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分けて送る手紙 3

 夕方、二つ目の便が届いた。

 狩猟品の荷だった。

 店主は表ではいつも通り取引をし、奥へ入ってから筒を開けた。

 木札の反応写し。

 棘の輪。

 黒い蜜蝋の跡。

 三番倉庫の符号に似た癖。

 オリヴァーは、グレイル村から持ち帰った三番倉庫関連の布と並べた。

 反応が、わずかに重なる。

「同じ系統です」

 ロアンが息を呑む。

「三番倉庫と、ジルの仕事が繋がる?」

「繋がる可能性が高い。ただし、直接同じ術者というより、同じ術式系統を使った媒介だ」

 ダリオが腕を組む。

「つまり、黒い仕事の道具が使い回されてるってことか」

「あるいは、同じ工房か研究系統から流れている」

 オリヴァーは眉を寄せた。

「セヴラン本人が全て手で触っているわけではない。術式を媒介化し、末端へ配っているんだ」

 ロアンの顔が強張る。

「それ、かなり厄介ですね」

「うん」

 オリヴァーは静かに答えた。

「でも、媒介化しているなら、必ず構造がある。構造があるなら、切れる場所もある」

     

 三つ目の便は翌日に届く予定だった。

 その夜、リンドルの魔道具屋の奥では、作業台の上にいくつもの資料が並べられていた。

 グレイル村の水。

 黒い粉。

 瘴気の核の反応記録。

 三番倉庫の木札。

 ネロの黒輪欠片。

 ジルの銅貨と木札の反応写し。

 点が、少しずつ線になっていく。

 ロアンは疲れた顔で言った。

「師匠、これ、全部同じ黒い術式なんですか?」

「同じではない」

 オリヴァーは答えた。

「でも、根は似ている。黒輪は深く縛る。黒い種は土地に置く。命令痕は媒介で引っかける。形は違うけれど、どれも“本来の流れを歪めて、別の命令へ曲げる”術式だ」

 ロアンは黙り込んだ。

 その説明は、ミラが見た白い流れと正反対だった。

 戻ろうとする流れ。

 それを曲げる黒い術式。

 オリヴァーは瘴気の核を入れた遮断箱を見た。

「あの男は、人も土地も道具も、全部同じように扱っている」

 声は穏やかだった。

 けれど、ロアンは分かった。

 師匠は怒っている。

 グレイル村の水を汚したこと。

 ネロを使い捨てたこと。

 ジルのような末端に命令痕をつけたこと。

 ミラを観察対象にしていること。

 そのすべてに。

「なら、こちらも道具で対抗する」

 オリヴァーは作業台の上に白石片を置いた。

「命令痕の外部接続を切る遮断具を作る。黒い種を土ごと抜き取る筒も必要だ。さらに、観測を逸らすための囮反応も検討する」

 ロアンが目を丸くした。

「囮反応?」

「黒いものは、黒い反応を追っている可能性がある。なら、弱い反応を別の場所に置いて視線を逸らすこともできるかもしれない」

「危なくないですか」

「危ない」

 即答だった。

「だから、すぐには使わない。まずは仕組みを読む」

 ダリオが低く笑った。

「職人の顔になってきたな」

「腹が立っているだけです」

「職人は腹が立つと道具を作るのか」

「だいたいそうです」

 ロアンが小さく吹き出した。

 重い空気の中で、その笑いは少しだけ救いだった。

     

 その頃、レーンの集落では、ミラたちが最後の便を送り出す準備をしていた。

 木材便に入れるのは、配置図と記録。

 エリオットが描いた集落の地図には、薬草小屋、納屋、湿地、炭焼き跡、偽の使者が現れた道、ジルの足取りが丁寧に記されている。

 左手で描かれた線は少し硬いが、分かりやすい。

 ミラはそれを見て言った。

「エリオットさんの記録、本当に助かります」

「役に立つならいい」

「かなり役に立っています」

 エリオットは少しだけ視線を逸らした。

「右手なら、もっと正確に描ける」

「戻ります」

 ミラは静かに言った。

「焦らず、少しずつ」

「ああ」

 彼の右手はまだ不完全だ。

 けれど、薬指には重さが残っている。

 採取瓶を支えた感覚も。

 戻る道は、確かにある。

     

 夜、ミラはオリヴァーから返事が来るまで、集落に留まることを決めた。

 ジルの命令痕。

 湿地の黒い種。

 媒介候補。

 すべてを置いたまま次へ進むには、まだ早い。

 エリオットも同意した。

「オリヴァー殿の判断を待とう」

「はい」

「その間に、集落の手順をさらに固める。サリアへ向かう前に、ここを少しでも安全にする」

「ジルさんのことも」

「ああ」

 ミラは窓の外を見た。

 森は暗い。

 けれど、その奥で黒い種は白い流れに囲まれて眠っている。

 完全に消えたわけではない。

 でも、広がることは止められた。

 そしてリンドルでは、父がその仕組みを読み始めている。

 ミラは白花のペンダントに触れた。

 一人で背負う仕事ではない。

 その言葉が、今夜も胸の奥で静かに灯っていた。

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