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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第10章 夏の合宿 編

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第93話 白樺湖での合宿⑦ 合宿の集大成

8月20日(月) 朝8時00分——。


 2台の大型バスに分乗した部員たちとスタッフ一行は、研修館をあとにし「白樺湖」の公共駐車場へと到着した。


 今日のメニューは、2週間におよぶ準高地合宿の総仕上げである――「ハーフ(21.1km)のタイムトライアル」である。

白樺湖の周回コース(1周3.8km)を使用し、部員たちは5周+2.1km(計21.1km)を走破する。


 ただし、天馬だけは来月に控えたレース(非公認のフルマラソン)を見据え、8周(実距離30.4km)の「30kmタイムトライアル」に挑むことになっていた。


 バスを降り、朝の清涼な風が吹き抜ける駐車場で、監督のクリスが全体へ向けて指示を出した。


「皆さん。今日のタイムトライアルのルールと注意事項を説明します。給水ポイントはこの起点となる駐車場のみとし、取るタイミングは個人に任せます。ただし、最低2回は必ず給水することを義務とします。標高1400mでの脱水を防ぐため、そして今後のロードレースで走りながら正確にカップを受け取り給水する技術を体得するためよ」


「「「はいっ!!」」」


一通り見まわしてからクリスは続ける。


「それと、今回はコースの使用許可を得てはいますが、完全な占有ではありません。一般の観光客や歩行者、他のジョガー(ジョギングをする人)の皆さんもいらっしゃいます。北川さんと相談した結果、地元の警備会社から警備員(全て女性)さん30名を手配してコース各所に配置しました。絶対に事故を起こさず、警備員さんの指示に従って安全第一で走ってください」


万全のセキュリティと安全管理に、部員たちも気を引き締めて頷いた。


続いて、天馬が部員たちの前へと進み出た。


「みんな、初めて走る距離で『最後まで持つだろうか?』と不安になるかもしれない。だけどその心配はいらない。僕たちがこの2週間で算出した、各自の【VDOT値】に基づく設定ペースさえ愚直に守れば、絶対に最後まで走り切れる。もし脚や心肺に余裕が残っていたら、ラスト4キロから思い切ってスパートをかけてみるといい」


「「「はいっ!!」」」


天馬の力強い言葉に、部員たちの瞳から不安が消え、自信に満ちた表情へと変わっていった。


◆【本日(ハーフ/30km走)の目標設定ペース】


◦甲斐田天馬(30.4km): 3分01秒/km(目標タイム:1時間31分42秒)


◦三上ルイ・鳴野蘭(21.1km): 3分24秒/km(目標タイム:1時間11分40秒)


