五話〖目的と成長〗
大蛇【スサノオ】
物体であればなんでも切る事が出来る草薙剣を、唯一扱う事が出来る。
手から離れた草薙剣も念じれば手元に収まり、破壊されない。
完全変態でヒトの形を保ったままイタチの姿になり、腕の一振り足の一振りで全てを断つ刃そのものとなる事が出来る。
完全変態状態で草薙剣を振るえば物体以外も切る事が出来る。
「お前達の狙いはなんじゃ?」
距離を保ったまま、2人と1人がじりじりと円を描くように移動する。
ほんの半歩でも近付けばどちらかの間合い。
入ってしまえば止まらないだろうという事は、3人共が理解していた。
「時間稼ぎか~?必死だなぁ」
猪突猛進タイプで戦闘狂の出雲も今は自重している。
それほどまでに両者間の空気はヒリついていた。
「きっきっき(笑)仕方ねぇなぁ~(笑)」
大蛇の口角が三日月のように歪む。
細く、細く。
鋭く、鋭く。
三日月の端は今にも目尻と合流しそうだった。
「俺達は神輿の旦那んとこの国民でなぁ~。旦那んとこにはある目的を持った奴らが集まってるんだぁ、、、よっ!」
ガキィィィィィィン────────
「ぐっ!」
「いいじゃねぇか~~。まだ話せるなぁ~」
音も無く踏み込んで下から切り上げてきた大蛇の剣を、標的になった出雲を蹴り飛ばしながらいなす。
赤鮫の頬から血が流れ落ちた。
「目的っていうのはよぉ~。自由に動けるようになる事だぁ」
「ふっ!ふっ!」
不安定な体勢から繰り出されているとは思えない程の強烈な連撃を、杖を削り取られながら必死に耐える。
出雲は一度攻勢に出て氷の剣をバラバラにされてからは2人の剣戟の余波を避けるので精いっぱいになっていた。
「いいぜぇ~。い~い時間稼ぎだぜぇ。あっちが片付くのを待ってんだろ~?
あの3人が合流するのを待ってんだろぉ~?
希望の色が消えねぇもんなぁ~。弱ぇのによぉ~」
「図に乗っていられるのも、、はあはあ、、今の内だ」
「年寄りが無理をするもんじゃないよなあ?
俺はよぉ、念願の自由に動ける身体な上によぉ、なんでも切れる剣まで手に入れちまったんだ。
勢い余って切っちまいそうだよなあ~?
伝承させる為にトドメを刺さずに残しとかなきゃなんねぇのによぉ、、、。
降伏してくんねぇかなぁ~??」
「オラァ!!!」
「雑魚はシんでろ」
「どけっ!!!!」
ザンッ────────────ドサッ。
砂浜が赤く染まる。
空中で数回転した赤鮫の右足、膝から下がドサリと落ちた。
「赤鮫!!!!!」
赤鮫に蹴り飛ばされ一命は取り留めた出雲だったが、肩口に浅くはない傷を負っていた。
たった一撃。
侮蔑の目をした大蛇のたった一撃でギリギリ凌いでいた戦いの終わりがハッキリと見えた。
2人の勝ちの目はもう無いも同然だった。
「つまんねぇ終わり方」
「まだ負けておらん」
「もういいや。シね────────────」
スパッ───────
あまりにも軽く。
あまりにもあっさりと。
赤鮫の命は絶たれ────────
「なにしてんだてめぇ!!!!!」
なかった。
赤鮫に向かって剣を振り下ろす直前。
危険を察知した大蛇は振り返りながら切り上げた。
振り下ろされている最中だった木製バットは綺麗に半分になり、続く流水の連撃は後方宙返りで鮮やかに避けられた。
「2人はすぐに治療を!!!怒楽!流水!とにかく距離を詰めて!少しでも剣の正面に入らないで!!」
「おう!!!」
「分かりました!」
「後ろは気にしないで大丈夫!」
怪我を負った2人を庇う形で、集団を片付け終えた3人が大蛇に立ち向かう。
3人には息切れもかすり傷も無かった。
「第2ラウンドだなぁ~~~?」
大蛇の口角が再び吊り上がった。
足を大きく開き、まるで前屈のように上半身をだらりと下げ、包丁を置いて両手で持った剣の刃は砂浜に着いている。
「上!下!左!!」
振り上げ、振り下ろし、低い位置での水平切り。
確実に3人の姿が収まる位置取りで、簡潔に剣がどの方向に移動するかを伝える。
指示を聞いた2人は避けつつ隙を見て反撃を繰り返した。
「気にいらねえなぁ~?なんだその目は~~~?」
2人の反撃も同様に全てを躱されていた。
天子のような望んだ場所が見える能力を使われているわけでもないのに。
それは、つい2時間程前に出雲を圧倒していた2人のコンビネーションが全く効いていない事を意味していた。
「蛇みたいな目だなぁ~。何が見えてるんだ~?
