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クーデターから逃げ延びた王女ですが、身分を捨てて幼馴染と生きることにしました~オルゴールのゆくえ〜  作者: 冬木ゆあ


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第3話 リリアン②

 それからしばらくして、スーザを経由してシュケルズ王国へ向かう旅程を聞かされたリリアンは、ケイティにおつかいを頼んだ。


「便箋を買ってきてほしいの」


 それにケイティは首を横に傾げた。


「どなたに手紙を書かれるのですか?」

「お父様、あ、スーザの方のね。スーザで一泊する予定だけれど、お父様とゆっくり話せるかわからないでしょう? 今まで育ててくれたお礼の手紙を書きたいの」


 ケイティはうなずき、部屋をあとにした。それを見送ったリリアンはふと窓から空を見上げた。澄んだ青空が広がっている。


 ――サラに託せば、ルークに手紙を渡してくれるかもしれない。


 リリアンはひとり覚悟を決めた。


 ケイティが帰ってきて、リリアンに買ってきた便箋を渡した。


「ありがとう、ケイティ」


 リリアンはさっそく手紙を書くために机へと向かったときだった。


「……ルークがウィルソンに来ています」


 リリアンは、はっとした表情でケイティを振り返った。


「どうして……?」

「親方の納品についてきたようです。わたしが早合点して、ルークにばれてしまいました。申し訳ございません」


 ケイティは頭を下げ、長い金髪が肩から滑り落ちる。リリアンは首を横に振り、ケイティの腕を掴んだ。


「会いたいわ。どうにかしてくれない? ケイティ」


 ケイティは苦笑いをし、リリアンの肩に触れた。


「ルークにも『何とかして』と請われました。今夜、街はずれの広場でとルークには伝えています。見つからぬよう城を抜け出さねばなりません」


 リリアンはうなずいた。


 夜になり、リリアンはローブのフードを深くかぶり、部屋を出た。運よく城門までは誰にも会うことなく来られたが、さすがにここには警備兵が常駐している。

 警備兵はケイティに声をかけた。


「こんな時間に出かけるのか? ケイティ」


 ケイティと顔見知りの兵士らしく、ケイティは笑みを見せた。


「ああ。ここは窮屈で、たまには羽を伸ばさねばやっていられない。飲みに行ってくる。リリアン様には言っていないから内緒で頼むよ」


 それに兵士は笑った。


「オーケー。楽しんで来いよ。そっちは誰だ?」

「リリアン様付きの侍女だよ。今日は非番だから付き合ってもらおうと思って」


 兵士はリリアンの顔を覗き込もうとしたがケイティがそれを遮った。


「おいおい。失礼なやつだな」


 それに兵士は慌てて笑った。


「なかなか侍女殿とお近づきになる機会はないから……。つい」


 それにケイティは笑った。


「わたしも侍女だぞ」

「ケイティも一応はそうだったな。兵士顔負けの剣士だから忘れていた」

「やっぱりお前は失礼なやつだ。行ってくる」


 兵士は手を振ってリリアンとケイティを送り出した。

 城門から離れ、街を歩いていると、リリアンがほっと胸を撫でおろした。


「あー、ドキドキしたわ」


 それにケイティはふっと笑った。


「警備の担当があいつでよかったです。さぁ、急ぎましょう」


 リリアンとケイティが街はずれの広場に行くと、すでにルークとジャックがそこにいた。リリアンはフードをとりながら駆け出した。


「ルーク!」


 リリアンがルークに抱きつく。


「リリアン」


 ルークもリリアンを抱きしめた。リリアンはルークの肩に顔を埋めた。


「ルークに会えてよかった。さよならが言えなかったことが心残りだったの」


 すると、ルークがリリアンの耳元に顔を寄せた。


「二人で逃げよう」


 リリアンは、はっとルークの茶色の瞳を見た。その瞳には覚悟があって、リリアンは思わずうなずきそうになった。


 ――ルークに縋りたい。ずっと一緒にいたい。けど……。


 リリアンはルークから少し離れ、微笑んで首を横に振った。


「ダメよ。王命は絶対だもの。逃げきれない。それに私が隣国に嫁げば、エリオット王国と、シェケルズ王国の和平は成立する」

「リリアン……」


 ルークの悲しげな表情にリリアンの胸は締めつけられ、リリアンは微笑みながら涙を流した。


「ねぇ、ルーク。私はスーザだけでなく、この国も守れるのよ。それってとても素晴らしいことでしょう?」


 ルークはそれを聞いて、いったん瞳を閉じた。それから瞳を開いて、微笑み返した。その瞳には涙を堪えていた。


「……そうだね。リリアン」


 ルークはかばんからオルゴールを取り出し、リリアンに差し出した。


「これって……。ショーウィンドウからなくなってしまったから、誰かが買ってしまったのだと思っていたけどルークだったのね」


 それはスーザの街をルークと共に歩いていたときに見つけ、値が張るものだったので、誕生日に父親のジョンにねだろうと思っていた。いつの間にかなくなってしまって残念に思っていたものだった。


「リリアンの誕生日にあげたかったんだ」


 リリアンはそっとオルゴールのねじを巻いた。すると、綺麗な音色が流れ、リリアンは大切そうにぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう、ルーク。大切にするね」


 そして、リリアンはルークの頬にキスをした。驚いたルークは顔を赤くし、リリアンを見た。


「お礼」


 リリアンはそう言って最後に微笑んだ。

 リリアンはまたフードを深くかぶり直し、ケイティと共に広場をあとにした。リリアンの茶色の瞳から涙がとめどなく溢れた。


「……よく耐えましたね、リリアン様。ご立派でした」


 ケイティはリリアンの肩を抱きしめた。

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