冷たい白の灯籠 2
日が沈む頃、灯籠流しの準備が始まった。
銀環堂の確認台には、灯籠を持った人々が並んでいる。
青輪印のあるものはすぐに通される。個人製のものは、職人が封緘部を見て、反応針を近づけ、問題がなければ小さな紙札をつけた。
完全ではない。
人は多い。
流し場も一つではない。
橋の下や小さな船着き場から、家族だけで灯籠を流す者もいる。
だが、できるだけの手は打っていた。
ミラは運河沿いに立ち、水面を見つめた。
灯籠が一つ、また一つと流れていく。
白。
青。
淡い金。
子どもが描いた花の模様。
亡くなった家族への祈り。
今年の実りへの願い。
水面に映る光は、どれも温かかった。
「きれい……」
思わず呟くと、隣のエリオットが静かに頷いた。
「ああ」
その時だった。
胸元の白花が、かすかに冷えた。
温かくなるのではなく、逆に熱を奪われるような感覚。
ミラは息を止めた。
「……今」
エリオットも同時に顔を上げる。
彼の右腕が、補助具の中で微かに震えた。
痛みではない。
熱。
手のひらの奥から、何かが外へ向かって立ち上がろうとする。
「右手が反応している」
エリオットはすぐに言った。
声は低いが、乱れていない。
「動かさない。だが、近くにある」
ミラは水面へ目を凝らした。
灯籠の群れの中に、一つだけ、妙な白がある。
見た目は涼しげだった。
けれど、水の上を流れているのに、水と馴染んでいない。白い光が、灯籠の内側で止まっている。揺れない。温まらない。祈りの言葉も、手作りの飾りもない。
白いのに、冷たい。
光っているのに、乾いている。
「兄さんの手紙の……」
ミラが呟いた瞬間、近くで子どもがふらついた。
灯籠を見つめていた小さな男の子が、ぼんやりと運河へ近づく。
母親が気づくより早く、レオンが動いた。
「下がれ」
低い声と同時に、レオンが子どもの肩を支える。子どもははっとしたように瞬きをし、その場で膝をついた。
周囲がざわつく。
ミラは一歩前へ出かけた。
だが、エリオットの左手が彼女の進路を遮った。
「ミラ、手順」
その声に、ミラは踏みとどまる。
そうだ。
飛び出さない。
壊さない。
流れを見る。
「セリアさん!」
ミラが声を上げると、確認台にいたセリアがすぐに振り向いた。
彼女はミラの視線を追い、水面の灯籠を見つける。
「銀環堂の印がありません」
セリアは反応針を取り出し、近くの職人へ指示を飛ばした。
「小舟を止めてください。あの白い灯籠を囲む。触らないで。水ごと布で受けます」
イザークもすぐに動いた。
「確認台を一時止めろ! 灯籠を流すな。模造品の確認だと言え!」
混乱が広がりかけたが、レオンが子どもを母親へ渡し、周囲の人々を下がらせる。
「慌てるな。灯籠の不具合だ。治療院の涼み処へ行ける者はそちらへ」
その声は大きすぎず、しかしよく通った。
人々が少しずつ動き始める。




