026 『心配』
『心配』
僕は部室の鍵を持っていない。けれど、それで困ったことは今まで一度もなかった。どれだけ僕が早く来ようとも、活動日の放課後は先輩がいつも先にいてくれたからだ。
「なのに、今日はどうしたんだろう?」
放課後、いつものように僕が部室に来ると、扉は閉まり、中に人のいる気配もなかった。そして、鍵を持ってない僕にはどうすることも出来ず、ただ部屋の前で待つことしか出来ない。
最初のうちは、珍しく先輩が遅れただけなのかな、とも思っていた。
しかし、十分、三十分、一時間、――どれだけ経っても先輩が現れる気配はない。
「もしかして、なにかあったんじゃ……?」
とたんに心配が渦巻いてきた。仮定好きな先輩の影響か、次々と嫌な想像が浮かんでくる。
――たとえば、登校途中、曲がり角から車が走ってきているのに、先輩はそれに気づかず、
――たとえば、幼い容姿の先輩を狙った変質者が、先輩の隙を付いて後ろから襲い掛かり、
――たとえば、宇宙からやってきた未確認飛行物体に遠い宇宙へ連れ去られてしまったり、
……いや、流石に三つ目はないか。いくらなんでも、UFOはないだろう。
「けど、部室に来てないってことは何かあったのかな……」
中等部でも違和感のない見た目だし、僕をからかったりはするけれど、それでも先輩はやるべきことはしっかり守る人だ。だから、何の理由もなしに彼女が部活をサボるとは思えない。
「だからこそ、何の連絡もないのが心配になるんだけれど」
正直なところ、部室に入れないことは気にしていない。一人で部室にいても何の意味もないのだから。ただ先輩のことが心配で、気になるのだ。けれど、それを知るすべは僕にはない。
「今日に限っては、先輩の秘密主義がうらめしくなるなぁ……」
先輩の名前、もしくは何年何組かだけでも分かっていれば職員室などに行って聞くことも出来たのだけれど。せめて携帯の番号ぐらい教えてくれていれば連絡が付いたのに……。
そんな風に待ち続け、そろそろ下校時刻にさしかかろうというとき、その人物は現れた。
「おぉまさか本当に待ってるとは。ごめん、部活に参加してたら伝言すっかり忘れててさ」
彼、――否、彼女は少し申し訳なさそうに言った。そう、前に僕が恋人と勘違いした、中性的な先輩の友人である。さっきまで運動していたのか、少し汗ばんだ体操着姿のままだ。
「伝言って、もしかして先輩からですか?」
「うん、モモ、って言っても分からないか、まぁその先輩から伝言だ。『風邪で学校に行けないから今日の部活は中止にするわ、ごめんなさい』ってさ。伝えるのが遅くなってすまないね」
「いえ、先輩の来なかった理由が分かっただけでも十分です。ありがとうございます」
時間的にはもう下校時間だから伝言の意味は無いが、心配がなくなっただけで十分と思えた。
しかし、事実は小説より奇とはいうが、そうそう小説のようなことはおこらないらしい。
珍しく先輩が出ない&二人以外のキャラの登場。
事実は小説より気なりとは言うけれど、正直小説の方が大体奇抜というお話。
それでは明日もよろしくお願いいたします。




