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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
525/820

第517話 13歳(夏)…勇者(爆)

 階層主の間にまさかのゴブさん大量湧き。


「いやー、ご主人さまったら、さっすがですねぇ」

「おれのせいじゃねえだろ!? つかおまえ誰かがフラグ立てるの期待してたくせに急にそれとかひどくね!?」


 一瞬、謎の責任を感じてしまった手前ちょっと焦る。

 おれがシアにイジられるなか――


「な……、なんだこれは……!?」


 フライドポテトを「旨い旨い」と嬉しそうに頬張っていた探索者の一人はこの異変に愕然とし、口からぼろぼろポテト屑をこぼしながら呟いた。

 その驚きようからこれが完全な異常事態であることをなんとなく察し、ひとまず〈針仕事の向こう側〉を使用して考える時間を確保する。

 最優先はうちの面々の安全確保だが、まあそのあたりは問題無いだろう。

 次に案内役の探索者、それから大工房から来たドワーフたちの避難が優先される。

 しかしこの場から一足先に逃がしたとしても、こういった事態が他でも起きてしまった場合は対処ができない。

 ならこの広間入口で待機させていた方が比較的に安全か。

 となると――。

 まずうちのオフェンスがシアとミーネ。

 探索者やドワーフを背に入口を塞ぐディフェンスがおれとアレサ。

 ネイたちはどれくらい戦えるだろうか?

 加速した意識で考えているおれをよそに、すでにネイ、レト、ゼーレの三名はゴブさんの群れへと飛び込むべく動き出しており、リフィはここで待機、防衛と援護をするらしい。

 これにより群れに突撃するのはシア、ミーネ、ネイ、レト、ゼーレの五名となり、入口を守りつつ、オフェンスの援護するのがおれ、アレサ、リフィの三名となるようだ。


「シアとミーネはゴブを適当に! おれとアレサはここを守りつつ援護をする!」

「はいはーい!」

「邪魔がなければ魔術でまとめてえいってできて気持ちいいのに……」


 ぴょーんと飛び込んでいくシアと、ちょっと面倒そうに出撃するミーネ。

 なるべく勇者連中を助けてやって欲しいが――、と、考えたところでおれは思い出した。

 この迷宮、死んでも大丈夫なんだった。

 ならまあ、うん、適当でいいかな。

 これを乗りこえたら勇者たちはまた強く(精神的に)なるかもしれない、頑張れ。

 おれは心の中で勇者たちを応援しながら、しかし、あいつらでは無理だろうなぁ、と理解もしていた。

 なにしろゴブさん一体相手にあの体たらく、なのに自分たちの倍以上の数に囲まれたとなれば結果など推して知れるというもの。

 でもおかしいなぁ……。

 あのクソスライムは勇者に合わせるって言ってたのに、これ明らかに勇者連中には荷が重いぞ。

 うちの金銀なら魔術の練習や軽い訓練程度の話になるん――……、るん?

 あれ、そもそもあのクソスライムに勇者連中の力量なんてわかるわけないじゃん。

 ならあいつの言っていた『勇者』って何を指していたんだ?

 あいつの知る勇者と言ったら……、シャロ様か?

 いや、シャロ様の練習相手になるゴブさんなんて地獄の大魔王みたいな奴に違いなく、そんなもの遭遇しただけで勇者連中は心臓が止まって排出口行きになるだろう。

 では合わせた勇者とやらは誰だ?

 そういや、おれここで魔王誕生阻止してたよな……。

 ……。

 おれか!?

 ちょっと脳内でイメージしてみたところ、あのゴブさん、一体なら雷撃抜きでの良さげな練習相手であり、この集団は雷撃をぶっ放しての対集団戦の訓練になる。

 では、勇者たちの苦労はあの時イールの勘違いに気づかなかったおれのせいということになるのだろうか?

 ……。

 よし、忘れよう!

 もう戦いは始まっているしな、こっちに集中しないといけないしな。


「ひとまずおれが隙を作る! 攻撃は頼む!」


 おれは意識を切り替え、金銀やネイたち、それから勇者連中が先制攻撃するための隙を作ることにする。

 それはエルトリアで邪悪なお面が筋肉たちにやったことの応用。

 まずは〈星幽界の天文図〉でゴブさんたちをロックオン、それから〈雷花〉をぶっ放すという試みだが――、うん、おれがやるとなるとロックオン作業にちょっと時間がかかってしまうな。


「行くぞ!」


 皆に声をかけ、おれは雷撃を放つ。

 瞬間、広間を埋めていたすべてのゴブさんが雷撃に撃たれ、ギョヘーッと奇声を上げながら硬直。

 感電による麻痺、さらに復帰して攻撃態勢へ移るまでわずかな時間――たぶん十秒くらいは無力化されるはず。

 この隙を活かし、ゴブさんの群れに飛び込んだシアとミーネは、よいしょー、どっこいしょー、ほーいほい、と瞬く間にゴブさんをダースで葬り、ネイたちもそれぞれ三、四体ほど始末した。

 しかし――


「ぐわぁ!」

「ぎゃぁぁぁ!」


 勇者たちの方は二、三人倒されていた。


「どうしてそうなっちゃうの!?」


 さすがに我慢できず突っ込みを入れた。

 本当にどうしてやられる奴が出るのか理解できずちょっと混乱。

 そしたら襲ってきたゴブさんをメイスでぽこぽこしていたアレサが説明してくれた。


「猊下の援護の後、動けなくなったゴブリンを前に攻撃していいものかどうか迷い、いざ攻撃しようとした時にはすでに遅く反撃を受けてやられたようです」

「あいつらアホなの!?」

「……アホだと思うー……」


 そっと応えたのは、魔法でゴブさんを狙撃していたリフィ。

 冒険の書の自キャラ製作の時にだいぶ喋ったので、外でもちょっとは喋ってくれるようになった。

 しかし……、勢いを付けさせようと援護したのに、それすら生かせないとかどうなのよ?

