第26話 マスコミの取材(後編)
― 午後|総合運動公園・撮影ブース —
「Jウィーク」の取材は午後13時から始まった。
簡易に設営された白布の背景、柔らかい光を拡散するLED照明、控えめなマイク。そのすべてが、余計な装飾を排した静謐な空間を作り出していた。
広報部のスタッフに混じって、奈月・朱里・クリス・美月・愛理の五人が、控室の椅子に姿勢正しく腰かけている。彼女たちは皆、緊張と誇らしさの入り混じった表情で取材の様子を見守っていた。
今回の取材に訪れたのは、記者の吉永里枝、カメラウーマンの南野文子、アシスタント1名、スタイリスト、メイク担当の合計5名。全員が女性であり午前中の取材班と同様の編成だった。おそらく北川さんが僕への関与を最小限に抑えるよう、人数と構成を細かく調整したのだろう。
インタビューは会議室に設けられた特設スペースで行われた。
僕と記者の吉永さんが対面で座り、すでにセッティングは完了している。
僕の服装は、午前中と同じく『ミナーヴァ』社より提供されたジャージだ。
上は深紅、下は黒を基調としたスタイリッシュなデザインで、胸元にはミナーヴァと沖ホールディングスのロゴが並ぶ。足元には試作モデルの『エアロスパークα』、僕自身も開発に携わった思い入れのあるシューズだ。髪はメイクスタッフがしっかり整えてくれ、撮影用のライティングにも映える状態に仕上げてある。
吉永さんは、どこか育ちの良さを感じさせる柔らかな口調の女性だった。
30代前半に見えるが、この世界の女性は実年齢より若く見える傾向があるため、実際はもう少し上かもしれない。指輪をしていたので、既婚者であることは確かだ。
そして彼女は、かつて日本代表選手として名を馳せた元マラソンランナーでもあり、ミナーヴァのカーボンシューズの初期テスターの一人だったという。
丁寧な挨拶を済ませると、彼女はすぐに問いかけてきた。
「甲斐田選手、まずは先週の優勝、そして世界新記録の更新、おめでとうございます。今の心境はいかがですか?」
午前中と同じ質問だった。僕は北川さんとの打ち合わせ通り、喜びを前面に出して応えた。
「ありがとうございます。多くの方に支えていただいた結果です。まだ実感は湧きませんが、記録以上に“自分の走り”を貫けたことが一番嬉しいです」
吉永さんは驚いたように目を見開いた。
「“自分の走り”……素敵な表現ですね。その走りを支えたシューズ、『エアロスパークα』についても少し伺いたいのですが、ご自身が開発に関わられたと聞いています」
「はい。特にフィット感と接地の安定性、それにカーボンプレートの反発性については、何度もテストとフィードバックを重ねました。マラソンは一歩一歩の積み重ねが命ですから、“足と地面の対話”がぶれないよう徹底的に追求しました」
「“足と地面の対話”、詩的な表現ですね」
吉永さんは頷きながら、笑みを浮かべてメモを取る。
「開発の中で苦労した点や、逆に面白かったことはありましたか?」
その質問に、僕はつい熱が入り、開発過程について語ってしまう。
「そうですね……。シューズって、履く人の足型や筋力、走り方で“最適”が違うんです。だからこそ、万人向けじゃなく“自分の走りに特化した一足”を目指しました。面白かったのは、素材の違いによるフィードバックの変化ですね。ほんの1ミリの厚みや硬さが、走りの感覚をガラッと変えるんです。研究スタッフと幾度となく議論したのは、今ではいい思い出です」
吉永さんは笑顔を交えながらメモを取る。
「本当に情熱を注がれたんですね。今回の快走には、ご家族の支えも大きかったのでは?」
その問いに、僕はふと控室の方へ視線を向ける。直接は見えないが、5人の妻たちがモニター越しに見守ってくれているだろう。
「……はい。一人では、ここまで来られませんでした。日々の生活を支えてくれる妻たち、サポートしてくれる方々、護衛の皆さんがいたから、安心して競技に集中できました。そして、僕が“走る意味”を見失わずにいられたのは、彼女たちが常に心に寄り添ってくれたからです」
言葉にすると少し気恥ずかしさがあるが、偽らざる本音だった。
吉永さんは一瞬言葉を止め、深く頷く。
「……素晴らしいお話ですね。どんなアスリートインタビューよりも、心に響きました」
南野さんがその瞬間を逃さず、静かにシャッターを切った。記録よりも記憶に残る一瞬が、そこに刻まれた。
吉永さんは間を置いて、また静かに視線を戻した。