ゆっくり見えてるのかぁ~?
未来が見えてるのか~?
それとも安全圏が見えてるのか~~~?
気になるなぁ、、あぁ気になる、、、。
くり抜いちまったら怒られんのかなぁ?」
「────ッ!?左右に展開!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大蛇の前方、全てに死のオーラが漂っていた。
天子の目に見えた安全圏は前方以外。
指示を出しながら飛び退いた天子は、ごっそりと抉り取られた地面を見て絶句した。
数メートル離れた自分が居た位置まで深く抉り取られている。
「離れたなあ?離れたなあ???」
「はあ、、!はあ、はあ、、!!」
流水と怒楽が左右に飛び退き着地するまでの数秒を見逃さなかった大蛇は、溜めの無い一歩で天子との距離を縮めた。
天子は無手。
頼れるのは自分の目のみ。
全神経を集中して、生きる為の道を捉え続けた。
(右、左、右上、下、突き、、、!)
子供故の柔軟さで軽やかに躱す。
2人が着地して助けに入るまで、あと3秒必要だった。
「ふっ!ふんっっ!」
天子の息が切れる。
ただでさえ初めての死合い。
通常時に同じ動きをする何倍もの体力を消耗していった。
「動きが鈍いぜぇ~~~?」
(うるさいな!!!!!)
あと2秒。
言葉を丁寧にするための容量も全て回避に割く。
余裕を持って避けられていたのは最初の数合い。
今は崩れた体勢で避けて更に崩れた体勢で避ける、を繰り返していた。
「もっともっともっともっと~!!!きっきっき!!」
(やばいやばいやばい!!!)
あと1秒。
既に数回に一回。
疲れた足では砂浜で踏ん張る事が出来ず、浅い傷を負わされている。
怪我の程度は大したものではない。
だが、相手の攻撃を避け切れていないという事実が天子の焦燥を煽った。
永遠に引き延ばされた数秒の中で、じわじわと天子の心が削られていく。
(やばい、、避けられない、、、)
あとほんの少し。
1秒の何分の1かを避け切れば助かった。
だが避けられない。
まるで詰将棋のように追い込まれた先の、トドメの一手だった。
上から真っすぐに振り下ろされた剣の軌道は、ただ一点、体勢を崩した天子の首に狙いを定めている。
「よっっっっ、、とっと~~~~。あっぶないなぁ~~」
「「天子!!!!!」」
「な、なんとか大丈夫、、、」
赤鮫と出雲が回復して天子を救い出し、流水と怒楽の2人が死合いの間に入った。
コンマ数秒遅れていれば、、、。
引き延ばされた時間が元通りの速さで流れた瞬間、天子の背中には冷や汗が噴き出した。
心臓の音は周囲の声を掻き消す程に喧しく鳴り続けている。
(こわい、、こわいこわいこわい)
5対1。
赤鮫の真横からの一撃を後ろに飛び退いて避けた大蛇は、警戒からか間合いの外まで引いている。
数秒前とは比べ物にならないほどの安全圏だ。
見える光の筋も切れそうなほどか細い頼りないものではない。
位置取りも戦力も圧倒的に有利な状況だというのに、死の淵に半歩踏み出していた天子は全く心を落ち着ける事が出来なかった。
「お主の言い方で言うと、、、第3ラウンド、じゃな」
「きっきっき。流石に不利だなぁ~。
でも欲しいな~~。
こんなに揃ってるんだもんなぁ~~~」
(なんで諦めてくれないの、、、、!)
