第76話 男の言葉の重み―—
7月17日(火) ―― 6時30分 食堂にて。
爽やかな朝の光が差し込む新座駐屯地の隊員食堂。午前6時30分を過ぎた頃、僕たちのテーブルはいつも通りの賑やかさに包まれていた。
妻たち、婚約者の蘭、そして北川さんや護衛の皆さんと囲む食卓は、この駐屯地においてすっかりお馴染みの光景だ。周囲の隊員たちからは、日常の厳しさを忘れさせるような温かく微笑ましい眼差しが向けられている。
特に、当直勤務や警衛で宿直勤務中の数少ない男性隊員たちにとっては、この光景は新鮮な衝撃だったらしい。
「とても楽しそうだな。自分も、あんな風に家族と食卓を囲みたいものだな……」
遠巻きにこちらを見つめる彼らの目には憧れの色が宿っており、どうやら僕たちの存在が、この世界の男性隊員たちの意識にも小さな変化をもたらし始めているようだった。
食事が終わると、家族それぞれが自分の日常へと動き出す。
今日からラグビー日本代表の選手たちのメディカルチェックが医療施設で始まるため、医師である奈月と看護師である朱里が、代表専属ドクターのサポートへと向かった。
「天馬、行ってくるね。しっかりお手伝いしてくるから」
奈月がそう言いながら手を振る。
「ああ、奈月も朱里も無理はしないこと、いいね」
一方、蘭は来週に控えた大学のテストに向けて勉強に勤しむ予定だ。僕と同じく保護生活の身であるため、試験は完全リモートで行われる。
「日本代表の合宿に参加しているリリカさんたちも、テストは容赦なくリモートなんですって。大変よねぇ」
蘭がテキストを開きながら呟く。いくら日本代表の強化合宿中とはいえ、特別扱いはされないらしい。
(リリカのやつ、勉強の方は大丈夫なのかな……)
義妹のちょっぴり心配な顔を思い浮かべていると、不意にすぐ横から引き戻すような声がした。
「天馬さん……天馬さん? 聞いていますか?」
「えっ? ああ、ごめん北川さん。ちょっと考え事をしていて」
気がつくと、僕は応接室のソファに座っており、目の前のローテーブルには北川さんのノートPCが開かれていた。画面には、今回合宿に参加している日本代表選手たちの写真付きプロフィールファイルがずらりと並んでいる。
北川さんは腕時計に目を落とし、少しだけ声音を鋭くした。
「あと1時間しかありません。8時半からは体育隊の長距離選手たちの指導なのですから、今のうちにしっかり目を通しておいてくださいね」
「うん。やることが山積みで、本当にいくら時間があっても足りないな……」
代表のプロフィールだけでなく、昨日の東相大学長距離・駅伝部の練習日誌ファイルもチェックし、お昼までに具体的なコメントを添付して送信しなければならない。五足の草鞋の重みが、さっそく両肩にのしかかっていた。
何気なくページをスクロールしていくと、ふと、義弟である優君の嫡妻、志田悦子さんのファイルで僕の指が止まった。
「……ん? 北川さん、これちょっと変じゃないですか?」
「どうなさいました?」
北川さんが怪訝そうに画面を覗き込んでくる。
「悦子さんって、リリカの1学年上の先輩ですよね? 生年月日を見ても確かに一つ年上だ。だったら、今年の3月に大学を卒業したばかりの筈なのに、このファイルには『昨年度卒業』って書いてある。つまり、1年早く大学を卒業していることになる。これって飛び級か何かなんですか?」
僕の純粋な疑問に、北川さんは「なるほど」と納得したように頷き、明快に答えてくれた。
「我が国には特別な恩赦制度があるのです。スポーツなどの分野で日本代表に選出され、国際試合で著しい活躍を見せた者や、国に対して多大なる貢献をした学生には、特例として大学を最短で2年早く『卒業扱い』とする措置が存在します。志田悦子さんの場合は、高校生の頃からサクラフィフティーンに選ばれ、世界の舞台で大活躍していましたからね。その圧倒的な功績が評価され、大学を1年早く早期卒業となったのです」
「へえ……! それはすごいシステムですね」
「ええ。もちろん『卒業扱い』となった後も、本人の意志で現役を引退した後に復学し、再び学ぶことも可能です。学業の負担を減らしつつキャリアを支援する、非常に合理的な制度ですよ」
アスリートのモチベーションを大いに高める素晴らしい仕組みだと感心せざるを得ない。ちなみに、大学に在籍している間は、どれほど実力があってもプロチームと契約を結ぶことはできないルールになっているそうだ。
今回の日本代表の招集メンバーは、プロリーグから35名、そしてトレーニングスコット(強化・練習用集団)として大学生選手が25名の総勢60名となっている。
