第84話 閑話4 椿姫・葵との買い物デート
8月4日(土) ―― 09時45分。
夏の日差しが容赦なく降り注ぐ土曜日の朝。
僕は第8夫人の椿姫と、第9夫人の葵と買い物デートをするため、護衛(4名)を伴い、ショッピングモールがある最寄り駅の待ち合わせ場所へと向かっていた。
今日の僕の服装は、ブルーのリネンシャツにベージュのパンツを合わせ、ベルトや腕時計は落ち着いたブラウンでまとめる。女性たちの目が厳しいこの世界だからこそ、足元の白いレザースニーカーまで清潔感には気を配ったつもりだ。財布とスマホは黒のボディバッグに収めている。
今日の目的は、二人の「結婚指輪」を購入することだ。
新座駐屯地での保護生活中に婚姻したため、指輪の購入が後回しになっていた。保護生活者は、駐屯地の規則で物品販売を目的とする外部の業者は呼べない決まりとなっていたからだ。
葵は明日、陸軍のイベントがあり、広報部でその準備があるため、今日は11時30分までと時間は制限されてのデートとなる。
忙しい合間をぬって時間を作ってくれたのだ。
一方の椿姫は、週末はしっかり休日となっており終日フリーである。
(椿姫は、10月からは特例で2階級特進の『陸軍中佐』か……本当にすごいな)
椿姫は前回の事件(4年前)と今回の「白薔薇の喪失事件」において、全容解明に尽力した第一人者として絶大な評価を受けた。
佐官クラスへの昇進に必要な部隊での中隊長経験を免除され、特例の昇進とともに『陸軍監査本部』から、より強い権限を持つ統合司令部へと異動し、『統合監査本部』の副部長へと異例の大抜擢を果たしたのだ。長年、正義を貫いてきた彼女の努力が報われた形である。
ちなみに、有志組織「若駒会」の会長職は、後進の若手幹部に譲る形で清々しく辞したと聞いている。
約束の10時より15分も早く着いたはずだったが、すでに二人は到着していた。
「あ、天馬さんだ……!」
僕の姿を見つけるなり、葵が夏の太陽に負けないくらい眩しい笑顔を弾けさせ、人混みを割ってこちらへ駆け寄ってくる。
「天馬さんっ! 会いたかったぁ〜っ!」
跳ねるような足取りに合わせて、明るい栗色のボブヘアーと見事な胸部装甲が軽快に揺れる。
今日の葵は、デコルテを綺麗に見せる白のノースリーブニットに、サイドスリットが入ったサマーブルーのミニスカート、黒のスニーカーというアクティブでヘルシーな夏服スタイルだ。ビタミンカラーの斜め掛けショルダーバッグも彼女の快活さにぴったりで、街ゆく人の視線を独り占めにしていた。
葵は僕に抱きつくと、人目も憚らずいきなり唇を重ねてきた。
「んむっ……! 葵、人前だよ!?」
「ふふっ、だって大好きな奥様に会えたんだもん、我慢できるわけないじゃない!」
葵が嬉しそうに離れると、その後ろからゆっくりと椿姫が歩み寄ってきた。
いつも眼鏡をかけている彼女だが、今日はコンタクトレンズなのか眼鏡を外し、涼しげな目元が露わになっていた。栗色のストレートヘアが陽光に輝き、普段の制服姿とはまるで違う私服の美しさに、僕は言葉を失ってしまう。
白のノースリーブブラウスに淡いベージュのミニスカート、足元は細身のブラウンのストラップサンダル。小ぶりのショルダーバッグを斜め掛けにしたシンプルな装いだが、軍人としての鋭さが和らぎ、妖艶で可憐な女性の魅力が溢れ出していた。
「天馬……おはようございます」
椿姫は優しく微笑むと、僕の首に細い手を回し、うっとりと濃厚な口づけを交わしてきた。
「ん……ふぁ……。お待たせいたしました」
「……ううん、僕も今来たところだよ。二人とも、ものすごく綺麗だよ。今日は最高の一日にしようね」
僕は心からの言葉を口にすると、不敵に微笑んで両脇を広げて二人を促した。
「さ、腕を組んで行こうか」
「「えっ……!?」」
普段は凛々しい軍人である二人だが、同時に頬を真っ赤にして驚く。けれど拒むことなどあるはずもなく、僕の左右の腕にキュッと愛らしくしがみついてきた。ミニスカートから伸びる健康的な生脚の感触と夏の熱気が重なり、最高の買い物デートが幕を開けた。
