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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
赤木の森の下影に
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 <蟇蛙の解剖>

 <蟇蛙の解剖>


 その日は朝から特に忙しく、昼近くになって何気なく予定表を見ると、午後に出張の予定が入っていることに気がつきました。

 理科の研修会で、会場は城東中学校です。『蛙を一匹持参する事』となっていました。


 さぁ、大変です。


 今から田んぼに行く時間もないし、思案にくれながら職員室の窓を開け、窓の下をふっと見下ろすと、湿った土の上に茶褐色の、いぼだらけの蟇蛙がドッカと座ってこちらを見ています。20センチ以上もある大きさで、ゆったりとした動作で、王者の風格さえ感じられました。


 私は元来、このような生き物は苦手で、見るのも気味が悪いのです。とはいえ、『蛙一匹、持参する事』という文字が思い出されます。用務員さんから魚を入れる籠を借りて、職員室の外に出ると、蟇蛙を捕まえ、籠に入れて蓋をしました。


 城東中学校の理科室が会場でした。その頃は、魚や蛙の解剖は、教科書には載っていましたが、授業でやるような経験者は殆ど居なかったのです。講師は、城東中学校の新川先生でした。一通り、解剖の基礎の説明を受けた後、それぞれ持参した蛙の解剖が始まります。

 他の先生は、雨蛙とか小さな蛙が殆どでしたが、それでも、私は内心震えていたのです。籠を机の上に置いたまま、腕組をしてじっと籠を見つめていました。新川先生が私の横まで来ると、

一人ひとり先生、どうしました?カエルが居ないのですか?」

と訊きます。

「いることはいるのですが、手に負えないのですよ。」

と答えると、新川先生は籠の蓋を開け、中を覗いて、

「これは見事!」

と言って、大きな鉤バサミのようなものを持ってきて、私の横に座りました。


 そのままメスなどを使って、テキパキと解剖を始めたのです。あの王者の風格を持った蟇蛙も、新川先生の手に掛かると、白い腹を上に向け、あっという間に解剖されてしまいました。鮮やかな手さばきに見とれていると、試験管より大きな標本用のガラス管の筒にアルコールのような液体を入れ、口・食道・胃・腸等を順序良く並べて、外側に、丁寧にそれぞれの名称を書いたラベルを貼り付け、参加者の先生方に見せながら、

「これが、一人先生の蟇蛙の標本です。」

と紹介してから私に渡します。

 嬉しいような、恥ずかしいような、気味が悪いような、複雑な感覚が入り混じった気持ちになりました。



 理科教育は、『観察・実験・考察といった過程の中で、児童の科学的思考力の育成を図る。』という新教育の時代がやってきたのです。



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