「この国では、男性アスリート自体が珍しい存在ですよね。甲斐田選手は、そうした中で“夫”という役割をどう捉えていますか?」
性差そのものではなく、家庭における“夫”という立場の問い。北川さんとの打ち合わせにはなかった。
どう答えるか思案しつつ、僕は一度、胸に息を溜めてから言葉を選ぶ。
「正直、最初は戸惑いの連続でした。でも、妻たちは僕を“守るべき存在”ではなく、“共に生きるパートナー”として迎えてくれました。だから僕も、ただ守られるだけでなく、彼女たちの人生に力を返したい。家族としても、アスリートとしても」
吉永さんは目を細め、驚きの表情を見せた。
「それは……この社会にとって、とても新しい価値観ですね」
その言葉に、僕は静かに頷いた。
まさに、それこそが――僕がこの世界で見つけた“走る理由”の一つなのだから。
吉永さんは手元のノートに一度目を落とし、それからゆっくりと顔を上げた。
「……少し踏み込んだ質問になりますが、男性アスリートという立場で、不便さや偏見を感じたことはありますか?」
僕は思わず少しだけ口元を引き結び、それから静かに言葉を探した。
「ええ、もちろんあります。たとえば、トレーニング中に多くの女性の視線に晒されること、これは……男性選手が皆無であるので、致し方ないことと受け止めておりますし、慣れていかなければならないものと思っております。それと……男性の社会進出は大分されてはいるものの、男性は家庭に入るべき、と……思っている女性も少なからず居るのは感じております。男性は働かなくとも補助金が出ますし、周りの女性達が生活の保障をしてくれます。それは分かってます! 僕が大会に出場することで、主催者側に多大な負担を強いてしまっていることも分かってます! それでも……僕は……これまで努力を重ねて来ました! 性差に関係なく努力すれば報われる社会にしたいと考えております。ただ……社会のバランスが、まだ整っていないというか、基準が不安定に感じることがありますね」
吉永さんは大きく頷いた。記者として、そしてかつて競技の現場にいた者として、その言葉の重さを感じ取っているようだった。
吉永さんは、神妙な面持ちで僕に投げかける。
「自分の意志だけでは、どうにもならない環境の揺らぎというか……」
僕は頷き話しを続けた。
「そうですね。でも、それも含めて僕の立場ですし、それを理由に後ろに下がるつもりはありません。寧ろ、だからこそ前を走る意味がある! 僕が結果を出し続けることで、後に続く誰かの環境が少しでも良くなれば――そう思って、走ってます! そして……これからも走り続けます!」
その言葉に、吉永さんはしばらく言葉を挟まず、しっかりと僕を見つめた。
まるで、言葉ではなく僕の“決意”そのものを見ているような目だった。
普段のトレーニングについては、殆ど聞かれることはなく、僕のインタビューは終了した。
「とても良いインタビューでした! 本日はありがとうございました。とても貴重なことを聞けて、私自身とても勉強になりました!」
最後に吉永さんと僕は満面の笑顔でガッチリ握手を交わした。僕の素の姿をカメラウーマンはしっかりと撮る。
とてもいい絵が撮れたのか、とても満足した表情をしていた。
―――—
30分程の休憩を挟んでから、妻達それぞれのインタビューへと進む。
◆奈月のインタビュー◆
奈月の服装は白地に花柄模様の可愛らしいマタニティーワンピース姿だ。
「第一夫人の奈月さんですね。沖グループの次女であるにも関わらず、跡を継がずに医師になられました。何故?医師になられたのですか? すみません、これは……読者が疑問に思っていることですので……」
吉永さんは何か申し訳なさそうに投げかけた。奈月は思考を巡らせた後にその質問に応える。
「私は……沖グループには全く興味がありません。医師になった理由は……その~大変言いにくいのですが、男性の婚姻相手に人気の職業でしたので……これで勘弁して下さい」
吉永さんは奈月の意図を理解し、苦笑いを浮かべながらメモを取り、次の質問を投げかける。
「甲斐田選手との出会いから現在まで、どう感じてらっしゃますか?」
奈月は頬を紅く染めながら一瞬だけ息を整え、まっすぐ記者たちを見返す。言葉にすることを、決して急がない誠実な眼差しだった。
「そうですね……最初は、ほんとうにビックリでした! キツい眼つきの私に嫌悪感を示さないどころか、逆に好意を寄せてくれたのですから。それに……とても“素敵な人”でしたし」
