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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第10章 夏の合宿 編

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第83話 合宿前夜の熱意

8月3日(金)

 夏の盛りを迎えた東相大学のキャンパスは、蝉時雨が激しく降り注いでいた。


 昨日、僕とクリスは部員全員とマネージャー、そして急な呼び出しにもかかわらず駆けつけてくれた保護者(母親たち)を集め、7日からの夏合宿の緊急説明会を執り行った。


 本来、大学運動部における合宿の連絡は、大人としての自覚を促す意味でも学生自身から保護者へと伝えさせ、指導陣はサポートに回るのが基本だ。

しかし今回は、僕とクリスの保護生活の影響で直前の日程変更を余儀なくされたため、説明会を実施した次第である。

だからこそ、僕とクリスが直接前に立ち、誠意を込めて一から説明したのだ。


 クリスは作成したスケジュール表を提示して説明する。


「合宿先は『東相大 白樺湖研修館』で、期間は8月7日(火)から21日(火)までの2週間となります。急なお知らせで大変恐縮ですが、参加は自由です。ご家庭の都合や課題の進捗に合わせて途中参加も受け付けます」


費用はすべて部費で賄うため自己負担がないことも伝えた。

急な提案だったため不参加者が出ることも覚悟していたのだが、蓋を開けてみれば部員全員が即座に「参加します!」と力強く参加を表明してくれたのだった。


「甲斐田監督。急なお話で驚きましたが、丁寧にご説明いただき、とても安心いたしました。娘のこと、すべてお任せいたします」


 母親たちからの評判もすこぶる良く、快く送り出してくれることになった。

何よりも部員自身が、僕のトレーニングによって走力が目に見えて向上しているのを実感している。

全員の瞳には「絶対に箱根駅伝に出場するんだ!」という並々ならぬ情熱がメラメラと燃え盛っているのを感じ取れる。

同性婚をしている既婚者部員の三上ルイも、家庭の理解を得てフル参加してくれる。男子マネージャー2名も、護衛を伴って帯同決定だ。


 ちなみに部員全員、昨日「東相大学病院」にてメディカルチェックを済ませており、健康状態は全員すこぶる良好で故障(特にシンスプリント)などの異常はなかった。


――ただ一つ、おかしなハプニングといえば⋯⋯。

メディカルチェックの尿検査の際、僕の婚約者であり第7夫人候補の鳴野が、検査結果の用紙を睨みつけながら「チッ……!」と感じ悪い盛大な舌打ちをかましていたことだった。


