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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第9章 新座での保護生活 編

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第75話 五足の草鞋

 契約を終えて部屋に戻ると、日本代表チームの広報スタッフから一つの大きな箱が届けられていた。

中に入っていたのは、シックな紺色のスーツである。


「……あれ? 採寸なんてしてもらった記憶はないんだけどな」


 さっそく袖を通してみると、驚いたことに肩幅から胸、ウエスト、丈に至るまで、まるでオーダーメイドしたかのように僕の身体に寸分の狂いもなくピッタリとフィットした。

鏡に映る自分の姿を見ながら、僕は首を傾げる。


(まさか、僕がフィジカルトレーナーを引き受けることを見越して、最初から大舘理事長が僕のサイズをどこからか仕入れて用意していたんじゃ……?)


 底知れない理事長の用意周到さに、背筋に少しだけ冷や汗が流れた。

自室を出ると、外で北川さんが待機していた。


「とてもお似合いですよ、天馬さん。まるで若き全権大使のようです」


 同じくパンツスーツ姿の北川さんが、書類ケースを片手に微笑む。


「ありがとう、北川さん。じゃあ、行こうか。サクラフィフティーンの心臓部に」


―— 13時15分 ——

 僕と北川さんは、新座駐屯地内にある「外来宿舎」の1階にある教養室(兼・会議室)の扉を開けた。

 室内には、すでに張り詰めたような緊張感と、独特の威圧感が漂っていた。

出迎えてくれたのは、ラグビー日本代表の監督、ヘッドコーチ、そして各分野のスペシャリストたち。総勢21名のサポートスタッフ陣だ。


 ちなみに……今日は、あの陸軍広報部の密着取材を受けているので、牧野葵少尉と広報部スタッフ3名も同行している。

相変わらず……葵さんは、陸軍の夏服姿なのだが、これも制服なのか、タイトなミニスカートには際どいスリットが入っていて、とても可愛くて目のやり場に困る。


 まずは広報スタッフから、ずらりと並んだスタッフの紹介が始まった。


「ご紹介いたします。今期より日本代表を率いる首脳陣、およびサポートスタッフの皆さんです」


【日本代表チーム・スタッフ内訳】

◆監督: アリッサ・レイ・イノウエ(Alyssa Rei Inoue / 井上 アリッサ)

◆ヘッドコーチ(HC): マヤ・ナラニ・ナカムラ(Maya Nalani Nakamura / 中村 ナラニ)

◆コーチ・ディレクター陣(4名): チームディレクター1名、アシスタントコーチおよびテクニカルアドバイザー3名

◆サポートスタッフ(15名): S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチ、アスレチックトレーナー、ドクター、アナリスト、栄養士、チームマネージャー、広報、通訳


(……本当に、全員が女性なんだな!)


 僕は心の中で呟いた。元の世界の傾向では、女子代表チームであっても監督や頑強なS&Cコーチには男性が就任することが多かった。しかし、女性が社会の主軸であり、比率も圧倒的に多いこの世界においては、これが紛れもない「常識」なのだ。

さらに僕の興味を惹いたのは、監督のイノウエ氏とヘッドコーチのナカムラ氏の経歴だった。

二人の国籍は「布哇ハワイ王国」の日系人女性で、年齢は共に50歳だという。


(ハワイ……王国?)


アメリカの「ハワイ州」ではなく、独立した王国となっている。

不思議に思い、僕は隣の北川さんに小声で尋ねると、彼女は口元を書類で隠しながら、明晰な声で教えてくれた。


「天馬さん、ハワイ王国は約130年ほど前、我が国の皇族を皇配(女王の夫)として当時の王女が迎えたことで、米国による武力的な強制併合を回避し、独立を守り抜いた歴史があります。そのため日本からの移民が多く、国を挙げての親日国なんですよ」


