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王子様になりたい私、勇者候補になりました?!2〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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7. 坩堝学園の王子様 命の危機と恋心の危機


 翡翠色の召喚紋の先。

りんの胸のなかに落ちたのは1羽の梟の雛だった。

その雛は召喚紋から具現化したコンマ何秒かでりんに抱かれてこねくる回されている。

その小さな身体にわがままボディのお腹にりんは一心不乱に頬釣りをした。

少し唸りながら。

限界だったのだ。


「フワピィくん!?

聞いてくれる?

(れん)陽翔(はると)湊人(みなと)がもう抱き締めさせてもくれないの!!家族なのに!!

私のムニムニへの癒しがッ………。家族との触れ合いが癒しなのにッ………。

フワピィくん………フワピィくん………」


「ぴゅい………ぴい?」


「………?ちょっとくちゃい………?フワピィくん」


「ぴぎゃ?!」


「あ!癖になる匂いっ………」


「ぷギャ………」


 

手に収まるほどの小さな雛だ。

その雛が普通の鳥ではないことは額の三個目の瞳と神秘的な白銀の羽毛にあった。


「ついに《従魔(じゅうま)》召喚する程か」

「りん様は寂しかったのですね………」


岸と澪が気の毒そうにりんを見る。

そうだ。

りんは絶賛《ムニムニの癒し不足》である。

限界だった。


 《従魔(じゅうま)》。

魔獣や神獣を使役する《契約》を結ぶと魂が繋がる《下僕》にすることが出来る。

その魔獣は主人に絶対服従であり逆らうと神の雷に打たれる。

尚、従魔の強さは主人の《炉度(ロード)》に比例するが元の魔獣の強さは鍛錬では磨かれない。

偏に《魂の絆》と《素質》である。


《従魔全集》を開きながら琥珀が解説しながらも首を傾げる。


「こいつ。

基本的な《魔獣》じゃなくて《神獣》なのは間違えなさそうだね」


改めて全集をペラペラめくる琥珀はフワピィをまじまじと見た。

「僕の《観察眼(スケスケ)》でもわからないやあ………。炉度低いんだろな………僕」


アンテも渋い顔をした。

雷 クラス(いかずちクラス)の知恵袋でわからないのだ。

書物オタク程度のりんが分からなかったのは納得だ。


「やっぱりこの子の種族わからないかぁ………」


りんは相変わらずフワピィくんを揉みしだいた。

お腹を揉みもみするするとフワピィくんはうっとりして可愛らしいのである。


「元の《飼い主》が《神獣》って言ったんだろ?なら聞いてみたら?」


琥珀の言葉にピキリとりんはかたまった。


「元の………飼い主………それは………その………あの………」


「「「「「「あ………!!」」」」」」


りんはフワピィを抱きしめて頬ずりしながら真っ赤になってしまった。

その姿に皆がどよめいた。


「まだ全然終わってないじゃん?!」

「失恋した人はそんな思い出しただけで赤らみません〜」

「やば。御嶽さんだっけ?そんなに好きなの?会えない人なんでしょ?」


「ぴ?!ぷぴぴぴぴ!!」


「おい!フワピィも茹だってるぞ!?」


「うわ!!突然星と岸の髪をむしり出したぞ!!」


「ふは!主人よりも敵が分かっとるじゃないか」


「ち………ちが………」


りんは混乱した。

気持ちの上ではあきらめようとしているのは本当だ。

でもフワピィ自体が御嶽さんの匂いがするのだ。


本棚の古い紙の匂い。

インクの匂い。

保存液の匂い。

飾られている観葉植物の匂い。

森の中の瑞々しい葉の香り。

土にまみれたような獣の匂い。


その全てを合わせたようなあの人の匂いだった。

脳裏に浮かんだ銀髪の紳士を思い浮かべた。


心臓がどくんと跳ねた。


「フワピィ………ジャンプーしない?洗ってあげるよ?」

「ぴぎゃ?!」

「あ。逃げた」


フワピィは焦っているのか小さな翼でピョンピョン飛び回る。どうも入浴が苦手なようでりんはまだ一度も成功していない。


「りんっち。無理に諦めなくても良いんだよ?

