第86話 白樺湖での合宿① 予期せぬ同行者
8月7日(火) ―― 08時00分。
東相大学の駐車場には、クリスがチャーターした大型の観光バス2台がどっしりと横付けされていた。
すでに部員やスタッフ、護衛たちの荷物の積み込みは完了しており、車内からは早くも賑やかな声が漏れ聞こえてきている。
「クリス、体調はどうだい? 」
僕が隣に立つ妻の顔を覗き込むと、監督のクリスは、柔らかく微笑んだ。
「ええ、大丈夫よ。昨日、病院の先生からこの程度の標高なら胎児には全く影響がないって太鼓判を押してもらったわ。だから安心してね」
僕は彼女の言葉に胸をなでおろす。
ちなみに、僕が毎週水曜日に受け持っているラグビー部でのフィジカル指導についても、事前に理事長へ相談したところ、「大丈夫よ、合宿に専念して頂戴」とお茶目にウインクされた。
免除されたわけではなさそうなのだが、なんだか含みのある言い方だった。……まさかラグビー日本代表のフィジカルコーチの件も、裏で話が進んでいるのだろうか? ここは一旦、聞かなかったことにしておこう。
ふとバスのタラップを見上げると、予備車両のワゴン車や僕のランニング時の護衛用のロードバイクを積み込む護衛たちに混ざって、見覚えのある女性が乗り込んでいくのが見えた。
何と! 朱里(第二夫人)だ。
「……あれ? 北川さん、どうして朱里がバスに乗ってるの?」
僕が隣に控える北川さんに尋ねると、彼女は少し気まずそうに咳払いをして、カミングアウトした。
「ええと……、妊娠初期のクリスさんに万が一のことがあった場合や、部員たちがケガをした際の応急処置要員として、看護師資格を持つ朱里さんにご同行していただくことになりました。……ですが……実は一番の理由は別にありまして」
「理由……?」
僕が怪訝な表情をすると、北川さんは続ける。
「はい……奈月さん、愛理さん、美月さん、千代乃さん、そしてクリスさんと……他の旦那様方が、ご懐妊いたしましたでしょう? それで朱里さんからも『私もそろそろ身籠りたい!』と強いご要望がありまして……。ちょうどこの期間が、朱里さんの排卵日と重なるのです」
「なっ……!?」
「稀人である天馬さんのお子種は、とても貴重です。わたくし個人としても、ぜひ旦那様全員にご懐妊いただきたいと思い、お部屋も朱里さんと同室でセッティングさせていただきました!」
誇らしげに胸を張る北川さんに、僕はガクリと肩を落とした。
つまり……これからの2週間、僕はレスリング金メダリストであり猪突猛進な“性欲モンスター”こと朱里と、毎日夜の褥を共にすることになるわけだ。
(まぁ、経験上、夜に《《シタ》》からといって翌日のトレーニングに支障が出るわけじゃない。睡眠時間さえしっかりと確保すれば問題はないんだが……コーチが合宿に『女連れ』で参加するのって、元の世界なら倫理的に完全アウトだよな……)
とはいえ、この男女逆転世界においては「子を成すこと」こそが何よりも優先される正義であり常識だ。北川さんも「まだ1年経たないうちに5人も妊娠なんて奇跡的です!」と大喜びしている。郷に入っては郷に従うしかないな。
バスに乗り込むと、部員たちはまるで修学旅行にでも行くかのような浮かれようだった。マイクを握ってカラオケを始める者までいる。
「天馬、いいのかしら? 少し騒がしすぎる気もするけれど……」
「いいんだよクリス。ずっと張り詰めていては身が持たないからね。緩める時は思いっ切り緩めて、やるときはやる。メリハリが一番大切さ」
バス2台と、護衛の予備車両二台のワゴン車が連なって東相大学を出発した。
~~~~~~
途中、サービスエリアでの休憩を挟み、バスは予定通り午前10時半に長野県・白樺湖のほとりにある「東相大学・白樺湖研修館」へ到着した。
澄んだ空気と、標高1400mならではの清涼な心地良い風が頬を撫でる。