『ちょっと蘭、なんで尿検査の結果見て舌打ちしてるんだよ』

『だってテンさん! HCG反応がマイナス……!わたし妊娠してないじゃないですか! 仕留められなかったなんて不覚です……!』

『なっ!……当たり前だろ! ちゃんと避妊してたんだから、できる(妊娠する)わけないじゃないか!』

『むぅ〜~っ! あの忌々しい薄い壁なんて……テンさんの愛で突き破ってくれればよかったのに! 次の解禁が待ち遠しすぎますっ!』


―—蘭とそんなやり取りがあった……相変わらずの、ふざけてるとしか思えない蘭節に、僕は蘭のオデコにデコピンをして、盛大に突っ込みを入れておいた。


~~~~~~


 そして迎えた本日の午前9時。


 今日の練習を開始する前に、僕たちは部員とスタッフ全員を大学の講堂へ集め、合宿中の詳細メニューと、新たに入る「第三フェーズ:無酸素スピードトレーニング」についての説明を開始した。


壇上に立った僕は、集まった部員たちの顔を見渡しながらマイクを握る。


「みんな、おはよう。まずは急な日程変更にもかかわらず、全員が合宿に参加してくれたことに感謝する。今日は合宿中の流れと、これから取り組む“第三フェーズ”について説明するよ」


まずは直近のスケジュールから伝える。


「直前で申し訳ないが、明後日5日(日)に『10キロタイムトライアル』を実施する。今の自分の力を測定するためのものだ。ただし! 先月の『関東州大学陸上長距離競技会』に出場した三上をはじめとする6名については、疲労抜きとケガ防止を最優先するためタイムトライアルは免除とし、タイム計測や給水のサポートに回ってもらう。いいかな?」


免除対象となった三上ルイが、スッと手を挙げて爽やかに頷いた。


「了解しました、みんなのサポート、しっかりやらせていただきます!」


「ありがとう。そして翌日6日(月)は完全休養(完休)とし、身体をしっかり休めてくれ。翌日の移動と合宿に備えるように」


部員たちが手元のメモ帳にサッとペンを走らせる。


「続いて、7日(火)からの合宿スケジュールだ。当日は朝8時に大学へ集合し、バスで現地へ向かう。移動には監督がチャーターしてくれた大型の貸し切りバス2台を使用する。護衛の皆さんも同乗するため2台用意した。サービスエリアでの休憩を挟み、現地には10時30分頃に到着予定だ」


一呼吸置いて僕は説明を続ける。


「現地に到着したらまずは各部屋への荷物搬入と環境整理。そして午後14時頃から、標高1400mの環境に身体を慣らすための『軽めの1時間ジョグ』だけで練習は終了とする。……そして!」


僕は少しニッコリと笑って、ホワイトボードの文字を指し示した。


「初日の17時からは、みんなの英気を養うために『全員参加のバーベキュー大会』を開催する!」


「「「「やったぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」」」


講堂内に、地鳴りのような歓声が響き渡った。

鳴野が「肉だー! コーチの隣で肉を食べまくります!」と拳を突き出し、他の部員たちも顔を見合わせて大はしゃぎしている。


「こらこら、喜ぶのはそこまでだぞ」


僕が苦笑しながら手を叩くと、一瞬でシーンと静まり返る部員たち。この引き締まり方も見事なものだ。


「8日(水)は、体を慣らすために白樺湖の周回コースを使って、20㎞のジョグだ。体を高地に慣らすのが目的だから、ゆっくりペースでのジョグだ。9日(木)からは本格的なトレーニングに入る。朝5時30分起床。基本は午前と午後の『二部練習』だ。そして一日の練習の最後には、必ず体幹トレーニングと筋トレをセットで組み込む」


そこから僕はホワイトボードに、「第三フェーズ:無酸素スピードトレーニング」と大きく書き込んだ。


「まずは第二フェーズ――ヒルトレーニングを、みんな本当によく乗り切ってくれた。お疲れ様! これで、次のステージへ進むための基礎はしっかり身についた。……ここからの目的を一言で言えば、『スピード持久力』の養成だ。9日から隔日で本格的な『スピードトレーニング』――インターバル走を実施する。具体的なメニューとしては、午前中に1000〜1600メートルのインターバル走を実施する。そして午後は、みんなの疲労度合いを見ながら、14時頃からイージーペース走、または疲労抜きのジョグを行う予定だ」


 さらに僕は、先日クリスにも説明した「準高地トレーニング(標高1200〜1500メートル)」の理論についても、部員たちにわかりやすく噛み砕きながら、熱を込めて力説した。


 2000mの高地では酸素が薄すぎてスピードが出せず、脳と筋肉にブレーキがかかってしまうことなどを力説した。

 しかし標高1400mの白樺湖という「準高地」であれば、平地と変わらないトップスピードを維持したまま、心肺機能に最高の負荷をかけられることなども説明する。


 説明が進むにつれ、部員たちの瞳から緩みが消え、鋭い“アスリート”の目へと変わっていく。


 一通り説明を終え、僕は部員たちに向き直った。


「僕からの説明は以上だ。何か質問はあるかな?」


真っ先に手が上がったのは三上ルイだ。


「コーチ……その『準高地トレーニング』による効果というのは、どれくらいの期間で身体に現れてくるものでしょうか?」


(さすが三上だ。実に本質的な、鋭い質問だな)


僕は深く頷き、力強く答えた。


「さすが三上だ、とてもいい質問だね。準高地で追い込んだ効果が一番ピークとして現れるのは、下山して地上に戻ってから『およそ1週間後』だ。合宿が終わった直後は一時的な疲労が残るが、1週間かけて適切に疲労を抜くことで、劇的な心肺スタミナとスピードの切れが手に入る。楽しみにしていてくれ」


「なるほど……! 1週間後ですね。よく分かりました、ありがとうございます!」


三上がすっきりと納得した表情で着席する。他に質問を挟む者はいないようだった。


ミーティングの締めくくりとして、監督のクリスが壇上のマイク前へと歩み出た。


「皆さん。今回天馬コーチが提示したトレーニングは、日本の陸上界においても全く前例のない、革新的なアプローチです。未経験のメニューに対して不安や戸惑いを感じることもあるかもしれません。……ですが、これまでの皆さんのタイムやフィジカルの変化を見れば、天馬コーチの理論が正解であることは明白です。どうか天馬コーチを、そして自分自身の可能性を信じてついてきてください。よろしくお願いします」


そう言って、クリスは深々と頭を下げた。


一瞬、あまりに真摯な監督の姿に圧倒され、部員たちがあわあわと静まり返る。

その沈黙を破ったのは、他でもないキャプテンの鳴野だった。


「――何を迷うことがあるんだ、みんなっ!!」


鳴野がドガンと椅子を蹴る勢いで立ち上がり、壇上の僕とクリスを指して叫んだ。


「監督とコーチが、私たちのためにここまで最高の環境と最強の理論を用意してくれたんだよ!? 私たちの答えは一つしかありません! 監督とコーチを信じて、箱根の頂点まで駆け抜けるだけです!! みんな、行くぞーーっ!!」


「「「「おーーーっっっ!!!」」」」


鳴野が突如始めたコールに引っ張られ、みんな拳を突き上げた後に、それぞれハイタッチを交わしていく。そして、講堂全体が割れんばかりの熱気と歓声に包まれた。

僕とクリスは顔を見合わせ、思わずクスッと笑い合ってしまう。


「ふふ、蘭ったら相変わらず豪快ね」


「ははは、でも頼もしいよ。あいつのあの明るさと爆発力は、チームの最高の推進力だ」


部員たちだけではない。

僕自身も、来月に控えたフルマラソン(非公認レース)に向けて、この白樺湖合宿で徹底的にスピード持久力を磨き上げるつもりだ。


 最高の妻たち、信頼できる部員たち、そして強固な護衛の仲間たち。

全員の思いを乗せた2週間の夏合宿に向けて、僕たちの針が力強く動き始めたのだった。



次回の更新は来週月曜日を予定しております。

もしよろしければ、★評価とブクマ登録をしていただけますと、執筆の励みになります。

今後ともお付き合いのほど、よろしくおねがいいたします。


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