第33話:チタン鎧の追跡者
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
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西の獣道に入って二日目の朝、ミラが止まった。
前を歩いていたリトが振り返った。ミラは立ったまま、左右の木を交互に見ていた。索敵の動き方だ。感知が広域に展開されているときの、ミラ特有の目の動きがある。
「何か」
「二つ」とミラが言った。「右前方、五十メートルくらい。動いていない」
リトが神耳を開いた。
聞こえた。
呼吸音が二つ。ただし普通の呼吸ではない。制御されている。追跡者の訓練を受けた者の呼吸だ。意図的に音を消している。それでも聞こえるのは、金属が微かに鳴っているからだ。
金属。
装備の金属が、呼吸のたびにわずかに擦れている。
「装備が重い」とリトが言った。「金属を着けてる」
セイの顔が変わった。
「鎧付きか」
「可能性がある」
「それは」とセイが言いかけて、止まった。
リトがセイを見た。
「それは何だ」
「大領主の直属だ」とセイが言った。「通常の追跡者は鎧を持たない。金属鎧が許可されているのは、大領主直属の精鋭部隊だけだ。人数は常時少ない。でも——」
「でも?」
「俺は一度も戦ったことがない。同じ追跡者でも格が違う」
全員が木の陰に入った。
父が母を岩の裏側に誘導した。ルカが前に出ようとして、リトが手で制した。まだ動かない。相手の数と配置を確認してから動く。
神耳を集中させた。
二つ。右前方。動いていない。
待っている。
こちらの気配を感知して、待っている。追いかけてくるのではなく、来るのを待っている。
「包囲じゃない」とリトが小声で言った。「前方だけだ。後ろはいない」
「なぜ待ってる」とルカが言った。
「分からない。でも囲む気なら後ろに回る時間はあった。囲まなかった」
「罠か」
「かもしれない。でも前方だけ塞いで逃げ道を後ろに残してるなら、罠としては甘い」
セイが「見せたいのかもしれない」と言った。
「何を」
「力を。追跡者として、相手を制圧できる力があることを見せることが目的の場合、わざと正面からぶつかってくる」
「威圧か」
「威圧だ。捕まえる気なら網を張る。でもあいつらがやりたいのは、お前たちを止めることかもしれない」
リトは考えた。
「どっちでも同じだ」とリトは言った。「前に進むには、あそこを抜けるしかない」
先に動いたのは向こうだった。
木の間から二つの影が出てきた。
小人だ。体格はリトより大きい、六十センチ前後。だがその体を覆っているものが、これまでの追跡者とは全く異なっていた。
金属の鎧だ。
頭から肩、胸、腕、脚まで。継ぎ目に革を挟んだ金属板が、全身を覆っている。重さがあるはずだが、動き方が重くない。着慣れている。鎧の表面が鈍く光っている。
リトはその光沢を見た。
銀白色。鉄ではない。もっと硬質な光だ。
「何の金属だ」とリトが小声でセイに聞いた。
「チタン合金だと思う」とセイが答えた。「大領主の直属だけが持てる素材だ。軽くて硬い。通常の刃では傷がつかない」
二人の精鋭が止まった。三十メートル先。
先頭の一人が言った。
「大領主命令。全員、武器を置いて同行せよ」
声が平坦だった。感情がない。命令を読み上げているだけの声だ。
リトは答えなかった。
代わりにスリングを取り出した。
狙いをつけた。
鎧の首元、頭部との継ぎ目のわずかな隙間。そこなら金属がない。通常の追跡者ならこれで終わる。
放った。
音速を超えた弾が直線上を走った。
当たった。
当たったが——跳ね返った。
継ぎ目の革の部分に当たると思っていたが、革の下に金属の補強が入っていた。弾が革を貫いて金属に当たり、角度を変えて斜め上に弾かれた。
リトはその感触を手で受け取った。スリングを通じて、跳ね返った衝撃が戻ってきた。
貫けなかった。
初めての経験だった。第1章から今まで、狙撃弾が跳ね返されたことはなかった。距離を縮めれば威力が上がる、そう思って次を放ろうとしたとき、二人の精鋭が動いた。
速い。
鎧の重さを感じさせない加速で、一人がリトに向かって、もう一人がルカに向かって走ってきた。
ルカが前に出た。
精鋭の一人がルカに体当たりした。ルカが受け止めた。鎧の金属の重さが加わった体当たりで、ルカが後退した。それでも倒れなかった。
「食いながらやる」とルカが言った。
ポケットから高圧縮干し肉を出して口に入れた。嚙みながら両腕で相手の体を受け止めた。胃の奥から熱が来た。足が地面を踏んだ。止まった。
