第67話 この世界の闇(エピローグ)
7月7日(土)
「新座駐屯地」での保護生活が始まってから、およそ二週間が経過していた。
外の世界では、男性保護庁の解体を推す声や犯罪組織の残党狩りといった激動のニュースが連日メディアを賑わせていたが、頑強に守られた駐屯地の中は、驚くほど穏やかな時間が流れていた。
僕が「新座駐屯地」で保護生活を送っているという事実は、マスコミの報道によって世間に知れ渡ってしまった。そのせいで、駐屯地正門前の警衛所には、多くの女性たちから僕を気遣う様々な差し入れが殺到した。
日に日に増していくその量に困惑した僕は、見かねて北川さんに相談を持ちかけた。
話し合いの結果、陸軍広報部の公式動画を通じて、僕と牧野葵少尉の二人で感謝の言葉を伝えることになった。
同時に、これ以上の差し入れは駐屯地の業務に支障をきたしてしまうため、今後はその温かい気持ちだけを有難く受け取る、というメッセージを配信した。
配信の効果は絶大で、それ以降、僕宛ての差し入れが届くことはなくなった。
それから、僕や妻たち、蘭の身代わりを務めてくれていた“ダミー”たちの運用の幕も閉じた。命がけで僕らの身代わりとなって動いてくれた情報省の女性工作員たち。
彼女たちにはどうしても一言お礼を言いたかったのだが、仲介役であるはずの北川さんすら、彼女たちの素性をよく知らないという。
結局、感謝を伝えることも叶わないまま、彼女らは、そのまま解散することとなった。
その日、東相大学病院から厳重な警護を伴って一人の経験豊富な産婦人科医(女性)が駐屯地へと来診し、僕の妻たちの定期検診が行われることになった。
そして、その検診は僕たち家族にとって、忘れられない大きな歓喜をもたらすことになる。
「天馬、おめでとう。私、あなたの子を授かったわ」
検診を終えて出てきた美月が、いつもの隙のないキャリアウーマンの表情を完全に崩し、これ以上ないほど愛らしく、幸せに満ちた笑顔を僕に向けてくれた。
エコー写真を手にした彼女の瞳は潤んでおり、その報告を受けた瞬間、僕の胸は熱いもので満たされた。
さらに驚くべきことに、美月に続いて診察室から出てきた千代乃も、悪戯っぽく微笑みながら自身のお腹に手を当てた。
「ふふ、どうやら私も天馬さんの新しい命を授かったみたい。真由美を産んでから、60年ぶりかしら、これからは外での活動は、里美に任せて控えることにするわ」
「千代乃まで……妊娠!」
二人の同時妊娠というおめでた続きの報告に、僕たち家族は一気に湧き立った。
だが、主治医からの嬉しい報告はそれだけに留まらなかった。
妊娠中の奈月と愛里は安定期に入り経過も順調だ。お腹の膨らみが少しずつ目立ち始めていることが告げられたのだ。そして、最新の設備による診断結果が主治医の口から明かされる。
「お二方のお腹のお子さんですが、どちらも『男の子』で間違いありません」
「えっ!……男の子……?」
「私が……男の子を……?」
奈月と愛里は、一瞬信じられないといった様子で顔を見合わせ、それから愛おしそうに自身のお腹へと手を添えた。驚きと、それを遥かに上回る深い慈愛の笑みが二人の顔に広がる。
男性の出生率が極端に低いこの世界において、同時に二人の男児が宿るという事実は、まさに奇跡以外の何物でもなかった。側にいた北川さんは、驚愕のあまりあいた口が塞がらないといった様子だったが、すぐにハッ!と我に返ると、震える手でスマートフォンを取り出した。
「奈月さんと愛里さんが、同時に男の子を……っ! すぐに情報省と関係各所へ連絡を入れます。これは国家的な超重大事案です!」
特に愛里に関しては、「やおびくに」種であることから、この後、お腹の子どもに対する「やおびくにDNA検査」が、予定通り実施されることになった。
本来であれば、国の中枢である「日本国医療開発研究局」の専門施設に本人が赴いて行う厳格な検査だ。しかし、蓮田らの残党による拉致や襲撃の危険性を鑑み、今回は国家側が動いた。
