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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第8章 歪なこの世界の闇 編

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第63話 この世界の闇(後編)

【北川さん視点】


 ――6月12日㈫。


 前日に牧野椿姫大尉と情報共有を行った翌日、私は真由美さん、そして牧野大尉と共に、国防軍統合幕僚本部が置かれている「福生ふっさ基地」へ向かった。


 目的は、甲斐田天馬さんに関する一連の事案について、改めて情報を整理・分析し、今後の対策を協議するためである。


 会議は極秘扱いだった。


 参加しているのは、情報省『内部防諜課』、警察庁『組織犯罪対策部 守護特務課』、『薬物銃器対策本部』、厚生労働省『種子局』、国防軍『統合監査本部』、『陸軍監査本部』であり、総勢20名ほど。

 当然ながら全員女性ばかりだ。


 人数自体は少ないが、省庁の垣根を超えた合同会議であり、それだけ今回の件が重大視されていることを意味していた。


 会議場所が国防軍施設となったのも、情報漏洩を警戒してのことだった。


 男性保護庁からの出席者が一人もいないのは、内部に内通者が存在しているためだ。


 もっとも、私や天馬さんの護衛チームは形式上こそ男性保護庁所属ではあるが、実際は情報省、国防省、警視庁からの出向者で構成されているので、そこに問題はない。


 今回の件は、もはや天馬さん個人の問題では済まなくなっていた。

国家規模――それも、国外勢力まで絡んだ組織犯罪へと発展していたのである。


 なお、この場に千代乃さん率いる『JISS(ジス)(日本国総合戦略研究所)』の人はいない。

後で聞いた話では、彼女らは別方面で動いているらしい。国会議員への根回しや海外マフィアへの工作、さらには東欧やアジア第三国の政府高官に接触してマフィア掃討の圧力をかけるなど、その活動は多岐にわたる。

詳しい内容までは聞かなかった……いや、聞かない方が正解だろう。あそこは、そういう組織だ。


 会議室へ入ると、すでに資料が並べられていた。大型モニターには、『特別機密』の赤文字が表示されている。

その光景だけで、空気の重さが伝わってくる。


 やがて「情報省」担当者の仕切りで会議が始まった。まず結論から提示される。


 甲斐田天馬さんのデータファイルを改ざんした人物は、男性保護庁長官『立河理子』で間違いない。


 会議室の空気が静まり返る中、私は立ち上がり、『情報省監査局』から預かっていた記録映像を提示した。


「男性保護庁のデータ室には監視カメラがあります。しかし問題の時間帯だけ、映像が削除されてました」


モニターが切り替わる。


「ですが、私は出向直後、情報省監査局の指示に従い、別系統の超小型隠しカメラを設置しておりました」


そう私が言い終わると映像が再生される。


そこには――深夜の執務室で、単独で端末を操作する立河理子長官の姿が映っていた。

会議室の空気がさらに冷え込む。


「……やはり」


誰かが低く呟いた。


 立河理子が、甲斐田天馬さんのデータを明確に書き換えていた事実は、もはや動かしようがなかった。

沈黙が支配する会議室で、各省庁による情報の突き合わせと分析が始まる。焦点は、彼女がなぜそれほどの危険を冒してまで、組織……ひいては国家を裏切る挙行に及んだのかという一点に絞られた。


 その静寂を破ったのは、牧野大尉の報告だった。彼女は感情を排した淡々とした口調で、しかし鋭く、調査によって露呈した事実を並べていく。


「立河長官は、日本国男性の精液を海外へ不正流出させています」


 一瞬にして、室内の空気が凍りついた。


「手口は、男性保護庁が管理運営する育成・保護施設、『天啓てんけいのゆりかご園』に保護されている少年への強制的な不同意性交によるものでした」


 施設に保護された15歳から17歳の少年たちは、運営側の手で「商品」に変えられていた。東欧やアジアの第三国から来た女性たちとの性交を強要され、その精を宿したまま彼女らは帰国するという、非人道的な仕組みだ。対価として少年たちに金が流れていた事実も確認されており、それは「保護」の名を借りた実質的な少年売春に他ならなかった。