◦その他の部員(21.1km): 3分31秒〜3分41秒/km(目標タイム:1時間14分〜17分台)


~~~~~~~


 スタート時刻は9時30分であり、残りの準備時間は50分となる。

今回も実際のレース本番を想定し、ウォーミングアップのタイミングや内容は各人の計画に委《ゆだ》ねられた。


 部員たちはウインドブレーカーを羽織ったまま動的ストレッチを行い、駐車場周辺でアップ走を開始。天馬も同じく動的ストレッチから20分ほどのジョグでじっくりと心拍数を上げ、仕上げに200mのウインドスプリント(流し)を3本こなしてアップを完了した。

部員たちも寸分違わぬタイミングで完璧にアップを終え仕上げていた。


09時20分——。

 全員が一斉にウインドブレーカーを脱ぎ捨てる。


「「「うわぁ……っ!!」」」


コース脇で見守っていた人々から、小さなどよめきが漏れた。

部員たちが身にまとったのは、東相大学のレース用の公式ユニフォーム――水色のブラトップに、鮮やかなブルーのビキニタイプショーツというセパレートウェアである。足元には全員が「ミナーヴァ」から提供された、蛍光スカイブルーの『エアロスパークα2(アルファ―ツー)』で統一されている。


 キャプテンの蘭は、以前天馬からプレゼントされた男性用のサングラスを着用している。少し大きめのフレームだが、「これが一番しっくり来るし、テンさんの愛を感じて最高のゲン担ぎになるんです!」とお気に入りだ。


 過酷な準高地トレーニングを完遂した部員たちの身体は、余分な脂肪が完全に削ぎ落とされ、うっすらと割れた美しいシックスパックと、しなやかな脚の筋肉が引き締まっていた。

中でも蘭の腹筋のカット(溝)の深さと全身の筋肉の美しさは群を抜いており、まるでギリシャ彫刻のようだった。


 そして――天馬がウインドブレーカーを脱ぐと、周囲の空気が一変した。


「キャぁぁぁぁぁぁっっっ!??? 見てあの肉体……っ!」

「嘘でしょ……!? 筋肉のカットが凄すぎる……っ!」

「お腹が出てるセパレート……! 骨盤のラインまで見えちゃってる……っ!!」

「う~~~エロい!」

「子宮が……疼く……!」


 天馬のウェアも部員と同じく、水色の超密着袖なしのコンプレッションウエアに、骨盤が覗くほどのローライズなブルーのショートタイツだ。

見事なまでに浮き出たシックスパックと、浮き出る血管、そしてしなやかな広背筋。圧倒的な「この世界にいない肉体美」に、いつの間にか集まっていた50名ほどの女性ギャラリーたちが目をハートにしてスマホを向け、悲鳴のような嬌声を上げた。


すると、蘭が天馬の横にトコトコと歩み寄り、ドサクサに紛れて天馬の割れた腹筋に「ツンツン♪」とタッチした。


「ちょっと、蘭! ドサクサに紛れて触るんじゃない」


「へへっ♪ だってテンさんのお腹、カチカチで気持ちいいんだもん!こちらのほうも……カチカチかな~」


そう言ってから蘭は、天馬の股間に手を伸ばすが、すかさず天馬が蘭のおでこに「ペシッ!」とデコピンを叩き込む。


――が、ギャラリーの視線は別の場所にも注がれていた。


「ねえ……見て……! あの女の子(蘭)のお腹と首筋……!」

「嘘……っ! キスマーク……!? あんなにハッキリと……!?」

「確かあの人……男神様の婚約者……!」

「男神様から……痕をつけられたの……!? 羨ましすぎる……っ!」


蘭のリクエストで天馬が全身に刻み込んだ無数のマーキングが、セパレートウェアから隠しようもなく覗いていたのだ。それを見たギャラリーや部員たちは、恍惚の表情を浮かべトロトロに顔を蕩けさせていた。


さらに、天馬の首筋や腹にも蘭が付けたマーキングがくっきりと残っており、「男神様も旦那さんに愛されまくってる……っ!」と女性たちの嬌声は最高潮に達したのだった。


~~~~~~~


スタート位置につくと、先ほどまでの和やかな?(ふざけ合い)雰囲気は消え失せ、皆アスリートの表情になり、ピリついた空気となる。

僕はこの緊張感のある重苦しい空気はとても好きだ。


そして、スタートの時刻となる。


「位置について――スタート!!」


男子マネージャーの力強い号砲とともに、31名のランナーが一斉に飛び出した。


シュパッ――!!


 天馬はスタートと同時に圧倒的なスピードで飛び出し、一瞬で先頭に躍り出た。

ピンクのバイクジャージにヘルメットを着用した女性護衛2名が、ロードバイクで邪魔にならないよう天馬の横と後方をピタリと固める。


その後方では、蘭が三上ルイを引っ張る形で自身のハーフ設定ペース(3分24秒/km)を正確に刻み始めた。蘭の護衛をする2名(女性)も、ロードバイクで三上の邪魔にならないよう細心の注意を払いながら横を並走する。


他の部員たちも、部から支給されたGPS時計の『ペースラン機能』を活用し、1周目の興奮を抑えて冷静に自身のVDOT値に基づく設定ペースへと落とし込んでいった。


「天馬さーーん! 頑張ってーーっ!」

「東相大! ファイトーーーっ!」


コース沿道からは、続々と集まってきたギャラリーから熱い声援が飛ぶ。ほとんどが20代くらいの女性だが、中には天馬に憧れの視線を送る男子高校生や男子大学生の姿も散見された。


