除草はだれがやる
「嫌だ」
「なんで!」
『虫に草を食わせるなど、我の威厳が!』
「昨日まで飛蝗に畑食わせてたじゃん!」
『それは破壊だ!』
「食べる場所変えるだけ!」
『全然違う!』
「同じ!」
『違う!』
「プリンあるよ」
『やる』
「早っ!」
*
プリンの農作業。
初日。
「食べていい草だけね」
『分かっている』
「これ」
『うむ』
「これは駄目」
『うむ』
「これも駄目」
『うむ』
「葡萄絶対駄目」
『何度言う!』
「前例があるから!」
『我は間違えぬ!』
「シロイチも最初そう言った」
『俺は言っていない!』
「いたの?」
『なぜ私まで!』
*
虫が集まる。
「うわ」
小さな虫。
芋虫。
甲虫。
「気持ち悪い」
『失礼な!』
「プリンじゃなくて虫!」
『我の眷属だ!』
「じゃあちょっと失礼」
『ちょっとならよい』
「いいんだ」
虫たちが。
雑草へ集まる。
「食べてる」
速い。
鳥とは違う。
細かいところまで。
「作物は?」
「無事です」
農民が確認する。
「すごい」
『当然だ!』
「これなら」
草取りの手間が。
かなり減る。
「学校」
凛が呟く。
『またか』
「何?」
『お前は何でも学校につなげる』
「だって」
子供の仕事。
草取り。
それが減れば。
「学校行ける時間増えるじゃん」
*
「畑を増やします」
「え?」
農民が言った。
「草取りが楽になるなら、向こうも耕せます」
「……」
凛は固まった。
前にも。
同じことがあった。
シロイチの鳥。
仕事が減った。
だから。
余った時間で畑を増やした。
「またかー!」
「何がです?」
「いや!」
忘れていた。
「時間が空いたからって学校行くとは限らない!」
「当然でしょう」
「そうだった!」
農民が笑う。
「でも」
「はい?」
「うちの下の娘は行かせます」
「学校?」
「はい」
「畑増やすのに?」
「上の子と私でできますから」
「本人は?」
「行きたいと言っております」
「じゃあ」
凛は笑った。
「よかった」
全員ではない。
それでいい。
*
米の収穫。
ベガが残した田。
最初の大騒ぎほど。
参加者はいなかった。
「少ない」
「前に聞いたでしょう?」
リゲルが言う。
「米を作りたい者だけです」
「うん」
それでも。
何十人かいる。
「去年より増えた?」
「食べてみて気に入った者が」
「おにぎり?」
「餅も」
「酒も!」
バッカスが叫ぶ。
「あなたは黙って!」
「米の酒を造れ!」
「そのうち!」
「いつだ!」
「忙しいの!」
「なら俺が!」
「勝手に造るな!」
モモが横から。
「私もやる」
「モモまで!」
「面白そう」
「じゃあお願い」
「俺は?」
「二杯」
「なぜだ!」
*
刈った米。
束ねる。
運ぶ。
凛も働いた。
「リン」
「今日はいいでしょ!」
「何も言っていません」
「止める顔だった」
「無理をしないように、と」
「分かってる」
泥。
汗。
「領主夫人なのに」
「今さらですね」
「うん」
凛は笑った。
*
休憩。
おにぎり。
「やっぱりこれ!」
「リン様、本当に好きですね」
ジェネが呆れる。
「日本人だから!」
「私も好き」
マイが言う。
「本当?」
「うん」
「仲間!」
その隣。
カスル。
ポクル。
「ポクル、勉強どう?」
「字いっぱい覚えた」
「船は?」
「行く」
「お母さんに言った?」
「……言った」
「どうだった?」
「泣いた」
「そっか」
「怒った」
「そっか」
「でも」
ポクルが笑う。
「勉強はしていいって」
「よかった」
「船は?」
「まだ駄目」
「そっか」
「でも、俺行く」
「喧嘩しないでね」
「うん」
「リルラさんと一緒に考えよう」
「うん」
まだ。
何も決まっていない。
それでいい。
*
「カスルは?」
「俺?」
「何か見つかった?」
「うん」
「え!」
凛が身を乗り出す。
「何?」
「田んぼ」
「……田んぼ?」
「面白い」
「本当?」
「水動かすの」
「ああ」
水路。
水位。
土。
「田んぼやりたい?」
「分かんない」
「どっち!」
「でも面白い」
「それでいいか」
弟は。
海へ。
兄は。
田へ。
同じ家。
同じように育った。
それでも。
見ている方向は違う。
*
夕方。
収穫した米を前に。
村人たちが食事をしていた。
誰かが酒を持ってくる。
誰かが野菜を持ってくる。
魚。
肉。
パン。
「これ」
凛は周囲を見る。
「前から?」
「何がです?」
「こういうの」
「収穫のときは普通ですが」
「そっか」
持ち寄る。
手伝う。
笑う。
足りないところへ。
余ったものを回す。
「何もない国じゃなかったんだ」
「リン?」
「ううん」
最初。
凛は。
アンジェルを。
貧しい国だと思った。
確かに。
物は少ない。
金も少ない。
学校もなかった。
でも。
何もなかったわけではない。
凛が知らなかっただけだ。
*
「お方様!」
サエが走ってきた。
「何?」
「明日の学校ですが」
「うん」
「生徒が増えます」
「何人?」
「大人を含めて二十七人」
「増えた!」
「時間を分けます」
「先生一人で大丈夫?」
「無理です」
「即答!」
「クルムさんと」
「うん」
「リン様も」
「私!?」
「手伝ってください」
「何教える?」
「農業」
「それ学校で?」
「アンジェルの学校ですから」
「あ」
凛は笑った。
「そうだった」
「それから」
「何?」
「ポクルが海のことを教えてほしいと」
「私に?」
「船に乗ったことがあるのでしょう?」
「あるけど」
「では」
「分かった」
学校で。
畑を教える。
海を教える。
文字を教える。
計算を教える。
物語を読む。
「何でもありだな」
「駄目ですか?」
「ううん」
凛は笑った。
「その方がいい」
子供たちが。
何に興味を持つか。
誰にも分からない。
だから。
いろんなものを見せればいい。
その中から。
自分で。
選べばいい。
アンジェルの学校は。
少しずつ。
学校らしくない学校に、
なり始めていた。