そのうち、我が東相大学からは5名が選出されている。残りの20名は全国の大学、特に関西州の強豪大学からの参加となっていた。
全て日本国の国籍である。元の世界とは違い、各国代表にはその国の国籍を有していなければならないルールとなっている。
ここで僕は再び眉をひそめた。
「確か、イノウエ監督は東相大の1軍選手全員(23名)を合宿に呼びたがっていたって聞きましたけど……結局5人だけなんですね」
「それには大人の事情がありまして」
と北川さんは苦笑交じりに肩をすくめた。
「当初はイノウエ監督の意向通り全員を招集する手筈でしたが、大学ラグビー連盟から強い横槍が入ったのです。『まだ日本代表の正式メンバーではなく、あくまで強化練習生の段階で、東相大学ばかり優遇するのは不公平だ』と。そのため、各大学からの選出は最大5名までという制限が急遽設けられました。それで理事長の大舘さおり様やラグビー部の監督陣が苦渋の決断で選別し、リリカさんを含む5名に絞り込んだのです」
「なるほどね……」
僕は納得した。確かに、東相大学ラグビー部は春季リーグで無敗の無双状態だった。代表のノウハウを独占して、これ以上の差が開けば、リーグのエンタメとしての面白みがなくなってしまうという連盟側の危惧も理解できなくはない。
ファイルをさらにめくると、あの西北大学からも2名の選手が参加しているのが見えた。
(先週、ルイの走行妨害の件で、西北大はマスコミから猛烈に叩かれていたからな……。さすがにラグビー部の選手たちが嫌がらせをしてくることはないだろうけど、何事も起きなければいいな)
続いてプロ選手のファイルに目を移すと、22歳から35歳までの選手全員のステータスが「既婚」となっていることに気づいた。
「プロ選手は全員結婚してるんですね」
「ラグビーは世界中で最も人気のあるスポーツですからね。強くて美しいプロの女性選手は、男性から絶大な人気を誇る超エリート物件なのです。西欧諸国では、王族がラグビーのプロ選手を皇配(妻)として迎えるケースも珍しくありませんよ」
なるほど、この世界における女子ラグビー選手の地位は、元の世界のプロ野球選手やサッカー選手以上のステータスなのだと改めて実感する。
プロフィールを確認し終えた僕は、間髪入れずに東相大学の練習日誌へと意識を切り替えた。画面の向こうの部員たちは、僕が課した過酷なヒルトレーニング(坂道トレーニング)を、誰一人として音を上げることなく必死にこなしていた。
「みんな、本当によく頑張ってるな……!」
嬉しさが込み上げ、気がつけば指が勝手に動いていた。部員全員に向けて、一人ひとりの走りの特徴に合わせた熱いフィードバックと激励のコメントを書き込み、送信する。
ついでに、別メニューでありながら僕のすぐ近くで必死に食らいついている婚約者の蘭にも、日頃の努力を称える熱いメッセージを送り届けた。
時計の針が8時20分を指した。
「よし、時間だ。北川さん、グラウンドへ行こう」
僕は北川んとともに、護衛を伴って体育隊のサブトラックへと向かった。
~~~~~
グラウンドに到着すると、そこにはすでに陸軍広報部の牧野葵少尉が3名のスタッフを引き連れて待機していた。
「天馬さん! おはようございます! 今日も密着取材、よろしくお願いしますね!」
葵少尉は満面の笑顔で右手を挙げてみせたが、今日も今日とて、陸軍の制服でありながら際どいスリットが入ったタイトなミニスカート姿だ。健康的な太ももが歩くたびにチラチラと見え、僕は思わず目のやり場に困って視線を泳がせる。
「あ、おはようございます、葵少尉。よろしくお願いします」
挨拶を交わしていると、僕とお揃いのデザインのジャージを着た姉の牧野椿姫大尉が、テキパキと給水ボトルの配置を終えてこちらへ歩み寄ってきた。
「天馬さん、おはようございます。選手たちの体調確認はすべて完了しております」
「おはよう、椿姫さん。いつもありがとうございます。本当に助かるよ」
いつものように完璧なサポートを提供してくれる彼女の姿に、僕は毎朝自宅で妻たちに行っている「あるルーティン」が、完全に無意識のうちに発動してしまった。
僕は自然な動作のまま椿姫さんに近づき、その華奢な身体をガシッと正面から抱きしめてしまったのだ――。
「……ひゃっ!?」
抱きしめた瞬間、椿姫さんの身体が鉄板のようにカチコチに硬直した。
(あ、しまった! ここは自宅じゃないし、彼女はまだ妻じゃないのに!!)
