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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第7章 実績 編

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第52話 次の目標へ向けて

5月28日㈪ 

 千代乃と護衛たちとともに、早朝5時ごろホテルをチェックアウトし、自宅へ戻った。

玄関を開けると、愛理が満面の笑顔で迎えてくれる。


「お帰りなさい」


 その笑顔に思わず苦笑する。この世界では当たり前のことなのだろうが、僕としてはまだ少しだけ戸惑いがある。


 朝食を取りながらニュースを見ると、『新座駐屯地』で行われた記録会の様子が、各局の朝番組で取り上げられていた。

放送時間自体は短いが、結果はしっかりと紹介されている。


 一方、陸軍の公式動画配信サイトでは、5日間にわたって行われた記録会の映像が本日から公開されていた。


 今回の記録会には、40校・1200名の選手が参加していた。

しかし「日本インカレ」の参加標準記録を突破したのは、わずか三名のみで、そのうち二人は4年生だった。


 一年生である三上が標準記録を突破したこと、しかも最上位タイムだったこと、その影響で、東相大学の映像はかなり長く取り上げられていた。


 そして——牧野少尉による僕のインタビュー映像も流れていた。


 気づけば再生回数はすでに100万を突破しており、陸軍の動画としては記録的な数字になっているらしい。


……問題は、その内容だった。動画を見る限り、どう見ても僕が牧野少尉に好意を持っているのが丸分かりだった。


 スリット入りのミニスカートで距離を詰めてくる牧野少尉、それに対して明らかに動揺している僕。


 視聴者からは―——。


「天馬コーチ分かりやすい」

「スリット入りミニスカが好み?」

「もしかして、巨乳好き?」

「牧野少尉が好み?」

「牧野少尉エモい!」

「牧野少尉、神!」


など、かなり盛り上がっているらしい。


今回のインタビューで、牧野少尉は視聴者から高い評価を得ていた。


 ちなみに——鳴野が割って入った場面は、見事にカットされていた。意図的かどうかは分からない。


 自宅リビングのソファーで動画を視聴する僕の両隣には、愛理と千代乃が座っている。


愛理が眉をひそめた。


「天馬さん、これはバレバレですね、相手の思うつぼですよ!」


千代乃も同じように言う。


「愛理の言う通り!もっと警戒しなさい!」


 二人に注意されるも、眉をひそめ困った表情が妙に可愛かったので、思わず二人を抱き寄せる。


「も~う……そういうのがいけないんです!」


愛理は赤くなりながらも、僕に身を預ける。千代乃は何も言わず、静かに身体を寄せてきた。


穏やかな朝の時間が流れていく。


 やがて出勤の時間になり、僕は妻たちと里美さん、北川さん、真由美さん、松田さんと護衛たちに弁当を手渡し、マンションのエントランスで皆を見送った。


~~~~~~~


 9時過ぎに家事を終えてから護衛を伴い、河川敷コースへと移動し、来月の「立川ハーフマラソン」へ向けてのトレーニングを行った。


 今日のメニューは——キロ3分設定のペース走(ハーフ距離)を実施した。

一定のリズムを刻みながら走り、呼吸、接地、腕振りの確認をしながら、すべてを整えていく。


 20km付近でも、このペースなら十分に余力は残っているので、調整としては順調だ。


 昼前にはトレーニングを終えて、一度帰宅し、昨日、妻たちの協力でクリスがまとめてくれた部員全員の分析結果の最終確認をした。


 16時過ぎに大学へと赴き、部員全員をミーティングルームに集めた。記録会での余韻はあるものの、空気は引き締まっている。


 僕はクリスと男子マネージャーとともに、記録会の分析結果のファイルを配る。


「先日の記録会の分析結果だ。全員分、個別にまとめてある」


 僕が全員にそう言うと、ざわり、と小さなどよめきが起きる。

クリスは隣りでその様子を見守る。ファイルが全員に配布されたのを確認してから、僕は続ける。


「ラップ推移、心拍、フォーム評価、そして“次の課題”、良かった点も悪かった点も全部書いてある」


 一人ひとりファイルに目を通していく。

三上は無言で目を通し、鳴野は少し緊張した表情でファイルを開く。


 僕は一人ひとり声を掛け指摘していく。


◆三上へのフィードバック


「三上」


ファイルに目を通していた三上は顔を上げる。


「はい」


「前半の安定感は群を抜いてる。ただし――8000以降、余裕を残しすぎてる。参加標準突破は見事だが、次回はペースをキロ2秒ほど上げてみよう」


 三上は静かに頷いた。


「……ハイ」


◆鳴野へのフィードバック


「鳴野」


「はい!」


「中盤で抜かれても動揺しなかった。あれは良かった」


鳴野の目が少し強くなる。


「ただし乳酸耐性はまだ弱い。ラスト2000で上げる余力を作れるようにする。そのための練習を入れる」


鳴野は拳を握った。


「……標準、必ず獲ります」


 目が強く、明らかに違う。


◆その他の部員


 他の部員には、主に三点を明確に示した。


・スタート後の位置取りの改善

・ラスト1000のフォーム維持

・ペース変動幅の抑制


「全体として底上げは進んでる。ただし、ここからは“戦うチーム”になる」


 全員が真っ直ぐ前を向いた。