大蛇が上半身をだらりと下げる構えを取った。
泣きたい気持ちをぐっと堪え、辛うじて息を整えた天子は、離れた位置で5人を視界に収めた。
「散開!!!!!!!」
天子の合図で左右に飛び退く。
着地までのラグを少なくする為、全員斜め上ではなく出来るだけ真横に跳んだ。
「じゃあなぁ~~~~~~~」
砂埃が晴れた。
抉れた地面。
パラパラと降り注ぐ砂利。
細目で前を見ると、数十メートル先に大蛇の姿があった。
道中に仲間を助けるような素振りはなく、むしろ通りがかりに切りつけて愉悦していた。
立ち止まっていたぶる事はない。
ただ通りがかりに面白半分に切りつけるだけ。
そうして犠牲になった数人の先に、大蛇はあっという間に消えていった。
「た、助かった~~、、、、、、、」
力を行使して今居る場所が安全である事を確認した天子が最初に、その次に流水と怒楽の2人がその場に座り込んだ。
赤鮫はまだ周囲を警戒しており、出雲は苛立ちを隠そうともせず胡坐をかいて貧乏ゆすりをしている。
「なんだったんだアイツら、、、」
大の字で寝転んだ怒楽がボヤいた。
「神輿の手の者だと言っておった」
「目的はなんなんでしょう?」
「神輿の目的は分からん。だが、奴らは伝承の力を手に入れ、自由の身となる事を望んで神輿に与しているらしい。持っておった武器も与えられた物だろう。奴が作ったとは思えんほど粗雑ではあるが」
切断された木製バットを拾い上げ、観察してから放り投げる。
もっと大人数、それに遠距離武器を渡されていたなら危なかっただろうと赤鮫は続けた。
「アイツだ。アイツが居なければこんな醜態は、、、!!」
「おそらく、奴が虎の子だったのだろう。神輿はおそらくここに居るのがワシだけだと思っておる。1人強い手下を混ぜ、その他と共にワシを討伐させ力と自由を与える。5人の伝承が居る事がバレていなかったのが不幸中の幸いか」
例えば銃。
例えば大砲。
例えば爆弾。
問われる技量と殺傷能力が釣り合わない武器を、襲ってきた全員が持っていたら。
広範囲に渡る爆発と大蛇の剣戟に挟まれたら。
天子の指示があったとしても誰かしらの重傷者、もしくは死者を出していた事は確実だろう。
伝承は自ら分け与えた者、自らを仕留めた者、死んだ際に一番近くに居た者に力が移る。
誰かが死ねば敵に力を奪われ、その力で嵩にかかって攻め立ててくるだろう。
そうすれば2人目、3人目の被害者が出る。
全滅もあり得るだろう。
だが、強力な武器の制作には高い集中力と精神力を必要とする。
敵に奪われ壊されるリスクを神輿は避けようとしたのだ。
結果、5人集まっていた伝承に粗雑な武器で立ち向かう構図が出来た。
赤鮫が力を戦闘用に行使せず生き残る事が出来たのは運が良かったとしか言いようのない事だった。
「天子、怒楽、流水。すぐに三途の下へ迎え」
「三途、、、?」
「あやつなら、高天原への行き方についてワシの知らん事を知っておるかもしれん」
「でも、、!今ここを離れたら、、」
「武器を取りに戻って万全の備えをする。襲ってきた者達から奪った武器が腐るほどあるからの」
「でも、、、」
「それに、大した戦力ではないがこいつもおる」
出雲は相変わらず胡坐を掻いて頬杖をつき不貞腐れていた。
「でも、、、、」
「天子。赤鮫の言う通りにしましょう」
「そうだぜ。どうせ中々くたばらねえんだからよ。心配するだけ無駄────いてっ!」
「三途は程遠くない場所に住んでおる。急がなければ神輿の手の者が既にあやつの力を狙いに行っているかもしれん」
「死なない、、、ですか?」
「がっはっは!!身の心配をされたのはいつ振りかのう」