バスから降り立った部員と男子マネージャーを前に、クリスが凛とした声で全員に指示を出した。
「皆さん、お疲れ様でした。部屋割りはエントランスの掲示板に張り出してありますので確認してください。各自、荷物を部屋に搬入したら14時までは自由時間とします。14時にここに再集合して軽めの慣らしジョグを行いますので、遅れないようにしてくださいね」
「「「はいっ!!」」」
部員たちは出迎えてくれた30代〜40代くらいの女性スタッフ陣に元気よく挨拶を交わし、ゾロゾロと館内へ入っていった。
僕も「2週間お世話になります」とスタッフたちへ頭を下げ、朱里とともに割り振られた部屋へと向かった。
案内された部屋は、こぢんまりとした清潔感のある洋室だった。
しかし、ドアを開けて入った瞬間、僕の目はベッドへと釘付けになった。
「え……ダブルベッド……!?」
研修館の客室に何故?ダブルベッドが備え付けられているのか。男性専用客室の仕様なのか、北川さんたちの手回しなのかは謎だが、ともかく逃げ場がないことだけは確かだった。
僕が荷物を床に置いた、まさにその瞬間――。
「ダーリンっっっ!!」
背後から、猛烈な圧力とともに朱里が抱きついてきた。
「うわっ……! 朱里!?」
「ふふっ、やっと二人きりになれたね……!」
くるりと向き直らされた僕の視界に飛び込んできたのは、荒い鼻息を撒き散らし、瞳を完全に肉食獣へと変化させた朱里の顔だった。
「朱里、落ち着い――んむっ!?」
僕の言葉は濃厚な朱里からの唇によって塞がれた。
流石は元レスリングの金メダリストである。圧倒的な体幹力と強力な腰の強さによってガッチリとホールドされ、僕は全く身動きすらできない。
しかも……朱里の反則級の見事な胸部装甲が僕の体に強く当たっている。
(うん、朱里の胸部装甲は、相変わらず張りがあって心地良い)
「ダーリィ~ン!……ず~~~っと我慢してたんだからね……っ! 私もダーリンの赤ちゃん、絶対に授かるんだからぁぁっっ!!」
「ちょ、朱里、着いて早すぎ――あっ……!」
ドサリとダブルベッドへ押し倒され、僕はそのまま朱里の圧倒的な欲望の濁流へと飲み込まれてしまった。
到着早々の第1回戦は、欲望を剥き出しにしたアドレナリン全開の朱里の猛攻を受け、彼女がようやく満足して落ち着いた頃には、時計の針は正午を指そうとしていた。
12時過ぎ ―― 。
汗を拭い、服を整えてから、僕と朱里は1階の広い食堂へと向かった。朱里はとても満足そうな表情を浮かべていた。
正午の食堂には、僕たちの長距離・駅伝部だけではなく、ゼミやサークルの合宿で滞在している他の学生たちが大勢集まっていた。ザッと見渡しても200名はいるだろうか。
僕と朱里が食堂に入った瞬間、静かだった空間が一変した。
「キャーッ!! 待って!? 男神・甲斐田コーチじゃない!?」
「あれっ!? アテナ(朱里)もいるっ!」
「嘘でしょ、カッコよすぎる……っ!!」
「凄い! アテナと男神のツーショット!!」
黄色い歓声が上がり、数十人もの女子学生たちがドッと僕たちの元へ押し寄せてきた。
「甲斐田さん! 一緒に写真撮ってくださいっ!」
「朱里さん! ファンです、握手してください!」
「あはは、いいよ! みんな順番ね!」
「もちろん! 写真もサインもいくらでも書くわよ〜!」
僕と朱里が気兼ねなく笑顔で応じると、歓声はさらに大きくなった。200名ほどの学生のうち、大半は女子学生だったが、中に混ざっていた20名ほどの男子学生たちも、目をキラキラと輝かせて近づいてきた。
「甲斐田コーチ! 僕、いつも動画観てます! ツーショットお願いします!」
「サイン、ここに書いていただけますか……っ!?」
「いいよ、男同士頑張ろうな!」
と僕は握手を交わし、肩を組んでスマホでのツーショットにも応じた。男子学生たちは感激で胸を詰まらせていた。
