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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第3章 レース編 1

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第19話 シューズのプロトタイプ完成とオメデタ

3月19日㈪

 8時頃に奈月と朱里にお弁当を持たせて見送った。朱里は病院へ出勤し、奈月は休みを取って自らの診察に向かった。奈月は医師ではあるものの、自分で産婦人科の診察を行うことはできないためだ。妊娠検査薬の精度は99%と高いので、奈月はおそらく妊娠しているだろう。


 二人を送り出した後、9時に愛理が自宅に迎えに来た。今日は愛理と一緒に「ミナーヴァ」を訪れる予定だ。


「おはよう、今日はよろしくね」


 愛理は柔らかな笑顔を浮かべながら挨拶をした。紺色のスカートスーツ姿の彼女は、全体的に少しゆったり目の服装だった。自慢の胸元が控えめなのは少し残念だが、43歳でありながら、年齢凍結とも思える見た目20歳くらいの美貌に似合い、むしろ可愛らしさを引き立てていた。


 只……その顔つきが普段とは少し違う気がする。どこか母性を感じさせるような表情だ。もしかすると……奈月と同じような状況なのかもしれない。

 

 愛理とともに役員車に乗り込むと、運転席には北川さんが乗車している。護衛車もすぐ後ろにつき従う。

運転するのは北川さんで、今日は同行することになった。北川さんがルームミラー越しに僕たちを見ては、時折意味ありげにニヤリと笑うのが少し気になる。


 ちなみに、愛理、北川さん、そして護衛の二人には、僕の手作り弁当を渡してある。彼女らが見せた幸せそうな笑顔は嬉しかったが、北川さんの視線には微妙にいやらしさが滲んでいる気がして、少々複雑だった。


 今回の訪問の目的は、試作シューズの最終調整が終了したため、そのフィードバックを求められたことだ。


 移動中の車内で愛理は終始居眠りをしていた。普段は移動中の車内で居眠りをすることはないので、妊娠初期の症状なのであろうか。


~~~~~~


 「㈱ミナーヴァ」に到着し、商品開発事業部の建物前に車を止めると、同社の役員らしきスカートスーツ姿の女性4名と作業服姿の木村(開発担当責任者)さんが出迎えてくれた。彼女たちの表情は皆、期待と自信が入り混じったものだった。


「お待ちしておりました。佐山……甲斐田常務!、それに甲斐田さん、お忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」


 役員らしき女性がそう言いながら、深々と頭を下げる。彼女の隣に立つ役員らと木村さんもそれに倣い深々と頭を下げた。


「いえ、こちらこそお世話になります。こちらの甲斐田のことは紛らわしいので、天馬と呼んでください。よろしくおねがいします」


 愛理はそう応じた後、僕とともに建物内へと案内された。通された会議室は広々としていて、最新の設備が整っている。そこに、今回の試作シューズと作業服姿の開発チームのメンバーが待機していた。


 テーブルの上にはプロトタイプの厚底シューズが丁寧に並べられていて、新作らしい蛍光グリーンの洗練されたデザインが目を引く。

早速、開発チームのリーダーである木村さんが説明を始めた。


「今回のプロトタイプは、甲斐田さん……天馬さんのアドバイスを元に、軽量性とリターン性に特化した設計を意識しました。ミッドソール(※1)を従来のEVA(エチレン酢酸ビニル共重合成樹脂)からPEBAポリエーテルブロックアミドを採用し、カーボンプレートとの相性を向上させております。これにより、反発性、軽量性、エネルギーリターン性が飛躍的に向上しました!」

(※1.靴底とインソールの間の部分)


 この世界では、アスリート向けのランニングシューズはソールが薄く、クッション性よりも軽快さとグリップ力が優先されていた。所謂「薄底シューズ」が主流であった。

しかし、僕の提案によって「反発力を利用した推進力への変換」といった、従来の常識を打ち破る新たな可能性が開かれたことを感じさせる説明だった。


僕は試作シューズを手に取り、細部を確認した。素材の質感、縫製の精度、そして靴底の形状――すべてにおいて非常に丁寧な作り込みが感じられる。


「これは! とても素晴らしい! 前回の試作品もとても素晴らしかったのですが、ミッドソールに硬さがあるのと、アッパーに少し重さを感じました。長距離ともなれば、その重量がボディーブローの様に足に負担が掛かります。しかし、今回のは更なる改良が加えられてますね。早速試し履きしてみたいです!」

 

 説明が終わると、試作シューズを実際に履いて試走する時間となった。


「それでは、甲斐田さん、このプロトタイプをお試しいただけますか? それと、未だ試作段階ですが……こちらのユニフォームもお試しいただけないでしょうか?」


木村さんが試作シューズとユニフォームを手渡してくれる。


「もちろんです。楽しみにしてました!」


「ミナーヴァ」の敷地内には競技場と同じ構造の400mトラックが設けられており、実走行の感覚を確認出来るようになっている。僕は渡されたユニフォームに着替え、試作シューズを履き、軽く準備運動をしてからスタートラインに立った。


 試作のユニフォームは、トップは胸元までの赤いランニングシャツで、背中側は肩甲骨が丸見え状態、下は黒いローライズなショートタイツの組み合わせである。今までより露出が多いものの、動きやすさを追求したデザインが気に入った。


 全員が僕の姿を見て硬直したのが少し気になったが、気にせず準備を進める。


「お願いします!」


 再起動したのを確認し、愛理や開発チームが見守る中、僕は声を上げスタートを切った。


 その瞬間、足元から伝わる感触が前回の試作シューズとはまったく違うことに気付いた。


「軽い! 地面からの反発も素晴らしい!」


 柔らかなクッション性と強い反発力が、まるで地面に弾かれるような強い推進力を生みだし、スピードがどんどん上がる。しっかりと体幹を保たなければ、前につんのめってしまうだろう。


 トラックを25周走り終え、試作シューズの完成度の高さに驚きながらも、僕は息を整えながら感想を述べた。


「素晴らしいです! ミッドソールの反発性とアッパーの軽さは想像以上でした。走ってみた感覚も非常に良かったです! これがあれば、世界記録も狙えると思います!」


その言葉を聞いた開発チームのメンバーたちは、一斉に喜びの笑顔を浮かべた。彼女らの血の滲む様な努力が報われた瞬間だろう。愛理も満足げに頷いている。


「ありがとうございます!改良の甲斐がありました。天馬さんのフィードバックが非常に役立ちました!」


涙を流しながら発した木村さんの言葉に、開発メンバー全員が涙を流し頷く。その光景に僕も少し誇らしい気持ちになった。


「これで、沖グループとして世界に誇れるシューズが完成しましたね」


 愛理の言葉に、僕は大きく頷いた。未来への可能性を感じさせる瞬間だった。


 その後は僕を中心に木村さん他、開発チームらと愛理と共に記念写真を撮り、一人ずつツーショットの写真も撮ったのである。

最後に愛理ともツーショットを撮ったのだが、僕は調子に乗って、愛理の腰に手を廻して抱き寄せた状態で撮ったのである。すると、木村さん含めた開発チーム全員とも同じ様に写真を撮る羽目となったのであった。

ユニフォーム姿での撮影は、ちょっと肌寒かったが、愛理含めて皆とても幸せそうな笑顔を見せてくれたので良しとしよう。