~~~~~~


 僕はホワイトボードに「PHASE 2」と書いた。


「6月から第二フェーズに入る」


 僕がそう説明すると空気が変わる。


「持久力の土台は出来た。ここからは“強度”を上げる」


 簡単に説明する。


・週2回のヒルトレーニング。

・起伏走での心肺刺激。

・坂を使った脚筋力強化。


「坂は裏切らない。脚筋力と心肺を同時に鍛える」


クリスが補足する。


「フォームを崩したら意味がありません。体幹トレーニングも続けます」


全員が頷く。

僕は全員見渡してから言う。


「これから本格的にキツくなるが、強いチームになるためだ!頑張っていこう!」


『はい!!』


全員声が揃った。


 6月は勝負の月だ、部員たちは第二フェーズへ、僕はフルマラソンへ向けて本格的に始動していく。


 それぞれの戦いが、静かに始まろうとしていた。


—— 練習後 ——


 部員たちはグラウンドで軽い補強トレーニングを行い、その後解散した。

ナイター照明の点いたトラックで片付けをしていると、鳴野が近づいてきた。


「天馬コーチ」


「どうした?」


鳴野は少し言いにくそうな顔をしている。


「……あの」


「うん?」


彼女はスマホを取り出した。そこに映っているのは……あの牧野少尉からのインタビュー動画だった。


「これです!」


僕は思わず苦笑する。


「見たのか?」


「部員、全員見てます」


「……そうだろうな」


鳴野は少し身を乗り出す。


「コーチ!」


「なんだ?」


「牧野少尉、好みなんですか?」


直球だった。僕は一瞬だけ空を見上げた。


「さあな?」


「いや絶対好きですよね?」


「決めつけるな」


鳴野は食い下がる。


「だって目が完全に……」


「鳴野」


僕は鳴野の話しを被せる。


「はい」


僕は軽く肩を叩いた。


「そういう観察力はレースで使え」


鳴野は一瞬ぽかんとした表情をするが、直ぐに笑った。


「……逃げましたね」


「コーチの特権だ」


夜のグラウンドに、軽い笑い声が響いた。


だが——遠くで、クリスが腕を組んでこちらを見ている。

その視線は、どこか意味深だった。


 鳴野が去ったあとも、トラックにはまだ柔らかな空気が残っていた。

ナイター照明が煌々と灯っている。


 クリスが僕に近づいてきた。


「……人気者ね、天馬」


 その表情は、いつものクールな監督の顔だが——どこか楽しんでいるようにも見える。


「聞いてたのか?」


「全部じゃないわ。でも大体想像はつく」


クリスは肩をすくめる。


「牧野少尉の話でしょう?」


やはりそこに来るか。


「……鳴野のやつ、完全にからかってただけだ」


「そうかしら?」


クリスは少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。


「動画、私も見たわよ」


嫌な予感がする。


「天馬」


「なんだ?」


「あなた、あれは完全に“男の顔”だったわ」


「……」


言葉が詰まる。するとクリスはくすっと笑った。


「安心して。別に責めてるわけじゃないわ」


「ならいいけど」


「むしろ、あなた的には普通よ」


そう言って、トラックの方へ視線を向けた。


