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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
天に届け木犀の香
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 <アヒルの親子>

 <アヒルの親子>


 子供は『泥んこ遊び』が大好きです。自然の「土」や「泥」や「砂」と触れ合うことで、大地からエネルギーを得ているのではないかと思われるくらい「活き活き」と遊びます。


 近年の都市部では、学校のグランドも舗装され、公園でも「水を撒いて」遊ぶ事などは出来ないでしょう。でも、もし『自然の場所』と『いくらでも泥んこに汚してもいい』という条件があったら、子供は一日中泥の中で色んな事をして遊んでいるのではないでしょうか。


 大月小学校の隣には幼稚園があります。近隣のお寺さんの経営する幼稚園なので、小学校とは全く関係はありません。でもお隣さんということもあり、たまに先生に連れられ、幼稚園児たちの集団が小学校の校庭の隅から、お兄さんお姉さん達の体育の授業などを見学している事があります。


 学校への許可は取っていますし、地域の人達との「触れあい」でもあります。子供たちにとっても、幼稚園児に見られながらの授業は、良い刺激になるかもしれません。私の授業でも、そんな見学をしている幼稚園児たちを何度か見かけた事があります。お揃いの園児服を着た小さな子供達が、先生の後に付いて行進(ばらばらに歩いてるだけですが)したり、固まってお座りしている様子は、遠目から見ても『アヒルの行列やお引越し』のようにも見えて、微笑ましく感じていました。


 その日は、私の学年全員の『体力テスト記録会』の日に当たっていました。50メートル走、走り幅跳び、高飛び、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、反復横とび、上体そらしや前屈、握力、踏み台昇降、等、体育館とグランド全部を使って一斉に行うのです。学年の先生総出で、手の空いている職員の応援も借り、児童からも「係り」を選出して、それぞれの競技や種目の記録をとる事になります。


 私は、「走り幅跳び」の係りとなり、砂場の横にテーブルと椅子を置いて、係りの児童に指示しながら監督していたのです。


 そんな時『アヒルのお引越し』が始まりました。20人くらいの小さな園児たちが先生に連れられ、校庭に入ってきたのです。先生が校庭の隅の方に敷いたシートの上に、2列位になってお行儀よく座ります。私の座っていた所から4~50メートル離れていたでしょうか。園児たちも真剣に、グランドで行われている幅跳びや50m走等の様子を、見学しているようです。


 暫くして、『親アヒル』である先生が、用事か何かで幼稚園の方に戻って行ったのが横目に見えました。一瞬、『大丈夫かな?』と思いましたが、こちらの監督を疎かにもできません。


 そのままにしていると、案の定、『子アヒル』たちがざわざわと動き始めます。横を向いたり、隣の子と『突っつきっこ』をしたりと、シートから出てはいないものの、既に『お行儀よく』とは言えない状態です。


 まぁ、幼稚園児のことだし、仕方ないなと思いながらも横目で見ていました。

 すると一番隅の『子アヒル』がちょっと変わった遊びを始めました。

 シートの脇の地面から砂を手ですくい、自分の頭に掛け始めたのです。


 自分の頭に砂をかけては手で払い、

 払い終わるとまた掛ける、を繰り返しているのです。


 『全く不思議な遊びをするものだ』


と思いましたが、驚いたことに、その隣の『子アヒル』が真似をし始めたのです。


 もともと子供は「泥んこ遊び」の好きなのです。

 もう止まりません。

 『砂掛け遊び』は次々と伝染し、『自分の頭』だけでは飽き足らず、周囲の『子アヒル』同士で『砂掛け合い遊び』に発展してしまいました。殆どの『子アヒル』が取り組む遊びになってしまったのです。

 おそらく、シートの上は砂だらけだし、お揃いの服も砂だらけになっていたでしょう。ただ、その様子は、遠目に見ても『いじめ』や『いたずら』ではなく、『子アヒル』達は、楽しみながら、はしゃぎながら、自ら参加している『あそび』以外には見えませんでした。


 やがて『親アヒル』である先生が戻って来ました。遠目なので何を言っているのかは分かりませんでしたが、『子アヒル』達のやっている事を見て、慌てて叱りながら『砂掛け合い遊び』を止めさせ、服や頭に付いた砂を払ってやり、また座らせている様子が見て取れました。

 おそらく「何やってるの!」「止めなさい!」「こんなに砂だらけにして!」「誰なの。こんな事始めたのは!」なんて調子でしょうか。



 更に驚いた事があります。


 私はこの『砂掛け遊び』を最初に始めた『子アヒル』を見ています。


 ところが、この『子アヒル』は『親アヒル』である先生が戻ってきた時には、自分の頭や服の砂を全て払い、何事もなかったようにシートの一番隅に座って、グランドの見学をしていたのです。


 先生が戻ってきたのに気が付いて止めたのではありません。


 先生が戻ってくる前に、『砂掛け遊び』から抜け出して、見学に集中するように座っていたのです。


 当然、『親アヒル』からのお叱りはありません。でも、叱られたくなくて止めたのではなく、「本人が遊びに興味を失って」止めたのです。


 この事に気が付いた時、私は愕然としました。子供の興味・関心の幅の広さとその行動力、さらには、切り替えの早さにはびっくりです。


 もし、何年か後にこの『子アヒル』たちを私が担任する事になったら、どんな悪戯を仕掛けてくれるだろうか。どれだけ面白い遊びを創造してくれるだろうか。そして、どんな『児童理解』と『指導教育』をしてあげれば良いだろうかと思考を巡らせていたら、自然と頬が緩み、ワクワクしてしまったのです。


『元気な子アヒル達よ。そのまますくすく成長して、早く小(学生)アヒルになった姿を見せておくれ。』



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