 チャンスを生かせなかった勇者たちはむしろ及び腰になり、ゴブさんの攻めをしのぐのに必死になっている。

 これはおれが雷撃で援護し続けてやるしかないのだが、戦いが始まる前、立ち止まって威嚇していたゴブさんたちならいざ知らず、こう動き回られるとロックオン作業がさらに遅れる。

 所詮は思いつきの付け焼き刃か。

 普通に範囲雷撃ぶっ放せば話は早いが、そうするとネイたちが巻き添えになるし……、これが本当に死ぬ実戦ならやるしかないが、そこだけは保証されてるからな、まあ頑張れ勇者たち、おれだって何度かなんとなく死んでるからそれくらい耐えろ。

 一応ロックオン作業も急いでいたのだが、そこでさらに勇者たちに不利なことが起きた。

 やられた勇者の持っていた錬成魔剣を手にするゴブさんが現れ出したのである。


「こ、こいつら魔剣を使うぞ!」

「怯むな! せいぜい数体の話! まだこちらに分がある!」


 しかしながら、勇者たちはちょいマシになる程度の効果であった魔剣はゴブさんに無限のパワーを与えたらしく、もう明らかに動きが良くなって瞬く間に応戦する勇者数人を葬ってしまった。


「剣持ちは私が相手するから他はしのいで!」

「わたしも相手しますよー」


 混戦の中にあっても、その戦況を左右する異変に気づいたミーネが直ちに、そして追うようにシアが剣持ちのゴブさんへと迫り、速やかに処理しようと試みたが――


「おぉっ、ゴブさん耐えた……!?」


 シアとミーネが全力でないというのもあるだろうが、剣持ちゴブさんは二人の攻撃を受け、さらに反撃、そのまま何度か打ち合うことまでやっている。

 ああなるともうゴブリンの強さではない。

 二人が少しばかり手こずるそのわずかな間に、他の剣持ちがさらに勇者たちを倒し、また剣持ちゴブリンが増える。

 どうしようもないこの悪循環。

 魔物に武器を拾われて強化させてしまうとか目も当てられない。

 おれもロックオンからの雷撃、アレサやリフィも魔法で援護しているが、おれは溜めが必要だったり、アレサやリフィは混戦のなかでゴブさんを狙い撃つのに手間取っている。

 ネイたちも頑張ってゴブさんの頭数を減らしているが、勇者たちはどうにもならないほど貧弱であり、とうとう生き残っていた最後の勇者まで死に戻りとなってしまった。

 わりとどうでもいいけど、なんか負けた気になるのが腹立たしい。

 すぐイールを呼びつけて文句を言ってやりたいが、ネイたちはいいとしても同行している探索者の前ではそれもできない。

 これは帰ってからだな。

 足手まといが居なくなったため、もうあとは適当に残るゴブさんたちを退治するだけの話になったが――


「なん……、だ?」


 今度はゴブさんたちに異変があった。


「ゲゲ……、ゲギャヤー!」

「ギャギョーン!?」


 剣持ちゴブさん側が剣無しゴブさん側に襲いかかり、次々と斬り捨て始めたのである。

 剣無しゴブさん側は応戦するが、おれたちがぽかんとしている間に綺麗に駆逐されてしまった。

 仲間を皆殺しにした剣持ちゴブさんだが、どういうわけかおれたちを無視、そのまますたすた二層への降り口へと向かい始めた。

 そこで――


「……ファイア・ストーム」


 まとまっている上に、味方を巻き込む危険が無くなったことでリフィが範囲魔法をぶっ放し、炎に巻かれてあたふたアッチッチしているゴブさんたちに向け、さらにアレサが炎の範囲魔法を重ねる。

 しかしそれでもゴブさんたちはしぶとく生き残る。

 魔剣の持つ『強靱(サフィール)』『活性(ガルネ)』『治癒(リズラス)』が影響しているのだろう。

 なんとか魔法に耐えた剣持ちゴブさんたちだったが、それから金銀とネイたちによって速やかに退治された。


「いやこれゴブリン? ちょっと強さおかしくね?」


 ようやくひと息つけたところでネイが言った。

 もし野良のゴブさんがあんなにタフで強かったら、この世界は強さこそすべてな修羅の国だったことだろう。


「これはもう、今日も中止じゃないですか?」


 おれは確認役のドワーフに尋ねてみる。


「こうなると確かに戻るしかないのう。すまんが、魔剣の回収を手伝ってもらえんか?」

「は、はあ……、そうですね」


 今日もまた武器回収かよ、と思ったとき、ミーネが叫んだ。


「ねえねえ! なんか魔剣がダンジョンに回収されちゃってるんだけど!」

「へ?」


 見ると、魔剣は床に沈み込み、呑み込まれてしまうところだった。

 大事な魔剣が失われたことがショックなのだろう、ドワーフたちがぽかーんとするなか、おれは屋敷に戻ったらイールからこれについても話を聞かなければならないと考えた。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/10


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