「若駒会の調査では、施設には東欧とアジア第三国の女性が継続的に出入りしてました。頻度は、ほぼ毎日です」


 重苦しい沈黙が、さらに深く会議室に沈殿していく。


「買春行為自体は1年前から。精液の不正流出は約3ヶ月ほど前から本格化しております」


 さらに、日本人女性の出入りと……「立河理子」の出入りも確認されたのも報告した。


「現在、保護施設内の少年は7名です。全員が不同意性交を強制されています」


 それだけではなく、特定の国から、その対価として莫大な資金が動いていることも突き止めていた。


 牧野大尉は資料をめくる。


「少年らの共通点は、保護者が多額の借金を抱えていたことによる強制保護と、両親を失い、身寄りがなく、男性保護庁が保護したことです。以上になります」


 私は事前に牧野大尉より聞いていたとはいえ、奥歯を噛み締めた。胸の奥が冷たくなる。


 次に、『情報省内部防諜課』の担当官が報告する。


「JISSから追加情報が入りました」


 その瞬間、室内の視線が一斉に向く。


「少年たちは麻薬漬けにされています」


 数秒ほど、この場の空気が止まった。


「関与組織は、東欧とアジア第三国のマフィアと、日本国内のマフィアも絡んでいます」


 さらに――立河理子の経歴には、致命的な偽りが含まれていた。公には外交官を両親に持つとされる彼女だが、実母は過去にアジア第三国の工作員と通じていた。そのとがで職を追われた実母は、今や消息不明の身である。


