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落ちこぼれ治療師は傷ついた騎士の剣を取り戻す  作者: 月森しおり
第一章 旅の治療師と傷ついた騎士
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眠らされた違和感 2

 ガレスが執務室を出ると、廊下の影にヴィクトルが待っていた。

 彼はすぐに姿勢を正す。

「団長は?」

「余計な違和感を抱き始めている」

 ガレスの声は低かった。

 ヴィクトルの顔がわずかに強張る。

「認識阻害が弱まっているのですか」

「完全ではない。だが、エリオットの名に反応している。試し石の件を思い出しかけた」

「まずいですね」

「だから確認を急がせたのだ」

 ガレスはヴィクトルを見た。

「グレイルへ追加の者は?」

「出しました。ですが、手は出させていません。エリオットの右腕が本当に動くか、それだけを確認させます」

「治療師は」

「ミラ・コックス。王都魔術学校出身ですが、落ちこぼれ扱いだったと」

「落ちこぼれが、二年前に壊した腕を動かしているかもしれないと?」

 ガレスの声が冷える。

 ヴィクトルは唇を結んだ。

「まだ確証はありません」

「確証が出てからでは遅い」

「セヴラン側が絡んでいます」

 その名を出すと、二人の間の空気がわずかに変わった。

 ガレスは不快そうに眉を寄せる。

「黒い荷馬車の件か」

「はい。グレイルにあるものは、おそらくあちらの触媒です。こちらが下手に踏み込めば、セヴランに邪魔をされる可能性があります」

「奴は何をしている」

「観察でしょう」

 ヴィクトルは低く言った。

「あの男は、エリオットをすぐ潰したがっていません。治療師の反応を見ていると思われます」

「相変わらず、気味の悪い」

 ガレスは吐き捨てるように言った。

 彼にとってセヴランは必要な相手だった。

 禁術の触媒。

 認識阻害。

 邪魔な者を事故に見せる手段。

 特殊部隊の処置。

 どれも便利だ。

 だが、信頼などしていない。

 セヴランにとっても、自分たちは都合のいい表の隠れ蓑にすぎないのだろう。

「ヴィクトル」

「はい」

「エリオットが本当に守護騎士として戻る兆候を見せたなら、報告を待つな」

 ヴィクトルは顔を上げた。

「処理を?」

「まだ殺すな。死体は面倒だ。だが、右腕は二度と使えないようにしろ」

 その言葉に、ヴィクトルの喉がわずかに動いた。

「治療師は」

「セヴランの興味があるうちは触るな。だが、こちらに害が出るなら別だ」

「承知しました」

 ヴィクトルは頭を下げた。

 けれど、内心では別の計算をしていた。

 ガレスへすべてを上げれば、自分の二年前の関与まで表に引きずり出されるかもしれない。

 セヴランに任せれば、何をされるか分からない。

 エリオットが回復すれば、過去が戻ってくる。

 過去は、死んでいてくれなければ困る。

   

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