戻ってきた駒 2
マティアスが出て行った後、ガレスはしばらく扉を見つめていた。
使える駒は限られている。
ヴィクトルは危うい。
印章は回収された。
残滓がどこまで効いているかは分からない。
あれは、セヴランから渡されたものだった。
ガレス自身に、術式の細部は分からない。
名を言えなくなると説明された。命令内容を口にできなくなると聞いた。だが、魔術の効果など、使う側にとっては常に不確かだった。
効いているはずだ。
そう思いたい。
しかし、団長がヴィクトルを再聴取した。
ユアンが同席した。
ヘルムートが記録した。
魔術院の人間まで呼ばれた。
つまり、印章の残滓に気づかれた可能性がある。
ガレスは机の奥から一通の小さな返書を取り出した。
セヴランへ送った問いへの返答だった。
――現在、騎士団長への再干渉は推奨しません。
――警戒下での認識阻害は痕跡が残ります。
――観測価値より露見リスクが高い。
――既存の記録攪乱と人的経路の整理を優先してください。
実にセヴランらしい文だった。
必要なことしか書かない。
助けるとも、見捨てるとも言わない。
ただ、動かない。
ガレスは紙を握り潰しかけ、思いとどまった。
感情を荒らすな。
自分は副団長だ。
ここまで上り詰めるために、政治家の顔色も、騎士たちの不満も、戦場の不運も、すべて処理してきた。
こんなことで失脚してたまるか。
エリオット・バーンスタンなど、二年前に終わったはずの男だ。
右腕を失い、田舎へ消えたはずの騎士だ。
それがなぜ、今さら白い治療師などと共に戻ってくる。
ガレスは別の封書を開いた。
ベルトラン侯爵側からのものだった。
――エリオット・バーンスタンに関する確認を急げ。
――白い治療師と接触している以上、彼の状態は政治的にも看過できない。
――騎士団内の再調査を制御せよ。
制御せよ。
簡単に言う。
ガレスは、低く息を吐いた。
上は命じる。
セヴランは動かない。
団長は疑い始めている。
ヴィクトルは不安定。
マティアスは戻ったばかりで、まだ使える。
なら、使うしかない。




