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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第5章 新年度始動 編

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第40話 部のレースプランと入寮

4月27日㈮

 水曜日のラグビー部のトレーニング指導は、前回と同じ内容で実施した。

只、春季リーグの開幕と対抗戦が始まったこともあり、疲労を残さないよう、強度と量を慎重に調整しながらの実施となった。


 前回指導したトレーニングは、部員らにはかなり好評だったようである。

更に一ヶ月続けた体幹トレーニングの効果が若干ではあるが現れ始め、動きのキレと当たりの強さが変わってきていると、勝田コーチと三人の男子マネージャーが興奮気味にその効果を語っていた。


 特に春季リーグの試合では、リロードの速さと終盤のスタミナの強さに相手チームが驚愕し、視察していた日本代表監督も、とても驚いていたと優君より聞かされた。


 少しずつではあるが、僕の指導に確かな手応えを感じた。


 一方、「陸上長距離・駅伝部」は僕の指導のもと、前回と同じメニューを継続してこなしている。

 数日が経過し、イージーペースでの120分走にも部員たちは徐々に順応し始めていた。

 

 そこで僕とクリスは相談のうえ、今年度のレース計画の正式説明と、入寮手続きを進める段階に入ることを決めた。


 入寮に関しては、既に部員と保護者(母親)には説明済みで内見も済ませてある。


 練習前、部員たちはミーティングルームに集められる。僕は壁際の椅子に腰掛け、監督であるクリスの説明を静かに見守ることにした。


 前に立ったクリスは、一度部員全員を見渡し、ゆっくりと口を開く。


「みんな、イージーペースでのロング走にも慣れてきましたね。そこで今日は年内から来年にかけてのレースプランと、生活環境について説明します」


室内の空気が、すっと引き締まる。


「まずレースプランからです。5月、これは追加となるのですが、ここで記録会として全員10000m走に出場します。現時点での実力を把握し、夏以降の課題を明確にするのが目的です」


5月23㈬〜27日㈰の五日間にかけて、国防軍主催で「国防軍体育隊」の競技場にて開催される長距離記録会への出場である。

この記録会は、国防軍主催ということもあり、トラック競技に於て陸連公認の記録会となっている。

記録はそのまま公式記録として登録される。


 陸連競技委員会の役員とスタッフも審判員として来場するだけでなく、ドーピング検査員も派遣される予定であるとの事。


部員たちはメモを取りながら真剣な表情で頷く。


「6月に予定していた記録会は、7月の長距離競技会に変更します」


「関東州学連陸協」が主催するナイターでの長距離競技会で、全員10000mに参加する旨を説明した。時期的にはスピードトレーニングをしている時期であり、トレーニングの効果を確認するのが狙いである。

従って、ここではトレーニングの延長としての参加であることを部員に告げ、決して無理はしないように注意する。


「9月は、インカレの10000m走。ここが年内で最も重要なトラックレースになります」


その言葉に部屋の空気が一段と熱を帯びた。インカレに出場できるのは、参加標準記録をクリアした者しか参加できないので、5月の記録と夏場の調子を見て参加する部員を決定するとした。


「なお、インカレに出場しない部員については、同時期にハーフマラソンの大会へ出場を予定してます。距離耐性と実戦感覚を養うためです」


インカレに出場しない部員らは、9月の公認ハーフマラソンの大会へ出場する旨を説明した。こちらの方がキツいが、僕は敢えてスケジュールに入れた。


クリスは淡々と、しかし力強く続ける。


「10月は、箱根駅伝予選会。ここが最大の目標になります」


 ざわり、と小さなどよめきが起きる。


 先ずはここが目標となる。予選枠はこちらの世界では関東州で13校となっている。

全国の大学チームが出場可能であり、各州に割り振られた枠に従って予選会が行われ、そこを勝ち抜いたチームが本戦へと駒を進める。

シード権を持つ10チームを合わせれば、本戦に出場する総数は、何と!49チームにものぼる。


「11月には再びハーフマラソンの大会。12月は、奥多摩駅伝に出場します」


駅伝という言葉に何人かの表情が明るくなった。


 奥多摩駅伝。この世界では、箱根駅伝への切符を逃した大学や、全国大会に届かなかった実業団がしのぎを削る「ガチ」な大会だ。


 例年、箱根の本戦を控えた大学も数校参戦しており、中には箱根を走る予定の主力選手が調整のために出走することもあるという。


「そして――もし、10月の予選会を突破できたなら」


クリスは一拍置く。


「1月……箱根駅伝本戦に出場します」


一瞬の静寂……そして次の瞬間、部員たちの目が一斉に輝いた。


「2月は大学ハーフマラソン。3月には、全員フルマラソンに挑戦していただこうと考えてます」


 トラックからロード、駅伝、そしてフルマラソンまで。確実にステップを踏んだレースプランだった。

クリスは一度資料を閉じ次の話題に移る。


「次に、生活面についてです。三上を除く全部員の入寮は明日から可能です」


その瞬間、部員たちの間にどよめきが走る。


「三上は婚姻者という事情もありますので、今回は対象外です」


クリスは視線を落ち着かせたまま続けた。


「大学の寮となりますが、内見はすでに済ませておりますね。寮費に関しては、以前説明しましたが、部費で賄うので心配はいりません。設備、食事、トレーニング環境、いずれも問題ありません」


