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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第7章 実績 編

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第50話 記録会を終えて

 そんなやり取りの後、僕らは電車で帰路に就いた。千代乃と里美さんは護衛を伴い車で帰宅する。僕は北川さんとともに、部員たちと一緒に電車に乗ることにした。


 夕暮れのホームは、記録会帰りの女性選手たちで混み合っている。

東相大のジャージ姿の一団は自然と目立ち、その中心には男子マネージャー二人と僕がいる。

周囲の女性たちが視線をこちらに向けてくるが、部員たちは周囲の視線など意に介さない。


 男子マネージャーは男性専用車両へ、僕は専用車両は落ちつかないので、護衛を伴い、部員たちとともに一般車両へ乗り込んだ。

もちろん北川さんと、護衛リーダーの松田さんの了承を得たうえでの判断だ。


 男性の乗車が珍しいのか、車内の女性たちは、僕を見るなり一瞬驚いた表情を浮かべる。だが僕は気にせず、部員たちの輪に加わった。


「鳴野さん、ラスト粘りすごかったです」


「三上さんの8000からの上げ方、あれ反則ですよ! 凄いの一言です」


一年生たちの軽口が飛ぶ。

三上は吊革につかまり、無表情で言う。


「まだ上げられましたよ」


「はいはい、調子に乗らない、“勝って兜の緒を締めよ”よ」


クリスが即座にたしなめる。

車内の空気は和やかだ。悔しさもある。だが、僕には確かな手応えもあった。


 鳴野は座席に腰を下ろし、静かに目を閉じている。涙はもうない。ただ、次を見据える表情だ。


僕はクリスに小声で言う。


「全体としては合格だな」


「ええ、特にペース感覚は、あなたの狙い通りよ」


僕は三上に目を向ける。


「三上は想定以上だった」


「ええ、本物ね」


クリスも静かに頷いた。


 やがて電車が大学最寄り駅に滑り込む。全員ここで下車だ。


「今日はここで解散する、帰ったらストレッチと夕食をしっかり摂ること、それと入浴後は早く寝るように」


『『はい!!』』


全員から力強い返事が響く。部員たちはそれぞれ帰路につくが、その足取りは軽かった。


 そんな部員たちを僕とクリスは、暖かい眼差しで見送った。


~~~~~


 クリスと北川さんとともに自宅の玄関を開けると、柔らかな灯りが迎えた。


「お帰りなさい」


奈月が微笑む。その後ろには美月、朱里、千代乃、里美さんの姿。


「ただいま」


朱里がバッグを受け取り、奈月がタオルを差し出して労ってくれる。


「今日は大成功だったね。速報、もう流れてるよ」


「早いな……」


リビングに入ると、既に食卓が整えられていた。高タンパク・低脂質、それでいて味も妥協しない愛理の手作りだ。

相変わらず、愛理は料理を作るのがとても上手い。


エプロン姿の愛理が、柔らかな笑みを浮かべ僕をねぎらう。


「お疲れ様でした。まずは座って。今日は天馬さんも消耗してるでしょ?」


相変わらず、そのエプロン姿での笑顔は破壊力抜群で、とても可愛い。


「夕食の支度ありがとう。でも今日は走ってないよ」


「精神的に走ってるの。だからちゃんと疲れを抜いてね♡」


即答だった。


(くっ……その笑顔は反則だ)


 僕は可愛さから、思わず愛理を抱きしめてしまう。そんな愛理は赤面しながらも、素直に身を預けた。


 それを見ていた奈月、美月、朱里、千代乃、クリス、里美さん、そして何故か?北川さんとも、それぞれ軽くハグを交わす。

北川さんはいつも通り、ハグされたのちに「ごちそうさまです」と、僕にお礼をする。


 食卓を囲み、クリスとともに今日の結果を報告する。


 三上の「日本インカレ」への参加標準記録の突破、鳴野の自己ベスト更新と、全国レベルにはまだまだではあるが、部員全員の成長など。


 妻たちは誇らしげに耳を傾けてくれた。


 やがて話題は、自然と今日の取材へと移った。


「……それで? インタビューしてきた女性はどうだったのかな」


美月が低い声音で、静かに問いかける。


「陸軍広報部の牧野少尉、だったわね」


奈月は柔らかな口調とは裏腹に、鋭い視線をこちらへ向けた。


「どんな人だったの?」


朱里はにこにこと愛想よく笑っているが、その瞳の奥は一切笑っていなかった。


僕は箸を止める。