同施設から武装した多くの護衛を伴い、トップクラスの研究医とスタッフ数名が新座駐屯地へと直接派遣され、駐屯地内の医療施設を使って極秘裏に検査が執り行われた。
数時間後に出た結果は、「胎児から(やおびくに)の特殊DNAは検出されず、純粋な男児である」というものだった。特異体質の遺伝はなかったが、それでも健康な男の子であることに変わりはない。
「奈月、愛里、本当にありがとう」
僕は二人の元へ歩み寄り、それぞれの温かい手をしっかりと握りしめて、心からの労いの言葉をかけた。
奈月と愛里のお腹には、僕と彼女たちの血を分けた男の子が育っている。そして美月と千代乃の中にも、新しい命が芽生えている。
この世界に転移してきて半年。最初は戸惑うばかりだったパラレルワールドで、こうして大切な家族が増え、確かな幸せの種が育っていることに、僕は深い感動と愛おしさを噛み締めていた。
その様子を、まだ子宝に恵まれていない朱里とクリス、そして婚約者の蘭の三人が、まるで見つめる側が照れくさそうにしながらも、自分のことのように顔を綻ばせて喜んでくれていた。
すると、クリスがそっと僕の袖を引いて、周囲に聞こえないほどの小さな声で耳元に囁いてきた。
「天馬……。体育隊の優秀な選手たちのおかげで、私のスポーツ科学の研究も、これで一旦大きな区切りがついたの。だから、その……そろそろ、私も天馬との子どもが欲しいな?」
上目遣いで、少し顔を赤らめながらおねだりしてくるクリスの姿は、普段のクールな「監督」のそれとは全く異なり、一人の愛らしい女性そのものだった。
僕はそんな彼女の肩を優しく抱き寄せ、深く、優しく頷いて応えた。
「分かった。今夜は、クリスの部屋に行くよ」
保護されている最中の身であり、国家が揺らいでいるこんな緊迫した時期に子作りなんて不謹慎だろうか――元いた世界の感覚が、一瞬だけ僕の脳裏をよぎる。
けれど、ここは男性が圧倒的に少なく、子を成し、命を繋ぐことこそが、何よりも最優先され、全ての女性の生き甲斐となる世界なのだ。
それに、僕の遺伝子を狙う巨悪を打破した今だからこそ、愛する妻たちの想いに全力で応えることこそが、夫としての僕の使命だと思えた。
今後はクリスを最優先して褥を共にしよう。そして、朱里とも、将来的には蘭とも、たくさんの愛を交わし、この世界で生きていくための新しい命を共に育んでいきたい。
僕たち家族の絆は、この逆境の中で、より一層強く、深く結ばれようとしていた。
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妻らの診察を終えた後、僕は「国防軍体育隊」に所属する長距離選手たちの指導にあたる。
「ラスト一本! 蘭、しっかり腕を振って、最後まで軸を意識して!」
僕の檄を浴びながら、婚約者の鳴野蘭は必死の形相でトラックを駆け抜けていた。 彼女が並走しているのは、国内トップクラスの実力者が集まる国防軍体育隊の面々だ。
蘭はその最後尾に文字通り死に物狂いで食らいつき、引き離されまいと必死に足を動かし続けている。
「――そこまで! 給水して!」
クリスのタイマーが鳴り、本日のメインメニューである1000メートルインターバル走の5本目が終了した瞬間、蘭は緊張の糸が切れたようにグラウンドへバタリと倒れ込んだ。ゼェゼェと激しい呼吸を繰り返し、しばらくの間はピクリとも動けない。これがここ最近の、彼女のお決まりの「定番の姿」となっていた。
一方で、僕の指導を受けている体育隊の選手たちの表情には、確かな充実感が漲っていた。
最初は僕とクリスが提示した最新のトレーニング理論に、選手も監督もコーチ陣も戸惑いを隠せなかった。しかし、この二週間ジョグを中心としたメニューで脚の張りを抜き、体幹トレーニングと正しいストレッチを徹底した結果、驚くべき変化が起きていた。
