八話〖絶望と希望〗
「な、なに!?!?!?!?」
爆発音がしてから天子が起き上がって辺りを見回すまでの数秒。
その間に怒楽と流水は部屋に2か所ある窓から周辺の状況の確認をしていた。
表情は険しく、崩れていた衣服はとうに直されている。
「ぞろぞろ来やがって、、。そっちはどうだ?」
「こちらもです。囲まれているようですね」
「そのようじゃな」
ひとつ奥の部屋で寝ていた三途が遅れて合流した。
幸い、誰も怪我を負っていなかった。
「天子。あいつは居るか?」
「ちょっと待ってね」
まだ状況を上手く飲み込めていない寝惚けた頭を無理矢理起こして意識を集中させる。
蛇の目を開いて家の外を見回すと、周囲には数十人の気配を感じられた。
だが、そこに怒楽の言う〝あいつ〟の姿は無かった。
「居ない、、、けど数が多いよ。50人は居ると思う」
「1人あたり十数人ですか、、。少し骨ですね」
「三途さんも入れるの、、?」
「天子、、、。心配するだけ損だぞ」
艶やかな白い着物に白い肌。
線の細い身体に日本舞踊のようなしゃらりとした動き。
天子の目には、三途はどうにも戦闘向きには見えなかった。
「ふふふ。新鮮な経験じゃの、心配されるというのは」
「ご、ごめんなさい」
「よい。そのまま育つのじゃぞ」
不定期的に爆発音が轟く。
外からは怒号も聞こえた。
だが、まるで結界でも張っているのかと見紛うほど、部屋の中は別空間のような何ともいえない時間が流れていた。
「2人は赤鮫のところへ向かうのじゃ」
「相手は50人だぞ!?分かってんのか!?」
「厄介なやつがおるのじゃろう?向こうには」
伝承5人掛かりで傷を負わせることすら出来なかった大蛇。
その姿が見えない事が、3人の不安を募らせていた。
向こうには今2人。
万全の準備が出来ていたとしても立ち向かえるかどうかは怪しかった。
「安心せい。お主らに心配されるほど耄碌はしとらん。それに、天子の力を借りれば瞬きの間に終わる」
「、、、分かりました」
「ついでに何人か減らしていくか。天子」
「あっちが一番抜けやすいし近道だと思う」
「おう!」「はい!」
取り囲む敵達が持つのは爆弾や剣や槍。
2人が数人減らしたところで2対50では倒し切れないのではないかという不安が天子の胸中にあった。
それに、手の内を知っていて連携出来る2人とならまだしも、共闘するのは初対面の三途。
どう力を貸せばいいのか、どう動けばいいのか。
本当に勝てるのか。
既に2人きりになってしまった部屋で、絶え間なく聞こえる怒号に怯えながら冷や汗を掻いた。
「天子。まずは索敵じゃ。詳細な敵の位置を把握出来るかの?」
「はい!」
蛇の目を開き、瞼を閉じて集中する。
視覚情報は遮断しているが光の筋は見える。
正確な敵の数は54。
その全てに光の筋を繋げたまま、天子は三途に合図をした。
『いるのは分かってんだぞゴラァ!!!』
『爆弾どんどん投げこめ!!!』
「敵の位置に意識を集中させたまま、わらわの目を見るのじゃ。そう、ゆっくりで構わぬ」
部屋の壁は手榴弾でどんどんボロボロになっていく。
屋根が、壁が。
色んな方向から崩れていく音が聞こえた。
「そのままわらわに感覚を共有するのじゃ」
「共有、、?」
「口で伝えるのではなく目で伝える。お主の力ならそれが出来る」
自分が見ている景色を共有、、?
した事も無いし出来る気もしない、と天子は思った。
(確信を持ってるって事はお父さんは出来たんだろうな、、)
三途の揺るぎない確信の籠った目を見て天子は少し悔しくなった。
力の使い方が少し上手くなって、2人にも勝つことが出来た。
でも自分にはまだ知らない力の使い方があって、三途はさも当たり前にその使い方が出来るだろうと言わんばかりの目で自分を見てくる。
ただ譲り受けただけと思っていた力に対するプライドが、襲い来る怒号の中で天子の中に芽生えた。
(伝われ、、伝われ、、伝われ、、、!!)