吉永さんは驚いた表情をし、更に質問を投げかける。
「素敵な人……と仰いましたが、それは具体的にはどんな所なのでしょうか?」
「うーん……まっすぐで真面目で、嘘をつかないし、私に対し真摯に向き合ってくれるところです。後……努力の人って言えばいいのかな?彼のそばにいられることが誇りです! それに……私を……とても愛してくれますし……こうして……授かることもできましたし……」
奈月は自身のお腹を摩り、とても幸せそうな笑顔を見せる。その姿を見逃さず、南野さんはカメラのシャッターを切った。
奈月のその淡々とした語りの奥には、育まれた信頼と愛情がにじみ出ていた。
◆朱里へのインタビュー◆
朱里の服装は午前中と同じく、僕と同じジャージ姿だ。
「お久しぶりです、朱里さん。ありきたりな質問で申し訳ありませんが、奥様に惹かれたきっかけを教えていただけますか?」
朱里は笑顔を交えて抑揚に応える。
「ダーリンに一目ぼれです! 初めて会った時は、子宮がキュンキュンしましたし、女なら分るでしょう?!」
朱里の言葉は率直だった。周囲にどう見られるかよりも、自分の感情をまっすぐに言葉にしようとする姿勢が、彼女らしさをよく表していた。
「あはは……確かに素敵な奥様ですものね」
吉永さんは、頬を紅く染めながらもメモを取る。
「午前中もおそらく同じ質問を聞かれたと思うのですが、こうして素晴らしい伴侶を見つけられたので、現役復帰の予定とかは、あるのでしょうか?」
朱里は口をへの字に曲げながら応える。
「まっっったくありません! 私はダーリンのサポートに全力です! 看護師として
遣り甲斐も感じてますし」
午前中と同じく、朱里はレスリングでの金メダル、プロ格闘技での無敗記録という実績に満足しており、看護師としての職業に遣り甲斐も感じているので、現役復帰の意思はないときっぱり答えた。
記者はウンウンと頷きながらメモを走らせる。
「甲斐田選手と近くにいることで、何か印象が変わった部分はありましたか?」
「いえ……逆に、好きが深まったというか。彼がわたしに気を遣ってくれる瞬間とか、ちゃんと目を見て話してくれるところ。それに……私の……夜の暴走も……しっかりと受け入れてくれますし……」
その発言に、吉永さん含め、取材スタッフ全員が蕩けた表情となり、数秒程フリーズした。
控室でその様子を見ている奈月と美月はおでこに手を当て「あの馬鹿っ!」と、呆れた表情をする。
その後の朱里のインタビューは順調に進み、現在は看護師として勤める傍ら、僕のサポートにも遣り甲斐を感じ、護衛術の習得にも意欲を見せていると記者に答える。
紅潮した表情をした吉永さんの表情から、朱里のインタビューは上々であったようだ。
◆クリスへのインタビュー◆
クリスの服装は、上が水色で下が紺色のジャージ姿だ。胸元には『東相大学』の校章がプリントされている。
ジャージ姿ではあるが、モデルのような立ち姿と、彫刻のような整った顔立ちに、現場の照明さえも彼女の存在を際立たせていた。
「お待たせしました、クリスさん。ご登場、ありがとうございます。そしてお久しぶりです」
「吉永さん、お久しぶりです。このような場をいただけて、光栄です」
クリスの声は落ち着いていて、どこか舞台女優のような響きを持っていた。吉永記者とは、同じ競技を通じて長い付き合いがある様である。
クリスのことを良く知る人物の一人ではあるが、資料に目を通してから記者としての質問を投げかける。
「マラソン選手としてご活躍されてましたが、現在は東相大学陸上部の監督として、奥様と二人三脚で学生らを指導しております。監督業はいかがですか?」
「指導するのは、思っていた以上にとても大変でして、コーチである夫に助けられてばかりです。夫のトレーニング理論は、革新的ですし、とても勉強になります」
驚いた表情をした記者が頷き、メモを走らせる。続いて記者は質問を重ねる。
「奥様との馴れ初めについてお伺い出来ないでしょうか?」
クリスは紅潮した表情で、その質問に答える。
「選手の練習時に、夫が奈月さんと朱里さんを伴って走りに来たんです。とても素晴らしい体とフォームに見とれてしまったのがきっかけです。それで一緒に練習したり食事をしたりしまして、そのことを父に話しましたら、“連れてこい!”と言われまして……それで……父が夫をとても気に入りまして……トントン拍子で婚姻まで至りました」