同じ東相大の学生なら僕を見慣れているはずだし、これほどの騒ぎにはならない。『東相大学・白樺湖研修館』が他大学にも開放されていることを考えれば、あの騒ぎの主たちは、おそらく外部の学生なのだろう。
その熱狂ぶりを、遠くからトレーを持ったクリスがジト目で見つめていた。人混みを抜けて近づいてくると、呆れたように小さく息をつく。
「もう……サービス精神旺盛なのは良いことだけれど、二人とも少しは自重しなさいね」
「ははは……ごめんごめん、つい嬉しくて」
「ごめん……くーちゃん、でも、ファンサービスも大事なので理解してね」
笑って誤魔化す僕たちに、研修館のスタッフさんが「このサークル合宿の学生さんたちは2泊3日で入れ替わるので、夏休み中は賑やかですよ」と、こっそり教えてくれた。
(うーん……また数日後には、この騒ぎがあるのか)
と、僕は内心でゴチる。
すると、遠くから大声で僕らを呼ぶ声がする。
「テンさ〜ん! 朱里さ〜ん! こっちに席確保しましたよ〜!」
手を振る鳴野の声に導かれ、僕たちは部員たちが集まるテーブルへと向かった。
バイキング形式の豪華な料理をトレーに載せ、鳴野の隣に着席する。
「いただきます」と手を合わせた瞬間、隣の鳴野がフンフンと鼻を鳴らし始めた。
「ん……? んんん……!?」
鳴野が僕と朱里の顔を交互にじっと見つめ、次の瞬間、一気に顔を耳まで真っ赤に染め上げた。
「テ、テンさん……朱里さん……っ! 部屋に着いて早々……もう『やった』でしょ……っ!?」
「「ゲッ……!?」」
思わず朱里と顔を見合わせた。
そういえば、さっき写真撮影をしていた女子学生たちも、なぜか途中からウットリと蕩けたような表情で僕たちを見つめていた気がする。
シャワーを浴びる間もなく食堂へ降りてきたため、朱里の全身から、そして僕の体からも、甘く濃密な「事後の匂い」がプンプンと漂っていたのだ。
「うぐっ……蘭、声が大きい……!」
僕は小声で蘭に注意した。
「だって! だってテンさんの濃密な雄の匂いが、朱里さんから溢れ出してるんですもん! ズルいです朱里さんっ! 私だって白樺湖でテンさんに種付けされたいのにぃぃっ!」
「蘭ちゃんは未だ学生でしょ! 卒業までは約束通り赤ちゃんはガマンよ」
朱里は冷静な口調で胸を張ると「そうだった~」と、キーッとした表情で蘭は悔しがった。
二人のやり取りに苦笑しつつも、僕はしっかりと栄養を補給すべく、プレートの肉料理を口へと運んだ。
標高1400mの爽快な気候と、賑やかな妻や部員たち。波乱含みの白樺湖夏合宿は、こうして賑やかに幕を開けたのだった。
~~~~~~~
13時30分 ―― 。
昼食を美味しく済ませ、一旦自分たちの部屋へと戻った僕と朱里は、14時からのトレーニングに向けて準備を始めた。
僕は東相大学陸上長距離・駅伝部の公式ユニフォームを着用し、その上から水色のトップスと紺色のボトムスで構成された東相大カラーのジャージを羽織り、サングラスも着用する。
一方、看護師として同行している朱里は、上下を清潔感のある白で統一したスタイリッシュなスクラブスタイルに着替えていた。わずかにテーパードがかかった細身のスクラブパンツが、元アスリートでもある彼女の無駄のない軽快な足元を際立たせ、プロフェッショナルな現場の雰囲気を漂わせている。
「朱里、そのスクラブ姿、すごく似合ってるよ。プロの医療従事者って感じで格好いいな」
「ふふ、本当? 嬉しい! ダーリンに褒められると張り切っちゃうな〜♪」
朱里は嬉しそうに胸を張った。
うん。相変わらずの見事な胸部装甲だ。
そういえば、僕が以前入院していた時の朱里は、際どいミニのワンピースタイプの白衣を着ていて、色々と大変だったな……なんて甘い思い出を密かに回想してしまう。
「それじゃあダーリン、先に行くね!」
「うん」