自分のとんでもないうっかりミスに気づき、慌てて身体を離そうとしたが、時すでに遅し。
僕の胸に顔を埋めた椿姫さんの顔は、一瞬で沸騰したように真っ赤に変色し、瞳はトロンと蕩けたような至福の光を宿していた。
「て、天馬さん……天馬さん……っ!!」
彼女は夢見心地の声を漏らしながら、硬直が解けた腕で僕にしがみつき、もの凄い力で抱きしめ返してきた。
「「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」」
トラックでその様子を見ていた体育隊の女子選手たちから、地鳴りのような嬌声と黄色い歓声が沸き起こる。
「ちょっとお姉ちゃん!? 取材の真っ最中よ!?」
と葵少尉が叫び、広報部のスタッフたちも大慌てで機材を動かしているが、カメラウーマンのレンズはバッチリと僕たちの抱擁をドアップで捉えていた。
「はい、天馬さん。周囲が過呼吸で全滅する前に離れてください」
笑顔の裏に冷徹なオーラをまとった北川さんが、すぱんと僕たちの間に割って入り、力づくで僕と椿姫さんを引き剥がした。椿姫さんは「あぅ……」と髪を乱しながら、この世の終わりかのように名残惜しそうな目で僕を見つめている。
僕は顔から火が出そうな恥ずかしさを堪えながら、大声で選手たちに指示を出した。
「よ、よし! 全員、準備運動を始めるよ! 今日のメニューは20kmのイージーペース走だ。僕がペーサーをやるから、しっかりついてきて!」
準備運動を終えてから、全員ユニフォーム姿となり、各自位置につき練習がスタートする。
先ほどのピンク色の空気を吹き飛ばすように、僕は正確なラップを刻み続けた。
夏の強い日差しが照りつける中、選手たちは僕の背中を追いかけ、今日も脱落者を一人も出すことなく、完璧に20kmを走り切った。
「よし、全員ナイスランでした! 夏の暑さで体力を消耗してるから、午後の練習はいつも通り16時からにします。それまで、しっかりと涼しい部屋で休養をとってください!」
「「はい! ありがとうございました!」」
そう選手たちが返事をして引き揚げていく。まだ時刻は11時と意外にもスムーズに午前中のメニューが終わり、僕は宿舎に戻ろうとしたその時だった。
「天馬さん! お疲れ様でした! さっそくインタビューをお願いします!」
マイクを片手にした葵少尉が、輝くような笑みを浮かべて距離を詰めてきた。その後ろでは、汗まみれでセパレートタイプのユニフォームが張り付いた僕の身体を、カメラウーマンが下から上へと舐めるようにレンズで捉えている。そのカメラウーマンの目がどこか肉食獣のようにギラついていて、僕は少しだけ恐怖を覚えた。
「ええと、はい。何でもどうぞ」
「ありがとうございます! まずは先ほどの見事なペースメイクについてですが、特に『スピード持久力』を向上させるためのポイントをお聞かせください」
インタビューが始まると、僕はプロの顔に戻り、科学的アプローチに基づくトレーニング理論について熱く語った。乳酸の閾値をコントロールすることの重要性や、心肺機能への適切な負荷のかけ方について語る僕の言葉を、葵少尉は感心したように細かくメモしていく。
「素晴らしいですね! そして、本日午後からは、いよいよラグビー日本代表の臨時トレーナーとしての活動も始まると伺っています。現在のサクラフィフティーンについて、天馬さんはどう思われますか?」
「そうですね。まずは本日午後に実施する『ヨーヨーテスト』の結果を見てからになります。スポーツは根性論ではなく科学であり、すべては正確なデータに基づいてメニューを組み立てるものです。彼女たちの隠れたポテンシャルを引き出すのが楽しみですね」