恋は心で思う分には誰にも迷惑かけないじゃん?」


ナタージャが覗き込んでくるけど耳が熱い。

ままならない。


ーーー諦めなきゃ。


そう思えば思うほど胸が高まる。

匂いは鮮明だし白銀の翼、翡翠色の瞳の煌めきが脳みそに刻まれてしまっているのだ。


フワピィがまた胸に飛び込んできた。

「わ」

勢いにふらりととよろめいた途端に歯に何かが当たった。


がチリ。


歯に何かが当たった。


見えたのは。

御嶽さんと似た翡翠色のまん丸の3つの目だった。


クラリ。

視界が真っ白になった。



 『………なに。この状況』


ソプラノの調べ。

心地良い可憐な声色がどうやったらこう絶対零度のような音を奏でるのか。

アルト気味なのほほんとしたりんの声色とは明らかに違った。


「あれ。………………りんっち?」


ナタージャが覗き込んだ。

さっきまで慈しんでいた雛をつまみ上げるように掴んでいるのはりん。のはずだった。


「この鳥………。どうしてくれようかしら」


「ぴ?!ぴぎゃぴぎゃぴ!!ぴぴ!!」


「五月蝿いわね。りんさんりんさん。りんさんどこ。

それしか言えないのお前は。

ピヨピヨピヨピヨ、けたたましいのよ」


ただ少し目元が冷ややかだ。

垂れ目だった瞳は少しつり目のアーモンド型だ。

ナッツのような色彩の瞳が漆黒になっている。

ふわふわの茶髪は真っ直ぐに腰まで伸びていた。


「らん………?」


岸が呟いたら皆がギョッとした。


「夜じゃないのに?レア?!」

「お。久しいな」

「わ!!夜のりんさんだ!!」

「りんっちの中のらんっち?」

「らん様!!お初にお目にかかります!!」

「らん………さん」


らんと呼ばれた女は手に持った雛をひょいっと投げた。


「ぴ!!」

「五月蝿い。焼き鳥にするわよ」


翡翠色の召喚紋の中に雛は消えた。

強制召喚終了である。

その瞬間。

背後の扉を蹴破る勢いで入ってきた金縁の眼鏡の教諭とらんは目が合った。


「慎一………。ん?」


ガラリと開いた開き戸に大股で入室した真神教諭はピシリと固まった。


「あら。ご機嫌よう狼さん。貴方。少し若返った?

残念だわ。私青二才よりいつもの渋いほうが好きよ。

りんと趣味は似ているの。枯れ専よ」


「な………」


真神教諭がたじろいだ。

その姿は雷クラスの面々から見ても珍しかった。

らんは頬に手をやり首を傾げた。

その仕草はりんに見えた。

でも。

その瞳の高飛車な光と鼻につく嘲りを浮かべた微笑は明らかにりんには出来ないものだった。


「夜のりん様は………。まるで女王の風格がおありですね」


澪がらんにお手拭きを差し出した。それは保温魔導機械でホカホカに温められ湯気だっていた。


「あらありがと。澪は別に侍らずとも良いのよ?りんの《お友達》をこき使う趣味。私はないのよ?」

「強者に侍りますのは《幽玄異郷の民》としての本能です。

お見知りおきを………らん様」

「そ。好きにすれば」


らんはさっきまでフワピィを摘んでいた指先を丁寧に拭きながら執務室を横断した。


「あら。岸。随分ガキ大将っぽさが抜けたのね?たのしんでるじゃないの。ん?」

「まあ………。猿田。そんなギラギラ見ないでくださる?

手合わせは御免よ」

「琥珀はしっかり寝てるかしら?隈がうっすらあるわ。研究にのめり込むとりんが心配するわよ」

「アンテ。貴方………。相変わらずバカ面してるわね」

「ナタージャ。化粧品のアドバイスありがとう。おかげでりんがお肌プルプルよ」

「咲はいないのね………。癒しなのに」

「なに。星。私の顔に何かついてる?

………りんにはすぐ戻るから安心なさいよ」


一通りのクラスの面々に声をかけて執務椅子に座る。

足を組み替え髪を払うとふわりと甘い香りがした。

甘く濃厚なフローラルから爽やかなスパイシーな高貴なムスクのようだ。


「鈴蘭………か」


「女の香りを勝手に嗅ぐのは男としてどうなの」


真神教諭を一瞥してため息交じりに窓の外を見だしたらんの周りをワチャワチャと雷クラスが囲みだした。

そこへ神妙な顔をした真神教諭が歩み寄った。


「………なんだ。今日は饒舌だな」

「お陰様で。りんが引っ込んでしまったから私が動くしかなくて」

「従魔はどうした」

「突っ返したわよ。りんの精神安定にもならない毛達磨なんていらないんじゃなくて?用済みよ」

「精神安定にならない………?」


「『御嶽さんと同じ匂いがする!!