 天馬は最初の2kmこそハイペースになったものの、すぐに感覚をアジャストし、正確無比な精密機械のように【1km3分01秒】のラップを刻み続けた。


 そして――その遥か後方では、蘭の後ろにピタリとルイが追走している。

グループは全部で4つに分かれていた。

トップは天馬(30㎞走)、第二グループは蘭とルイ、少し離れて第三グループは部員16名、第四グループは部員12名、それぞれが設定ペースをしっかりと維持していた。


 一周、二周、三周と……全員特にペースが崩れることなく、設定ペースを守って走っている。

給水も失敗することなく、しっかりと紙コップを受け取れていて給水も出来ている。


 天馬自身もしっかりと設定ペースを維持している。


 天馬の遥か後方で4周目(15.2㎞地点)に入ってから第二グループで動きがあった。


 それまで蘭の後ろにピタリとついて設定ペースを守りつつも、呼吸を整えていた三上ルイが、給水所を抜けた瞬間にバッ!とギヤを一段上げてスパートを仕掛けた。


「お先に!!」


「っ……! ルイ……速いっ!?」


 ラスト6㎞弱で驚異的なスピードで抜け出した三上ルイが、蘭を引き離し、5周目(19㎞地点)をそのままのペースで走り抜ける。


 そして……ゴール地点(2.1㎞先)である公共駐車場脇の広場にトップでゴールラインを駆け抜けた。

遅れること数十秒、蘭も最後まで失速せずに、粘りの走りでゴールへと飛び込んだ。


【ハーフ走タイムトライアル結果】

・三上ルイ: 1時間10分58秒


・鳴野蘭: 1時間11分30秒


・その他の部員: 1時間13分〜1時間16分台


「ハァッ……ハァッ……っ! やった……1時間10分台……っ!」

「ハァ……ハァ……っ! 負けたぁぁ!!」


ゴール後に蘭とルイは、倒れ込んだ。その後は続々とゴールしてくる部員らも同じく倒れ込んだ。

ゴール地点に移動していたクリスとマネージャーの「鷹司」君と朱里が介抱し水を差しだしていく。


 初めてのハーフ走(21.0975km)にして、全員が好タイムを叩き出した。ゴール地点の駐車場脇の広場に倒れ込む部員たちの顔には、限界を超えて結果を出せた達成感と最高の笑顔が弾けていた。


――そして、その遥か先。


 天馬はスパートをかけることもなく、最初から最後まで寸分狂わぬ【3分01秒/km】のイーブンペースを刻み続け、30.4kmの道のりをフィニッシュした。


・甲斐田天馬(30.4km): 1時間31分38秒(※目標を見事にクリア!)


「……1時間31分38秒!? 30kmを……この標高で……!?」


タイムを計測していた男子マネージャーの「一条」君が、ストップウォッチを二度見して絶句した。


走り終えた天馬には、ゴール地点にて北川さんが水を差しだし介抱してくれた。

天馬は息を整えながら満足げな笑みを浮かべた。


(よし……手応えは完璧だ。このコンディションなら、来月のレースも間違いなく狙い通りの走りができる)


 来月……9月——。

三上ルイは「全日本学生陸上競技会(全日本インカレ)」の10000m走に出場する。

キャプテンの蘭をはじめとする他の部員たちは、公認の「ハーフマラソン大会」で実力を証明しに行く。


 そして天馬自身は、非公認レースながらフルマラソン(42.195km)に出走する予定だ。


(フルマラソンは2時間9分台で走れれば十分だな。非公認とはいえ、この世界の記録をあっさりと塗り替えてみせる)


 一方……ハーフ走のゴール地点では倒れ込んでいた部員たちが次々と立ち上がり、お互いの健闘を称え合ってハイタッチを交わしている。

2週間前とは見違えるほど強くなり、顔つきまでもが一流のアスリートへと進化を遂げた部員たち。その成長ぶりが、クリスにはたまらなく愛おしく誇らしかった。


 爽やかな夏の白樺湖の風が、駆け抜けた彼女らの肌を心地よく撫でていく。

その澄み切った高原の風は、汗を流し尽くした身体だけでなく、胸の奥にある情熱までも爽やかに満たしてくれるのだった。


【あとがき】

次回の投稿は来週月曜日を予定しています。

今後とも本作品にお付き合いいただけますと幸いです。

もしよろしければ★評価とブクマ登録をしていただけますと、執筆のモチベーションが上がります。感想も頂けますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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