第32話:焼印を持つ者たち
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
今回もよろしくお願いします。
樹海に入って二日目の昼過ぎ、人の匂いがした。
匂いというより、煙の残滓だ。昨夜の焚き火の煙が、朝になっても木の幹と葉に染み込んで残っている。リトの神耳では音として拾えないが、空気の質が変わった場所というものが分かる。人が長く留まった場所には、その痕跡がある。
「近い」とリトが言った。
全員が速度を落とした。
セイが前に出た。足音を消す歩き方に切り替えている。追跡者として体に染み込んだ動き方だ。リトがその後ろに続いた。
三十メートル、二十メートル、十メートル。
木々の密度が少し上がった場所で、リトは立ち止まった。神耳を最大まで開いた。
聞こえた。
呼吸の音。複数。早くも遅くもない、警戒している人間の呼吸だ。動いていない。こちらの気配に気づいて、止まっている。
「いる」とリトが後ろに向かって小声で言った。「十二か十三。止まってる。気づかれてる」
セイが頷いた。
リトは前に出た。木の間から、開けた場所に入った。
直径十メートルほどの窪地だった。
岩が半円状に並んでいて、その内側に人がいた。全員が小人だ。リトより大きい者もいれば小さい者もいる。子供が三人、老人が二人、残りは大人だ。みすぼらしい服を着ている。持ち物は少ない。焚き火の跡が中央にあって、今は火が消えている。
全員がリトを見ていた。
警戒している。逃げる準備をしている者もいる。岩の陰に体を寄せている者もいる。ただ、誰も武器を持っていない。
リトは手を上げた。
何かを攻撃する意図がないことを示すために、両手を開いて前に出した。
「追跡者じゃない」とリトが言った。
誰も答えなかった。
「城から来たわけじゃない」
まだ誰も答えなかった。
一番前にいた中年の男が、一歩だけ前に出た。額に深い皺がある。目が鋭かった。
「お前の首の焼印を見せろ」とその男が言った。
リトは服の襟を下げた。首の左側の焼印を露出させた。
男が目を細めた。
それから「同じだ」と言った。
後ろで誰かが息を飲んだ。
全員が出てきたわけではなかった。
岩の陰に隠れたままの者が何人かいた。それでも、リトとルカとミラとセイと父と母が窪地に入ると、焚き火の跡を囲む形で向き合った。
額に皺のある男がこの集団のまとめ役らしかった。名前をガドといった。四十代に見えるが、もっと年齢を重ねているかもしれない。森での生活が顔を削っている。
「どこから来た」とガドが聞いた。
「東の城の方向から」とリトが答えた。
「城から逃げてきたのか」
「父母を取り戻しに行った。それが終わった」
ガドがリトを見た。それから父と母を見た。
「取り戻した」
「取り戻した」
ガドが少し考えた。
「何のために、ここへ」
「あなたたちの火が見えた。稜線から見えた。来た」
それだけの理由だ。リトは付け加えなかった。
ガドが後ろを振り返った。集団の中の誰かと目線を交わした。それからリトに向き直った。
「お前たちの焼印の形を確認したい。全員」
一人ずつ、首の焼印を見せた。
ガドが確認して、集団の中の老人に顔を向けた。老人が頷いた。
「同じ根だ」とガドが言った。「形は少し違うが、根は同じだ」
「あなたたちの焼印も同じ根か」とリトが聞いた。
「そうだ」
「なぜ分かる」
「ここにいる全員を確認した。十四人、全員が同じ根の形を持っている」
リトは集団を改めて見た。十四人。子供から老人まで。全員が同じ根の焼印を持っている。
「どれくらいここにいる」とリトが聞いた。
「三年だ」とガドが答えた。「俺が最初に来た。その後、少しずつ増えた。同じ根の焼印を持つ者が、各地の城から逃げてきた」
「なぜ同じ根の者が集まったのか」
「集まろうとして集まったわけじゃない」とガドが言った。「同じ根の焼印を持つ者は、同じ扱いを受ける。大領主の使者が来て、確認して、追跡者が来る。だから逃げる。逃げながら移動していると、他の逃げている者に会う。それが同じ根の者だったから、ここに残った」
焚き火が再び焚かれた。
湯が沸いて、集団の女性がリトたちにも渡してくれた。ミラが持っていた乾燥した葉を足した。
話を聞いた。
ガドが三年前に城を逃げた経緯は父母と似ていた。使者が来た。翌日に追跡者が来た。逃げた。違うのは、ガドには家族がいなかったことと、逃げた先がたまたまこの森だったことだ。
「城に戻ることは考えなかったか」とリトが聞いた。
ガドが少し笑った。笑いというより、苦い表情だった。
「一度でも逃げた者は戻れない。戻れば処刑される。制度の規則だ」
「処刑」
「焼印を持つ者が追跡者から逃げることは、大領主への反逆として扱われる。捕まっても連れ戻されるのではなく、その場で終わる」
リトは黙った。
「三年前にここへ来た最初の頃、試した者がいた」とガドが続けた。「戻れば軽い処分で済むかもしれないと思って、自分から城へ向かった。それきり戻ってこなかった」
焚き火が鳴った。
ミラが「食料はどうしているのか」と聞いた。
「森で取れるものを取っている。冬は厳しい。子供と老人に優先して渡す」
「足りているか」
「足りていない」
ミラが少し黙った。
「今夜の分を作る」とミラが言った。
「そんな量はない」
「あります」
ミラがリトを見た。リトが頷いた。高圧縮干し肉の備蓄から、今夜の分を出すということだ。計算は変わる。北の山脈への到達が遅くなる可能性がさらに上がる。それでもリトは頷いた。
夕食の準備をしながら、リトはガドの隣に座った。