的確にインタビューをこなし、これで終わりかと思った矢先、葵少尉がいたずらっぽい笑みを浮かべて最後の質問を投げかけてきた。
「貴重なお話をありがとうございました。……それでは最後にプライベートな質問を一つ。最近、天馬さんを公私共に親身になってサポートされている、牧野大尉について、天馬さんはどう思われてますか?」
「えっ? 椿姫さんですか?」
不意を突かれた質問に、僕の頭の中に、いつも健気に僕のために真っ赤になって尽くしてくれる彼女の姿が浮かんだ。そして、ここでも僕の悪い癖――何気なくつい本音を漏らしてしまう“悪癖”が発動してしまった。
「そうですね……。とても魅力的で、一緒にいて心が落ち着く素敵な女性です。できれば……これからも長く、特別な関係としてお付き合いしていきたいと思っています」
カメラの前で、僕はハッキリとそう言いきった。
その瞬間、グラウンドの時間が完全に停止した。
「――――へ?!」
後ろで片付けをしていた椿姫さんが、両手を口に当てたまま僕を見つめ動きを止めた。彼女の顔が、みるみるうちに茹で上がったタコのように真っ赤に染まっていく。大粒の涙がポロポロとその美しい目から溢れ出し、彼女はそのまま口を開けた状態で完璧にフリーズしてしまった。
「てっ、天馬さん……今、何とおっしゃいました……?」
マイクを持った葵少尉の手が小刻みに震え、北川さんは完全に目が点になり、広報部スタッフ3名も機材を持ったまま石像のように固まっている。
(あ、あれ? しまった……またしてもこの世界の『ルール』を無視してとんでもない爆弾発言をしちゃったか!?)
「えっ⋯⋯と、長くお付き合いしたい、と⋯⋯」
僕の声がか細くなると、葵少尉がフリーズした。
僕は冷や汗がドッと噴き出してきたが、この沈黙に耐えかねて、フリーズしている北川さんと護衛の皆さんの肩を激しく揺すった。
「北川さん! 護衛の皆さんも! 帰るよ、ほら!」
「はっ!? あ、はい……!」
強制的にシステムを再起動された北川さんたちだけを連れ、僕はまだ石のように固まっている牧野姉妹と広報スタッフをグラウンドに放置したまま、逃げるように宿舎へと走り去ったのだった。
宿舎の応接室に滑り込んだ北川さんは、未だに顔を赤く上気させたまま、猛烈な勢いでスマートフォンの画面をタップしていた。
「北川さん……何してるの?」
「何って、天馬さんが先ほどやらかした特大のプロポーズ発言について、旦那様と蘭さんたちに詳細なライブレポートを送信しているのですが?」
「ライブレポートって!⋯⋯それに、プロポーズ!って!?」
北川さんは、そんな僕の問いかけを無視して、スマホで妻たちと蘭に向けてレポートを送っている。
僕は北川さんの放つ言葉の意味がわからず、そのまま放置してそそくさと自室へ逃げ込み、シャワーを浴びてジャージに着替えた。
〜〜〜〜〜
昼食の時間となり、案の定、隊員食堂のテーブルにて僕は針のむしろと化していた。
「天馬さん、ずいぶんと大胆なプロポーズをしたみたいじゃない?」
千代乃が冷ややかな、しかしどこか楽しげな笑みを浮かべて僕を見つめてくる。愛理も、蘭も、クリスも、奈月も、朱里も、美月も、全員が「説明を求めます」と言わんばかりの目で僕を見つめていた。
「いや、違うんだ! 僕はただ、彼女が魅力的だから、その、元の世界の感覚で『恋人として付き合いたい』って言っただけで……プロポーズしたつもりじゃ……」
