で済ませたら商売を畳むしかない」
エリオットの護符が微かに光る。
「奥で動いている」
彼が低く言った。
「でも弱い。封じられているからか、昨日より大人しい」
「そのまま見ていてください」
ミラは核を封じ布ごと新しい封印箱へ移した。内側の白石が黒い気配に触れ、薄く白く光る。
じ、と小さな音がした。
ミラはすぐに蓋を閉じ、封印紐をかける。
店主が追加の封印札を貼った。
「これでいい。少なくとも数週間は保つはずだ。ただし、強い魔力場や瘴気の濃い場所へ持ち込むと反応するかもしれない」
「分かりました」
「夜に脈打つ、周囲の温度が下がる、持ち主が悪夢を見る。そういうことがあればすぐ封印を強めること」
ミラは真剣に頷き、帳面へ書き込んだ。
店主はその帳面に書かれた名前を見て、ふと目を細める。
「君、コックスという名か」
ミラは顔を上げた。
「はい。なぜ」
「王都のオリヴァー・コックスと関係がある?」
「父です」
店主は「ああ」と納得したように頷いた。
「昔、うちの封印灯の部品を直してもらった。あの人の仕事は丁寧だったよ」
ミラの表情が少し明るくなる。
「父をご存じなんですね」
「直接何度か。派手な魔術師ではないが、いい職人だ。無駄な魔力を使わず、長持ちするものを作る」
「父らしいです」
ミラは小さく笑った。
エリオットは、その横顔を見た。
父の話をする時のミラは、少しだけ柔らかい顔をする。
王都で落ちこぼれと呼ばれた彼女を、きっと父はそう呼ばなかったのだろう。
店主は棚から小さな封筒を取り出した。
「王都へ何か送るなら、魔術院便より職人便の方が目立たないこともある。急ぎではないが、確実だ」
ミラとエリオットは顔を見合わせた。
「職人便?」
「工房同士の部品や図面のやり取りに使う便だ。うちは月に何度か王都へ出す。オリヴァー工房宛てなら紛れやすい」
ミラの胸が小さく鳴った。
ライヘルへ直接ではなく、父の工房へ。
そこから兄へ渡してもらう方が安全かもしれない。
「封じた小さな標本も送れますか?」
「ものによる」
「核本体ではありません。浄化済みの微量片と、観察記録です」
「それなら、専用の小瓶に入れて封をすればいける。ただし、中身の説明は外に書くな」
「はい」
エリオットが低く言う。
「途中で開けられる可能性は?」
店主は彼を見た。
「ゼロではない。だが、魔術院便よりは低い。工房便は部品の油や金属粉まみれだから、好んで開けたがる者は少ない」
「それでも、危険はある」
「ああ」
ミラは少し考えた。
「今日はまだ出しません。手紙の文面を整理します。明日の朝までにお願いするかもしれません」
「分かった。明日の昼前なら、王都行きの便に乗せられる」
「ありがとうございます」




