↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第4章:焼印の声

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/34

第33話:チタン鎧の追跡者

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 西の獣道に入って二日目の朝、ミラが止まった。

 前を歩いていたリトが振り返った。ミラは立ったまま、左右の木を交互に見ていた。索敵の動き方だ。感知が広域に展開されているときの、ミラ特有の目の動きがある。

「何か」

「二つ」とミラが言った。「右前方、五十メートルくらい。動いていない」

 リトが神耳を開いた。

 聞こえた。

 呼吸音が二つ。ただし普通の呼吸ではない。制御されている。追跡者の訓練を受けた者の呼吸だ。意図的に音を消している。それでも聞こえるのは、金属が微かに鳴っているからだ。

 金属。

 装備の金属が、呼吸のたびにわずかに擦れている。

「装備が重い」とリトが言った。「金属を着けてる」

 セイの顔が変わった。

「鎧付きか」

「可能性がある」

「それは」とセイが言いかけて、止まった。

 リトがセイを見た。

「それは何だ」

「大領主の直属だ」とセイが言った。「通常の追跡者は鎧を持たない。金属鎧が許可されているのは、大領主直属の精鋭部隊だけだ。人数は常時少ない。でも——」

「でも?」

「俺は一度も戦ったことがない。同じ追跡者でも格が違う」


 全員が木の陰に入った。

 父が母を岩の裏側に誘導した。ルカが前に出ようとして、リトが手で制した。まだ動かない。相手の数と配置を確認してから動く。

 神耳を集中させた。

 二つ。右前方。動いていない。

 待っている。

 こちらの気配を感知して、待っている。追いかけてくるのではなく、来るのを待っている。

「包囲じゃない」とリトが小声で言った。「前方だけだ。後ろはいない」

「なぜ待ってる」とルカが言った。

「分からない。でも囲む気なら後ろに回る時間はあった。囲まなかった」

「罠か」

「かもしれない。でも前方だけ塞いで逃げ道を後ろに残してるなら、罠としては甘い」

 セイが「見せたいのかもしれない」と言った。

「何を」

「力を。追跡者として、相手を制圧できる力があることを見せることが目的の場合、わざと正面からぶつかってくる」

「威圧か」

「威圧だ。捕まえる気なら網を張る。でもあいつらがやりたいのは、お前たちを止めることかもしれない」

 リトは考えた。

「どっちでも同じだ」とリトは言った。「前に進むには、あそこを抜けるしかない」


 先に動いたのは向こうだった。

 木の間から二つの影が出てきた。

 小人だ。体格はリトより大きい、六十センチ前後。だがその体を覆っているものが、これまでの追跡者とは全く異なっていた。

 金属の鎧だ。

 頭から肩、胸、腕、脚まで。継ぎ目に革を挟んだ金属板が、全身を覆っている。重さがあるはずだが、動き方が重くない。着慣れている。鎧の表面が鈍く光っている。

 リトはその光沢を見た。

 銀白色。鉄ではない。もっと硬質な光だ。

「何の金属だ」とリトが小声でセイに聞いた。

「チタン合金だと思う」とセイが答えた。「大領主の直属だけが持てる素材だ。軽くて硬い。通常の刃では傷がつかない」

 二人の精鋭が止まった。三十メートル先。

 先頭の一人が言った。

「大領主命令。全員、武器を置いて同行せよ」

 声が平坦だった。感情がない。命令を読み上げているだけの声だ。

 リトは答えなかった。

 代わりにスリングを取り出した。


 狙いをつけた。

 鎧の首元、頭部との継ぎ目のわずかな隙間。そこなら金属がない。通常の追跡者ならこれで終わる。

 放った。

 音速を超えた弾が直線上を走った。

 当たった。

 当たったが——跳ね返った。

 継ぎ目の革の部分に当たると思っていたが、革の下に金属の補強が入っていた。弾が革を貫いて金属に当たり、角度を変えて斜め上に弾かれた。

 リトはその感触を手で受け取った。スリングを通じて、跳ね返った衝撃が戻ってきた。

 貫けなかった。

 初めての経験だった。第1章から今まで、狙撃弾が跳ね返されたことはなかった。距離を縮めれば威力が上がる、そう思って次を放ろうとしたとき、二人の精鋭が動いた。

 速い。

 鎧の重さを感じさせない加速で、一人がリトに向かって、もう一人がルカに向かって走ってきた。


 ルカが前に出た。

 精鋭の一人がルカに体当たりした。ルカが受け止めた。鎧の金属の重さが加わった体当たりで、ルカが後退した。それでも倒れなかった。

「食いながらやる」とルカが言った。

 ポケットから高圧縮干し肉を出して口に入れた。嚙みながら両腕で相手の体を受け止めた。胃の奥から熱が来た。足が地面を踏んだ。止まった。

 もう一人がリトに来た。

 リトは横に跳んで距離を作った。スリングを放った。今度は首元ではなく、鎧の脇の下を狙った。腕を上げた瞬間にわずかに開く隙間を狙ったが、精鋭は腕を上げなかった。隙間がなかった。弾が金属に当たって弾かれた。

