表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
166/193

王宮の翳り 2

 その夜、王宮の奥にある小さな会合室に、数人の貴族が集められた。

 表向きには、地方税制と物流路の調整に関する非公式相談。

 だが、実際に話されたのは別のことだった。

 ベルトランの他に、財務に顔の利く伯爵、南西部に鉱山利権を持つ子爵、王宮文書管理に影響力を持つ男爵がいる。

 皆、王家に忠誠を誓う貴族たち。

 表向きには。

「試し石の記録が照会された」

 ベルトランがそう告げると、室内の空気が硬くなった。

 財務伯爵が眉をひそめる。

「二年前の?」

「ああ」

「なぜ今になって」

「騎士団長が目を覚ましかけているのだろう」

 南西部の子爵が舌打ちした。

「ガレス副団長が抑えていたのではないのですか」

「抑えきれていないから、今こうして話している」

 ベルトランの声は静かだった。

 文書管理に顔の利く男爵が言う。

「王宮儀典局の記録なら、こちらから閲覧制限を」

「駄目だ」

 ベルトランはすぐに遮った。

「今触れば目立つ。イレーネ・ヴァイスは職務に忠実な女だ。圧をかければ、むしろ記録を王家直轄保全へ回しかねない」

「では、放置ですか」

「放置ではない。別の線を切る」

 財務伯爵が低く問う。

「バーンスタン本人ですか」

 その名が出た瞬間、部屋の中に見えない影が落ちた。

 エリオット・バーンスタン。

 地方出身の元騎士。

 右腕を失ったはずの男。

 伝説の白光を宿したかもしれない男。

 ベルトランは言った。

「守護騎士など、伝説の中で朽ちていればよかった」

 誰も否定しなかった。

 ベルトランは続ける。

「王家の象徴が戻ることは、この国にとって混乱だ」

「王家にとっては祝福でしょう」

 財務伯爵が皮肉げに言う。

「だからこそ困る」

 ベルトランの目が冷える。

「我々は、王家の夢物語で国政を乱されるわけにはいかない。貴族の秩序が崩れる」

 貴族の秩序。

 それは美しい言葉だった。

 だが、その中身は利権であり、隠蔽であり、都合のよい沈黙だった。

「ガレスへ連絡を入れる」

 ベルトランは言った。

「そしてセヴランにも」

 南西部の子爵が顔をしかめる。

「あの研究者は信用できません」

「信用する必要はない。使えればいい」

「使えているのでしょうか」

 その問いに、ベルトランはすぐには答えなかった。

 セヴラン・ノックス。

 禁術派研究院の中心にいる男。

 王家の影を削るためには、便利な毒だった。

 だが、毒は時に、器まで溶かす。

「使えないなら、別の処置を考える」

 ベルトランは静かに言った。

     

 ガレス・オルブライトのもとへ、ベルトランからの文が届いたのは翌朝だった。

 直接的な命令ではない。

 宮廷貴族らしい、曖昧で優雅な文面だった。

 ――二年前に沈められたはずの白い噂が、再び王宮の耳に入り始めている。

 ――貴殿の騎士団内における整理が不十分であったとは思いたくない。

 ――王家の余計な象徴が目覚める前に、速やかに沈黙させられたい。

 ガレスは文を読み終えると、ゆっくり握り潰した。

「政治屋め」

 低く吐き捨てる。

 言われなくても分かっている。

 問題は、殺すことではない。

 殺せば火がつく。

 アルベルトが動く。

 王宮儀典局が記録を出す。

 ミラ・コックスの兄が魔術院で騒ぐ。

 オリヴァー・コックスの物証が届けば、ヴィクトルの嘘も崩れ始める。

 だから、エリオットは殺してはならない。

 生かしたまま、二度と剣を握れない状態に戻す。

 それが一番いい。

「沈黙させるのは簡単ではない」

 ガレスは潰した文を暖炉へ投げた。

「火の後始末を知らない者ほど、燃やせと言う」

 炎が文を飲み込む。

 ガレスはすでに、騎士団外の手を動かしている。

 宿場、厩、薬草商、御者。

 金で買える目はいくらでもある。

 エリオットとミラは王都から離れた。

 だが、離れたからこそ、事故を装いやすい。

 ガレスは地図を開いた。

 リンドルから西へ。

 ハルム村。

 レーンの森。

 サリア水車村。

 エルダント。

「右腕の回復を確認しろ」

 彼は側近へ言った。

「回復しているなら、もう一度折る」

     

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