第六の名 2
「閣下。あなたが気にしているのは政治的火種です。私が気にしているのは、核と白花と剣の反応です。目的は違いますが、必要な対応は一致しています」
「何が一致している」
「核を彼らの手元に残さないことです」
侯爵は黙った。
その沈黙を、セヴランは答えと見たようだった。
「エルネストには観測と一次回収を命じています。ですが、彼だけで核本体を確保できるとは考えていません」
「ヴィダルか。あの若造に任せているのか」
「任せてはいません。使っているだけです」
あまりに淡々とした言葉だった。
侯爵は、内心で舌打ちした。
セヴランにとって、人間はいつもそうだ。
使うもの。
観測するもの。
反応を見るもの。
「では、どうする気だ」
「実験に使ったものは、きちんと回収します。そのために騎士団にも動いてもらっています」
侯爵の顔が変わった。
「騎士団?」
「危険物を処理する専門家が揃っているでしょう」
セヴランの声は穏やかだった。
その穏やかさが、侯爵の背筋を冷やした。
「……まさか」
雨音が窓を叩く。
侯爵は、ゆっくりとその名を口にした。
「第六を動かしたのか」
セヴランは答えなかった。
だが、沈黙は肯定だった。
侯爵は椅子から立ち上がった。
「正気か、ノックス。第六は表に出してよい駒ではない」
「表には出しません」
「二年前の件でさえ、あれを動かした痕跡を消すのにどれほど苦労したと思っている」
「だから、王都ではなくカーヴェルです」
「地方なら許されると?」
「地方の坑道下。封鎖区域。瘴気性危険物。騎士団が危険物回収に動いても、不自然ではありません」
侯爵はセヴランを睨んだ。
第六特務小隊。
騎士団の組織図にはない部隊。
存在してはならない部隊。
だが、二年前、黒塗り木箱七点の夜間搬入と事故現場の封鎖に使われた部隊。
侯爵も、その存在を知らないわけではなかった。
むしろ、利用した側だ。
政治側が直接動かせない現場を、騎士団癒着派の手で処理する。
危険物を運ばせる。
証拠を閉じる。
目撃者を散らす。
便利だった。
便利すぎるほどに。
だからこそ、危険だった。
「あれは、ガレスの表の部下ではない」
「承知しています」
「記録にない」
「だから、記録には残りません」
「違う」
侯爵の声が鋭くなった。
「記録にないものが露見すれば、言い逃れができないと言っているのだ。騎士団、治療院、禁術派、そして我々。すべてが繋がる」
「露見しなければよいのです」
「簡単に言うな」
侯爵は額に手を当てた。
蒸した室内で、香炉の煙だけが静かに流れている。
その白い煙が、侯爵にはまるで逃げ道を塞ぐ糸のように見えた。
「第六を動かすということは、貴様が言うほど事態は管理できていないのではないか」
「いいえ」
「ならばなぜ第六を出す」
「保険です」
「貴様の保険は、いつも他人の首に刃を当てる」
「研究には、備えが必要です」
「これは研究ではない。政治だ」
「政治もまた、条件管理でしょう」
侯爵は言葉を失った。
この男は本気でそう思っている。
人も村も商会も騎士団も、すべて条件の一部なのだ。




