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鳥に草取りをさせてみた

「もう一回やる」


『嫌だ』


「今回はちゃんと考えた」


『前回もそう言っていた』


「言ってない」


『同じようなものだ!』


 朝からシロイチがうるさい。


 凛は畑の前で腰に手を当てた。


「今回は小麦を抜かない」


『当たり前だ!』


「作物と作物の間はやらない」


『ではどこをやる』


「ここ」


 畑の外周。


 そして畝と畝の間に広く取られた通路。


「大きい草だけ」


『鳥に大きさを見分けろと?』


「できない?」


『その程度ならできる』


「できるんじゃん」


『細かな種類を見分けるよりは簡単だ』


「じゃあ」


 凛は木の棒を地面へ立てた。


「ここからここまで」


『何だそれは』


「範囲」


『分かる』


「この高さより大きい草」


『分かる』


「小麦には近づかない」


『分かった』


「抜いた草は」


『まだあるのか!』


「端に集める」


『鳥使いが荒いぞ!』


「肉増やす」


『どれくらい』


「昨日の一・五倍」


『二倍』


「一・五」


『二』


「一・七」


『二』


「……交渉上手くなったね」


『誰のせいだ!』


「分かった、二倍」


『よし』


 ジェネが呆れている。


「魔と肉の量を交渉する領主夫人を、初めて見ました」


「私も初めてやった」


「でしょうね」


「始めるよ!」


 シロイチが空へ向かって鳴く。


 鳥たちが集まる。


 前回より多い。


 三十。


 五十。


 さらに。


「すご」


 畑の周囲が鳥だらけになった。


「怖くない?」


 ジェネが一歩下がる。


「少し」


『今さら恐れるな!』


 鳥たちが一斉に動き始めた。


 草をつつく。


 引く。


 運ぶ。


「あ」


 凛は身構える。


 一羽が小麦へ近づく。


『戻れ!』


 シロイチが鳴いた。


 鳥が方向を変えた。


「シロイチ」


『何だ』


「ちゃんと見てるじゃん」


『当たり前だ』


「偉い」


『子供扱いするな!』


「褒めたのに」


 しばらくすると。


 目に見えて草が減った。


「速い」


 畑の持ち主も驚いている。


「これなら人がやるより」


「どれくらい?」


「二日はかかります」


「二日?」


「家族でやっても」


 凛は空を見る。


 太陽はまだそれほど動いていない。


「半日もかからない」


「でしょうな」


 全部を任せることはできない。


 作物の近く。


 細かな草。


 そこは人がやる。


 でも。


「粗取りだけでも鳥に任せたら」


 人間の作業時間はかなり減る。


「その分、何する?」


 凛が尋ねる。


 畑の男が首を傾げた。


「何を、と言われましても」


「時間空くでしょ」


「別の畑へ行きます」


「……そうなるか」


 凛は笑った。


 農家だ。


 暇になったから休む、とは限らない。


「畑広げる?」


「できれば」


「収入増える?」


「収穫が増えれば」


 労働時間を減らせば、子供が学校へ行ける。


 凛はそう考えていた。


 だが。


 浮いた労働力を、さらに生産へ回す人もいる。


 ただ、それで家の収入が増えるなら。


 いずれ子供一人が半日畑を離れても困らなくなるかもしれない。


「時間だけじゃないんだ」


「何がです?」


「学校へ行ける条件」


 畑の男には意味が分からなかったらしい。


 凛だけが頷いた。


     *


 昼過ぎ。


「終わった!」


 凛が畑を見る。


 完全ではない。


 でも外周と通路の大きな草はほぼ消えた。


 畑の持ち主と家族が、作物の近くだけ仕上げる。


「これなら使える」


『最初からそう言った』


「最初は小麦抜いたでしょ」


『お前の命令が悪い!』


「はいはい」


 凛はシロイチの頭を撫でようとした。


『触るな!』


「ケチ」


『魔王様の配下だぞ!』


「草取りしたけど」


『言うなーっ!』


 ジェネが腹を抱えている。


「笑いすぎ!」


『お前もだ!』


「だって魔王軍の仕事が草取りって」


『違う!』


 騒いでいる横で。


 凛は一人の少女に気づいた。


 マイ。


「何してるの?」


「見に来た」


「畑は?」


「今日は早く終わった」


「なんで?」


「鳥」


 マイがシロイチを指す。


「うちの畑の周りもやってくれた」


「え?」


 シロイチを見る。


『ついでだ』


「頼んでないよ」


『同じような草だったからな』


「働き者じゃん」


『違う!』


「お肉三倍?」


『二倍でよい』


「欲がないなあ」


『黙れ』


 マイは地面へ座った。


 細い棒を持っている。


「何するの?」


「字」


「字?」


「この前教えてもらった」


 土へ文字を書く。


 マイ。


 自分の名前。


「誰に?」


「お母さん」


「ほかは?」


「これ」


 父親の名前。


「もっと覚えたい?」


「うん」


 凛も隣へ座った。


「じゃあ」


 地面へ一文字書く。


「これは?」


「知らない」


「私の国の字だからね」


「何?」


「読める?」


「もちろん」


「何て読むの?」


 凛は笑った。


「米」


「こめ?」


「私の大好きな食べ物」


「この国にないやつ?」


「そう」


「食べてみたい」


「私も食べたい」


 二人で笑った。


 凛は今度はこちらの文字で、マイに簡単な言葉を教えてもらう。


「待って。私が教えるんじゃないの?」


「お方様、字下手」


「しょうがないでしょ!」


「ここの曲がり方違う」


「先生厳しいなあ」


 ジェネが遠くから笑っている。


 凛は気にしない。


 土の上。


 少女と領主夫人が並んで文字を書く。


 学校ではない。


 先生もいない。


 机も本もない。


 でも。


「これでも勉強だよね」


「べんきょう?」


「覚えること」


「じゃあ勉強」


 マイが笑う。


 今日。


 鳥が草を取った。


 その分、ほんの少し時間ができた。


 その時間で、マイは文字を書いた。


 たったそれだけ。


 でも、凛には大きかった。


「……これだ」


「何が?」


「ううん」


 凛は土に書かれた文字を見る。


 学校を作る。


 その前に。


 **学べる時間を作る。**


 そして、その時間を家族が安心して手放せるだけの暮らしを作る。


 学校への道は、


 畑の中から始まっていた。


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