戻る道を照らす手 2
手紙の最後には、ミラの力についての助言もあった。
――白花の光が患者ごとに形を変えるなら、無理に一定の形へ戻そうとしないこと。
――黒いものを剥がすのではなく、患者の中にある本来の流れを探してください。
――見えた色、形、温度、疲労感を必ず記録すること。
――それは単なる治癒魔法の上達ではなく、別系統の変化かもしれません。
ミラは、その一文を何度も読み返した。
別系統の変化。
兄は何か気づいているのだろうか。
けれど、そこにははっきりとは書かれていない。
きっと、まだ確証がないのだ。
ライヘルはそういう人だ。
曖昧なまま、重すぎることは言わない。
ミラは手紙を胸に抱えた。
「本来の流れを探す……」
昨日、自分が見たもの。
古傷の奥に残っていた、白い流れ。
エリオットの右腕の黒い封じの奥に、途切れ途切れに残っていた光。
あれは偶然ではなかったのかもしれない。
自分の力は、黒を消すためだけのものではない。
戻る道を照らす力。
そう思った瞬間、白花のペンダントがほんのり温かくなった。
ミラは胸元に手を置いた。
エリオットがそれに気づく。
「反応したか」
「少しだけ」
「疲れは?」
「今はありません。むしろ……落ち着く感じです」
エリオットは頷き、記録帳へ書いた。
――ライヘル殿の助言を読んだ後、白花ペンダントに微弱反応。術者疲労なし。精神安定に近い。
「そこまで書きます?」
「変化は記録する」
「本当に兄さんみたいになってきましたね」
「それは少し困る」
「どうして困るんですか」
「分からないが、困る」
真面目な顔でそう言われて、ミラは思わず笑ってしまった。
午後の診療は、ミラの力を確認するような時間になった。
もちろん、患者を実験に使うわけではない。
けれど、ミラはこれまでよりも意識的に「流れ」を見るようにした。
肩を痛めた農夫には、熱を持った筋肉の下に、滞った流れがあった。白花の光は温かな膜になり、痛む場所を包んだ。
冷えで膝が痛む老女には、足先へ届きにくくなった流れがあった。光は細い糸になり、膝から足首へゆっくり伸びた。
咳の子どもには、熱を鎮める露。
古傷の女性には、流れを思い出させる白い粒。
患者ごとに違う。
けれど、ばらばらではない。
どれも、その人の身体が戻ろうとする方向へ、光が形を変えている。
ミラは診療の合間に、細かく記録を残した。
エリオットも隣で補助した。
彼はまだ右手を使わない。左手で記録し、患者の順番を整理し、ミラが水を飲む時間を作る。
治療師の助手見習い。
その言葉が、村人たちの間にも少しずつ浸透していた。
「騎士様は、本当に助手なんですねえ」
村の老女が感心したように言うと、エリオットは真面目に答えた。
「見習いです」
「まあ、律儀なこと」
ミラは口元を押さえて笑いをこらえた。




