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王子様になりたい私、勇者候補になりました?!2〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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10. 神話倫理政治学2

 その後の空隙教諭との討論は無駄話を挟みながらも白熱した。

すっかり取り繕わなくなった空隙教諭の話はダイレクトに不謹慎で残酷だった。

友達もお母様も話したがらないのは納得だった。

りんが上手く解釈できなかった神話や倫理の書物の引用に空隙教諭はどんどん注釈を入れていく。


「あ。この『たわわに実る果実』は豊満な乳房のことね」

「ああ………。この「偉大なる熱を抱きし血肉」。

これ筋肉ね。

この文脈の神様大抵のこと筋肉が解決する人。大体筋肉は素晴らしいと訳せば大丈夫」

「この神様は気分によって男にも女にもなる方だ。

口説いてた男神がいつの間にか掘られて掘削されていたなんて話が確か………ここの経典に………」

「これ。

この《聖なる乙女の慈愛は堕ちた神にこそ与えられるべきもの》って石碑ね。

聖女様は癒しの魔術があるからそれを人類じゃなくて神にこそ使うべきだって邪教が存在してね………」


りんが書き殴った。

授業では説明もされない幽玄異郷での常識の話だから。

教会で挙式をするのに張り付けにされた十字架の人を仏様と本気で思っているなんて笑い話は幽玄異郷では洒落にならないから。

神様の名前を軽々しく口にするのは《不敬》らしく。

色んな神々の名は書物に出るけど空隙教諭は決して口にしない。

それらも幽玄異郷では常識らしい。

必死にりんの朗読を阻止するはずだ。

神への《不敬》は雷に打たれるらしい。

神はあまり信じてないりんでも雷は怖い。



「で?

君は真神教諭が好き?

それとも御嶽さん?

どっちも君に似てるんだよね〜。どっちにときめく?」


神話の話をしながらも空隙教諭は恋物語が好きらしい。

脈略もなく急に恋愛話を挟んでくるのは最早挨拶らしい。

現し世なら軽いモラハラだ。



「………………?どちらも。尊敬してますけど?」


「え?!

二人とも報われない枠?!」


空隙教諭が口に手をやり心底驚いた顔をした。

ひょうひょうとした感じは継続するらしい。

お茶らけているだけなのはわかる。

瞳が探ってないから。


「ああ………なるほど。

幽玄異郷では年齢差とか、教師と生徒の恋愛には倫理観働かないんですね?

役職と肩書は禁忌にはならないと………。

そこはわかりました」


「ブレないなあ………知的好奇心が恋バナを駆逐してる」


メモする。

どうりでりんが年上で社会人の御嶽さんを好きなことにクラスの皆が驚かないはずだ。

失恋した身からするとどうでもよい話だけど。


「恋愛は自由だよ。

でも大人が子供を《利用》して《搾取》したら死刑。

プラトニックならいくらでもよいけど欲を発散しだしたら罪なんだ。

そこ突破する倫理観ぶっ飛んでる凶悪犯はここ坩堝学園では採用されない。


坩堝学園はそんなとこ。

教師と生徒の恋愛は禁忌じゃない。

大人と子供も。


でも。

それと《大人が欲を出していいか》は別。

《子供が欲を出したら大人がとめる》のが普通。

神は見ているから神格落とされるし魂は《輪廻転生》に堕ちる」


「………そもそも。恋愛すら禁止にしたほうが安全な気がしてきますね」

「愛がないと歪むんだよ。この世界の民は。

愛くらいしか長寿のものの精神を繋ぐものはないんだ。

罪を犯すと魔獣になる。

なると知っててなりたいやつはいないしね。

魔獣になるとその次は人類に転生だ。

この世界の民には恐怖なんだよ。現し世は地獄だと知っているからね。

持つものが持たざるものになるのは苦痛だよ」


《持つもの》と《持たざるもの》

りんが現し世から幽玄異郷に来た時によく聞いた話だ。

単純に異世界と現し世での違いなら《魔素》だろう。

魔素を利用して《魔術を使う民》と《使えない民》

それも正しい解釈らしい。


「《持つもの》はね。

《神への畏怖を持つもの》なんだよ。

この世界の民は神も神罰も身近なんだ」


現し世人類で敬虔な神の僕が知ったら卒倒しそうな話だ。ちくづくりんは神を崇めてはいなくて良かったと思う。


「願いは叶えないのに不敬なら呪うなんて。

参拝したり貢物を欲したり。

そんな《神》が本当に神だと思うかい?