「驚きました……。最後の追い込みに入っても、信じられないくらいフォームがブレないんです」
「走りの効率が劇的に変わったのが、自分でもよく分かります!」
これまで根性論の過酷な練習で潰れかけていた選手たちが、走りの質が明らかに向上したことを実感し、次々と声を弾ませる。今ではすっかり新しいメニューにも慣れ、僕たちの指導に対する信頼は確固たるものになっていた。
そんな駐屯地での生活の傍ら、僕たちの本籍である東相大学陸上長距離・駅伝部にも、次なる戦いの舞台が迫っていた。
来週の7月14日(土)と15日(日)の二日間にわたり、「新横浜公園競技場」にて、関東州学連主催の「関東州大学陸上長距離競技会」が開催される。真夏の酷暑を考慮し、レースはすべて陽の落ちたナイター環境で行われる予定だ。
種目は「1万メートル走」のみ。
当然、誰でも出られるわけではなく、公認記録で「35分未満」という厳しい参加標準記録が設けられている。さらに、その標準記録をクリアした関東州学連登録済みの学生の中から、タイム順に上位300名までしか出場権が与えられない。もし同タイムの選手が並んだ場合は、上級生が優先されるという狭き門だ。
我が東相大学からこの厳しい条件をクリアし、出場資格を得たのは――エースの三上ルイ、婚約者の鳴野蘭、そして力をつけてきた2年生5人の、計7名だった。
しかし、蘭は現在、僕と共に新座駐屯地で保護中の身である。当然、今回のレースは出場を辞退せざるを得なかった。
この決定を聞いた際、千代乃が「だったら、その競技会とやらをこの新座駐屯地のグラウンドで開催させようか?」と、権力に物を言わせたとんでもない提案をしてくれたのだが、さすがに公認記録の兼ね合いや大人の事情もあり、僕は苦笑いしながら全力で辞退した。
結果、東相大学からは三上ルイと2年生5人の、計6名が競技会に挑むことになる。
問題は、監督のクリスとコーチの僕が駐屯地から一歩も出られないため、現地での指導や付き添いができないことだった。部員たちを指導者なしで大舞台へ送り出すわけにはいかない。
どうしたものかと頭を悩ませていたところ、クリスがラグビー部の勝田戦術担当コーチに連絡を取り、臨時の付き添いを打診してくれた。すると、勝田コーチは電話越しに快く引き受けてくれたのだ。
『クリス監督、天馬コーチ、付き添いの件は私に任せておいてください! ラグビー部があそこまで圧倒的な強さで春季リーグを全勝優勝できたのは、他ならぬ天馬コーチのフィジカルトレーニングのおかげなんですから。陸上部のみんなには、私が責任を持って最高のサポートをしてきますよ!』
そう言って笑う勝田コーチの声は、非常に頼もしかった。競技は違えど、同じ東相大学の仲間としてこれほど心強い味方はいない。本番当日は、僕とクリスも駐屯地からリモートを通じて、部員たちを全力で激励する予定だ。
今回出場が叶わなかった他の陸上長距離・駅伝部の部員24名についても、モチベーションを落とさせないよう、競技会の翌週に学内での「10000mタイムトライアル」を実施する手筈を整えた。
「問題は、これから控えている夏合宿の準備ね……」
クリスがノートPCの画面を見ながら、ポツリと呟く。
本来であれば、僕たちが現地の下見や宿舎の手配、詳細なメニューの策定に動き回らなければならない時期だ。
依然として保護生活が続き、新座駐屯地から出られない現状に、指導者として「これからどう動くべきか」と焦る気持ちがないと言えば嘘になる。
しかし、僕自身の安全はもちろん、妊娠が発覚したばかりの美月や千代乃、そして奈月や愛里、朱里とクリスと蘭の身の安全を完全に確保するためには、ここで我慢することが最善の選択肢なのだ。
「焦っても仕切れないことは、割り切るしかないな」
僕は自分に言い聞かせるように呟き、ようやく起き上がってスポーツドリンクを飲んでいる蘭の元へと歩み寄った。