 なるほど、歴史の分岐点がそこにあるわけか。後で“歴史の生き証人”である千代乃に、もっと詳しく聞いてみるとしよう。


北川さんはさらに言葉を続けた。


「ハワイ王国にとって、ラグビーは『国技』です。世界ランキング1位の常連であり、ワールドカップでも圧倒的な優勝回数を誇る、世界最強のラグビー超大国なんですよ」


そんなラグビー王国のレジェンドである二人は現役時代、我らが東相大学の理事長である「大舘さおり」さんと、世界の舞台で何度も死闘を繰り広げた最大のライバル同士だったらしい。


 紹介が終わり、監督のイノウエさんが流暢な日本語で僕に向かって歩み寄ってきた。50歳とは思えないほど引き締まった長身の身体から、圧倒的なカリスマ性が放たれている。


「甲斐田トレーナー、お会い出来て光栄です。本当に無駄のない、素晴らしい身体つきをしてるわね。さおり……いえ、大舘会長から常々お噂は伺っていたわ。あなたの提唱する『科学的トレーニング理論』はラグビーの概念を覆すとね。ぜひ、我がチームにもご教授をお願いします」


イノウエ監督はそう言って、僕の手を力強く握りしめると、悪戯っぽく片目をウィンクしてみせた。


「実はね、大舘会長に『何が何でも甲斐田さんをここに引っ張ってきて』って直訴したのは、この私なのよ。臨時とはいえ、引き受けてくれて本当にありがとうございます、天馬先生?」


「えっ、監督からの直訴だったんですか!?」


驚く僕に、隣にいたナカムラヘッドコーチも静かに微笑みながら一礼した。


「私もあなたの東相大での指導、動画で拝見しました。データに基づいた無駄のない動き、実に見事です」


そうヘッドコーチは僕に言ってから握手した。


〜〜〜〜〜


 一通り挨拶を終えた後に、打ち合わせが開始される。


「――それでは、さっそく今回の合宿スケジュールについて、打ち合わせを始めましょう」


 アナリストから手渡された資料を机に広げ、僕は一通り目を通した。大学の部活動とは桁違いの活動予算があるのだろう、資料の質もサポート体制も一見完璧に見えた。


 ――しかし、フィジカルトレーニングの項目に目を走らせた瞬間、僕のペンがピタリと止まった。


(……なんだこれは! 古い!古すぎる!)


僕の顔がみるみる険しくなっていくのを、周囲のコーチ陣は見逃さなかった。


「甲斐田トレーナー、何か気になる点でも?」


テクニカルアドバイザーの女性が怪訝そうに尋ねる。

僕はチェックを入れたスケジュール表を机の真ん中に放り出した。


「……明日の午前中がメディカルチェック、これはいいです。ですが問題はその次です。午後に選手たちとたった1時間ミーティングをした直後、いきなり『15kmの走り込み』と、最大筋力を超えるような『重いウエイトでのハードなマシントレーニング』が組まれている。――ハッキリ言わせてもらいますが、流石にこれは有り得ません。一歩間違えれば、初日から主力選手数人が深刻な肉離れや股関節の故障を起こして離脱しますよ」


「「なっ……!?」」


 スタッフ陣の間に一瞬で不快感と動揺の混じったざわめきが広がった。

長年、日本のトップシーンで「走って、挙げて、耐える」という根性論的なフィジカル強化を信じてきた彼女たちにとって、僕の言葉は受け入れがたいものだったのだろう。


 しかし、僕は一歩も引かなかった。


「僕はここへ来る前に、直近の日本代表の国際試合の映像をチェックしてきました。皆さんは『フィジカルが足りないからもっと追い込むべきだ』と考えているようですが、僕の見立ては真逆です。現在の日本代表の最大の欠点は、当初の東相大と全く同じ。――『ワンプレーからのリロード(前線復帰時間)』が圧倒的に遅すぎる」