気付けば周囲の騒音は天子の耳に届かなくなり、ただ一点、三途の目にだけ意識を集中させた。
やり方は分からない。
知識もない。
ただ自分の頭の中にある映像を伝えたいという気概のみ。
その一心で真っすぐに目を見つめ続けた。
「ふむ。少し距離が離れているが問題は無さそうじゃの」
「はあ、、はあ、、、」
意識が自分の目と三途の目だけになった瞬間、天子は自分の頭の中を共有しているというはっきりとした感覚が浮かんだ。
証明出来るものの無い感覚だけの世界だが、確かにあった。
「上出来じゃ。次はわらわの番じゃな」
2人と戦って勝利を収めた時のような疲労感を天子が襲った。
ただ真っすぐ目を凝らしていただけなのに。
こんな状態では共闘が出来ない。絶対に足手まといになる。
そう心配する天子の頭を三途は優しく撫でた。
赤鮫のものとは違う、柔らかく包み込むような撫で方。
力強く大丈夫だと伝えてくるものは無いが、もう頑張らなくていいんだという安心感があった。
「力を使うところは見られたくないのでな。目は閉じていて貰うぞ」
頭を撫でたその手で天子の瞼を優しく閉じる。
疲労困憊の天子はその場に力なく座り込んだ。
「ふぅ~、、、、」
『居たぞ!!あそこだ!!』
目を閉じ、緩やかな動きで両手を広げた三途が身体中の空気を優しく吐いた。
だらりと下げられた腕の先から、少しずつ変態が進んでいった。
腕が、首が、顔が。
灰色の鱗で覆いつくされていく。
『かかれ!!!』
『『『『『うおおおおお!!!!』』』』』
ゆったりとした所作とは正反対の荒々しい動きで、バキバキと崩れた木材を踏みしめて敵が突入してくる。
まるで三途が世界の中心かのように、数十人分の動きがスローモーションで流れた。
「灰も残らず燃え尽きるがよい。奔れ─────黄泉の雷」
『死ね───』
いの一番に三途に襲い掛かった男が雷に焼かれ消失する。
『自由は私の───』
呆けている天子を槍で刺そうとした女が雷に焼かれ消失する。
『俺が───』
『俺様が─────』
『くらえ───』
飛び掛かる全ての敵が一瞬にして雷に焼かれて消失した。
三途の言葉通り、灰すら残らずに。
「綺麗、、、、」
いつの間にか手にしていた扇子を振るい、舞い散る桜のような優雅な雷を纏う三途の姿を見て天子が零す。
固く閉じられていた瞼は開き、消失する敵達など気にも留めず一心に三途を見つめた。
鋭く危険な雷ではなく、柔らかく優しい雷。
こんなにも綺麗な姿を何故見られたくないのか。
天子は理解が出来なかった。
「あ、、、」
吸い寄せられるように近付くも三途は力の行使を終えて完全変態を解いた。
天子の目には落胆の色が浮かんでいる。
「天子」
「は、はい!」
急いで元の場所に戻って目を閉じたが見ていた事がバレただろうか。
放心状態だった天子は我に返り滝のような冷や汗を掻いた。
「索敵をしてみよ」
「は、はい!」
言われた通りに蛇の目を開き周囲に意識を広げる。
部屋の中、家の中、家の外。
どれだけ範囲を広げても、力の使い方を忘れてしまったのかと思うほどになんの反応も無かった。
「誰も、、居ません」
「上手くいったようじゃの」
料理の味付けが上手くいった時のように、漬け置きしていた洗剤を流したら汚れが綺麗に落ちていた時のように。
まるで大したことではないように三途はからからと微笑みを浮かべた。
天子が何度力を行使しても敵の影はひとつも無く、死体も無い。
残されたのは敵が持っていた武器だけだった。
「どうやって、、、」
「女子の秘密はそう易々と知れるものではないぞ?」
揶揄うように三途がくすりと微笑む。
先程までの神秘的な綺麗さが重なって、天子は頬を桜色に染めた。
天子が自分の知らない感情に対する戸惑いを落ち着ける事が出来たのは、武器を回収して隠し、赤鮫の下へ出立してからだった。
「なに、、、これ、、、、」
約1日ぶりに戻ってきた天子の目に飛び込んできたのは、荒れ果てた砂浜と数十の死体。
それと砂浜に突き刺さる100を超える氷の剣だった。
増援が間に合っていたとしてもたった4人の戦力。