「……広報として優秀そうだった。質問も的確だったし」


千代乃がニヤけた表情で問いかける。


「それだけ?随分胸元を見ていたような気がするけど?」


クリスがニヤリとする。


「制服似合ってたのかしら?スリットも際どかったし」


「クリス……」


僕は冷や汗を流す。


朱里がくすっと笑う。


「ダーリン、顔……赤いよ」


「気のせいだ」


僕が否定するも、収拾がつかなくなりつつある。


「鳴野さんが間に入ったんですよね?好みだったそうで……」


美月が冷静に言う、その目は笑っていない。


「うっ……」


既に妻たちには情報が共有されていることに動揺を隠せない。

全員の視線が集まる。そんな空気の中、千代乃が静かに微笑む。


「天馬さんは、無自覚に隙が多いのよ。もっと警戒心を持った方がいいわ」


クリスがまた親指を立てると、笑いが広がる。

だがその奥に、わずかな緊張もあった。


千代乃が静かに言う。


「陸軍が天馬さんに注目してるのは確かね」


食卓の空気が少し引き締まる。

千代乃は穏やかに話しを続ける。


「天馬さんは競技に集中して。外のことは、私たちが守るから」


朱里がそっと腕を絡めてくる。


「ダーリン、あとはチヨちゃんに任せて! 今日はゆっくり休もうよ、私がマッサージするから♡」


「あれ?今日の順番は千代乃さんじゃない?」


美月が苦笑する。


「てへっ!ばれたか!」


朱里がてへぺろをすると、笑いが広がる。

ソファに腰を下ろすと、奈月が隣に座り、静かに肩に頭を預けて僕に労いの言葉をかけてくれる。


「今日も、立派でした」


「選手たちがな」


「それを導いたのは誰?」


答えに詰まると、千代乃が横から抱きつく。


「天馬さんは、私たちの誇りよ」


 女性過多の世界、外では常に警戒と緊張がつきまとう。

だが、この家の中だけは違う。


 静かな夜、温かな食卓のはずなのに、見えない波が近づいている気がする。

牧野少尉の笑顔が、ふと脳裏をよぎる。とても可愛く魅力的な女性だった。


◆◆◆◆◆◆◆


 食事を終えてから、改めて今日の記録会を振り返ることになった。


 美月がタブレットを操作し、公開された動画と速報データを映し出す。千代乃は静かにメモを取り、クリスはラップ表を確認している。完全に作戦会議の様相だ。


「まず三上からいこう」


 僕が言うと、空気が自然と引き締まる。


◆三上ルイの分析


「前半5000mは設定どおりで誤差はほぼゼロ。ここまでは想定内だ」


僕が最初にそう言うとクリスが頷き応える。


「問題は8000以降ね、かなり余裕があったわ。もう少し序盤からペースを上げてもよかったかも?」


奈月が画面を指差す。


「ラスト2000で一段階上げて、最後の400でさらにスイッチ。まだ余力があるラップ推移だよ」


僕も頷く。


「無理をしないのに参加標準を突破した。しかも初の一万だ! これは才能と適応力の両方が揃ってる証拠だね」


朱里が画面を見ながら言う。


「フォームが最後まで崩れてない。接地時間も安定してるし、精神的なブレもないのかも?」


千代乃が静かに言う。


「本番に強いタイプだね」


クリスが驚きながらも千代乃に応える。


「ええ。本物です」


自然と、そう口にしていた。

三上の才能には脱帽するばかりである。


◆鳴野の分析


「次は鳴野だ」


僕はそう言ってから鳴野の組の動画とラップタイム表を表示させる。

僕が最初に口をひらく。


「中盤で一度抜かれてるが、惑わされずに最後まで設定ペースを守り、崩れてない」


クリスが言う。


「動揺せず、設定ペースを守ったのが大きいわ」


奈月が補足する。


「フォームの上下動も小さい。後半の失速幅が最小限ね」


僕は静かにまとめる。


「今日のPBは偶然じゃない。土台が固まった証拠だ!今後も伸びしろは十分に期待できる」


愛理が微笑む。


「精神的にも強くなりましたね」


僕は鳴野はもっと強くなると確信した。


◆その他の部員


 他の部員については、主に経験値の蓄積と課題の確認だ。


スタートしてからの位置取りの甘さ。

ラスト1000のフォーム維持など。


 改善点は多くあるが、周りのペースに惑わされず、みんなそれぞれの設定ペースを守って走り切れたのは、次に繋がることだろう。


「全体としては底上げが進んでいる」


僕が総括すると、妻たちは満足そうに頷いた。


 僕は今回の記録会で、確かな手応えを感じた。


