025 『体育祭』
『体育祭』
「うー、サボるなんてずるいですよ、先輩……」
いつものように部室に来た僕は、先輩の姿を見るなりそう言った。
「あら、サボってなんかないわよ?」
そう答える先輩に疲れは見えず、平気な様子だ。昨日は一日体育祭があったというのに。
「だって先輩、全然疲れてないじゃないですか……!」
もしちゃんと参加していたのなら、こんな元気はないはずだ。全生徒何かに参加しなればならない上、どれもがやたら疲れる類の競技の体育祭だったのだから。
「まったく、君は想像力が弱いわね。疲れずに乗り切る方法なんて、いくらでも存在するものよ? まぁ今年が始めての君にとっては難しいことなのかもしれないけれど」
「そんなのあるなら教えておいてくださいよ。知ってれば、こんなに筋肉痛とかで悩むこともなかったのに……」
「こういうのは、自分で考えて見つけるものなのよ。そのためにも一度は疲れきる経験をしないと。それに、君だけ最初から楽をするのはなんだか気に入らないもの」
「それ、絶対後のほうが本音ですよね? というか、先輩そもそも、体育祭にいなかったじゃないですか。最初から最後まで、先輩が競技に出てるの見ませんでしたよ」
疲れないとしても、参加していたなら絶対に見ているはずだ。基本的に学年ごとに競技時刻は違うから、ちょうど先輩が出てるとき僕が競技に参加して見逃したという可能性もない。
「そんなことないわ、ちゃんと笑わせてもらったわよ、君がゴール手前でこけたシーンも」
「なっ、何故それを……!? なら本当に、来てたって言うんですか」
まさか一方的に見られていたなんて。しかも、一番恥ずかしい場面を。僕からはまったく先輩を見つけられなかったのに、あちらからは見られていたなんてなんだか納得いかない。
「ふふっ、理不尽だとでも言いたそうな顔ね。仕方ないわね、ちょっと部室から出ていなさい」
「なんなんですか、もう。まぁ出ろって言うなら出ますけど、変なことはやめてくださいね」
色々思うところはあるけれど、言われたとおり部室から出る。――そのまま、待つこと数分。
「いいわよ、入ってきなさい」
そう先輩に促され、扉を開けた俺を待っていたのは――、
「ちょっ、なんでそんな格好してるんですか、先輩!?」
――体操着姿の先輩だった。小柄な先輩には、似合いすぎているぐらいマッチした服装だ。
「あら、私だけ体操着姿を見せなかったのが不公平だ、と思っていたんじゃないの?」
「違いますよ、そんなこと別に思ってませんから!? 人を何だと思ってるんですか!?」
「そうなの。折角君が喜ぶと思って、ハーフパンツじゃなくブルマにしておいたのに」
目の保養にはなったけど、なんだか僕の株がどんどんあらぬ方向に落ちている気がする……。
運動着姿の先輩。
ちなみに、一見何の変哲もない話ではありますが、実は重要な伏線になってたり、なってなかったり。
まぁ地味に色々なところに変な伏線あったりします。
例えば、前々回の催眠術と、七話の七不思議とか。
そんなところも愉しんでいただけたなら幸いです。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。