~~~~~~~


 会議室に戻ると、僕と愛理は「ミナーヴァ」の役員から今後の展開について説明を受けた。


「試作シューズは最終調整を経て、5月には量産体制に入る予定です。ただ、コストの関係で販売価格は従来の倍ほどになります。この価格設定では……実績が伴わなければ販売は厳しいです。そこで、まずは有力選手に提供し、テスト運用を兼ねたプロモーションを行おうと考えてます」


その説明が終わる頃、愛理が不敵な笑みを浮かべて言い放った。


「その必要はありません。25日の公認5000メートル走に天馬が出場します。先ほどの走りを見ればお分かりでしょう?  ユニフォームも含め、これ以上ない宣伝になります! ……まあ、念のための保険として、陸連の役員や元選手の解説者には配っておいてもいいかもしれませんね」


 木村さんをはじめとする役員たちは、驚きつつも満足げに頷いた。レース当日には、開発チームの面々も応援に駆けつけることが決まった。

 

 ランニングシューズの開発は、スポーツ用品に於てとても重要な製品となる。その開発から製造プロセスに至るまで複雑で、高度な技術と専門知識を必要とする。

特に、カーボンプレート入りという全く新しい発想のシューズは尚更だ。


 企画から始まり、素材の選定~デザインと設計~プロトタイプの作成~量産体制の準備~実際の試走テストと、企画から量産体制の確立まで長い期間を要するのである。


 そして最終の試走テストまで達し、僕と木村さんを含めた開発メンバーが、カーボンプレート入りの全く新しいシューズの開発という一つの目標に向かって一丸となり、試行錯誤を繰り返しながら、漸く完成までこぎつけたのである。


 ニューシューズを普及するためにも、今週末のレースでは、世界記録は必須の条件だな。現在の走力でもそれを達成するのは可能ではあるが、とにかく精いっぱい頑張るとしよう。


~~~~~


 お昼を挟んでから工場内も見学する事となった。開発事業部内には、僕が転移時に履いていたシューズが厳重に保管されていた。それを見て懐かしさが込み上げてくる。


「このシューズは来月、政府に返却される予定です。」


北川さんが小声で教えてくれた。稀人として持ち込んだものは、この世界では「存在してはならない物」とされるため、情報省が厳重に管理するとのことだ。


14時ごろに帰りの車内で奈月から電話がかかってきた。


『天馬! お仕事中にごめんなさい! 余りにも嬉しくて……電話しちゃった! できてたよ!』


奈月の弾むような声が耳に届く。


「そうか!  帰ったらお祝いしよう!」


その報告を聞いた瞬間、胸がじんと温かくなった。愛理も僕の横で、微笑みながら奈月との会話を聞いている。彼女も察したのか、静かに「おめでとう」と呟いた。

運転する北川さんも、とても喜んでいた。


 自宅に戻る頃にはすっかり夜になっていたので、僕は愛理と北川さんを自宅に招いた。

奈月と朱里が出迎えてくれ、テーブルには彼女たちが買ってきた料理が並んでいる。奈月が少し恥ずかしそうに微笑みながら、小さなケーキも用意してくれていた。

愛理が自身のお腹を撫でながら奈月に何か耳打ちをする。すると奈月は驚き、愛理に抱きつく。何となくだが、愛理も奈月と同じなのであろうか?愛理の報告を心待ちにするとしよう。


 未だ奈月は安定期に入っていないのだが、北川さん曰く、稀人との間で妊娠した女性の流産は今まで無いので、喜んで良いとのことだそうだ。

なので、その夜は北川さんを含めた5人で奈月の懐妊を祝ったのである。


 僕は元の世界線では母子家庭であり、父親のいる家庭に憧れを抱いていた。そんな僕が父親になるのだ!こんなに嬉しいことはない!

余りの嬉しさに僕は奈月のお腹に耳を当て、溢れ出す涙を止める事が出来なかった。父親になるという実感は未だ希薄ではあるが、新たな命を授かったことで、改めてこの世界での新しい生活に希望を抱いた夜だった。


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