自由は制限されている。けれど、僕たちの心まで縛られたわけじゃない。この逆境のなかで力を蓄え、必ず全員で、さらに強くなって表舞台へと帰ってみせる。グラウンドを照らす夏の太陽を見上げながら、僕は静かに闘志を燃やしていた。
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僕がグラウンドで行われている体育隊の選手らの練習に視線を戻した時のことだった。
僕の専属の連絡係を務めてくれている牧野椿姫大尉が、どこか緊張した面持ちで歩み寄ってきた。
「天馬さん、今よろしいでしょうか。一連の不正事件について、新たな進展がありましたのでご報告いたします」
彼女の口から語られたのは、この二週間でさらに加速した、国家による徹底的な“膿出し”の現状だった。
報道によって事件の凄惨さが広く知れ渡った結果、激怒した多数の市民からの目撃証言や、組織内部からの匿名の情報提供が相次いだという。それにより、これまでにさらに50名ほどの容疑者が追加で逮捕された。
「情報省内部防諜課の執念深い調査によって、男性保護庁の職員からも新たに10名ほどの逮捕者が出ました。庁内では現在、大規模な内部通報制度が機能しており、不正に関わった残党の炙り出しと一掃が急速に進んでいます。……それから」
牧野大尉は一度言葉を切り、少し声を潜めた。
「例の保護施設における、少年らへの不同意買春に関与していた疑いで、現職の国会議員数名にも逮捕状が出ました」
「国会議員が、まだそんなに……」
僕は思わず驚きを隠せなかった。蓮田や立河の周辺だけでなく、国の中枢にまでこれほど深く病巣が広がっていたとは。
ただ、そんな破廉恥な特権階級の女たちも、市民の厳しい監視の目からは逃れられなかったようだ。中には言い逃れができないと悟り、自ら警察に自首してくる者も後を絶たないという。言うまでもなく、その逮捕者たちも全員が女性だった。
さらに、国際的なルートの遮断も大詰めに差し掛かっていた。
「国内外のマフィアの一掃も順調です。特にアジア第三国に対しては、我が国の外務省と『JISS』が連帯して凄まじい政治的・経済的圧力をかけ続けた結果、あちらの政府も重い腰を上げざるを得なくなりました。現地のマフィアはほぼ壊滅状態です。さらに、同国の政治家数十名までもがこの精液密輸ルートに関わっていたことが突き止められ、一斉検挙が始まっています。すべての関係者が駆逐されるのも、時間の問題でしょう」
僕のデータファイルのアクセス権限が、立河長官らによって不正に書き換えられたあの瞬間から始まった一連の事件。国家の裏側を巻き込み、あまりにも多くの逮捕者を出したこの未曾有の不正事件は、こうして完全に幕を閉じようとしていた。
後にこの一連の大騒動は、汚された男性たちの純潔の象徴として、一括して『白薔薇の喪失事件』と呼ばれることになる。
「……関係者の一掃が完了するということは、同時に、天馬さんたちの、駐屯地からの『解放』も近いということを意味します」
そこまで説明を終えた牧野大尉が、ふと視線を落とした。
僕を見つめる彼女の切れ長の瞳は、どこか寂しげで、とても悲しそうに揺れている。
僕は、彼女のその胸の内をそっと汲み取った。
この三週間近くもの間、彼女は任務のためとはいえ、僕の側に四六時中寄り添い、情報連絡員として、情報を共有してくれた。
僕たちがここを出ていけば、元のような「陸軍監査本部」の幹部としての勤務を再開することであろう。そして、僕との関わりもなくなってしまう。それが寂しいと思ってくれているのだろう。
事の始まりは、牧野大尉が僕のデータファイルの不正改ざんを見破ったことだった。それが結果として、今回の大掛かりな「白薔薇の喪失事件」へと発展したのだ。もし彼女が突き止めてくれなければ、僕の身の安全はどうなっていたか分からない。彼女には、いくら感謝しても足りないくらいだ。