あぁ!!諦めたいのに諦めきれない!!死んじゃう!!』らしいわよ。

どうも私。りんの心拍数で反応するのよね………。

命の危機と恋心の危機が、同列なんて。

まったく………。勘弁してほしいわ」


らんのりん風、声真似はあまりに似ていて真に迫っていた。


「「「「ほら!!やっぱり諦めてない!!」」」」


「どきどきが高鳴ると気絶しちゃうの。

気絶する乙女を救うことはあっても、自分が気絶するなんてね〜」


「………くだらん」


真神教諭のため息が執務室に響き渡った。


「あ」


ふわりと鈴蘭の残り香がした。

視界が開けたと思ったら目の前にはしかめっ面の真神教諭。

りんは頭を抱えた。

いつの間にかりんは戻っていた。


「ああ!

らんちゃん早い!!もっと楽しんでって言ったのに!!

なんで真神せんせい、らんちゃん引き止めてくれなかったんですか?!

らんちゃんにも学園生活送ってほしかったのに!?」


「無茶言うな」


「真神せんせいの言葉なら聞くと思ったのに………。

らんちゃん………絶対真神せんせい好きだと思うんだけどなあ………」


「は?」


真神教諭が固まった。

目が開かれ驚愕で固まったと言っていい。

その真神教諭の眉間のシワがいつもよりも薄いことに不思議に思いながらもりんは窓の外の紫色の空に意識を向けた。


「あ〜あ。らんちゃん………もっと出てきてくれないかなあ」

「おい。なんだ。

意味深な事を吐いて終わりにするな」


りんはため息交じりに窓の外を見あげた。


真神教諭が顎で皆をしゃくる。

「ホームルームの時間だ」のジェスチャーだ。



「もう少しで《ゴールデンウィーク》だ。

まとまった休みが続くぞ。弛むなよ」


「「「「「「ゴールデンウィーク」」」」」」


「あ。あるんだこっちにも」

「五月らしいな〜やっぱり日本なんだな」


《ゴールデンウィーク》


日本の春にある大型連休のことだ。


「確か………。《黄金週間》が由来だよね?」

「「「「「「「そうなの?」」」」」」」


「確かね………」


日本のかつての映画業界にはかきいれ時があった。

それが4月〜5月上旬の連休中。

盆暮れ正月よりも映画の興行収入は伸びたらしい。


「へぇ〜。現し世ではそうなんだ」

「その感じだと。

1000年の歴史は無さそうだな。

こちとら、紀元前よりもはるか昔の神話が由来だもんね」

「うむ。またもや文化の違いか」


りんがかいつまんで説明したら琥珀とアンテと猿田がニヤリとした。澪とナタージャと星が視線を窓の外に外す。


「こっちは違うの?」

「待て。嫌な予感しかしない………」


岸が苦い顔をした。

岸は冒険摩訶不思議は大好きなのだけど、お下劣、残酷、悲劇物語が苦手みたいだ。


りんはと言うと。

苦手とするほど物語や神話に思い入れがないからいつも感心する。

信じていないからと言ってしまうと身も蓋もないけれど、なんとなく現実見のないことは創作物を聞いているような感覚になるのだ。

りんは案外リアリストである。

体験していないことに無駄に感情を割けないし浸れない。

そこら辺が岸との違いかもしれない。


ーーーお母様の武勇伝説とかならすごく心躍るしドキドキして感極まっちゃうかもけどね。


因みに。

リリス武勇伝の漫画は20冊読破している。

生きる偉人がお母様だと現実見のない神話は他人事だ。



人は期待や幻想を抱くと裏切られた時ショックを受けるらしい。

でも知らない事を知ることはワクワクする。


「神話が由来だしね?お約束だよ」


琥珀やアンテが達観したような表情をしながら岸の肩を叩いた。


「おなじみかよ………」



岸がげんなりしながら天を仰いだ。

りんはうきうきとした。



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