朱里は僕に軽く唇を重ねると、救護用品を持って退出した。頼もしい妻の後ろ姿を見送ると、僕もスポーツドリンクやタオルを手にして部屋を後にした。
14時ちょうど。
白樺湖研修館の敷地内にある多目的広場に、部員30名が全員集合した。
僕の護衛2名と、男子マネージャーらと朱里(それぞれの護衛も一緒に)は、ワゴン車にて白樺湖のスタート地点に先行している。
研修館の広場のすぐ隣には何面ものテニスコートがあり、サークルの合宿で訪れている他大学の女子学生たちが楽しそうにラケットを振っている。その賑やかな横で、僕たちは輪になって入念なストレッチを開始した。
「よし、次はアキレス腱をしっかり伸ばして〜。標高が高いからね、いつも以上に自分の身体の反応に敏感になろう」
「「「はいっ!!」」」
20分ほどかけてじっくりと準備運動を終えると、部員たちは一斉にジャージを脱いだ。
彼女たちが身にまとっているのは、東相大学長距離・駅伝部の練習用ユニフォーム――鮮やかな水色のブラトップに、ブルーのビキニタイプのショーツというセパレートスタイルだ。
日頃の厳しいトレーニングによって鍛え抜かれた部員たちの腹筋は、見事に割れている。特に婚約者でもある鳴野のお腹まわりは、美しいシックスパックと全身のしなやかな筋肉美が一際目を引いた。
そして鳴野は、僕が以前手渡したサングラスを着用している。
そして、僕もまたジャージを脱ぐ。
僕の練習用ウェアも部員たちと同じデザインだ。上は胸元までのピタッと肌に密着する袖なしのコンプレッションノースリーブシャツ、下はローライズのブルーのショートタイツ。いわゆる「腹出し・ヘソ出し」のセパレート仕様である。
さらに足元は、全員が提供を受けている「ミナーヴァ」社製のカーボン入りランニングシューズ『エアロスパークα2』の蛍光スカイブルーで統一されている。
「うおっ……! 全員同じウェアだと、やっぱり引き締まるな!」
僕が思わずそう呟くと、すぐに鳴野が反応した。
「ええっ! モチベ、爆上がりですよっ!」
鳴野はニッと笑い、白い歯を見せる。
部員たちも、僕の露出度が高めなユニフォーム姿には、ずいぶん慣れてきたようだった。ちらちらと視線を向けてはいるものの、以前のように固まったまま、まじまじと見つめてくることはなくなっている。
――が、隣のテニスコートは違った。
「キャぁぁぁっ!? 見てあの男神様……っ!」
「ヤバい……! お腹の筋肉が凄すぎる……っ!」
「ヤバいヤバい、息が止まる……っ!!」
「オシリが⋯⋯エロいっ!」
「し……子宮が……疼く!」
テニスをしていたサークルの女子学生たちがプレイを完全に中断し、嬌声を上げながらフェンス越しに群がってきた。中にはスマホを取り出して夢中で連写し始める者までいる。
それに気づいた僕の護衛と北川さんが「撮影はご遠慮ください!」と制止しようと動いたが、僕は手を挙げて二人を制した。
「いいよ。僕たちの練習の邪魔さえしなければ、写真くらい気にしないから」
「……天馬さんは本当に寛大なんですから」
北川さんは苦笑しつつも引き下がってくれた。脱いだジャージを綺麗にたたみ、広場の隅に全員が整然と並べると、いよいよメインのジョグへと移行する。
「よし、二列縦隊! 僕が先頭に立つから、ゆっくりジョグで白樺湖畔まで移動するぞ!」
「「「はいっ!」」」
先頭の僕の後ろに部員たちが整然と続き、ピンク色のバイクジャージを着た僕の護衛2名が、ロードバイクで車道の脇をしっかりと追走してくれた。
数百メートル移動し、白樺湖畔の公共駐車場へ到着した。湖を取り囲む素晴らしいロケーションの中、部員たちを円陣状に集める。
「いいかみんな。今日の目的は、標高1400メートルというこの環境に身体をしっかりと慣らすことだ。白樺湖の周回コースを使って60分間のジョグを行う」
僕は部員たちの顔を見渡しながら、注意事項をわかりやすく伝えた。