「ご、ごめんなさい!」
「構わん。優しい子じゃ」
優しく優しく。
名残惜しそうに天子の頭を撫でた。
「それに、強い子じゃ。先程の戦い、天子の力が無ければ危なかったかもしれん」
「ええ、そうですね。助けられました」
「修行の成果だな」
天子は感じていた。
出雲に氷の剣に変えられ、元の姿に戻ってから力が強まっている事を。
今までは頭の中で言葉として望んでから光の筋が見えていた。
だが元の姿に戻ってからは危険を察知するかのように警鐘が鳴り響き、自動で蛇の目が開眼して安全に回避する道筋が見えるようになった。
何が作用したのかは分からない。
ただ、力の使い方が向上し、戦闘技術の足りなさを補えている事は明らかだった。
今まで一度も流水にも怒楽にも勝てた事のない天子だったが、もしかすれば今なら数回攻撃を当てるくらいの事は出来るんじゃないかと感じていた。
「多分、、伝承の力が増してます。今までは望んだ場所だけを指すものだと思ってたんですけど、望んだ未来?のようなものも見えるように、、」
「ほう?それで回避が出来たのか」
「た、多分ですけど、、」
「天子との組手で全ての手が読まれているような気がしておったのはそれが原因かもしれんな」
「私は赤鮫にそれを感じていますが」
「ただの修行不足じゃろ」
「───いたっ!」
「なにしてんだ出雲てめえ!!!」
天子のこめかみにビー玉サイズの石が投げつけられる。
投げた本人は赤鮫の拳骨で沈められた。
「その力、使い熟せるようになったら俺と戦え」
砂浜に半分顔を埋められながら、出雲はギラリと目を光らせた。
その目は、ご馳走を目の前にした飢えたケモノのようだった。
「では、私達はこれで」
「じゃあな赤鮫───いてえ!」
「すぐに戻ってきます!」
赤鮫から地図を受け取り三途の下へと向かう。
距離は走って1時間程の山奥だった。
「?流水、いつもよりスピード遅くない?」
出発から数分。
3人は声を張らないと会話が出来ない速度で走り続けていた。
息切れは誰もしていない。
「がっはっは!気が重たいんだろうよ」
「余計な事は言わなくていいんですよ」
赤鮫が三途の下へ行く事を提案した時、道の説明を受けている時、出発する時。
その全てで流水の表情は僅かに強張っていた。
戦闘の後でまだ緊張が抜けていないんだろうと天子は思っていたが、目的地に近付いていくほどに強張っていく表情の原因はどうにもそれでは無い気がした。
「凄く厳しい人、、、とか?」
「行けば分かる」
怒楽は心底楽しそうに、顔全体で笑みを作った。
流水の表情はどんどん曇っていった。
「流水ちゃ~~~~~ん!!♡♡♡久しぶりねえ!!♡♡」
おおよそ時間通りに辿り着いた山奥の木造屋。
邂逅一番のセリフ、抱き着く三途、項垂れる流水の姿を見て、天子は大まかな原因を察した。
されるがままの流水を、天子は苦笑いで見る事しか出来なかった。
怒楽は腹を抱えて笑っている。
「お久しぶりです」
「ほんとよもう!どうしたのじゃ?♡わらわに会いに来てくれたのか?♡」
流水の顔を両手で包んで十数センチの距離で話す三途の目は分かりやすくハートになっていた。
認識はしているだろうが残り2人の事は眼中にも無いようだった。
「少し聞きたい事がありまして」
「それくらい勿論いいわよ~♡なに?♡何が聞きたいのじゃ?♡」
すごい、、言葉の後ろ全てにハートが付いてる、、、、。と天子は思ったが口には出さなかった。
万が一機嫌を損ねてしまっては聞きたい事も聞けないから。
「聞きたい事があるのは私ではなくて、そこの天子なんですが、、」
「なんじゃお主ら?見世物ではないぞ」
ハートが付いてない!!!!
