表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ治療師は傷ついた騎士の剣を取り戻す  作者: 月森しおり
第一章 旅の治療師と傷ついた騎士
PR
129/193

保護を求める男 2

「グレイルへ向かった記録室の男について聞く」

 アルベルトが言った。

「あなたが出したのか」

 ヴィクトルは一瞬、答えを遅らせた。

「療養者記録の確認として、人を出しました」

「エリオット・バーンスタンのか」

「はい」

「正式な命令書は」

「……ありません」

「なぜだ」

「ガレス副団長から、内々の確認でよいと」

 そこはガレスの名を出す。

 ただし、自分の判断ではない形で。

 ヘルムートが紙を一枚置いた。

「リンドル魔道具屋の証言です。その男は、若い治療師と右腕を負傷した大柄な男を探っていた。正式文書は持っていなかった。さらに、グレイル方面へ強い関心を示した」

 続けて、もう一枚。

「グレイル村でのミラ・コックスの現地記録。騎士団記録室を名乗る男が来訪。エリオット・バーンスタンの状態、治療内容を探る。倉庫へ接近しようとした」

 ヴィクトルの指先がわずかに冷えた。

 現地記録。

 グレイル側から、もう届いているのか。

 想定より情報の線が多い。

 ユアンが静かに言った。

「あなたは、療養者記録の確認と言った。しかし現地では、治療内容まで探っている」

「現地の者が、必要以上に踏み込んだ可能性があります」

「便利な部下ですね。あなたの知らないところで勝手に動き、都合の悪いことだけやってくれる」

 ヴィクトルはユアンを見た。

 笑っていない。

 怒ってもいない。

 ただ、疑っている。

 真正面から。

「クロフォード卿。私は自分の罪をすべて否定しているわけではありません」

「では、何を認める」

「正式手続きなしに人を出したこと。ガレス副団長の指示を受け、記録を曖昧にしたこと。禁術派との接点を薄々知りながら、目を逸らしたこと」

「薄々?」

「……確証がありませんでした」

 ユアンの視線が、ヴィクトルの懐へ落ちた。

 黒い印章がある位置。

 ヴィクトルはその視線に気づき、内心で舌打ちした。

 気づかれたか。

 だが、まだそれが何かまでは分からないはずだ。

「団長閣下」

 ヴィクトルはアルベルトへ向き直る。

「私は保護と引き換えに、知る限りを話します。ただし、私だけを責めても意味はありません。これは騎士団内部だけの問題ではない。禁術派が深く関わっています」

 アルベルトは長く沈黙した。

 やがて言った。

「保護はする」

 ユアンがわずかに視線を動かした。

 ヘルムートも顔を上げる。

 アルベルトは続けた。

「ただし、信用はしない」

 ヴィクトルの表情が僅かに固まった。

「おまえの身柄は騎士団長命令の下で保護する。同時に、証言はすべて記録と照合する。嘘があれば、保護は罪を軽くする理由にはならない」

 まっすぐな言葉だった。

 駆け引きではない。

 だからこそ、ヴィクトルには少しだけ読みにくかった。

 アルベルトは善人だ。

 だが、甘いわけではない。

「ヘルムート」

「はい」

「ヴィクトル卿を別室へ。監視をつけろ。外部との接触は禁止。医師もつける」

「医師?」

 ヴィクトルが思わず聞き返す。

 アルベルトの視線が、彼の懐へ向いた。

「顔色が悪い。保護を求める者が、何かに怯えているなら、まず身体を確認する必要がある」

 ユアンが静かに付け加えた。

「懐のものも、預からせていただく」

 ヴィクトルは息を止めた。

「これは」

「何です」

 ユアンが一歩近づく。

 ヴィクトルは、ほんの一瞬だけ迷った。

 黒い印章を渡すべきか。

 隠し通すべきか。

 渡せば、ガレスの監視から一部逃れられる。

 だが、同時に自分がガレスと繋がっている証にもなる。

 渡さなければ、疑われる。

 詰められている。

 ヴィクトルは、ゆっくりと懐から黒い印章を取り出した。

「……ガレス副団長から渡されました。私が口を滑らせないように、と」

 これもまた、半分本当だった。

 ユアンは布を使って印章を受け取り、直接触れないようにした。

 その瞬間、印章がじわりと黒く光った。

 ヘルムートの表情が変わる。

 アルベルトは静かに言った。

「魔術院へ回せ。オルガ・フェンネルに見せる」

 ヴィクトルの背中に冷たい汗が流れた。

 また線が増えた。

 自分の言葉だけでなく、道具まで調べられる。

 ヴィクトルは深く頭を下げながら、内心で考える。

 まだ大丈夫だ。

 印章はガレスのものだ。

 それは自分を縛る道具でもある。

 むしろ、被害者を演じる材料になる。

 だが、気を抜いてはいけない。

 この部屋には、思ったより逃げ道が少ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