クリスは、僕との婚姻のキッカケについては、正直に話すことが出来ないため、北川さんと打ち合わせた通りの受け答えをした。
記者はとても驚いた表情をして、ポツリと本音が漏れる。
「そっ!それは!羨ましい!」
記者は話題を変える。
「クリスさんは“至高俳優”と称される『高木良明』さんと“世界を魅了した女性”『ミア』さんの間に生まれた……やはりその影響は大きかったのでは?」
クリスは、ほんの少し目を伏せてから微笑んだ。
「……ええ、影響はありました。父は“日本の至宝”とも呼ばれましたし、母はモデルとして長く活躍してきた人。でも、その“光”の大きさに、自分が照らされるより“影”に沈んでしまったことも、正直ありました。特に中学の頃は……“両親の子”と言われるのが嫌で、そんな両親も嫌になり、目すら合わせない時期もありましたね。でも……そんな私を父は、いつも私に美味しいご飯に手紙を添えて……優しく見守ってくれました。今ではとてもいい思い出です」
クリスが涙ぐむ。
「とても素晴らしいお父さんですね……ご自身で“表現の道”を選ばなかった理由も、そこに?」
「たぶん、無意識に“違う道”を選びたかったんだと思います。それが偶々走ることであって、マラソンという競技に出会ったきっかにもなりました。私にとって、マラソンは、私の生きる道を導いてくれました! 今は、夫と共に選手を育てることにとても遣り甲斐を感じてます」
記者は神妙な面持ちで、ゆっくりと頷きメモを走らせる。
「甲斐田選手と過ごす中で、何か変わったことは?」
「うーん……自分が、誰かの“娘”とか“家系”とかじゃなく、“一人の女性”として見られてるって初めて感じた気がします。天馬は、私の過去じゃなく、“今”を見てくれる人だから」
「なるほど。では、天馬さんを“夫”としてどう感じていらっしゃいますか?」
「……真っ直ぐすぎて、心配になります。でも、その真っ直ぐさに、人が集まる理由も分かるんです。彼が笑えば、皆が安心する。だから私は、そんな彼を支えられる強さを持ちたいって思ってます」
淡々とした語り口の中に、揺るぎない意志が滲んでいた。吉永記者は何度かメモを取りながら、深く頷いた。
「ありがとうございます。最後に一つだけ……“高木良明の娘”という肩書きと、“甲斐田天馬の妻”という立場、その間で揺れることはありますか?」
クリスは、少し口元を引き締めてから答えた。
「どちらも“事実”だけれど、どちらも“私そのもの”じゃないと思ってます。私は私。父や母からもらった血を誇りに思い、天馬と築いていく未来にも誇りを持ちたい──それが、今の私の答えです」
南野カメラウーマンが、その答えの直後に静かにシャッターを切った。背景の白が、クリスの真っすぐな眼差しを引き立てるように輝いていた。
◆美月へのインタビュー◆
美月の服装は、黒色のスカートスーツ姿に、同色のハイヒールだ。ピッチリとしたタイトスカートがとてもセクシーであり、いかにも“キャリアウーマン”と言った印象である。
美月はゆっくりと歩み、そのまま椅子に腰かけ脚を組む。余りにもその仕草が堂々としており、おっとりとした顔に似合わず貫禄がある。皆一様に美月から発する圧力に飲まれる。
一呼吸置いてから吉永さんが切り出す。
「はっ……初めまして。美月さんは、沖グループの跡継ぎとして、とても忙しいお立場の中で、ご結婚されたと伺ってます。甲斐田選手と生活するうえで、意識していることは?」
美月は何か冷たい眼差しを記者に向け快活に答える。
どうやら美月は、ドSモードに入った様だ。
「そうね……特に意識してることはないですね。天馬の前では、素の自分を曝け出すことが出来るし、私の全てを受け入れてくれますしね。最高の男よ!」
記者は絶句し数秒程フリーズする。再起動した記者はベタな質問をする。
「なるほど、とても興味深いですね。甲斐田選手との出会いから現在まで、どう感じてらっしゃますか?」
美月は腕を組み、冷ややかな眼差しを記者に向けて答える。
「出会いは、妹が天馬を両親に紹介したときかしら? 私も同席したのですが、不覚にも一目ぼれしてしまいましてね……只それだけです。色々話してみたら、私とフィーリングがとても合いまして、この人と婚姻したいと思ったのがきっかけかしら。妹の“オマケ”(連れ婚)ですが、そんな私でも天馬はとても愛してくれますし、私の全てを受け入れてくれます。サイコーの夫です」