僕の護衛4名と妻2人の護衛を連れ、ショッピングモール内にある行きつけのジュエリーショップへと向かう。
店内に入ると、顔なじみの女性店員さんが僕たちに気づき、丁寧にお辞儀をした。
「いらっしゃいませ、甲斐田様。いつも当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。奥の個室へご案内いたしますね」
馴染みの女性店員が微笑みながら出迎える。
来店予約をしていたので、プライベートが保たれた奥の個室に案内される。
「甲斐田様、本日はどのようなお品をお探しでしょうか?」
「今日は、こちらの二人への結婚指輪をお願いします。僕と同じデザインのものを頼みます」
「かしこまりました。すぐにサイズをお測りいたします」
手際よく採寸を済ませた店員さんが、僕と同じデザインの結婚指輪をケースに入れて運んできた。
僕はケースから指輪を取り出し、まずは椿姫に向き直った。少し緊張で身体をこわばらせている彼女の左手を取り、薬指にそっと指輪を通す。
「椿姫。僕の妻になってくれて、本当にありがとう。一生、君を守り、愛し続けることを誓うよ」
「天馬……っ。私、私……っ」
続いて葵に向き合い、薬指に指輪を通した。
「葵。いつもその笑顔で僕を元気づけてくれてありがとう。生涯をかけて君を幸せにすると誓うよ」
「天馬さん……あぁっ、幸せすぎるよぉ……っ!」
二人の瞳から、ボロボロと大粒の歓喜の涙が溢れ出した。
僕は二人を愛おしく抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。
「二人とも、絶対に幸せにするからね」
「はい……っ! よろしくおねがいします……っ!」
「天馬さん、大好きっ! 大好きだよぉ……っ!」
二人は僕の胸に顔を埋めて咽び泣き、応対していた女性店員さんまで感動のあまりハンカチで目元を拭いて貰い泣きしていた。
指輪の購入を終え、店員さんたちに温かく見送られてショップをあとにした。
時計の針は既に11時30分を回っていた。
「天馬さん……私、すごく名残惜しいけど……明日の準備があるから、ここでお別れです」
葵は涙を拭うと、僕の首に抱きついて熱い別れのキスをした。
「お姉ちゃん、天馬さんを独占してズルいけど、午後は楽しんできてね! 天馬さん、またね!」
「ああ、気を付けて行ってきてね」
葵は手を振りながら護衛とともに、軽快に走り去っていった。
〜〜〜〜〜
葵を見送り、僕と椿姫は二人きりになった。
僕は自然な動作で、椿姫のキュッと引き締まった腰に回した手に力を込める。
「あっ……天馬……っ!?」
椿姫は一瞬驚いて肩を跳ねさせたが、すぐに嬉しそうに目元を緩め、僕の身体にすり寄るように身を委ねてくれた。
「ふふ、次は椿姫の服を買いに行こうか」
「私の服、ですか? でも、今日は指輪を買っていただけただけで十分に満足なのですが……」
「ダメだよ。せっかくの休日なんだから、僕から服をプレゼントさせてほしいんだ」
向かったのは、以前美月とも訪れたショッピングモール内の高級アパレルショップだ。
店内に足を踏み入れると、洗練された女性店員たちや女性客が一斉に僕たちに視線を注ぎ、ざわめきが起こった。
「あっ!天馬様よ……! 隣の綺麗な女性はどなたかしら?」
「あの女性⋯⋯どこかで見たような⋯⋯」
「すごっ……まるでモデルさんみたいなカップル……!」
店内の女性客たちは、僕には気付いたが、着飾った椿姫には全く気付かない様子。
周りの視線を意に介さない僕に対し、椿姫は少し目を丸くして身を縮める。
「天馬……なんだか周囲の視線が凄いのですが……」
「気にしなくていいよ。それより椿姫、自分の服は自分で買うって言い出しそうだけど、今日は僕の奢りだからね。その代わり、僕の好みの服を着てもらうよ?」
そう意地悪く微笑むと、椿姫は頬を真っ赤に染めながらも、凛とした瞳で僕を見つめ返してくれた。
「……天馬が喜んでくださるのなら、どのような服でも喜んで着させていただきます」
「よし、決まりだ! 店員さん、彼女に似合う服を出してくれないか!」