 そして、立河理子は女性至上主義組織の一員であることも突き止めている。

その背後には、同組織の事実上のトップである元スポーツ庁長官『蓮田みずき』と、第三者を通じて頻繁に連絡を取り合っているとのことである。


 また、「立河理子」と「蓮田みずき」の海外口座や暗号資産には、複雑な経路を経由してマフィア系フロント企業から巨額の資金の流入も確認された。


 ――黒幕は「蓮田みずき」と、結論づけられるだけの証拠が揃っていた。


 会議室の全員が絶句していた。


 さらに男性保護庁内部には、20名もの内通者がおり、官僚クラスにも1名いるとのことである。


 その官僚女性は、海外出張時にハニートラップに嵌められ、脅迫されて協力させられているという。


 あまりにも規模が大きい。


 しかも……まだ終わらない。情報省側から、さらに報告が上がる。


「立河理子は、他にも“両親のいない少年や男児”を継続的に検索していた履歴が確認されました」


 そして――。


「東欧およびアジア第三国の富裕層や議員と高官の数名が、甲斐田天馬さんとの性接触を望んでいることも確認しました」


 私は思わず拳を握った。胃の奥が冷える。


 だが幸いにも、現時点で天馬さんと接触した6名の女性に問題は確認されていない。


 誘拐や監禁の兆候もなし。それでも、今後は彼女たちにも護衛を付ける方針となった。


 最後に――。


「内部防諜課からの情報です。3ヶ月前に蓮田みずきが居住する議員宿舎に……当該施設に保護されている少年が出入りするのが確認されました」


 「情報省内部防諜課」からの情報で、スパイ防止法に則り、疑惑のある議員に対してのみ、極秘裏に超小型の監視カメラを設置していた。合法であるので特に問題はない。

その映像には、3ヶ月前から週1~2回の頻度で、蓮田みずきの部屋に、20代くらいの女性2名とともに、同じ少年が出入りしている姿が映っていた。


 会議室にいるもの全員が絶句する。

これで、「蓮田みずき」の決定的な証拠は十分揃った。


 だが、これだけではない驚愕の事実を「JISS」からもたらされていたことも報告する。


「JISSからの情報で、蓮田と立河は、男性保護庁の内通者20名とともに、アジア第三国への亡命を画策している動きがあるとのことです。以上になります」


 亡命!という言葉にここにいる全員が息を呑む。


 次に警察庁から報告がなされる。


「昨日、東欧およびアジア第三国系マフィアの協力者と目される10名が我が国へ入国したのが確認されました」


 日本国は、世界中の指名手配犯に重大犯罪者や犯罪組織の情報を持っており、入国は厳しく制限(入国不可)されている。

今回は協力者と目される人物(全員女性)であり、犯歴もないので、入国拒否は出来ない状況である。

その中には、幹部クラスと目される女性も含まれていた。


「近々、何らかの行動を起こす可能性が高いと判断します。現在、全員の行動を監視中です」


 そして最後に、厚生労働省『種子局』からの報告である。


「他に特別機密指定を受けている男性のデータ改ざんは確認されてません」


 続いて、天馬さんの提供した精液についての報告をする。


「甲斐田天馬氏の精液は、東相大学病院にて過去二度採取されていますが、現在のところ、不正流出は確認されていません。また、DNA鑑定も行い、すり替えられていないことも確認済みです」


 私はそこで、ようやく少しだけ息を吐いた。


 だが――まだ終わっていない。


 むしろ、ここからが本番なのだと、誰もが理解していた。

集められた情報を統合し、分析した結果――事態は、想定以上に深刻であることが判明した。


 最初に問題となったのは、天馬さんの個人情報ファイル改ざん。


 本来であれば「特別機密」に分類されるはずのデータが、意図的に一般男性レベルまで引き下げられていた。

 しかも、単純な閲覧制限解除ではない。特殊な裏口を設け、特定の人物のみがアクセス可能な状態へと作り替えられていた。


 それはつまり――天馬さんを“狙った者”が自由に追跡・監視・接触できるようにするための処置がなされているということでもある。

 その結論に至った瞬間、会議室の空気は一気に冷え込んだ。


 そして、分析を統合した結果、3つの結論に至る。


 目的は―——。


1.甲斐田天馬さんの精液の不正入手。

2.天馬さんの拉致。

3.天馬さんが関係を持った女性の拉致。


 以上のことが断定された。


現時点では天馬さんの提供した精液の盗難や流出の痕跡は確認されていない。種付けを受けた6名の女性たちにも不審点はなく、誘拐や監禁の形跡も存在していない。


 だが、それが逆に不気味だった。犯人側は、まだ“手を出していない”。あるいは――最適なタイミングを狙っている。

そう考えるのが自然だった。


 そして議題は、日本国男性の精液密輸案件へと移る。


 牧野椿姫大尉と「若駒会」が掴んだ情報は、想像を絶する内容だった。


 保護施設として運営されている「天啓のゆりかご園」で、15歳から17歳の少年たちが外国人女性との性行為を強要されている事実。


 体内に精液を宿したまま出国するなど、税関検査を潜り抜けるための、最悪の密輸手段だった。

しかも、少年たちは薬物漬けにされ、抵抗力を奪われている可能性も高い。搾精そのものも違法に行われている。


 私は、報告書を見つめながら奥歯を噛み締める。怒りより先に、嫌悪感が込み上げていた。


 日本国男性の精液は、通称“白いダイヤ”と呼ばれている。世界最高品質であり国家戦略資源として指定されている。

 それを守るために、どれだけ多くの制度と法律が存在しているか、弁護士の資格を持つ私は、誰よりも知っている。


 それを……まだ、年端もいかない少年たちを使って、麻薬まで使って、裏社会へ横流ししている。


 こんなことが許されるはずがなかった。


 そしてその黒幕は、男性保護庁長官「立河理子」であり、さらに背後には、失脚した元閣僚の国会議員「蓮田みずき」である事実。

 加えて、東欧のマフィア、第三国アジアのマフィア、日本国内組織まで絡んでいる事実。


 ここまで来ると、単なる汚職ではない。国家を揺るがす規模の犯罪であり、売国及び“国家反逆罪”にも相当する。


 会議では今後の捜査方針と、逮捕のタイミングについて議論が進められた。


 証拠は揃っている。だが、黒幕2人の相手は現職の国会議員である。しかも国外の犯罪組織まで絡む。

拙速に動けば証拠隠滅、国外逃亡、報復テロ行為が発生する可能性がある。

 

 ゆえに結論は一つだった。

二週間以内に素早く、静かに、同時に叩く旨が決定された。


 そして、各省庁の役割分担も指定される。

 