「この世界で、あれだけ堂々と女性に興味を示す男性って珍しいのよ」


「そんなものか?」


「ええ」


クリスは軽く頷く。


「多くの男性は萎縮してる。女性の方が圧倒的に多い社会だから」


 確かにそれは感じている。

男性が常に守られ、そして監視されているような社会。


「でもあなたは違う」


クリスは少しだけ笑った。


「だから皆、興味を持つの」


「それは困る」


「そう?」


彼女は僕の目を見た。


「牧野少尉、確かに魅力的だったわね」


「……」


「顔もいいし、スタイルもいい」


わざとらしく言う。


「しかも距離の詰め方が上手い」


「クリスまで言うのか」


「客観的分析よ」


クリスはさらりと答えた。


「ただ——」


彼女の声が少しだけ落ち着く。


「軍の広報があなたに接近してきた意味は、ちゃんと考えておいた方がいいわ」


空気が少しだけ引き締まった。


「宣伝目的か?」


「それもあるでしょうね」


クリスは静かに続ける。


「でも、それだけとは限らない」


沈黙が落ちる。


 遠くでサッカーボールを蹴る音がした。別の部活がまだ練習しているらしい。

クリスは空気を切り替えるように笑った。


「少なくとも、部員たちは、あなたに興味を持ってるわ」


「そうかな」


「三上なんて、さっき」


クリスは僕を見る。


「“コーチ、完全に落ちてましたね”って言ってたわ」


「……あいつまで」


思わずため息が出た。


「チームの結束には役立ってるみたいだけど」


「そんな形で結束されても困る」


僕が言うと、クリスは笑った。そして少し真面目な顔になる。


「でもね、天馬」


「ん?」


「あなたが人間らしく見えるのは、悪くないことよ」


「どういうこと?」


「世界記録保持者、天才ランナー、理論派コーチ」


クリスは指を折る。


「そんな肩書きばかり増えると、人は距離を感じるもの」


彼女は少しだけ柔らかい表情になった。


「でも動画のあなたは違った」


「……」


「ただの男だった」


「⋯⋯」


僕は黙って話しを聞く。


「だから多分」


クリスは軽く肩を叩いた。


「ファンが増えるわよ」


「それは勘弁してほしい」


「もう遅いわ」


そう言って笑う。


グラウンドの照明が眩しいくらいに明るい。


「さて」


クリスが言う。


「帰りましょうか、コーチ」


「そうだな」


二人でトラックをあとにする。


——その頃、大学の女子寮……鳴野の部屋では。


「ちょっとこれ見て!」


「やっぱりコーチ、牧野少尉好きじゃん!」


「この目!!ありえない!」


部員たちがスマホを囲みながら盛り上がっていた。

そして、鳴野が静かに一言つぶやく。


「……もしかして」


皆が振り向く。


「コーチ……女⋯⋯かなり好きかも? わたしのお尻、よくチラ見してるし⋯⋯“アレ”もデカそうだし、“あっちの方”強そう、……伝説の“エロ男子?”」


 部員らは驚喜の声を上げ、誰も否定できなかった。

鳴野を中心に、夜遅くまで部員らの女子会という名の“猥談わいだん”は続くのであった。


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