封印箱を探して 2
リンドルの町は、村よりずっと大きかった。
石畳の広場を中心に、宿屋、鍛冶屋、布屋、薬種屋、魔道具屋が並び、荷馬車や商人の声が行き交っている。街道沿いの町らしく、人も物も多い。
ミラは馬車から降りると、まずエリオットの右腕を確認した。
「痛みは?」
「二」
「熱は少しありますね」
「馬車の揺れのせいだと思う」
「今日は買い物が多いですが、無理はしません。まず宿を取り、その後に必要なものだけ見に行きます」
「分かった」
エリオットは町の様子を見回した。
人の多さに、彼の肩が少し強張る。
ミラはそれに気づき、声を落とした。
「人が多いので、今日は早めに休みます」
「俺のためか」
「治療計画のためです」
「同じことだ」
「少し違います」
エリオットは何か言い返そうとして、やめた。
宿は広場から一本入った通りにある、比較的静かな店を選んだ。
部屋は二つ。隣同士。
前の村のように同じ屋根の下ではあるが、今度は宿屋なのでエリオットも少し安心したようだった。
「荷物を置いたら、まず封印容器です」
ミラが言うと、エリオットは頷いた。
「黒い石の反応は?」
「今のところ静かです。でも、町の中で何かに反応する可能性もあります」
「俺の護符もまだ静かだ」
「では、魔道具屋へ行きましょう」
リンドルの魔道具屋は、広場の北側にあった。
看板には、銀色の歯車と小さな水晶が描かれている。
店の中には、小型の魔力灯、保存瓶、封印布、結界札、薬草乾燥器、旅人用の簡易浄水具などが所狭しと並んでいた。
店主は白髪混じりの痩せた男で、丸い眼鏡をかけている。ミラが入ると、彼は帳簿から顔を上げた。
「いらっしゃい。旅の方かな」
「はい。封印用の小型容器を探しています」
店主の目が少し鋭くなった。
「何を封じる?」
ミラは一瞬考えた。
そのまま「瘴気の核」と言うのは避けたい。
「魔力汚染を帯びた触媒片です。弱いものは浄化しましたが、核を持つものがひとつ残っています」
店主は眼鏡の奥からミラをじっと見た。
「触媒片、ね。魔物核かい?」
「似ていますが、自然由来ではないように思います」
その言葉に、店主は帳簿を閉じた。
「見せられるか」
エリオットがすぐに口を開いた。
「ここで開くのは危険です」
店主は今度はエリオットを見た。
右腕の包帯。
手首の護符。
大柄な体と、元騎士らしい立ち姿。
「なるほど。開けられない程度には危ないものか」
「はい」
ミラは頷いた。
「一時保管ではなく、移動に耐えられるものが必要です。揺れや衝撃で封が緩まないもの。できれば、外から魔力反応を確認できるもの」
「高くなるよ」
「……分かっています」
ミラは少しだけ表情を引き締めた。
店主は棚の奥へ行き、小さな箱を三つ持ってきた。
一つは木箱。
一つは銀色の金属箱。
最後は、黒っぽい金属で縁取られた小型の封印箱だった。
「木箱は弱い呪物用。これは足りないだろう。銀箱は魔力漏れを抑えるが、瘴気には少し弱い。おすすめは三つ目だ」
店主は黒い縁の箱を指で叩いた。
「鉛銀張りの封印箱だ。内側に白石を薄く敷いてある。封印布と併用すれば、短中期の移動には耐える」
「中身を完全に浄化するものではないですよね」
「もちろん。封じるだけだ。中で勝手に消えると思わない方がいい」
「値段は?」
店主が提示した金額に、ミラは少し息を止めた。
高い。
かなり高い。
旅治療師の収入で、気軽に買えるものではなかった。
ミラが迷っていると、エリオットが静かに言った。
「それを買おう」
「エリオットさん」
「俺が払う」
「ですが」
「俺の腕にも関わるものだ。君の治療道具だけで背負わせる理由はない」
「でも、これは」
「治療費だと思ってくれ」
エリオットの声は落ち着いていた。
ミラはすぐには頷けなかった。
エリオットは元騎士だ。ある程度の蓄えはあるのかもしれない。
それでも、彼の今後を考えれば無駄遣いはできない。
「半分ずつにしましょう」
ミラは言った。
エリオットの眉が動く。
「ミラ」
「これは私の調査にも必要です。エリオットさんの腕だけの問題ではありません。村で子どもも被害を受けました。だから、半分ずつです」
エリオットはしばらくミラを見ていた。
やがて、諦めたように息を吐く。
「……分かった」
店主が二人を見比べ、少しだけ口元を緩めた。
「いい判断だ。危険物は、一人で抱えるとろくなことにならない」
「経験談ですか?」
ミラが尋ねると、店主は肩をすくめた。
「魔道具屋を長くやっているとね」