「ペースはキロ5分30秒で、絶対にペースを上げすぎないこと。6名ずつの5グループに分かれて、1列になって走ろう。時間は15時10分までに全員がスタート地点のここへ戻ってくること。それと、歩行者や観光客の皆さんが優先だ。絶対に迷惑をかけないようにね」
「「「はいっ!!」」」
指示を終え、グループごとに間隔を空けてスタートする。
8月真夏の日差しは眩しいものの、流石は標高1400mの高原地帯。空気はヒンヤリと澄み渡り、湖面から吹き抜ける風は冷たく心地良い。都市部の猛暑が嘘のような涼しさで、走るにはこれ以上ない最高のコンディションだった。
湖畔のコースを走っていると、すれ違う観光客たちが僕の姿に気づいて目を丸くした。
「えっ……!? 甲斐田天馬さん……!?」
「本物だわ! カッコいい〜〜っ!」
「天馬さ〜ん! 頑張ってくださ〜い!」
「ありがとうございます! こんにちはー!」
声援を送りながらスマホを向けてくる観光客の皆さんに、僕は気さくに笑顔で手を振り返した。僕のすぐ横にはピンク色のバイクジャージを着た護衛2名がピタリと並走し、起点では黒色ジャージ姿の残り2名の護衛がしっかりと目を光らせて待機してくれている。万全のセキュリティの中、気持ちのいい汗が流れていく。
そして1時間後――。
15時10分ぴったりに、部員30名全員が遅れることなく、笑顔で60分ジョグを走り切った。
「全員、ナイスラン! それじゃあセミナーハウスに移動して、体幹補強と入念なストレッチを行って今日は終了にしよう!」
宿泊先までゆっくりジョグで移動し、研修館の広場にて補強筋トレと体幹トレーニングでじっくりと筋肉に刺激を入れ、最後に入念にストレッチして怪我の予防も怠りなく行い、初日のトレーニングは無事に終了した。
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夕方17時過ぎ――。
夕涼みの風が心地よい多目的広場に、再び全員が集まった。
広場にはすでに研修館の女性スタッフさんたちによって、香ばしい炭火の匂いが漂うバーベキューコンロや、山盛りの肉と野菜がセットされていた。
「みんな、今日はお疲れ様! 明日からのトレーニングに向けて、しっかり栄養を補給しよう! 乾杯!」
「「「かんぱーいっ!!!」」」
天馬がジュースのグラスを掲げると、賑やかなバーベキュー大会が始まった。 ジューージューと音を立てて焼き上がる肉を、部員たちが豪快に口へと運んでいく。僕とクリス、朱里、そして鳴野も同じテーブルを囲み、弾む会話とともに肉や野菜を堪能した。
宴が最高潮に達すると、鳴野がジュースの缶をマイク代わりに立ち上がった。
「よーしっ! 明日からの合宿成功を祈って、東相大・陸上部名物を歌うぞーーっ!」
「「おーっ!!」」
鳴野を筆頭に、部員たちが大声で歌を歌い始める。気づけば大合唱となり、僕やクリス、朱里も手拍子をしながら一緒に声を張り上げて笑い合った。
北川さんや護衛隊員たちも、交代で輪の中に入り、美味しい肉を頬張りながら楽しそうに歓談している。
ふと、炭火の明かりに照らされる部員たちの笑顔を見つめながら、僕は温かい確信を抱いていた。
(明日からは、いよいよトレーニングが始まる……。でも、この雰囲気とこの絆があれば大丈夫だ)
どんなに厳しいメニューが待っていようと、今の彼女たちなら、誰一人として脱落することなく乗り越えられる。
そう強く確信しながら、僕は冷えたお茶を飲み干し、夜空に広がる満天の星を見上げたのだった。
次回の投稿は金曜日を予定しています。よろしければ★評価とブクマ登録とリアクションをお願いいたします。感想も頂けますと執筆の励みになります。
今後ともおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。