◇情報省は男性保護庁の内部摘発。蓮田と立河の行動も監視し、各所と連携した上で、罷免と同時に逮捕拘束をする。摘発制圧と逮捕拘束する際は、陸軍対テロ部隊が同行し対処する。


◇警察庁は国内組織の摘発と、海外マフィア関係者と協力者の逮捕と、関係者の資産の凍結。摘発制圧する際は、陸軍対テロ部隊も同行し、協力して対処する。


◇国防軍統合監査本部は厚生労働省種子局と協力し、保護施設への強制捜査と少年たちの保護。施設関係者全員の逮捕拘束。摘発制圧する際は、陸軍対テロ部隊が同行し対処する。


◇JISSは国会議員への根回しと、非合法組織の工作と、東欧とアジア第三国の政府高官に接触してマフィア掃討の圧力をかけること。


 以上のことが全会一致で決定された。


 なお、「蓮田みづき」と「立河理子」以外の関係者については――。


「必要とあれば排除も許可する」


 その一言で、会議室は静まり返った。生死不問。つまり、“そういう段階”に入ったということだった。


 その後、天馬さんの身辺警護についても正式な方針が決定された。

まず、甲斐田天馬とその妻たち、そして婚約者の全員を「新座駐屯地」へ移送し、身の安全を確保する。

天馬さんのスマートフォンは監視や追跡を撒くため、常に自宅へと残し、代わりに支給された別端末を使用させる。これは自宅に端末を留めることで、敵側に不自然さを悟らせないための措置でもあった。

警護体制も大幅に強化される。天馬さんには6名、妻たちと婚約者にも同じく6名の護衛がつき、これらすべてが国防軍と警察庁からの派遣要員で固められた。また、妻たちの仕事は可能な限りリモートへと切り替え、さらに天馬さんが種付けをした女性6名についても、「国防軍福生基地」にて一時保護することが決定した。


 東相大学陸上長距離・駅伝部の練習も、国防軍体育隊施設へと変更される。施設関係者の大半が若駒会メンバーであり、安全性は極めて高いと判断されたからだ。


 さらに――牧野椿姫大尉と、牧野葵少尉と、私こと北川恵美。この3名も、新座駐屯地内で生活することが決定された。

護衛もそれぞれ4名ずつ付けられることにもなった。


 理由は単純である。既に相手側に顔を知られている可能性が高いためとの判断からだ。

 牧野大尉は情報連絡役として、常に天馬さんへ情報共有を行う役目を担うこととなった。


 それは、つまり―—天馬さんと行動を共にするということだ。

その説明を受けた瞬間だった。牧野椿姫大尉の頬が、目に見えて赤く染まり、あからさまに表情が緩んでいる。


 私は思わず眉をひそめる。

普段のこいつ(彼女)なら、こんな露骨な反応は絶対に見せない。

怜悧冷徹で合理的、鉄面皮、それが牧野椿姫という女だった。


 なのに今は違う。完全に“女の顔”だった。しかも、隠しきれずに口元が緩んでいる。


 私は内心で舌打ちした。


(……気に入らない)


 次の瞬間……私は無言で、周りに気付かれずに牧野大尉の横腹へ拳を叩き込んだ。


「うっ――!?」


鈍い声を漏らし、椿姫が身体を折ると、周囲の視線が一斉に集まった。

だが当のこのメス豚(牧野大尉)は、私を見つめ、痛みに顔を歪めながらも――どこか幸せそうな笑顔だった。


完全に心ここにあらず。そんな彼女を見て、私はさらに苛立つ。


(……本当に分かりやすい女)


 けれど同時に、ほんの少しだけ安心している自分もいた。


 あの牧野椿姫が、ようやく人間らしい顔を見せたのだから。


 私と牧野大尉は、今回の件から身を引くことになった。もとより私の本分は天馬さんの生活を支えることであり、彼により良い暮らしを送っていただくことが何よりの優先事項だ。

したがって、この案件は他の方々に委ね、私は自身の務めに専念することにしよう。


 ――だが、この「メス豚」こと牧野大尉を、邪魔だと思いながらも、なぜか嫌悪感は抱けずにいた。むしろ、どこか微笑ましく感じている自分がいるのも、また確かなことだった。


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