そこからは、まさに「椿姫のファッションショー」状態となった。
試着室のカーテンが開くたび、僕は歓声を上げ、女性店員たちも息をのんだ。
洗練されたエレガントなドレスから、可愛らしい小花柄のワンピース、動きやすいシックなカジュアルスタイルまで。普段の軍人姿とのギャップも相まって、どの服を着ても椿姫のスタイルの良さと美しさが完璧に引き立っていた。
「天馬……このスカート、少し丈が短すぎませんか……? 恥ずかしいのですが……」
「いや! 完璧だよ! すごく脚が綺麗に見える!」
「ほ、本当ですか……? 天馬がそうおっしゃるなら……っ」
試着を繰り返すたびに照れて顔を赤くする椿姫。その可憐さに、女性店長が思わずこちらに近寄ってきた。
「お客様、本当に素晴らしいスタイルと美しさです……! よろしければ、当店の秋物カタログのモデルになっていただけないでしょうか!?」
「「あ、それは丁重にお断りします」」
二人でハモって断ると、店長は残念そうに肩を落とした。
結局、秋冬物を含めて気に入った服を10着購入。それに合わせてバックや靴、小ぶりなアクセサリー類もまとめ買いした。
さらに、僕が目をつけたのは――上品なベルベット・レースの「チョーカー」だった。
「チョーカー……ですか? 私のような軍人が身につけるには、少し派手では……」
「そんなことないよ! 椿姫は首筋が細くて美しいから、チョーカーが絶対に似合うんだ。僕のこだわりだと思って着けてみてほしいな」
「天馬がそこまでおっしゃるなら……身につけます」
椿姫はチョーカーを数点試着すると、うっとりとした表情で鏡に映る自身を見つめる。
首が長い椿姫にとても似合っていて、より一層妖艶さが増す。
「いいね!さいこ〜〜だよ!」
と、僕は思わず椿姫の耳元で囁く。椿姫は赤面し、ゆっくり頷く。
試着したチョーカーは全て購入することにした。
最後に向かったのは、店内奥の高級ランジェリーコーナーだ。
ここで僕は、椿姫のためにかなり際どいランジェリーを10点、そしてそれに完璧に合うシルキーなパンストやセクシーな網タイツを厳選して買い揃えた。
「て、天馬……っ! こ、このような肌の透けるランジェリーや網タイツまで……っ! わっ⋯⋯私に、どのようなことをさせるつもりなのですか……っ!?」
顔を耳まで真っ赤にして震える椿姫に、僕は耳元で悪戯っぽく囁いた。
「合宿から帰ってきたら、これを着た椿姫を朝までたっぷり愛してあげるよ」
「〜〜っっっ!!顔から火が出そうです……っ! でも……楽しみにしてますね……っ」
購入した品々は膨大な量と金額になったが、すべて僕のカードでスマートに一括決済とした。商品はすべて手ぶらで帰れるよう、椿姫の自宅へ宅配便で届ける手配を完了させた。
ショップを出ると、時刻はすでに午後14時を回っていた。
僕の手を強く握りしめる椿姫の薬指には、夏の光を受けて輝く僕と同じデザインの結婚指輪が、しっかりと嵌められていたのだった。
〜〜〜〜〜
高級アパレルショップで椿姫の服やランジェリーを選び終えた頃には、時計の針は14時を回っていた。店内でのファッションショーに熱中するあまり、すっかりお昼を忘れていたのだ。
「ふう……夢中になりすぎて、すっかりお腹が空いちゃったね。遅めの昼食にしようか」
「はい、私は天馬のお好きな場所なら、どこへでもお供します」
「よし、じゃあ僕の行きつけの店に案内するよ。昼から開いてる、すごく落ち着く店なんだ」
僕が椿姫の手を取り、ショッピングモールを出て路地裏へと向かう。案内した先は、以前千代乃と一緒に訪れた、居酒屋&小料理店「客恋慕」だ。
店の看板を目にした瞬間、椿姫は思わず口を手で覆い、目を丸くして驚いた。
「えっ……!? ここって……」
「ん? どうしたの?」
「あ、いえ……なんでもありません。行きましょう」
不思議に思いつつも、ガラガラと引き戸を開けて店内に入る。
「いらっしゃい――って、あらっ! 天馬さんじゃない! 久しぶり〜〜っ!!」
カウンター越しに声を上げて飛んできたのは、見た目年齢30代半ばほどの綺麗で粋な女将さんだ。女将さんはカウンターを飛び越える勢いで僕に駆け寄ると、力強くハグをしてきた。
