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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
吾が学び舎と共に
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 <花のおばさんとの触れ合い>

 <花のおばさんとの触れ合い>


 五口小学校の修学旅行は、箱根に行くことになっています。

 花のおばさんから要望があり、子供達も希望するので、途中、横須賀に寄って、花のおばさんのご自宅を訪ねることになっていました。花のおばさんは、子供達全てを歓待してくれて、お茶菓子などを用意して接待してくれます。

 学校としては、修学旅行の行事に個人のご自宅にお邪魔して負担をかけては申し訳ない、と計画を変更しようとしますが、子供達と花のおばさんの文通が広がっているため、日程・予定が筒抜けになってしまうのです。


 ある年の修学旅行のとき、管理職の先生の代理で私も付き添いとして参加する事になりました。箱根の旅館に着いたとき、花のおばさんから

『今晩、6時に旅館に行きます。』

という連絡が入りました。

 私と担任は大慌てです。まず、子供達の予定の確認と変更をし、懇談会の会場を借りなければなりません。学校にも報告し、懇親会の会場も出来たころ、息子さんの運転で花のおばさんが到着しました。

 私もお目にかかるのは初めてでしたが、穏やかで笑顔を絶やさない、でも、芯のシッカリした年配のご婦人のように感じられました。特に、子供が大好きのようで、子供に対しては一層優しい笑顔になります。


 懇親会の会場では、子供の代表から「お花のお礼」を中心に、感謝の言葉を述べさせました。手紙のやり取りはしていても、子どもも初めて会うので最初は照れていましたが、慣れてくると大勢から質問を始めます。どんな質問にも、ニコニコと丁寧に応対してくれたのが、印象的であり感心しました。

 お土産に庭先の夏みかんを採ってきたのだといって、ダンボール2・3箱ほども頂きました。これが、酸っぱい昔ながらの夏みかんで、とても美味しくて瑞々しい、懐かしさを呼び起こしてくれる味だったのを覚えています。

 花のおばさんは、一時間あまり滞在で、息子さんの運転する車で帰っていきました。後の話ですが、この息子さんは地元でPTA会長を勤めており、花のおばさんの意思をついで五口小学校の子供達との交流を続けたいとの事でした。

 箱根でお会いした花のおばさんと息子さんの面影は、長く記憶に残っています。


 花のおばさんとテレビ


 神奈川のテレビ局で『花のおばさんと五口小学校の児童との交流』の話を番組にし、放送する事になりました。

 五口小学校でも取材、撮影をする事になります。

『学校には出来るだけ迷惑をかけないようにします。』

という局側のお話でしたが、カメラやマイクを構えたスタッフが廊下や階段を行き来するので、子供達は珍しさと興奮で落ち着きません。

 校長先生や文通をしている児童数人のインタビュー、校庭や校舎内の撮影や、花が届いた時の様子などを撮影し、結局、1日がかりでした。


 数日後に放送用のビデオが送られてきて、それをクラス毎に児童にも見せることになりました。

 画面を見て、私はびっくりです。最初のタイトルで、鉄筋校舎の五口小学校が広い湖に浮かぶように建っている勇姿が写っているのです。学校の周囲には、こんな大きな湖や川はありません。後で学校の周囲を歩いてみたところ、なんと、プールの向こう側から撮影し、校舎がまるで『湖面の上』に浮かんでいるように見せていたのです。


 大月小学校時代の校内テレビ放送を思い起こし、流石はプロだなぁと感心しました。

 横須賀の花畑や住宅周辺の撮影、花のおばさんのインタビューに五口小学校の児童との交流など、手際よくまとめられた地域の情報番組だったと思います。


 花のおばさんの来訪


 五口小学校が鉄筋校舎に建替えられた時、一度だけ『花のおばさん』を招待する事が出来ました。

 花のおばさんは、箱根で逢った時と同じ柔和で優しい顔つきで、朝礼台の上にあがると全ての児童を懐かしそうにみて、笑顔で全児童に挨拶してくれました。

 子供の代表たちに校庭や校舎内を案内させ、視察してもらい、応接室でも校長先生を初めとする多くの職員とも歓談していきました。その後、日光を観光して一泊してから帰ったそうです。

 子供達も、『花のおばさん』と身近にふれあう事が出来て本当によかったと思います。こんな機会を、皆が待ちわびていたのです。


 花のおばさんのお話の中に、子供から寄せられた手紙や絵などは、全部年代ごとにまとめられ、保管していて何時でも見られる様になっているという言葉があり、感動と感心させられました。


 交通安全運動


 毎年冬になると、交通安全運動を展開していました。

 花のおばさんとの交流以前から、毎年の事です。子供達に

『交通安全のお願い』

をカードに書かせ。小さな花の種と一緒に風船にくくりつけます。


 こんな小規模校だから、風船の数も少ないだろうとタカを括っていました。


 児童も職員も、全員が風船を手にして校庭の中央に集まります。校長先生が朝礼台の上から、交通安全の大切さと、普段から気をつけて生活するようにお話をし、最後に合図をすると、全員が一斉に風船を飛ばします。

 子供達が一斉に

『わぁー』

という歓声を上げ、風船が頭の上を舞い上がり、上へと飛び立っていった時、我ながら歳も忘れて深い感激と感動が胸の中に去来しました。


 たった200個と思っていた風船ですが、赤・白・青・緑と、様々な色の風船が大空に舞い上がり、大きな塊となって移動して行きます。冷たい西風に吹かれ、だんだんと小さくなっていく塊は、東へとゆっくり流れていきます。

 全員がその行方を見守る中、やがて塊はちいさな米粒のようになって視界から消えていきました。だんだん小さくなる風船の塊を見上げながら、子供達は小さな口を開いて、唖然とした表情でいつまでも見送っています。あの風船の一つ一つに、子供一人一人の願いや夢・希望が込められているのだと感じます。


 こういうイベントは、口先だけでなく実際の体験が大事だと思わされます。『百聞は一見に如かず』

といいますが、この1回の体験で子供達が感じる

『喜び・感動・感激・感謝』

は計り知れないものがあるでしょう。

 こういうイベントを企画し、実践するには、経費も手間隙もかかるでしょう。労力も時間もバカになりません。学校として、学級として、それだけの工夫と努力を集めなければ出来ない事です。


 このような、一見素朴で単純に見える行事を長年続けていくところに、この学校の代々の先生方や地域の人達の、子供の教育に対する理解と努力、そして、愛情を感じられるのです。私は、深い敬意と感動を覚えるばかりです。


 この『花のおばさん』を通して、いつまでも五口の野と人々の心に、美しい花が咲き乱れる事を心から願います。



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