↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
298/346

冷たい白の灯籠 2

 日が沈む頃、灯籠流しの準備が始まった。

 銀環堂の確認台には、灯籠を持った人々が並んでいる。

 青輪印のあるものはすぐに通される。個人製のものは、職人が封緘部を見て、反応針を近づけ、問題がなければ小さな紙札をつけた。

 完全ではない。

 人は多い。

 流し場も一つではない。

 橋の下や小さな船着き場から、家族だけで灯籠を流す者もいる。

 だが、できるだけの手は打っていた。

 ミラは運河沿いに立ち、水面を見つめた。

 灯籠が一つ、また一つと流れていく。

 白。

 青。

 淡い金。

 子どもが描いた花の模様。

 亡くなった家族への祈り。

 今年の実りへの願い。

 水面に映る光は、どれも温かかった。

「きれい……」

 思わず呟くと、隣のエリオットが静かに頷いた。

「ああ」

 その時だった。

 胸元の白花が、かすかに冷えた。

 温かくなるのではなく、逆に熱を奪われるような感覚。

 ミラは息を止めた。

「……今」

 エリオットも同時に顔を上げる。

 彼の右腕が、補助具の中で微かに震えた。

 痛みではない。

 熱。

 手のひらの奥から、何かが外へ向かって立ち上がろうとする。

「右手が反応している」

 エリオットはすぐに言った。

 声は低いが、乱れていない。

「動かさない。だが、近くにある」

 ミラは水面へ目を凝らした。

 灯籠の群れの中に、一つだけ、妙な白がある。

 見た目は涼しげだった。

 けれど、水の上を流れているのに、水と馴染んでいない。白い光が、灯籠の内側で止まっている。揺れない。温まらない。祈りの言葉も、手作りの飾りもない。

 白いのに、冷たい。

 光っているのに、乾いている。

「兄さんの手紙の……」

 ミラが呟いた瞬間、近くで子どもがふらついた。

 灯籠を見つめていた小さな男の子が、ぼんやりと運河へ近づく。

 母親が気づくより早く、レオンが動いた。

「下がれ」

 低い声と同時に、レオンが子どもの肩を支える。子どもははっとしたように瞬きをし、その場で膝をついた。

 周囲がざわつく。

 ミラは一歩前へ出かけた。

 だが、エリオットの左手が彼女の進路を遮った。

「ミラ、手順」

 その声に、ミラは踏みとどまる。

 そうだ。

 飛び出さない。

 壊さない。

 流れを見る。

「セリアさん!」

 ミラが声を上げると、確認台にいたセリアがすぐに振り向いた。

 彼女はミラの視線を追い、水面の灯籠を見つける。

「銀環堂の印がありません」

 セリアは反応針を取り出し、近くの職人へ指示を飛ばした。

「小舟を止めてください。あの白い灯籠を囲む。触らないで。水ごと布で受けます」

 イザークもすぐに動いた。

「確認台を一時止めろ! 灯籠を流すな。模造品の確認だと言え!」

 混乱が広がりかけたが、レオンが子どもを母親へ渡し、周囲の人々を下がらせる。

「慌てるな。灯籠の不具合だ。治療院の涼み処へ行ける者はそちらへ」

 その声は大きすぎず、しかしよく通った。

 人々が少しずつ動き始める。

     


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。