「この先どうするつもりか」とリトが聞いた。
「ここにいる」とガドが答えた。
「ずっとか」
「他にどこへ行く」
リトはその問いに答えられなかった。
「城には戻れない。森の外に出れば追跡者に見つかる。他に同じ根の焼印を持つ者がいる場所を知らない。だからここにいる」
「俺たちと来い」とリトが言った。
言ってから、続きを考えた。
どこへ、という問いが来る。それは分かっていた。
「北の山脈の向こうへ行く。焼印の記号に関係する場所がある。そこへ向かってる」
「そこへ行って何がある」
リトは答えを探した。
何がある、という問いに、正確な答えを持っていない。地図に記号がある場所がある。父が八年間持ち続けた手がかりがある。それだけだ。
「分からない」とリトは言った。
ガドが静かにリトを見た。
「分からないところへ、子供と老人を連れて行けない」
「そうだ」
「でも動けないままでもいられない」
「そうだ」
ガドが焚き火を見た。
「お前は何をしたいんだ」
リトは少し間を置いた。
「壊したい」とリトが言った。「この制度を。追跡者が来て、逃げなければならない仕組みを。焼印を持つだけで城に縛られる仕組みを」
「壊して」とガドが言った。「その後は」
その言葉がリトの中に入ってきた。
壊して、その後は。
第1章の末尾でリトは宣言した。「この巨人の社会を、物理で、ぶち壊すために」。その言葉は今も変わらない。壊すことは目標だ。
だが壊した後のことを、リトは考えていなかった。
父母を取り戻した。それが第1の目標だった。次は焼印の謎を解くことだ。その先に、制度を壊すことがある。
でも壊した後、ガドたちはどこへ行くのか。城に戻れない。森の外に出れば追跡者に会う。制度がなくなったとして、それで何かが解決するのか。
「分からない」とリトはもう一度言った。
今度の「分からない」は、さっきとは違う重さだった。
ガドが頷いた。怒っているわけではなかった。責めているわけでもなかった。
「正直に言うな」
「嘘をついても意味がない」
「そうだな」とガドが言った。「壊すことと、その後を作ることは別の話だ。俺はここへ来た三年間で、それだけは分かった」
食事の時間になった。
ミラが高圧縮干し肉を湯で少し戻して、採取した葉と合わせた。本来の形から変えているが、栄養は変わらない。十四人と六人、合計二十人分には量が不足しているから、全員に少しずつの形にした。
子供が一口食べて「おいしい」と言った。
老人が受け取って、ゆっくりと嚙んだ。目を閉じた。
それだけだった。何も言わなかった。ただ嚙んでいた。
リトはその老人を見ていた。
三年間、森で食べ続けてきた人間が、違う味のものを嚙んでいる。その顔が、リトには言葉にできなかった。
夜、眠る前にセイがリトの隣に来た。
「この人たちはどうなる」とセイが言った。
「分からない」
「一緒に連れていくのか」
「ガドが断った。子供と老人を、答えのない場所へは連れていけないと言った」
「正しい判断だと思う」とセイが言った。
「俺もそう思う」
「でも」
「でも、ここに置いていくことも、答えじゃない」
セイが少し黙った。
「壊した後のことを考えていなかった」とリトが言った。
「俺もだ」とセイが言った。「兄を探すことしか考えていなかった。見つけてその後どうするかを、考えていなかった」
焚き火が小さくなっていた。集団の誰かが番をしていて、薪を一本足した。炎が少し大きくなった。
「一つだけ分かったことがある」とリトが言った。
「何が」
「壊すだけでは足りない」
セイが頷いた。頷いてから「でも」と言った。
「でも?」
「壊さなければ、始まらない」
リトはその言葉を受け取った。
壊さなければ始まらない。壊すだけでは足りない。その両方が本当だ。矛盾ではなく、順番の問題だ。
「まず壊す」とリトが言った。「その後のことは、壊してから考える。今考えても、正しい答えは出ない」
「それでいいのか」
「いいとは言えない。でも今できることはそれだけだ」
食事が終わった後、老人がリトのそばに来た。
「さっきの話を聞いていた。焼印の形が違う者のことだ」
「何か知ってるか」とリトが聞いた。
「三年前に連れていかれた男がいた。あの男の焼印は俺たちとも違った。お前たちの首の形に——もっと近かった。でももっとシンプルだった。線が少なかった」
「どこへ連れていかれた」
「東じゃない」と老人が言った。「北だ。北へ向かう道に乗せられた」
翌朝、出発の前にガドがリトのところへ来た。
「北の山脈の向こうへ行くと言っていたな」
「ああ」
「山脈のどの場所を越えるつもりだ」
「まだ正確には決めていない」
ガドが少し考えた。
「中央の峠は追跡者が常時いる。東寄りの旧道は三年前に崩落したと聞いた。西の獣道なら、まだ通れるはずだ。俺が三年前に通ってきた道だ」
リトはガドを見た。
「教えてくれるのか」
「一緒には行けない。でも知っていることは教える」
リトは頷いた。
ガドが地形を説明した。リトは頭に入れた。父も横で聞いていた。
説明が終わって、ガドがリトを見た。
「壊した後のことを、考えながら進め」
「考える」
「答えが出たら」とガドが言って、少し間を置いた。「ここに来い。まだいるかどうかは分からないが」
「来る」とリトが言った。
それだけだった。
リトは集団に背を向けて、西の獣道の方角へ向かった。後ろから六人分の足音がついてきた。
焚き火の煙が、木の間から細く上がっていた。
お読みいただきありがとうございました。
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