期待する感情が部員たちの顔を行き交う。


「入寮は生活リズムを整え、回復と練習の質を最大化にします。箱根を本気で狙うなら環境から変えていきましょう」


その言葉に部員たちは自然と背筋を伸ばした。

僕は椅子に座ったまま、その光景を静かに見つめる――ようやく、全員が同じスタートラインに立った。


ここから先は、誤魔化しも言い訳も通用しない。箱根駅伝という現実が、確かに目の前に現れ始めていた。


~~~~~


 こちらの世界でも4月末~5月始めまでのGWゴールデンウィークというものはあり、その期間の練習についてもクリスから説明する。

因みに、30日と1日と2日は平日であるが、大学の講義は休みとなっている。


「次にゴールデンウィーク中ですが、28日から6日まで合宿をします。いつもと変わらない内容ですが、朝練を実施します。早朝に15㎞から20㎞のジョグをします。その後は120分のイージーペース走から締めに体幹トレと補強筋トレを実施していくプランとなります――以上が、合宿の概要です」


三上は合宿中は寮に宿泊することになっている。これは本人には了承済みだ。

 

 クリスの説明が一段落すると、ミーティングルームには小さなどよめきが広がった。

9日間の合宿、そして負荷の高い基礎固め。それ自体への不安よりも、どこか高揚した空気の方が勝っている。


 だが、その空気が次の一言で微妙に揺れる。


「なお……天馬コーチは個人的な事情により、今回の合宿には参加できません」


一瞬、部屋が静まり返った。


「え……?」

「そんな……」

「マジですか……」

「コーチ、いないんですか……」


 抑えた声ではあったが、明らかに落胆の色が広がる。ここ最近、僕のメニューとこまやかな声掛けに慣れ始めていた分、その存在が当たり前になりつつあったのだろう。


「スケジュール管理とメニューは、すべて天馬コーチが事前に組んでくれてますし、合宿中も日々の連絡はするので、指導の質が落ちることはありません」


クリスがそう補足しても部員たちの表情は晴れない。


その中で――キャプテンの鳴野だけが腕を組み、じっと僕を見ていた。

そして、ふと何かに思い至ったように眉をわずかに動かす。


「……あれ? この時期で所用?」


鳴野の視線が僕の左手――指輪へと落ちる。


「……結婚休暇か?」


 彼女は小声でそう呟くと、ニヤリと口角を上げた。部員らがざわつく中で、僕だけはその呟きがはっきりと聞こえた。

鳴野はキャプテンとして踏み込まない距離感を選んだのだろう。


「……天馬コーチィ~~」


誰かが涙目の表情で僕に声をかけてくる。僕はその部員に向き声をかける。


「ちゃんと戻ってくるから、無理せずしっかりと練習してください」


そう言うと部員たちは苦笑混じりに頷いた。

それでも、どこか寂しそうな表情が並ぶのを、僕は壁際から静かに見つめていた。


 入寮も決まり、一つの目標に向かってこれからも部員らは精進をし続けることであろう。


◆◆◆◆


4月28日㈯~5月6日㈰まで

――そして結婚休暇の五日間……の予定であったのだが、4日間延長となってしまい9日間となった。

 その期間もしっかりとトレーニングする時間は取れたのだが⋯⋯。


 美月と過ごす時間は、僕が思っていたよりも――いや、正確には想像をはるかに超えていた。


「……ねぇ天馬」


静かな声で名前を呼ばれた、その瞬間がすべての始まりだった。


美月は相変わらず完璧な笑顔で、完璧な距離感で、完璧に僕を逃がさない。

その9日間、一緒に過ごす間、僕は時計を見る余裕すらほとんど与えられなかった。


朝は、なぜか「おはよう」の代わりに捕まえられ。

昼は、「少し休憩しよっか」と言われて捕まり。

夜は――考えるまでもない。


「結婚休暇なんだから、遠慮はいらないでしょ?」


その一言で、すべてが正当化される世界だった。


体力には自信がある。

走ることに関しては、誰にも負けないと思っている。


だが―—美月は凄まじいの一言であった。

それでも、僕は何とか美月を上回ることが出来たのは合格点であろう。


9日目の朝、ベッドの端に腰掛けながら、僕は深く息をついた。


(……合宿、行けなくて正解だったかもしれない)


美月は満足そうに微笑みながら、何事もなかったかのように言う。


「ふふっ、さいこう~~」


僕は曖昧に笑うしかなかった。


だが、不思議と後悔はなかった。

この時間もまた、確かに僕の“人生の一部”なのだと身体の奥で理解していたからだ。但し……愛理以上に美月は僕の身体中にマーキングしてしまい、これは数日は消えそうにないな。嬉しいやら恥ずかしいやら……気持ちは複雑である。


――休暇が終われば、また日常が戻ってくる。


箱根を目指す現実も、部員たちの覚悟も、何一つ変わらない。


そして―—僕の目指す“道”も!


この9日間でリフレッシュ出来たものを、僕は次の指導に還元しなければならない。


(……よし)


 静かに立ち上がり、窓の外を見る。

朝の太陽がとても黄色く眩しいが、そこには、これから走り続ける未来が、はっきりと見えていた。


…………ということにしておこう。美月は……ドSで終始僕は襲われていた。これはこれでとても良いものであった。


第5章 新年度始動 編 は、終了となります。


明日の投稿は、お休みさせてください。


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