僕の指摘に、イノウエ監督とナカムラHCの目が鋭く光った。

僕はさらに続ける。


「全体的に、選手個々の瞬発力とトップスピードは世界レベルにあります。しかし、激しいコンタクトを一度迎えた後、再び立ち上がって次のポジショニングに就くまでの時間が掛かり過ぎている! これは『持久力』と『回復力』が致命的に足りてないからです。さらに言えば、相手の激しいディフェンスをステップで躱す際、軸足のコントロールが甘く、体幹部が激しくブレている。これではせっかくのスピードが相殺され、パワーロスの原因になります。必要なのは闇雲なウエイトトレーニングではなく、体幹部の正しいインナーマッスルの強化です!」


 教養室がシーンと静まり返った。21名のプロフェッショナルたちが、24歳そこそこの男性からの言葉の「重み」に圧倒されている。


「……じゃあ、甲斐田さん。具体的にどうすればいいのかしら?」


ナカムラHCの問いに、僕は不敵に笑ってみせた。


「決まってますよ。まずは『YO-YO(ヨーヨー)間欠性持久力テスト』を行います」


「ヨーヨー……テスト……?」


 監督をはじめ、コーチ陣とスタッフ全員が、聞いたこともない単語に目を丸くして絶句した。

 それもそのはずだ。インターバルを挟んで往復走を繰り返し、ラグビー特有の「走って、止まって、すぐ走る」能力を正確に測定する手法など、この世界線にはまだ存在してないのだから。


「そうです。このテストを行えば、選手たちの試合中のスタミナと回復力が一目で分かります。最後までバテずにダッシュを繰り返せる、本当の『動ける選手』を見極めるんです。そして、そのデータをもとに最適なトレーニングメニューを構築します。必要なシステムや分析プログラムは、我が東相大学ですでに開発済みです。各種センサー機材も、明日の朝までにはすべてここに届くよう手筈を整えてます」


僕がそう告げると、室内の空気は完全に「驚愕」へと塗り替えられた。


(やっぱり、この世界の指導者たちも、根性論の壁にぶつかって悩んでいたんだな……)


『スポーツは科学である』——僕の経験から、そう確信している。

ただがむしゃらに汗を流す根性論・精神論では向上は見込めない。重要なのは、蓄積されたデータと、そこから導き出される科学的なアプローチだ。いかに効率よく論理的にトレーニングを積み重ねられるか。その選択の差が、そのまま勝利の差に繋がっていくのである。


 ちなみに、「YO-YO(ヨーヨー)間欠性持久力テスト」のシステムと器材は――理事長の手厚いバックアップのもと、3人の天使たち……男子マネージャーと、クリス、そして『東相大学理工学部情報分析科』と『スポーツ科学部』の協力を得て完成させた。


 イノウエ監督はしばらく呆然としていたが、やがてフッと深く息を吐き、美しい顔に満面の笑みを浮かべた。


「……アハハ! さおりが『あの男はラグビー界の男神よ』って言っていた意味が今ようやく分かったわ。素晴らしいわ、甲斐田トレーナー。その『YO-YOテスト』、ぜひ明日の一発目に実施しましょう! まずは選手たちの本当の剥き出しの実力と欠点を、その魔法のテストで丸裸にしてもらうわ!」


「ありがとうございます、監督。そう言っていただけると助かります」


僕は元気よく応え、手元の資料に力強くペンを走らせた。


最後にイノウエ監督が締める。


「では、明日のミーティング終了直後からテストを開始します。すべては明日の分析結果が出てから、各選手に最適化された科学的スケジュールを再構築しましょう。スタッフ全員、甲斐田トレーナーの指示に従って機材のセッティングを手伝いなさい!」