美月は気丈に振る舞ってはいるが、その表情は紅潮している。
記者は更に質問を重ねる。
「甲斐田さんについては、どんな印象を?」
「真面目すぎてちょっと損してるかも(笑)。でもね、うちの家族はみんな彼のこと大好きですよ。私も含めてね」
「そ…そうですか……。とても素敵な奥様に出会えて良かったですね」
その後もインタビューは続き、美月は仕事はしっかりとしつつも、僕を影ながらサポートしていく旨を熱心に答え、インタビューを終えた。
◆ 愛理へのインタビュー◆
愛理の服装は、黒色のマタニティワンピース姿だ。年齢凍結な見た目年齢20歳と、奈月や美月よりも若く見え、とても40過ぎには見えない美貌と可愛らしさである。
インタビュースペースに入って来た愛理を見た取材班全員が、愛理の若々しさに皆一様に絶句した。
「えっ!……え~っと……朱里さんではないですよね?」
記者は驚きの表情を浮かべた。
「初めまして、甲斐田愛理です。どうぞよろしくお願い致します」
とても上品な所作で一礼したのちに、愛理は椅子に座る。取材班全員が愛理の若々しさに絶句し、驚愕の表情をして数十秒ほどフリーズした。
再起動した記者から、つい本音が漏れる。
「はっ!……初めまして! 愛理さんは……私と同じ年ですね? その……とても見えないし、とても若々しいです!」
愛理はニッコリとした笑顔で抑揚に答える。
「どうもありがとうございます」
そんなやり取りをした後に、愛理のインタビューが開始される。
「ベタな質問ですけれども、甲斐田天馬さんとのご縁については、どう感じていらっしゃいますか?」
「第一印象から、誠実な方だという印象は変わりませんでした。……彼が初めて我が家に挨拶に来た日、玄関先で深く頭を下げたまま、しばらく顔を上げなかったんです。言葉にしなくても伝わってくる真摯さがありました。正直、私は長く企業の世界にいますから、人を見る目には多少なりとも自信があります。彼は……そうですね、簡単に言えば“信じられる男性”です」
吉永記者は、驚きつつもメモを走らせ、更に質問を投げかける。
「天馬さんと結婚されたことで、家庭のあり方や価値観に変化はありましたか?」
愛理は一瞬目線を上に上げ、思考を巡らせた後にその質問に答えた。
「もちろんです。私はもともと、仕事と家庭の両立を意識して生きてきましたが──今では、天馬さんと築く新しい家庭が、私自身も学ばされることが多いです。何しろ……色々と私を気遣ってくれるばかりか、家事も積極的にしてくれますし。それに……娘と同じ人を愛することになりましたが、天馬さんは分け隔てなく私も愛してくれます。こうして……授かることもできましたし……」
とても幸せそうな笑顔でお腹を摩りながら愛理は答える。そんな姿を見逃すまいと、カメラウーマンのシャッター音が聞こえる。
記者は蕩けた表情で更に質問を重ねる。
「とても羨ましいですね。今はこうして第五夫人として並んでいらっしゃる。その若さの秘訣は?」
愛理は数秒ほど思考を巡らした後に答えた。
「天馬さんの姿勢ですね。彼は決して誰かを特別扱いしないし、誰のこともおざなりにしない。だからこそ、私たちも不思議な安心感の中で暮らしていけるんです。私は……天馬さんからの愛情を返していきたいですし、天馬さんを幸せにしたい!と思う気持ちが強いからでしょか」
その後も愛理のインタビューは続いた。記者はとても興味深い話しが聞けたことに満足した表情であった。
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妻たちのインタビューの合間、カメラウーマンの南野が何度もシャッターを切っていた。光の角度や背景の微調整を繰り返しながら、彼女たちの自然な笑顔と語る姿を丁寧に記録していく。
こうして妻たちのインタビューを終えた。妻たちの言葉が、誠実に、そして柔らかく伝わっていく。
吉永記者は、最後に深くお辞儀をして言った。
「今日の取材で、皆さんの魅力がとてもよく伝わりました。“家族”という言葉の定義を、改めて考えさせられました。本当に、ありがとうございました」
こうして取材は終わった。三誌とも共通して僕の生い立ちについて質問することはなかった。これは北川さんより、男性保護法に則り、質問の制限を掛けていたからだ。
果たして、この三誌の取材がどの様な影響となるのか、楽しみだ。