まるで別人のようだと天子は思った。
特段冷たい態度では無いが、流水に対する態度を見た後ではどうしても落差で冷たいように感じるのだった。
「は、初めまして!天子といいます!」
「天子、、、?赤鮫の爺が言っておった子供か。確か天子殿の、、、」
「はい!天子は僕のお父さんです」
「お父さん、、。お父さんか、、ふふふ」
訝し気に天子の事を見ていた三途の表情が一瞬緩んだ。
「それで!あの!」
「まあそう焦るでない。一旦中で休むといい。そこのぶくぶく太った童もな」
「うるせえ三途」
「怒楽!」
「ちっ。うるせーな。分かってるよ」
一瞬ひりついた空気はすぐに霧散した。
この人も赤鮫と同じように強いんだろうか。
木造屋の中へ案内されながら、天子はそんな事を考えた。
「ねえ、怒楽。2人の関係って、、」
「天子のとこに居た頃、赤鮫とあの三途が俺達の指南役でな。そん時に流水の野郎が何故か気に入られちまってよ。そっから三途が高天原を出るまではずっとあんな感じだ」
「そ、その。つ、付き合ってるとかでは、、」
「がっはっは!俺ら伝承にそんなめんどくせぇ概念はねえよ。そのほうが余計面白そうだけどな」
4者4様。
少なくとも、楽しそうなのは怒楽だけだった。
「では聞かせてもらおうかの。話とやらを」
畳の上。
囲炉裏を囲んで美味しい緑茶のもてなしを受けた。
「ぺっ!なんだこれ!」
「お主にはそれで十分じゃ」
怒楽はもてなされていないらしい。
1人だけ雑草を煮出したお湯を飲まされていた。
毒は無いようだ。
流水のお茶を奪って口を濯いで囲炉裏に吐き出す怒楽には触れず、天子は簡単に自己紹介をした。
「それでその、、、。天子に会いに行きたくて。あの時なんで離れる事になったのかとか、なんで助けてくれたのかとか。色々話したくて、、、。だから!高天原について知ってる事があれば教えてください!」
天子について何か知っている事もあればそれも、と流水が付け足した。
「結論から言おう。わらわは高天原から出た時の場所を覚えておる」
「え!?!?」
僅かでも何か手掛かりが掴めれば、、。
その程度にしか思っていなかった天子だったが、思いもよらない収穫を得る事になった。
「赤鮫からはどこまで聞いておる?」
逸る気持ちを抑え、天子は流水の報告を流し聞いた。
怒楽は囲炉裏で暖を取りながら寝転んでいた。
「ではあやつは場所を覚えておらんのだな?」
「ええ、おそらく」
「まあ、同じ場所に出たとも限らぬか」
ふむ、と三途は何かを考える様子を見せた。
そして、じっと天子の目を見つめる。
全てを見透かされるような目に緊張して逸らしたくなったが、天子はぐっと顔に力を込めて何とか視線を返した。
「赤鮫が言い忘れたのかそうでないのかは分からんが、天子殿についても高天原についても、わらわはいくつか新しい情報を渡す事が出来る」
「じゃ、じゃあ、、!」
「それを話すかどうかはまた別じゃ」
「わ、私に出来る事なら、、、多少~、、は」
「それは心躍る申し出じゃのう、、。だがそういう問題ではない」
口元を隠すように開いていた扇子を閉じ、先端で天子を指す。
表情は真剣そのものだった。
「わらわはあの場所が特別な場所である事を知っておる。それに、天子殿の事を父とは思っておらんが敬愛の心はある。感謝もな。会って間も無い人柄も知らぬ人間においそれと話す事は出来ん」
「ケチくせえな」
「そなたのような阿呆には分からん。一生な」
つい昨日までは、いくらでも時間があると思っていた。
だが今日、襲撃を受けた。
次いつ神輿の軍勢が襲ってくるか分からない。
早く赤鮫と合流しなければ、、。
その事で頭がいっぱいになっていた天子は、三途の感情が理解出来るが故にこの場は一旦諦めるしかないと考えた。
「じゃ、じゃあ、、、」
「まずは」
諦めの言葉を天子が口にしようとした瞬間、三途の言葉で遮られた。
落ちていた視線は再度三途の目を捉える。
「天子。お主の事を知るところからじゃな」
開いた扇子で口元を隠し、三途は柔らかく微笑んだ。