監督の力強い号令が響き渡り、ミーティングはこれ以上ない最高の形で幕を閉じた。

「サクラフィフティーン」の肉体改造という、その記念すべき第一歩が、明日、新座駐屯地のグラウンドから始まろうとしていた。


~~~~


 日本代表スタッフ陣との密度の濃い打ち合わせを終えた時、時計の針はすでに16時を回っていた。

僕は更衣室へ向かい、支給されたばかりのスーツを脱いで、いつもの走り慣れたユニフォーム(腹出しのセパレートタイプ)へと着替える。

 ここからは、本日「二つ目」の指導現場だ。東相大学の長距離・駅伝部のメンバーについては、監督であるクリスにリモートでの指導を任せてあるため、僕は北川さんと共に体育隊グラウンドへと直行した。


牧野葵少尉以下広報部のスタッフも、僕に付いくる。


 グラウンドでは、すでに体育隊の長距離選手たちが既に動的ストレッチを始めていた。その輪の中に、誰よりも真剣な表情で身体を動かしている婚約者・鳴野蘭の姿を見つける。


「みんな、お疲れ様! 遅くなってごめんね」


僕が声をかけると、選手たちが一斉に「お疲れ様です、コーチ!」と活気ある声を返してくれた。蘭も「テンさん、お疲れ様!」と嬉しそうに手を振る。僕もさっそく彼女たちの輪に入り、股関節や肩甲骨をほぐす動的ストレッチを始めた。


「天馬さん、お疲れ様です! 午後の打ち合わせはいかがでしたか?」


弾んだ声とともに歩み寄ってきたのは、本日二度目のジャージ姿の牧野椿姫大尉だ。その端正な顔には満面の笑顔が浮かんでおり、手元にはすでに今日の練習メニューに合わせたタイマーや給水ボトルが完璧に整えられていた。


「代表の方はなんとか軌道に乗せられそうだよ。それよりも⋯⋯椿姫さん、いつもこうして先回りで準備をしてくれて、本当にありがとうございます」


「い、いえ……! 天馬さんのお役に立てるなら、これくらい当然の任務ですから……っ」


僕が真っ直ぐ目を見てお礼を言うと、椿姫さんは一瞬で耳の根元まで真っ赤に染め上げ、モジモジと視線を彷徨わせた。相変わらず、僕の言葉ひとつに対する初々しい反応がたまらなく愛おしい。


僕は選手たちを集めて、本日二回目(二部連)の練習メニューを告げる。


「よし、じゃあ予定通り、スピードトレーニングとして、1200mのインターバル走を7本実施します。レスト(休息)は2分間の完全休息です」


僕の言葉に、選手たちの表情がキュッと引き締まる。


「各自の現在の走力に合わせて、3つのグループに分けて実施します」


僕は2グループと3グループのペーサーを数人指名した。

各ペーサーには設定ペースをプラス・マイナス2秒以内と注意をしておく。


1グループ: 疾走タイム 3分40秒(1km換算 3分04秒 ペース)


2グループ: 疾走タイム 3分46秒(1km換算 3分09秒 ペース)


3グループ: 疾走タイム 3分52秒(1km換算 3分14秒 ペース)


「蘭は3グループに入って。僕は1グループを引っ張るから」


「はい!了解しました!」


 先ずは皆で20分ほどかけてアップ走を実施する。仕上げにグループ毎に本日の疾走タイムを体に覚えさせるべく、それぞれ200mダッシュを2本実施して終了した。


 アップを終えてから5分後、それぞれの持ち場につき、いよいよ過酷なインターバル走が幕を開けた。


 1グループが最初にスタートし、18秒間隔で2グループ、3グループがそれぞれスタートしていく。


 僕は1グループの先頭に立ち、10名の精鋭選手たちを引き連れてトラックを3周回る。

体内時計を正確に作動させ、1周ごとのラップを寸分の狂いもなく刻んでいく。僕の後ろにピタリとつく選手たちの、荒い息遣いと力強い足音が地響きのように重なった。


――結果として、誰一人として脱落者を出すことなく、全員が全7本の設定ペースを守り完璧に走り切った。


「ハァ……ハァ……っ、……お、終わった……」


3グループで走っていた蘭は、相変わらず集団の最後尾ではあったものの、ラスト7本目を終えた瞬間に、全ての力を使い果たしてガクンと膝から崩れ落ち、芝生の上へ力なく倒れ込んだ。


「鳴野さん、大丈夫!? はい、ゆっくり息をして!」