「もうっ! 新座(駐屯地)での保護生活って聞いてたから、ずっと心配してたんだからね! 無事でよかったわぁ〜!」
「女将さん、お久しぶりです。心配をかけてすみません。……あ、それとね、今日は僕の妻を連れてきたんだ」
そう言って、僕の後ろでおずおずと立っていた椿姫を促す。すると女将さんは椿姫の顔を見るなり、目を見開いて叫んだ。
「あら〜〜っっ!? つばきちゃんじゃないの!! お久しぶり〜〜っ!!」
「女将さん……っ!」
女将さんは今度は椿姫に飛びつき、ぎゅっと抱きしめた。
「ちょっとつばきちゃん! ニュースであなたの活躍は見てたけど、無事だったのね! 心配したんだから!」
「お久しぶりです、女将さん……っ。ご心配をおかけして、すみませんでした」
制服姿のきりりとした軍人としての顔ではなく、どこか照れくさそうに、柔らかい口調で挨拶を返す椿姫。僕はその光景を呆然と見つめていた。
「ええっ!? 二人って、もしかして知り合いなの!?」
僕が驚いて尋ねると、椿姫は頬をほんのり赤らめながら、少し恥ずかしそうに白状した。
「ええ……実は私、陸大(陸軍士官大学)時代から、ここには大変お世話になっていて……長いお付き合いなんです。まさかあなたの行きつけが、ここだなんて思ってもみなかったです……」
「あら、天馬さん知らなかったの? つばきちゃんはうちの昔からの常連さんよ!」
世間の狭さに思わず笑ってしまう。
お店には僕の護衛4名と椿姫の護衛2名、計6名がついてきていたため、店内が空いているこの時間帯を利用して、護衛たちにも交代で店の隅の席に入ってもらい、しっかりと温かい食事を摂ってもらうことにした。
奥のカウンター席に腰を下ろした僕と椿姫、そして女将さんの3人で、まずはキンキンに冷えた生ビールで乾杯した。
「はい、乾杯〜! 二人の無事と、ご結婚のお祝いに!」
「乾杯!」
ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲み干す。昼下がりのお酒は身体に染み渡るように美味い。
料理をつつきながら、女将さんが楽しそうに椿姫の学生時代について語り始めてくれた。
「それにしても驚いたわよ〜。まさかつばきちゃんが天馬さんの旦那さんになるなんてね! 学生時代のつばきちゃんといったら、もう本当に優秀でねぇ。下級生や後輩の面倒をすごくよく見る、頼もしいお姉さんだったのよ」
「女将さん、昔の話は少し恥ずかしいです……」
「いいじゃないの、天馬さんにも知ってもらわなきゃ! 当時は同期の連中と店に来ては、カウンターで生ビール片手に『これからの国際情勢と国防理論』について熱く語り合ってたわねぇ。議論が熱くなりすぎて、お互いに大声で言い争って、胸ぐらの掴み合いになったことだって一度や二度じゃないんだから!」
「あ、あの頃は……私もまだ若かったですから……っ」
顔を真っ赤にして照れる椿姫。普段の凛とした「怜悧冷徹」な姿からは想像もつかないような、情熱的で人間味あふれる過去の一面に、僕は思わず笑みがこぼれた。
「へえ、胸ぐらの掴み合いかぁ。椿姫にもそんな激しい時代があったんだね。でも、すごく格好いいよ」
「天馬……笑わないでください……っ」
女将さんは目を細め、しみじみとした表情で椿姫さんを見つめた。
「でもね、天馬さん。つばきちゃんってば、昔から浮いた話が一切なくてねぇ。軍の仕事一筋で、男の『お』の字もなかったから、私本当におせっかいながら心配してたのよ。だから、天馬さんみたいな最高に素敵で温かい奥様を見つけてくれて……私、本当に安心したわ。あの公式動画のプロポーズも見たわよ! 最高に格好よかった!」
「女将さん……ありがとうございます。夫は……私の誇りであり、人生の全てです」
椿姫は僕の手を握りしめ、愛おしそうに瞳を潤ませた。
自分の知らない妻の過去を知り、その素顔に触れられたことが、僕にとってはたまらなく愛おしく、嬉しかった。
それから他愛もない雑談に花を咲かせ、美味しい料理とお酒を堪能した。