僕は微笑みながら、彼女の顔を覗き込んだ。
「牧野大尉。もしよかったら、今夜、『隊員クラブ』に行きませんか? 僕と一緒に、飲みましょう」
隊員クラブとは、駐屯地の隊員たちが一日の終わりに疲れを癒やす、駐屯地内にある居酒屋のような施設だ。
僕からの突然のサシ飲みの誘いに、牧野大尉は目を丸くして、数秒ほど完全にフリーズしてしまった。
僕は彼女が脳内で“再起動”するのを微笑ましく待ち、カチッと焦点が合ったのを見計らって、満面の笑顔を向けた。
「少し遅くなってしまいましたけど、以前、約束したじゃないですか。二人きりでゆっくり飲みながら、色々お話ししましょうって。……椿姫さんのこと、もっと知りたいな」
「っ……!」
その瞬間、彼女の白い頬が、夕焼けを写したかのように一気に真っ赤に染まった。
普段の凛々しい大尉の仮面はどこへやら、彼女は小さく「はい……っ」と蚊の鳴くような声で頷くと、恥ずかしそうに俯いてしまった。いつもの強気な軍人が、恋する乙女のように縮こまっている。そのギャップがとても色っぽく、そしてたまらなく可愛らしくて、僕は不覚にもドキンと胸をときめかせてしまった。
二人だけの間に、なんとも甘酸っぱくて良い雰囲気が流れ始める。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。
「――おーい! テンさ――ん!」
数十秒ほど経った頃、グラウンドの向こうから、蘭の元気いっぱいの大声が響いてきた。
「あ、蘭が呼んでる」
僕は我に返り、そちらへ振り向いて「おーい!」と手を振り応える。
その時だった。
僕の背後で、何か「ドンッ!」という、肉体を鈍器で打つような、どこか聞き覚えのある不穏な音が響いた。
「うっ……!?」
短い悲鳴とともに、牧野大尉の上半身が綺麗に「九の字」に折れ曲がる。
驚いて僕が振り返ると、彼女のすぐ隣には、いつの間にか菩薩のような微笑みを浮かべた北川さんが立っていた。
「お疲れ様です、天馬さん。本日も良いお天気の中、熱心なご指導ですね」
北川さんは何事もなかったかのように、満面の笑みで僕に挨拶してくる。
その真横で、牧野大尉は必死に脇腹を押さえ、涙目で苦悶の表情を浮かべながら北川さんを睨みつけていた。だが、僕の視線に気づくと、慌てて顔を引きつらせながらも「だ、大丈夫です……!」と営業用の笑顔を作ってみせる。
グラウンドの向こうでは、蘭が「ただ呼んでみただけ〜!」と茶目っ気たっぷりに手を振り返し、「パチン」とウインクを投げてきた。どうやら僕たちの様子を見て、冷やかしを出したらしい。北川さんも、蘭に向けて優雅に手を振り返している。
(……また、北川さんの神速のボディーブローが炸裂したんだな……)
僕が見ていないほんの一瞬の隙に、北川さんが牧野大尉の邪念(?)を物理的に粉砕したのだろう。複雑な大人の事情を感じた僕は、敢えてそこには触れず、何も見ていないフリをすることにした。
悶絶する牧野大尉と、それを笑顔でスルーする北川さん。
痛々しくもあるけれど、この二人、意外と凸凹コンビとして馬が合っているんじゃないだろうか――そんな場違いなことを僕なりに思いつつ、僕は今夜の密かな約束を思い、小さく胸を弾ませるのだった。
「第8章:歪なこの世界の闇」編、これにて完結です!
男女比が偏ったこの世界だからこそ起きる闇や不正を描きたくて、この章を作りました。
残酷な描写があって、少し苦手な部分もありましたが、何とか書き上げることが出来ました!
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。次章からはガラリと雰囲気を変えて、甘々な展開にしていく予定です!
【今後の更新について】
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