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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
赤木の森の下影に
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 <青物市場見学>

 <青物市場見学>


 私が子供の頃、家の近所には職人さん、商売人さんの家が多く有りました。建具屋さん・桶屋さん・金物屋さん・鋳掛屋さん・自転車屋さん・おしんこ(惣菜)屋さん・織物機械屋さん・農家・駄菓子屋さん(売るだけでなく店先で駄菓子を作ったりもしていた)等など、今で言う「家内工業」や「個人商店」の集まりでした。

 友人4・5人で、よくブラブラと歩き回っては、その仕事ぶりを見て廻っていたものです。桶屋さんが、桶の「タガ」を作るために長い青竹を割り込み、細長い竹を作る手捌き等、子供ながらに惚れ込んで、何度も、何時間も見入っていたものでした。きっと、大人の世界に憧れと尊敬を強く感じていて

『上手だな。上手いな。凄いな。』

等と感じながら、見入っていたのだと思います。


 プラスチック製品やナイロン製の生活用品や道具が出回るようになると、そういった職人さんたちも段々に姿を消して行ったようです。


 3・4年生の社会科で、地域の生活や文化・産業などを取り扱った教材の副読本の製作が始まりました。学習活動の一つとして話題になったのが『社会見学』という、全く新しい学習形態です。


 ある晩、父の友人の八百屋のおじさんが遊びに来ました。色々、世間話をしているうちに、突然、私に向かって、

「若先生、どうだい、学校は?」

と言うので、慌てて

「若先生なら良いのだけれど、新米先生といわれて馬鹿にされています。それよりも、今の教育は新しいことがどんどん入ってきて困っています。」

と答え、『社会見学学習』で悩んでいる事を何気なく話しました。すると、

「市場はどうだい?青物市場なら、おれ、今、理事をやっているから便宜が図れるよ。見学の日と時間と、人数を知らせてくれれば、案内や説明する人を用意しておくし、大丈夫だよ。」

と言ってくれたのです。


 早速、同学年の先生達に話をし、学習内容を調べて検討し、『稲榎市青物市場見学』の学習計画が出来上がり、実施することにしました。事前指導として、挨拶の仕方、質問の仕方、お礼の挨拶は勿論、市場内での注意、集団行動時の注意事項等、問題が起きないようにシッカリと指導しました。


 いよいよ市場見学の日です。子ども達も初めての学習なので興奮気味でした。約160名の児童が行列を作って、1Km程の距離にある『稲榎市青物市場』(今の稲榎市農協支所)に向かいます。市場に入り、引率の先生2人が事務所に挨拶に行き、その間、子ども達を中の広場に整列させます。


 市場だから、関係者の出入りも激しく、品物もゴタゴタと置かれて雑然としているのだろうと想像していましたが、人っ子一人居ない、品物も一つもない、しかも、一面キレイに掃除されていて、広々とした閑散とした光景なので、私は内心ヒヤッとしたのです。


 子ども達が整列し終わった頃、先生2人と、例のおじさんが一人でノコノコとやって来て、児童の前に立ちました。私は慌てて号令を掛けて、皆に挨拶をさせます。おじさんは、大きな声で、しかも懐っこしく挨拶を返して話し始めました。


「稲榎市内の八百屋さんに並んでいる野菜や果物は、此処で買われた物です。毎朝夜明け前に、稲榎市内や全国から送られてきた野菜や果物が、あの広場に並べられます。それを八百屋さんが集まって、自分の欲しい品物に『値』を付けて買い取るのです。今日は時間が遅いので、本当の『せり売り、せり買い』の様子を見て貰うことは出来ませんが、何人かの八百屋さんに協力して頂いたので、その『せり売り、せり買い』の一部を再現してもらいますので、それを見てください。

『せり売り、せり買い』を簡単に説明すると、進行役の人がその品物を指定します。欲しい人が『値』を付けて、もっと欲しいと思う人がその上の『値』を付けます。進行役の人が新しい『値』を言って、他にいませんかと呼びかけます。このようにして『値』が釣り上って行きますが、競り上げる人がいなくなると、『○○円で決まりました。』と言って終了します。これを『ひぃ、ふぅ、みぃ』という昔の数字の呼び方と、独特の符号を使ってやりますので、分からないところが多いかもしれませんが、雰囲気だけでも味わってください。

それから、ここで『値』が付いた品物の値段が、今日の八百屋さんの店先に並ぶ野菜や果物の値段の基になるわけです。」


と、説明が終わると、事務所から15・6人のおそろいの帽子をかぶった八百屋さんがぞろぞろと出てきて、市場の広い中央に輪を作ります。その中央には、大きな木の箱が10箱ほど並べられていました。

おじさんが、

「これは青森のりんごです。皆さんに『せり売り』の様子を見てもらうためにとって置いたのです。」

という説明が終わるやいなや、せりの進行役が

『青森の○○地方で種類は○○、○○Kg』

と説明し、直後に

「さぁ、さぁ。」

というような掛け声を合図に、符号と早口で、進行役と八百屋さんの声が入り混じり、こちらはさっぱり解りません。

 その内、『パンパン』と手を叩く音がして、すぐに次の箱に移ります。次の箱もふたを開けると、あらぬかの中から真っ赤なりんごがチラッと見えました。こうして10箱程のりんごが瞬く間に競り落とされました。


 子ども達は、せりの様子をポカンと見ていましたが、「せり売り」が終わると、ものすごい拍手が沸き起こりました。これには、私の方がポカンとしたものです。子ども達は、きっと、細かい理屈や説明より、心に響く雰囲気やせりの様子に心打たれたのだと思います。


 子ども達は、お土産に大きなりんごを一つずつ貰い、大喜びで学校へと帰ってきました。後で、『10円、20円、30円、売った、買った。』と丸くなってゲームをしているのを見かけたとき、見学学習の体験は、大人の想像し得ない感覚や感性等を育てることになったのかも知れない、と感じました。


 私にとっても、見学学習の第一号になったのです。




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