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黒の旅人  作者: 夏候燕
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自分を基準にすると、間違われるから気を付けろ!!

 俺がこの世界に来てから、早くも十年が経った。

 この十年は前世とは比べようもなく濃密だったと、俺は胸を張って言えるだろう。

 さらに、十年間の修行(研究)により、基本の四属性に加えて氷と爆の二属性を使いこなすことに成功している。

 この二属性は字の通り、氷と爆発を発動させる属性である。

 まあ氷はわかるとして、爆は初めて使ったときに何て使いづらい能力だと思ってしまったのは悪くないと思う。

 しかし、扱い馴れてしまえばこれほど戦略的に考えて強い属性は無いと思えてしまったのだ。

 簡単に言おう。

 「キュッとして、ドカーン」が、リアルでできた。

 能力の練習中に言霊の凡庸性について研究していたら、自分が確固としたイメージができていれば、そのイメージに沿った効果を発動できるのでは?と考えてしまった。

 ここからは簡単だ。

 先ほど考えついた仮定が正しいのかどうかの実験で、これまで使用してこなかった爆属性を試してみようと思い、爆発関連の台詞で思い付いたのが「キュッとして、ドカーン」だったのだ。

 実行した瞬間、泉の中を優雅に泳いでいたお魚さん(名前は知らないけど、一応白身魚)が爆散し、泉の水量が減った挙げ句、岸に他のお魚さんが打ち上げられた。

 これを見た俺は、当然の事ながらこの技を封印し、晩飯に大量のお魚さんが並んだのは言うまでもなかろう。

 足が震えていたのは、もしかしなくても武者震いだ。

 他にも、この森に住んでいる三本足のカラスはどこを食べてもササミっぽかったり、熊の手が異常に美味かったり、余った食材でこつこつと保存食品(主にお魚さんの開きや、乾燥させた熊肉)を作ったりして、この十年は過ぎていった。

 そして俺は今、森を散策している。

 実はこの十年間この森を捜索しているのだが、一向に街道や村、里に出るところが見当たらないのだ。

 そこで週に三回、能力の訓練を終えたら、ご飯のおかず獲得を兼ねて森を捜索しているのだが、この十年間一向に手がかりが見当たらない。

 そして今日も、散策している俺である。


「よっと。……ふぅ。今日の晩飯はこいつで決まりだな」


 そう言って、木から地面に下ろした鹿の腹を裂いて内臓を取り出し、皮を剥ぎ、手頃な大きさに切り分けた肉のブロックを、肩に掛けていた鹿の革で手作りした鞄に入れて行く。

 もちろん、血抜きはしておいたから、ここまでの作業で身体が汚れることはなかった。

 この世界に来た初日は、熊の内臓を見た瞬間に吐いてしまっていたと言うのに、今では何も感じずにこなしてしまっている自分に、馴れって怖いな、とか場違いなことを思ってしまった。

 鞄も一杯になり、皮も収納したところで立ち上がり、散策を開始しようと思い、歩み始めた。

 次の瞬間、常に展開させている気のレーダーに、何かが引っ掛かった。

 レーダーと言ってもそれほど精度の良いものではなく、自分を中心にして、どのぐらい離れたところに何かがたぶんいる、ぐらいにしか反応しないものだが……。

 そこで俺は気を集中させ、レーダーの制度を高める。

 限界まで高めたところで、三人組の人間が狼の群れに襲われているところだとわかった。

 …………人間!?

 ……うむ、間違いない。二本の足で走っているし、二人が騎士のような格好で剣を握っており、残りの一人が魔法使いだと思われるローブを着込み、肩まである杖を持っている。

 前世ぶりの人間だ。

 ここは情報を手に入れたい所だし、会話が恋しいので助けるとしよう。

 そう思い、俺は駆け出した。






「くそっ、騙された!!」


 そう悪態をつきながら、相棒のルークは剣を振るった。

 俺ことクルス・ルーネシャイズは今、国の外れに位置する森[太古の森]にいる。

 ここは様々な魔獣が生息している森であり、その危険性から冒険者ギルドでもAランク以上を所得したものでなければ立ち入りを禁止している森なのだ。

 しかし、俺たちはまだBランク。

 なぜこの森にいるのかと言うと、依頼内容の魔獣と実際にいた魔獣が異なり、森に追い詰められてしまったからだ。 今回の任務は、本来ならばCランクの魔獣[ウェア・ウルフ]を十匹の討伐というBランクの依頼の中でも比較的楽な依頼だったのだが、実際にその場所にいたのはその上位種である[ハイウェア・ウルフ]だったのだ。

 [ハイウェア・ウルフ]はBランクの魔獣に数えられるが、その魔法抵抗力の高さと毛の剛毛さ、さらには常に群れで行動をしているため、こいつらの討伐を受注できるのはAランクの冒険者のみと定められている。

 そんな魔獣が十匹。

 俺たちはなんとか牽制をしながら逃げてはいるが、いつ殺られてもおかしくはない状態なのだ。


「きゃっ!?」


 後方から小さな悲鳴が聞こえたので振り返ってみると、俺たちのメンバーで唯一の女子であり、魔法使いであるエリスが木の根に足を引っ掻けて、地面に倒れている姿だった。


「エリス!?」


 ルークが急いで引き返すが間に合わないだろう。

 何故ならば……


「エリス、後ろだ!!」


「え?」


 ……すでにエリス目掛け、ハイウェア・ウルフが跳んでいたからだ。


「……氷よ、防げ」


 しかし、そこで不思議なことが起こった。

 何処からか聞こえてきた声。

 そして、何もない場所(・・・・・・)に頭をぶつけて地面に落ちて行くハイウェア・ウルフたち。

 あまりの出来事にルークも足を止めてしまっていた。


「大地よ、捕らえよ」


 さらに言葉が聞こえ、その言葉の通りに地面が蠢き、ハイウェア・ウルフたちの四肢を地中に埋め込んでしまった。

 声の聞こえてきた方向を向くと、そこには黒いズボンに黒いシャツ、さらには黒いローブを着て、肩に鞄を背負っている、全身黒ずくめの男がいた。

 その男は、なんの警戒もせずにハイウェア・ウルフたちに近づいて行き、丁度ルーク辺りのところまでたどり着くとポツリと言葉を発した。


「風よ、断て」


 そう呟いた次の瞬間、身動きのとれないハイウェア・ウルフたちの首が、風によって切り落とされ、辺りに濃厚な血の臭いを漂わせ始めた。

 なんなのだあの男は。

 あの男が唱えた魔法は、明らかに普通の魔法よりも威力の落ちる[ショートカット・スペル]だった。

 だと言うのにあの男は、魔法抵抗力の高いハイウェア・ウルフを意図も簡単に殺して見せた。

 それは明らかに異常だ。

 Sランクの魔法使いならばできるやも知れないが、今のところSランクに魔法使いは二人しかいない。

 この男は、Sランクの魔法使いと同等だと言うのか……!?

 しかし、男は俺たちの事は眼中に無いらしく、エリスの隣を素通りし、ハイウェア・ウルフの死体の前に立ち、顎に手を当てながらこう言い放った。


「う~ん。……わん公って食えたっけなぁ」


 直後、俺たちが硬直したのは言うまでもないだろう。

 やっとこさ、新たな世界の人間を出せました。

 これで主人公の異常さが伝わればいいなぁ……。

 さて、いつもながら批判、感想、誤字脱字のご指摘などお待ちしています。

 では、また来週ノシ




 八月二十五日改訂

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