 もう一度。膝の裏を狙った。跳ね返された。

 足首の継ぎ目を狙った。跳ね返された。

 どこを狙っても跳ね返される。隙間があると見えた場所に、全て金属の補強が入っている。貫けない。

「ミラ」とリトが言った。

 ミラがすでに動いていた。


 ミラの索敵は面の感知だ。

 点を狙うリトの神耳と違い、ミラは空間の温度分布と密度の変化を感じ取る。それは物体の内部構造を読むことに近い。

 ミラが精鋭の鎧の表面に手をかざした。触れていない。ただ、近い距離から鎧全体の温度分布を読んでいる。

「均一じゃない」とミラが言った。

「どういうことだ」

「温度が、場所によって違う。金属は均一に冷たいはずなのに、部分的に熱い場所がある」

「熱い場所」

「体の熱が伝わってる場所。つまり金属が薄い場所か、内側との空間が狭い場所」

 リトは理解した。

「内側に隙間がある」

「ある。ここ」とミラが言って、精鋭の背中の一点を指した。「肩甲骨の内側。鎧と体の間に、空間がある」


 内側。

 リトはその言葉を受け取った。

 外から貫けないなら、内側からやればいい。

 外壁を壊すのではなく、壁の内側に何かを送り込んで、内側から崩す。

 空気だ。

 鎧と体の間に空間があるなら、その空間に空気を圧縮して送り込む。圧力が高まれば、鎧が外側に広がる。金属の板がボルトで繋がれているなら、継ぎ目から開く。

 できるか。

 外から圧力をかけることは何度もやっている。それを逆方向にやる。空間の内側から、外に向けて圧力を高める。入口は鎧の継ぎ目の隙間、ミリ単位の空間。そこから空気を送り込む。

 やったことがない。

 でも理屈は同じだ。


「ルカ、あと三十秒持てるか」とリトが言った。

 ルカが「余裕だ」と言った。口の中でまだ肉を嚙んでいた。

 リトはルカに向かっている精鋭の背後に回った。鎧の背中側、ミラが示した肩甲骨の内側の場所。鎧の板と板の継ぎ目を探した。

 幅一ミリあるかどうかの隙間がある。

 リトはそこに意識を集中させた。

 圧力を細くする。通常の狙撃弾を作るときとは逆の操作だ。広く強い圧力ではなく、細く、隙間に入り込める形に絞る。先端を細くして継ぎ目に差し込んで、内側で広げる。

 差し込んだ。

 内側に空間があった。ミラの言った通り、鎧と背中の間に空気の層がある。

 リトはその空間に圧力を注いだ。

 膨らんだ。

 継ぎ目から空気が漏れる音がした。金属が軋んだ。ボルトの一本が限界を超えて——

 背中の鎧板が、外側に向かってはじけた。

 精鋭が前によろめいた。背中の装甲が外れて、そこだけ無防備になった。

 リトはスリングを構えた。

 今度は外れた装甲の下、布一枚の背中に向けて放った。

 気絶するほどの威力ではない。ただ、十分な衝撃だ。

 精鋭が前に倒れた。


 ルカが押していたもう一人の精鋭が、仲間が倒れたのを見て動きが止まった。

 その一瞬でリトが同じことをした。

 今度は胸側の鎧の継ぎ目を探した。左胸の下、肋骨の上に沿った継ぎ目。そこに圧力を差し込んだ。内側で広げた。金属が軋んだ。

 胸の鎧板が外れた。

 ルカが精鋭の体を押した。勢いのついた体が後ろに倒れた。地面に落ちて、鎧が土に当たって鈍い音を立てた。

 動かなくなった。

 気絶はしていない。鎧の重さで身動きが取れない状態だ。

 リトは近づいた。

「大領主に伝えろ」とリトが言った。

 精鋭が仰向けのまま、リトを見た。

「俺たちは北へ行く。止めるなら、もっと来い」


 二人の精鋭を残して、獣道を進んだ。

 三十分歩いてから、ルカが「すごいな」と言った。

「何が」

「外から貫けないなら内側からって、よく思いつく」

「ミラが隙間を見つけたから思いついた」

「俺には思いつかない」

「お前は受け止める役がある」

 ルカが少し考えた。「そうだな」と言った。それで終わりだった。

 リトは歩きながら、さっきの感触を反芻していた。

 継ぎ目に圧力を差し込んで、内側で広げる。

 外壁を貫くのではなく、内側から崩す。

 貫けない壁に対してできることは、貫くことだけじゃない。

 その発想が、リトの中で小さく光っていた。まだ形になっていない。でも確かにそこにある。

 次に使うときは、もっと大きなものに使えるかもしれない。


お読みいただきありがとうございました。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。