出雲の範囲攻撃があるとはいえ、この悲惨な状況を見るに相当な戦力差があるように感じられた。
「怒楽ー!流水ー!!!」
大声で叫ぶも返事がない。
まさか、、、。
嫌な予感が天子の脳裏を駆ける。
まさかそんな、、、、。
目の前が真っ暗になりかけた天子の肩に三途が優しく手を添えて引き戻した。
「力を使うのを忘れておるぞ」
試して当たり前の事すらしていなかった天子は、そこで漸く冷静さを失っていた事に気が付いた。
(怒楽は、、、居た。流水も赤鮫も居る、、)
光の筋は真っすぐ赤鮫の家を指し示していた。
2人の姿もそこにある。
だが、出雲だけが追いきれないほど遠くに居た。
「アヤツは阿呆じゃ。残党を追い掛けているんじゃろう」
出雲さんだったらそうしそうだなと、苦笑いと共に天子はほっと胸を撫で下ろした。
大怪我をしているかもしれない。
意識を失ってるかもしれない。
それでも今の段階で命を落としていない事実は、焦りで周りが見えなくなっていた天子を落ち着けるには充分過ぎるほどの情報だった。
「行きましょう」
どれだけ遠くに行っているか分からない出雲は一旦放置の方針になった。
おそらく敵のものだと思われる奇跡的に無傷だった舟を漕いで、2人は赤鮫の家へ向かった。
「だらしのない姿じゃの」
到着した赤鮫の家の一室。
そこには無数の切り傷を負って寝込む赤鮫と、看病をする怒楽と流水の姿があった。
「まだくたばっておらんかったのか三途」
「こちらの台詞じゃ」
赤鮫の能力は赤いガマを植え付けて傷を吸い取り、白いガマを植え付けて傷を再現する。
でも何故か、意識が回復しているにも関わらず痛々しい全身の傷を治療せずに放置している。
包帯を通り越して布団に滲んだ血の痕が傷口の凄惨さを物語っていた。
「治療、、、」
「安心せい。既に手当はしておる」
心配して項垂れる天子の頭を、包帯が少ないほうの腕で赤鮫が撫でた。
隠してはいるが隠し切れていない不自然さを持った動きだった。
「力、、使わないんですか、、?」
「・・・」
涙を押し殺す為に必死に下を向く天子から、怒楽と流水の2人は顔を逸らした。
流れる沈黙と、自らの太ももに拳を打ち付けた怒楽の心象に、天子の問いへの答えは溢れていた。
「少し、天子と2人にしてくれるか?」
何か励ましの言葉を掛けようとして伸ばした手を引っ込めた流水と、痕が残るほど強く壁を殴りつけた怒楽と、静かに口を噤む三途。
三者三様の面持ちでその場を後にした。
良くない理由があることを、何も話さずとも天子は理解していた。
話を聞く耳に意識を集中させているのは、自分の想像には及ばないような、そんなのっぴきならない理由に期待しているからだった。
「天子。お主が考えている通り、ワシはもう力が使えん。大蛇らとの戦いで長く完全変態の状態でいてしまった」
長い長い洞窟の、出口とも言えぬ小さな穴に賭けるような希望はあっさりと打ち砕かれた。
天を仰ぐようにぼうっと天井の一点を見つめる赤鮫の姿を、天子は見る事が出来なくなってしまった。
「そう悲しんでくれるな。元々、いつ終わるかも分からん命じゃった。少し時期が早まっただけ。ただそれだけのことじゃ」
責任を感じる事はない。
赤鮫がそう続けた。
「残り1週。この身に残された期限はそれだけだろう」
「怪我が治っても、、ですか」
「ああ。伝承には身体があってないようなものでな、瀕死の重傷で無ければ身体の傷は大した問題ではない。伝承にとっての寿命とは、力の残量のことを指す」
現在の大蛇や天子のように元々自我と身体を持った存在が伝承を受け継いだわけではなく、赤鮫は伝承という力が人の形をしているだけの存在。
力を供給している心臓や脳が潰れたり伝達の媒体となる血液が失われれば死んでしまうが、構造や概念そのものは人間とは違っていた。
「天子にひとつ願いがある」
「嫌です」
「ワシの力を受け継いでほしい」
「いやいや、、嫌です」
いやいやと弱弱しく天子は首を振った。
せき止めていたはずの涙はとうに溢れていて、ぽたぽたとズボンを握りしめる手の甲に落ちた。
「放っておいても失う命だ。万が一その時近くに居たのがお主ではなく他の者で、その者に力が受け継がれてしまったら、、、。ワシは死んでも死に切れん」