僕が口ごもりながら弁明すると、千代乃は盛大なため息を吐いて首を振った。
「恋人? 恋愛?……ああ、そういえば天馬さんの元の世界には、そういう生ぬるい過程を経てから婚姻を結ぶという文化があったわね」
千代乃は箸を置くと、椅子を引いて僕のすぐ近くまで顔を寄せ、強い目力で詰め寄ってきた。
「天馬さん、この世界において、男性と『恋人』という不確かな関係の過程を経て婚姻に至るなんてシステムは存在しないのよ。よく考えてみて。もし男性と付き合っている期間中に、男性側から関係を解消されたら――つまり、あなたの世界でいう『振られた』場合、その女性がどうなるか分かる?」
「え……? どうなるの?」
「その女性は、生涯において二度と他の男性と婚姻を結ぶことはできなくなるのよ。この女性過多の世界で……男性が、かつて他の男性と『恋人』として付き合っていた女性を妻に選ぶと思う? 見ず知らずの男性の手垢がついた女性を、誰がわざわざ選ぶというの? 婚姻という絶対的な契約もないまま、男性の気分一つで捨てられるリスクを負うなんて、女性にとっては人生の破滅を意味するのよ」
千代乃の言葉の刃が、僕の胸に深く突き刺さる。
「前にも言ったはずよ。この世界における男性の女性に対する意思表示は、それだけで国家を揺るがすほど重い価値があるの。公共の電波に乗るかもしれないカメラの前で、あんな風に『長く付き合いたい』などと言うことは、彼女の人生を丸ごと背負うという宣誓――つまり、事実上の『求婚』以外の何物でもないのよ」
「……!」
僕は何も反論できず言葉が返せない。すると千代乃は容赦なく最後の追撃を放った。
「責任を取りなさい、天馬さん。牧野大尉は非常に優秀で貞淑な、非の打ち所がない素晴らしい女性よ。将来は陸軍のトップはおろか、総理大臣すら張れる器だと私は見込んでいるわ。私が太鼓判を押すのだから間違いないわ。彼女と正式に婚姻を結びなさい!」
千代乃からの強烈な政治的圧力がかかる中、追い打ちをかけるように、隣で端末を操作していた北川さんが顔を上げた。
「天馬さん、千代乃様の仰る通りです。彼女は本当に素晴らしい女性です。……あ、それと、先ほどグラウンドに残してきた葵少尉からも猛烈なメッセージが届いています。『お姉ちゃんだけずるい! 私も天馬さんの特別になりたい!』だそうです。いっそのこと、葵さんもまとめて『連婚(同時に二人の姉妹と結婚すること)』してしまいましょう。スケジュールと書類の手続きは、この私が完璧に処理しますので」
「——北川さん……!?」
僕に考える余地など最初から残されていなかった。不用意な一言が、この世界の常識という名の濁流に飲み込まれ、僕は自分の言動に対する重大な責任を突きつけられることになったのだ。
「わ、わかった……! その件については、今日の夜までにはちゃんと責任をとるから。だから今は、一旦この話を収めてくれ! 午後からは代表のテストがあるんだ!」
僕が必死の形相で両手を合わせると、妻たちはようやく満足したように笑い、昼食の続きへと戻ってくれた。
自身の放った『言葉の重み』に責任を取らざるを得ない状況となりながらも、僕は午後からのサクラフィフティーンとの初対面に向け、震える心を奮い立たせるしかなかった。
今回もなかなかのボリュームになってしまいました。お待たせしてしまい申し訳ありません。
そろそろ椿姫さんと葵さん姉妹との恋の行方を完結させたいと思い、つい執筆に熱が入ってしまいました。
次回の投稿は月曜日を予定しております。これからも本作品を末永く見守っていただければ幸いです。




