物証便の攻防 3
翌日の夕刻、本命の遮断箱は王都南門を通過した。
花屋の荷に紛れ、白い小花の苗木箱の底に隠されて。
検問では誰も気づかなかった。
王都に入った後、荷は一度花屋へ入り、そこから王立魔術院の裏門へ運ばれた。
受け取ったのはライヘルだった。
彼は箱を見た瞬間、息を止めた。
「届いた……」
隣にいたオルガがすぐに遮断台を用意する。
「感慨に浸るのは後。まず確認」
「はい」
箱の封を開ける。
中には、厳重に包まれた小さな品々があった。
黒い蜜蝋の欠け。
符号の刻まれた木札。
薄い金属片。
白石粉に残った黒変痕。
三番倉庫の床下の土。
ライヘルは木札を見た。
欠けている。
けれど、符号は読めた。
三。
西。
脇。
そして、棘の輪の中の黒い点が七つ。
オルガが低く言った。
「七点。押収品七点と照合できるね」
ライヘルの胸が高鳴る。
「ヴィクトルの移送記録を」
「持ってきてある」
オルガはすでに写しを広げていた。
押収品分類。
西方経由。
臨時保管。
第三倉庫。
符号の一部。
木札の符号と、完全ではないが重なる。
ライヘルは息を呑んだ。
「繋がった」
「まだ断定ではない」
オルガは冷静に言った。
「でも、かなり強い線だ。ヴィクトルはもう“聞いただけ”とは言いにくい」
「アルベルト団長へ」
「すぐ」
その時、木札の棘の輪が、ほんのかすかに黒く光った。
オルガが即座に白石布をかぶせる。
「まだ生きてるね、この印」
「追跡?」
「微弱。たぶん、封印札の残り香だ。だが油断はできない」
ライヘルは木札を見つめた。
ネロが残したもの。
命を奪われても、なお残ったもの。
「無駄にはしません」
彼は小さく言った。
同じ頃、ハルム村へ向かう街道で、ミラとエリオットは休憩を取っていた。
小さな丘の上。
風が草を揺らしている。
ミラは薬草袋を整理していたが、袋の口を締める時に少し手を滑らせた。
落ちかけた小袋を、エリオットが反射的に右手で押さえようとした。
ほんの一瞬。
補助具の中で、親指と人差し指がかすかに動いた。
袋は結局、左手で支えた。
だが、エリオットは動きを止めたまま右手を見ていた。
「今……」
ミラも息を呑む。
「動かしました?」
「動かそうとした」
「痛みは?」
「三。変わらない」
「感覚は?」
エリオットは少し黙った。
「布の感触が分かった」
ミラの顔が明るくなる。
だが、すぐに表情を引き締めた。
「今日はそれ以上試しません」
「ああ」
「本当に」
「本当に」
エリオットは小さく息を吐いた。
「少しずつだな」
「はい」
ミラは記録帳を開いた。
――右手親指、人差し指。薬草袋の布感触を認識。
――随意反応あり。ただし保持不可。
――痛み三。追加確認禁止。
書き終えて、ミラは微笑んだ。
「助手の手として、少し戻りましたね」
エリオットは彼女を見た。
「騎士の手ではなく?」
「今は、です」
その答えに、エリオットは少しだけ目を細めた。
「悪くない」
街道の向こうには、ハルム村へ続く道が伸びている。
王都から離れる道。
けれど、そこで得た小さな回復も、王都へ届いた小さな証拠も、いずれ同じ場所へ戻っていく。
黒い根を断つために。
白い光を、もう一度取り戻すために。