「でも、、、」
長く使ってきた力だからこそ、赤鮫は自身の力の有用性をよく理解していた。
時には癒し手に、時には打たれ強さを無視する凶器に。
そんな力が敵に渡ってしまったら、、。
奪われてしまったが故に味方を苦しめる事になってしまった未来を想像して、赤鮫は強く奥歯を噛み締めた。
「でも、、でも、、、、」
赤鮫の想いは分かっている。
力を継ぐなら天子にという気持ちも、絶対に敵の手に渡したくないという想いも。
それでも、もしかしたら何か奇跡的な事が起きて命の危機を回避出来るんじゃないかという考えが、提案を受け入れる事を拒んでいた。
「優しい子じゃ」
軽く腕を伸ばすだけで届く位置まで下がっていた天子の頭を撫でる。
手から伝わる温かさに、天子の涙はどんどんと溢れ出した。
「では別の願いを聞いてくれるか?」
「なんです、、か」
「昔のように接してはくれんか?寂しい年寄りの願いじゃ」
赤鮫の願いは天子が想定していないものだった。
簡単な、それでいて難しい提案。
だが、もっと大きいものを断っている手前、断るという選択肢を取るのは天子にとって難しい事だった。
「わか、、、、、った」
「おじいちゃん、と呼んでくれるか?」
「うん、、、、。赤鮫」
「ほっほっほ。何よりの薬じゃなこれは」
「ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい!!!」
久しぶりに面と向かって言った〝おじいちゃん〟
文にしてしまえばただそれだけの事が、天子の涙を堰き止めていた最後の堤防を壊した。
謝りたかった事、伝えたかった事、本当はもっと甘えたかった事。
もっともっと一緒に暮らしたかった事。
今はまだ感情として流れ出すのが精一杯で言葉に出来ないそれらが、涙と共に流れ出た。
溢れて溢れて、大きく鼻水を吸って、また溢れて溢れて。
頭に感じる温かい感触に身を委ねながら、天子は伝承の1人ではなく、ただのおじいちゃんが大好きな孫になった。
「大好きじゃぞ、天子」
「ぼ、僕も、、。僕も、、、!うわああああああああああああああん」
言葉にはなっていない。
でも、ただそれだけで伝わった。
それだけで満たされた。
上げているだけで辛いはずの腕は、天子の頭を撫でているこの時間だけはまるで元々無かったかのように痛みが消え去るのだった。
「おじいちゃん、僕、力受け継ぐ」
泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いて。
ほんの少し落ち着いた天子は赤くなった鼻をすんすんと鳴らしながらそう言った。
「でも、せっかくまたおじいちゃんって呼べるようになったから、、その、、、、」
「ほっほっほ。みなまで言わんでもええ。幸い大蛇には手傷を負わせたからの。2週間は攻め込んでこれんじゃろ」
口籠る天子の頭を撫でながら、赤鮫は満足気に外に出た3人を呼び戻した。
「ワシは1週間後に天子に力を渡す。それまでは手狭ではあるがここへ住むといい」
「丁度わらわの家が崩壊したところじゃ。厄介になろう」
力を渡す。
それは赤鮫の死を意味する。
だが既に部屋の中には、先程までの重く苦しい空気は蔓延していなかった。
赤鮫と三途。
2人の年長者の手腕による結果だった。
「それまでは修行、、、じゃな」
にやりと笑う三途。
緩んだはずの空気が一段階引き締まった。
「どわああああああああ!!!」
「まだまだじゃのう」
天高く投げ飛ばされる怒楽。
砂浜に柔らかく投げ落とされ、羽交い絞めにされる流水。
2人よりも先に組手をして砂浜に大の字で休んでいた天子は、交代制でもうすぐ自分が動かなければならないという事実に絶望していた。
「あ、あの、、、!あの、、」
「どうしたのじゃ?♡」
既に勝敗はついている。
じわじわと締めて来る腕を流水がタップしている事からその事実は容易に理解出来た。
だが三途は気付かないフリをして流水とのスキンシップを楽しんだ。
組手開始早々怒楽を一手で投げ飛ばしたのはこれをしたかったからかと、天子は苦しそうな流水を見て苦笑いした。