もう一人がリトに来た。
リトは横に跳んで距離を作った。スリングを放った。今度は首元ではなく、鎧の脇の下を狙った。腕を上げた瞬間にわずかに開く隙間を狙ったが、精鋭は腕を上げなかった。隙間がなかった。弾が金属に当たって弾かれた。
もう一度。膝の裏を狙った。跳ね返された。
足首の継ぎ目を狙った。跳ね返された。
どこを狙っても跳ね返される。隙間があると見えた場所に、全て金属の補強が入っている。貫けない。
「ミラ」とリトが言った。
ミラがすでに動いていた。
ミラの索敵は面の感知だ。
点を狙うリトの神耳と違い、ミラは空間の温度分布と密度の変化を感じ取る。それは物体の内部構造を読むことに近い。
ミラが精鋭の鎧の表面に手をかざした。触れていない。ただ、近い距離から鎧全体の温度分布を読んでいる。
「均一じゃない」とミラが言った。
「どういうことだ」
「温度が、場所によって違う。金属は均一に冷たいはずなのに、部分的に熱い場所がある」
「熱い場所」
「体の熱が伝わってる場所。つまり金属が薄い場所か、内側との空間が狭い場所」
リトは理解した。
「内側に隙間がある」
「ある。ここ」とミラが言って、精鋭の背中の一点を指した。「肩甲骨の内側。鎧と体の間に、空間がある」
内側。
リトはその言葉を受け取った。
外から貫けないなら、内側からやればいい。
外壁を壊すのではなく、壁の内側に何かを送り込んで、内側から崩す。
空気だ。
鎧と体の間に空間があるなら、その空間に空気を圧縮して送り込む。圧力が高まれば、鎧が外側に広がる。金属の板がボルトで繋がれているなら、継ぎ目から開く。
できるか。
外から圧力をかけることは何度もやっている。それを逆方向にやる。空間の内側から、外に向けて圧力を高める。入口は鎧の継ぎ目の隙間、ミリ単位の空間。そこから空気を送り込む。
やったことがない。
でも理屈は同じだ。
「ルカ、あと三十秒持てるか」とリトが言った。
ルカが「余裕だ」と言った。口の中でまだ肉を嚙んでいた。
リトはルカに向かっている精鋭の背後に回った。鎧の背中側、ミラが示した肩甲骨の内側の場所。鎧の板と板の継ぎ目を探した。
幅一ミリあるかどうかの隙間がある。
リトはそこに意識を集中させた。
圧力を細くする。通常の狙撃弾を作るときとは逆の操作だ。広く強い圧力ではなく、細く、隙間に入り込める形に絞る。先端を細くして継ぎ目に差し込んで、内側で広げる。
差し込んだ。
内側に空間があった。ミラの言った通り、鎧と背中の間に空気の層がある。
リトはその空間に圧力を注いだ。
膨らんだ。
継ぎ目から空気が漏れる音がした。金属が軋んだ。ボルトの一本が限界を超えて——
背中の鎧板が、外側に向かってはじけた。
精鋭が前によろめいた。背中の装甲が外れて、そこだけ無防備になった。
リトはスリングを構えた。
今度は外れた装甲の下、布一枚の背中に向けて放った。
気絶するほどの威力ではない。ただ、十分な衝撃だ。
精鋭が前に倒れた。
ルカが押していたもう一人の精鋭が、仲間が倒れたのを見て動きが止まった。
その一瞬でリトが同じことをした。
今度は胸側の鎧の継ぎ目を探した。左胸の下、肋骨の上に沿った継ぎ目。そこに圧力を差し込んだ。内側で広げた。金属が軋んだ。
胸の鎧板が外れた。
ルカが精鋭の体を押した。勢いのついた体が後ろに倒れた。地面に落ちて、鎧が土に当たって鈍い音を立てた。
動かなくなった。
気絶はしていない。鎧の重さで身動きが取れない状態だ。
リトは近づいた。
「大領主に伝えろ」とリトが言った。
精鋭が仰向けのまま、リトを見た。
「俺たちは北へ行く。止めるなら、もっと来い」
二人の精鋭を残して、獣道を進んだ。
三十分歩いてから、ルカが「すごいな」と言った。
「何が」
「外から貫けないなら内側からって、よく思いつく」
「ミラが隙間を見つけたから思いついた」
「俺には思いつかない」
「お前は受け止める役がある」
ルカが少し考えた。「そうだな」と言った。それで終わりだった。
リトは歩きながら、さっきの感触を反芻していた。
継ぎ目に圧力を差し込んで、内側で広げる。
外壁を貫くのではなく、内側から崩す。
貫けない壁に対してできることは、貫くことだけじゃない。
その発想が、リトの中で小さく光っていた。まだ形になっていない。でも確かにそこにある。
次に使うときは、もっと大きなものに使えるかもしれない。
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