現し世にいるのはあれは《神もどき》だ。


神の世界にいられない人類の信仰心頼りのもの。

あながち《邪神》と呼んでもも間違えはないかもね。

あの神もどきは人類を《裁く存在》ですらない神格持ちだ。

それだと。

理を動かせない者は神とは言えないね。

魂に干渉できての神格持ちだ」



「魂への………干渉。魔獣化………ですか」


りんは目の間に出された軽食としては重めの魔豚の角煮をつまんだ。

肉汁がタレに絡んだ絶品だ。 

この魔豚は何の罪を犯したのだろうか。

少しくんと匂いを嗅いでみた。罪の匂いもするのかなと思ったのだ。

香ばしい醤油と甘い薫しかしない。

しばし見つめてからパクリと口にした。


「そ。人類は罪を償うために魂は死後《魔獣》として転生する。この魔豚みたいに」


《輪廻転生》。

人類の魂はぐるぐる廻る運命なんて現し世でもきいたことがあった。

罪人は地獄に落ちて修行する。

罪を許されると天国に行き輪廻転生する。

そんな現し世人類の常識はここでは違うのだ。


罪のある魂は。

一部の例外を除いてこの幽玄異郷の魔獣に生まれ変わるらしい。

罪の重さだけ強い魔獣になり。

罪の数だけその魔獣に生まれ変わる。

そんな魂の循環を担っているのがこの幽玄異郷だと。


「それを。私達は美味しく頂き屠り利用してるんですね?

罪人の魂を食べるシステム………。現し世人類からしたら《共食い》ですね」 


魔豚角煮。美味しい。

りんの手が止まらないのを空隙教諭は興味深げに見つめる。

彼も食べる。「うま」「おいひいです」

二人で頷きながら頬張った。

空隙教諭の頬が膨れていてかわいかった。


「それね〜。

それが一番現し世勇者が嫌がるシステムなんだよね。

『いずれ自分も喰われるかもしれないのに食べたくない』とか。『死んだ親、友達が魔獣かもしれない?』って

それでドロップアウトする現し世人類いる。

君はど?」


聞くまでもなさそうだけど。

そう呟きながら空隙教諭は笑った。

りんもヘラリと笑った。

だってりんの手は止まらなかったから。


「………罪すら糧になるなら。合理的だなあ………て」


だって。 

魔獣は長生きすることは苦行なんだとか。

殺してもらえないと魂は罰を償えない。

食べずに殺さずに済むなら彼等は永遠に輪廻転生にのれないのだ。


「わお」


空隙教諭の手も止まらない。

二人でもきゅもきゅと肉を歯で断ち切るように食べる。

角煮にしては噛み応えがあるのだ。お上品に食べられないのは仕方がない。


「美味しく罪を頂く。

現し世でも罪があるかも分からない獣を食べるし悲鳴を上げてるかもしれない植物も果物も食べます。

最初からそれが罪の輪廻転生に繋がるとわかるなら。

………罪の味すら食べられないなんて。

罪を知らなきゃ食べられる?

それは無知から来る傲慢では?と私は思います」


「うわあ………」

「変ですか」

「僕ですら幼少の時に食卓でこの話聞いた時には吐いたよ?

その罪を目の前にしてその心持ちはもう勇者だ」


固まった。

ようじを突き刺す音が静かに部屋に響いた。



「あ!!嫌がらせで食べさせました?

もしかして私が吐くのを期待して?!

だめですよ。食べ物は愛です。

罪も愛を持って食べるべきで悪戯に使っちゃだめですよ?

ッ………めッですよ!!食べ物は無駄にしてはいけません!!」


「………………ぐっと来た」

「何故」

「………なんでだろ。無性に君に花を贈りたくなった」

「?幽玄異郷の男の人。お花が好きですね?

クラスのせい君も毎日欠かさずくれ………」

「え?!それって《プローー》」



バリンーーーー


何かが砕ける音がした。

「時間ピッタリだな………」

空隙教諭が呟いたけどりんは背後を振り向いた。



「人の教室で何してるんですか。空隙教諭」



教室の入り口には。

困惑し愕然とした様子の黒い教諭がいた。

金縁の眼鏡に隠された金色の瞳が目一杯開いている。


りんがここまで驚いているこの人を初めて見たかもしれない。


「ん?真神せんせい?」


キョトリとするりんを一瞥した真神教諭はずんずん教室に入室した。

視線は真っ直ぐ空隙教諭に向いていた。

額の青筋が盛り上がっている。

りんは思わず角煮をゴクリと飲み込んだ。

悲鳴も一緒に。


「空隙教諭。人の城を魔術で改装するのは辞めていただけますか。

ここはあくまでも《共有学科》スペースであって。

貴方の私室も城も他にあるでしょう………。

何故人の城に勝手に私室作りますかね………。

お陰様で捜索が難航しました」


「あはは。

これは《ぬらりひょん》の性というか。

治らない病気だよ。彼女の二重人格とおなじものだよ」


「一緒にしないでいただきたい。

佐藤 りん!!」


「はい!!」


「退室しろ」


「はい!!お邪魔しました!!」



りんは急いで教室を後にしたのだった。



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