「た、助けて、、」
「なんじゃ~?♡よく聞こえんの~~~♡」
襲撃から4日。
赤鮫は驚異的な回復力を見せてほぼ全ての傷を完治させていた。
それでも数日寝転んでいた反動は色濃くあり、全力を出した天子に体力負けを喫した。
身も心も元気に見える赤鮫だったが残された時間は僅か数日。
その間に少しでも体力を戻して力になれるようにと、少し離れた位置で走り込みをしていた。
「ババアアアアアアアアア!!!!」
「邪魔じゃ」
邪魔。
はっきりとそう口にした。
もう流水とスキンシップを取りたいだけという理由を隠す気はなかった。
「名残惜しいがこれくらいにしておくかの、、。天子ももう少し揉んでやらんと」
「お、お願いします!」
赤鮫を柔道の達人とするなら、三途は合気道の達人だった。
飛び込んでくる力、振り抜く四肢の力を利用して、その何倍にもして返す。
馬力があり猪突猛進型の怒楽は格好の的だった。
だが、力の使い方が上達した天子は無暗に飛び込まず、決定打にはなり得ない打撃を前後左右上下、様々な角度から放った。
全てを舞踊のような流麗な動きでいなされてはいるが、絶妙なヒット&アウェイを繰り返す天子に三途も決定的な反撃を出来ずにいた。
「今回はどれくらい体力が持つかのう」
腕を足を必死で繰り出す天子と違い、三途は微笑みながら話し掛ける余裕すらあった。
これまでの組手では毎回体力が切れて動きの精彩さが欠けたところを狙い打ちされて負けている。
このままだと今回も例に漏れずそうなるだろうと天子は理解していた。
(何か、、何か打開策を、、、)
天子の弱点は攻め手に欠ける事。
ある程度防御を捨てて飛び込んできてくれる相手に対しては、力を使って安全圏に避け続けて反撃をすればいい。
だが、防御とカウンター主体の三途には、待ちの姿勢を崩して攻めに出るしかなかった。
「ッ!?」
「ふふふ。それでよい」
必死で頭を回して必死で光の筋を追い掛けて。
極小のダメージではあるが漸く有効打が入った。
(なんで急に、、、?)
天子自身は何故有効打が入ったか理解出来ておらず、また先程までの繰り返しになった。
突然武器を使ったわけでもなく搦め手を使ったわけでもない。
それなのに何故か一撃入った。
答えの出ない疑問は、天子の動きを鈍らせるのに十分な要因だった。
「うわああああああああ!!!」
回転しながら綺麗な弧を描いて投げ飛ばされる。
足の着かない深さの海に投げ飛ばされた怒楽と違い、出来る限りダメージを受けない柔らかく盛り上がった砂浜が着地点だった。
「はあ、、、はあ、、、」
ダメージは無い。
だが、反撃に出る体力も無かった。
「一度入った有効打、、。あの時何を考えておった?」
「はあ、、はあ、、。分かりま、、せん、、。ただがむしゃらで、、、」
「では少し助言じゃ。お主の能力で見る事が出来るのは避ける軌道だけか?」
早まる心拍を落ち着けながら、天子は有効打を入れた時の事を思い返した。
有効打を入れる前と入れた後は、回避する道を探す事に注力していた。
だが、有効打を入れたあの瞬間だけは、何も考えずにがむしゃらに力を使っていた。
そして、思い描いた通りに拳を突き出したら有効打になった。
「攻撃が当たる軌道、、、ですか?」
三途は満足気に微笑み、「正解じゃ」と天子の頭を撫でた。
今までは追手から逃げる為、安全圏を探す為、格上の相手との戦いで生き残る為に力を使ってきた。
全てが後手だ。
この力は戦闘においては回避にしか使えない。
そんな固定概念が〝攻撃に適した軌道を指し示してくれる〟という力の使い道に辿り着くことを阻んでいたのだ。
(そうか、、!そうだ!〝望む道を示してくれる〟なら有効打を望めばいいんだ、、!)
こんな簡単な事になんで気付かなかったんだろう。
天子は自身に対する落胆と共に、まだまだ強くなれるという可能性に胸を躍らせた。
「もう一回お願いします!!!」
それが分かれば絶対に勝てる!!
希望に満ちた目で体力が回復しない内に挑んだ天子は、怒楽と同じく一手目で投げ飛ばされてしまった。
「回避を忘れてどうする」
負けた理由は単純だった。




