三つの報告 2
同じ頃、王宮西棟の控え室で、ベルトラン・ゼーヴァルト侯爵も報告を受け取っていた。
届けたのは、ガレスのもとへ行った情報屋とは別の男だった。
ただし、情報の出どころは同じだった。
ハルム村の小間物売り。
金で二方向へ売られた噂。
「若い治療師が、患者の中にある“白い流れ”を見たと」
ベルトランは静かに繰り返した。
「はい。村人の話では、怪我や古傷に応じて、白い光の形が変化したそうです」
「右腕の男は」
「記録係として同行。右手に回復の兆候あり。短い線を引いたとのことです」
ベルトランは目を閉じた。
ガレスが聞けば、右腕の回復を問題にするだろう。
セヴランが聞けば、治癒の変化に興味を示すだろう。
だが、ベルトランにとっては、その二つが同時に起きていることが最悪だった。
守護騎士候補。
白花の治療師。
王家の古い伝承に、あまりにも似すぎている。
治癒の女神。
白き剣。
王家を守る者。
古臭い神話。
愚かな民が好む物語。
だが、政治において象徴は時に軍よりも強い。
「侯爵閣下」
報告役が恐る恐る声をかける。
「続けますか」
「当然だ」
ベルトランは目を開いた。
「ガレスの手とは別に、こちらの者を西へ向かわせる。ハルム村ではもう遅い。次の集落を押さえろ」
「レーンの森沿いですか」
「そうだ」
ベルトランは机に置かれた銀のペーパーナイフを手に取った。
刃は装飾品で、実用には向かない。
だが、光を受けるとよく輝いた。
「ガレスは、あの男を再起不能にしたいらしい」
「はい」
「甘い」
その一言は静かだった。
「守護騎士という噂は、生きている限り消えない。右腕を封じても、治療師がいればまた戻る。村の老人が一人でも“白い騎士様が戻った”と語れば、それは火種になる」
報告役は頭を低くした。
ベルトランは続ける。
「ただし、今すぐ殺すのも愚かだ。ガレスが恐れる通り、露骨な死は騎士団長を動かす。王宮儀典局も記録を守っている」
「では」
「消えるべき場所で消えればいい」
報告役の肩がわずかに震えた。
ベルトランの声は、あまりにも穏やかだった。
「森。水車。地方の療養所。道中の事故。獣。崩れた橋。流行病。いくらでもある」
「治療師も、ですか」
ベルトランは少しだけ考えた。
ミラ・コックス。
彼女を殺すのは惜しいかもしれない。
利用できるなら利用した方がいい。
だが、守護騎士を戻す鍵であるなら、存在そのものが危うい。
「まずは観察する」
彼は結局、そう言った。
セヴランと同じ言葉。
だが、意味はまるで違う。
「彼女が本当に白花の徴に連なるなら、王家側に渡してはならない。必要なら、保護という名で隔離する」
「従わなければ」
「その時に考える」
ベルトランはペーパーナイフを置いた。
「ガレスにも、セヴランにも任せきれない。こちらの手を動かせ」