僕も椿姫もお酒はかなり強く、何杯お代わりしても顔色ひとつ変えずにまだまだいける口だったのだが――ふと時計を見ると、19時を回り、外の陽が沈んでいた。
僕はジョッキを置くと、隣に座る椿姫の瞳をじっと見つめた。
「椿姫」
「はい?」
「……この後、椿姫の家に泊まってもいいかな?」
一瞬、店内が静まり返る。
椿姫は息をのみ、ゆっくりと僕の意図を察したように頬を朱に染めた。そして、まるで恋する乙女のような可憐で一途な表情を浮かべると、こっくりと深く頷いた。
「……はい。喜んで、お迎えいたします……」
今夜、夫婦としての「褥」を共にする――その歓喜が、彼女の瞳に満ちていた。
僕はすぐにスマホを取り出し、メッセージアプリを立ち上げた。
北川さんと、妻たちのグループチャットへメッセージを送信する。
『今日はこのまま椿姫の家に泊まります』
送信ボタンを押すと、すぐに北川さんや愛里、千代乃たちから『了解しました! 椿姫さんと素敵な夜を過ごしてくださいね』『無理はなさらず、お二人でゆっくり愛を育んでください』と温かい返信が舞い込んだ。
「よし、行こうか」
「はい⋯⋯」
僕たちは「客恋慕」の女将さんに丁寧にお礼を言い、再会を約束して店をあとにした。
電車に乗り、「新座駐屯地前」駅へ到着。
夏の夜風が心地よい夜道を、護衛たちを引き連れて徒歩で椿姫の自宅である「幹部官舎」へと向かう。
歩く道すがら、僕は椿姫の引き締まった腰にそっと手を回した。
「あっ……天馬……」
椿姫は嬉しそうに肩を寄せて身を預けてくる。二人の影が街灯の下で一つに重なりながら、数十分ほど歩いて目的地の官舎へ到着した。
官舎敷地の入口(衛門)にて、警備の女性兵士(陸軍)へ身分証を提示する。
椿姫が幹部身分証を見せ、僕も夫帯者証を提示。護衛たちも護衛証を見せて共に敷地内へと足を踏み入れる。
「護衛の皆さん、今夜はこちらでお休みください」
そう警備の女性兵士(陸軍)が案内する。護衛たちは衛門の警衛所隣りにある「護衛者専用詰め所・宿泊所」へと入り、僕たちの警護を引き続き周辺から行ってもらうこととなった。
「それじゃあ、天馬……こちらへ」
「うん」
目の前にそびえ立つのは、まるで高級高層マンションのような最新鋭の幹部官舎だ。
エレベーターに乗り込み、椿姫の部屋がある3階へと上がる。
電子ロックを解除し、椿姫の玄関のドアが開く。
「どうぞ、狭いところですが――んんっ!?」
靴を脱ぐ暇さえ与えなかった。
玄関のドアを閉めた瞬間、こみ上げる愛おしさに耐え切れなくなった僕は、椿姫の細い腰を引き寄せ、玄関でそのまま激しく唇を奪った。
「んっ……ふぁっ……て、天馬……っ! 玄関で……っ!?」
「ごめん椿姫……我慢できないんだ。君があまりにも魅力的すぎて……っ!」
「あぁっ……嬉しい……っ! 天馬、私を……私をどうにでもしてくださいっ……!!」
僕の情熱に火をつけられた椿姫もまたスイッチが入り、僕の首に強く腕を巻きつけ、夢中で唇を返してくる。
デートから帰ったばかりの、昼間の私服姿⋯⋯白のノースリーブブラウスをはだけさせ、淡いベージュのミニスカートを押し上げながら、僕たちは服すら脱ぎ捨てる間もなく、玄関先で激しく求め合い、一戦を交えたのだった。
一度火がついた愛の嵐は、到底それだけでは収まらなかった。
――僕たちは夜通し、何度も、何度も、互いの肌と心を貪り合うように愛し合い続けた。
――夏の夜の静けさの中、新妻の甘い喘ぎ声と互いの愛の言葉が、長い夜の部屋の中に響き渡り続けるのだった。
【あとがき】
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、ノクターン用に準備していたエピソードを改稿して投稿いたしました。少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
次回は来週月曜日の更新を予定しています。
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それでは、今後ともぜひお付き合いください。