すかさず女性マネージャーが駆け寄り、彼女の身体を起こして介抱を始める。蘭は泥のように疲れ果てながらも、設定通りに走り切れた充実感からか、白くなった顔で小さく Vサインを作ってみせた。


 3グループすべての走行が終了し、5分間の給水休憩を挟んだ後、仕上げのメニューへと移る。


「はい、みんな最後にもうひと踏ん張りだ! グラウンドの内側で、大きな円を作って!」


僕の指示で、選手たちが円形に広がる。


「仕上げの体幹トレーニングを始める。走る時のブレをなくすために、インナーマッスルを徹底的に意識して!」


僕の声が響く中、プランクやサイドブリッジなど、地味ながらもキツいメニューを全員で消化していく。

悲鳴のような吐息が漏れる中、体育隊長距離選手の今日の練習はすべて終了した。


「皆さん、お疲れ様でした! 整理体操を怠らないように!」


「「「ありがとうございました!!!」」」


選手たちが安堵の表情で去っていく中、僕は一人、再びトラックのスタートラインへと向かった。


(……よし。僕個人としては、今の設定じゃ殆ど負荷が掛かってないからな。もう一段階、追い込ませてもらおう)


 天馬としての、本当の「僕自身のトレーニング」の開始だ。

メニューは、1600mのインターバル走を5本。設定は暴力的なハイペースだ。


 一人きりになったトラックを、僕は猛然と駆け抜けた。風を切り裂き、肺が焼けるような感覚をあえて楽しみながら、ストライドを伸ばしていく。現役のマラソン選手として、この走力だけは一歩も退くわけにはいかない。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ッ」


 最後の5本目を終え、時計を止めると同時に、僕も流石にドサリとグラウンド内側の青々とした芝生の上へと大の字に倒れ込んだ。全身から汗が噴き出し、心臓がドラムのように激しく波打っている。

 夜空を見上げて荒い呼吸を繰り返していると、すぐに僕の視界を遮るように、愛らしい影が降ってきた。


「天馬さん、本当にお見事な激走でした……! はい、冷たいお水です。少しずつ飲んでくださいね」


椿姫さんだった。彼女は僕の頭のすぐ横に膝をつき、キャップを開けたペットボトルの水を、僕の口元へと優しく運んでくれた。


「……んぐ、……ぷはっ。ありがとう、椿姫さん。生き返るよ……」


「ふふ、どういたしまして」

 

 最近では、僕の居残り練習の後にこうして彼女が水を飲ませてくれるのが、すっかり定番の光景になりつつある。すぐ近くでそれを見つめる北川さんの目が、心なしか「じーっ」と羨ましそうに細められている気がするけれど、今は喉の渇きと疲労の心地よさが勝っていた。


それにしても、と僕は寝転んだまま、自分の置かれた現状を整理してみる。


東相大学 長距離・駅伝部のリモート指導。

東相大学ラグビー部のフィジカルトレーナー。

臨時で引き受けている体育隊長距離選手の指導。

アスリートとしての自分自身の限界突破トレーニング。


そして、今日から追加されたラグビー日本代表の臨時のフィジカルトレーナー。


「……気づけば、正真正銘『五足の草鞋』状態だな、これ」


 我ながら、よくもまあこれだけのタスクを抱え込んだものだと苦笑してしまう。普通の人間なら、ストレスと過労で初日にパンクしていてもおかしくないハードスケジュールだ。


 だけど、北川さんからの事前の情報によれば、僕たちのこの駐屯地での保護生活も、あと2週間ほどで無事に終了する見込みらしい。


(あとたったの2週間だ。だったら、泣き言を言ってる暇なんてない。頼りにしてくれる教え子たちのためにも、僕の力を必要としてくれる日本代表のためにも、やれるだけのことを全部、全力でやり切ってみせよう!)


 熱を帯びた芝生の匂いを吸い込みながら、僕はこれからの怒涛の2週間に向けて、静かに、しかし熱く闘志を燃え上がらせるのだった。



【お知らせ】

次回の投稿は、月曜日を予定しております。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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