~~~~~~~~~ 


 分析が終わると、空気がゆるやかに変わる。それぞれが入浴を済ませ、静かな時間が訪れた。


 今夜は、美月と千代乃と里美さん、北川さんは僕の自宅に宿泊していただくことにした。


 さて、今夜は千代乃の番だった。

婚姻してから千代乃としとねをともにするのは初めてである。


 千代乃はやおびくに――長い時を生きてきた女性だ。普段は朱里と同じく陽キャで積極的だが、その内側に秘める情欲は強そうだ。


 僕の寝室で向き合ったとき、その瞳はいつもの柔らかなものではなかった。


「天馬さん……今日は、本当に立派でした」


 静かな声だが、熱を帯びている。


 触れ合う距離が近づくにつれ、その情熱が伝わってくる。


 やおびくに特有の淫靡いんびなフェロモンにより、僕の鼓動は早くなり、陶酔状態へと導かれていく。


 千代乃は想像以上に積極的だった。包み込むようでいて強い。

長い時を生きてきた者の余裕と、抑え込んできた想いが一気に解き放たれる。


(……すごい!)


 正直、圧倒されそうになる。だが、ここで負けるわけにはいかない。


 僕も全力で応える。


 互いの呼吸が重なり、時間の感覚が曖昧になる。激しさの中にも、深い信頼と温もりがあった。


 やがて静寂が戻る。


 千代乃は満ち足りた表情で、僕の胸に頬を寄せる。


「……さすがね」


「千代乃こそ」


 正直……凄すぎてぎりぎりだった。


(愛理といい、千代乃といい……沼に嵌る状態だ)


 余りにも凄すぎて、おそらく、こちらの世界の男性では、()()()()だろう。

一瞬、妙な考えが頭をよぎる。


(もしかして、父以外の元夫が早逝したのは……いや、考えるのはやめよう)


 口に出せるはずもない。


 そんな僕の考えを見透かしたように千代乃はくすりと笑う。


「何か変なこと、考えてない?」


「⋯⋯考えてない」


「本当に?」


 鋭い!


「……全力だった、ということだ」


「ふふ⋯⋯それでいいの」


 彼女は満足そうに僕の体に密着し目を閉じる。

窓の外は静かな夜とともに、開いたカーテンからはキラキラ輝く星が見える。


 今日の記録会のこと、そして僕のインタビューをした牧野少尉のことを反芻はんすうした。


 僕には守るべきものがある。そして守ってくれる人がいる。その重みを胸に抱きながら、僕も静かに目を閉じた。


 いつも本作をお読みいただきありがとうございます。

 次回は月曜日に投稿いたします。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


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