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食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第4章:焼印の声

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第34話:大領主の伝言

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 精鋭の二人を置いて三時間歩いたところで、セイが「あれを確認したい」と言った。

 あれ、というのが何を指しているか、リトにはすぐ分かった。

 倒した二人の精鋭が持っていた書状のことだ。

 戦闘の直後、セイが精鋭の一人の上着の内側を確認して、折りたたまれた紙を取り出していた。リトはそれを見ていたが、その場では何も言わなかった。先に距離を置くことの方が重要だったから。

「見てみろ」とリトが言った。

 全員が立ち止まった。

 セイが紙を広げた。


 書状は二枚あった。

 一枚目は薄い羊皮紙で、黒い墨で文字が書かれている。文字の形はリトには読めない。城の壁に刻まれた焼印の記号とも、日常的に使われる巨人の文字とも違う。もっと角張っていて、記号と文字の中間のような形をしている。

 二枚目は地図だった。この山域の地形図で、道が何本か書き込まれていた。リトたちが歩いてきた西の獣道も含まれている。いくつかの地点に印がついていた。

「追跡経路か」とリトが言った。

「だと思う」とセイが答えた。「俺たちの動きを予測した経路に、精鋭を配置した地図だ」

「よく読める」

「追跡者として使ってた地図と形式が同じだ」

 セイが一枚目の書状に目を移した。文字を追った。

 リトは待った。


 時間がかかった。

 セイは文書庫の本を鞄から取り出して、書状と見比べた。ページをめくって、また書状に戻した。また本をめくった。

 ルカが根元に座って目を閉じた。休んでいる。ミラが周辺の木の実を探して、小さなものをいくつか拾ってきた。父が地形図の書状を借りて、自分の地図と見比べていた。

 母がリトの隣に来た。

「疲れてるか」と母が聞いた。

「疲れてない」

「嘘をつかなくていい」

「少し疲れてる」

 母が何も言わなかった。ただ隣に立っていた。それで十分だった。

 セイがまた本をめくった。止まった。書状に戻した。

「少しだけ分かった」とセイが言った。


 全員がセイの周りに集まった。

 セイが書状の一部分を指で示した。

「この部分だ。文書庫の本の中に、同じ形の記号の組み合わせがある。完全に一致しているわけじゃないが——」

「読めるか」とリトが聞いた。

「全部は無理だ。でもこの部分だけ」

 セイが指を置いた場所の記号を、リトは見た。

 縦線が三本、横線が二本、右下に斜めの記号が一つ。それが二つの記号の組み合わせになっている。

「この部分が」とセイが言った。「たぶん、名前だ。呼び名。俺たちを指している言葉だと思う」

「どう読む」

 セイが少し間を置いた。

「スモール・オーダー」


 その言葉が、森の中に出た。

 誰も何も言わなかった。

 スモール・オーダー。

 リトはその音を口の中で繰り返した。声には出さなかった。ただ、舌の上で転がした。

「意味は」とミラが聞いた。

「オーダーは命令という意味だ」とセイが言った。「スモールは——小さい、という意味だと思う。文書庫の本の中で、俺たちの体格を指している記述に近い形の記号が使われていた」

「小さき者への命令」と母が言った。

「そうだと思う」

 母が「小さき者への命令」ともう一度繰り返した。さっきとは違う声だった。

「私が生まれたとき」と母が言った。「私の母が言っていた。お前は小さいけれど、命令に従う必要はないと。意味が分からなかった。今は分かる気がする」

 誰も何も言わなかった。

 リトは書状を見た。

 自分たちを指す呼び名が、「命令」という言葉を含んでいる。焼印を持つ小人が制度の中でどう位置づけられているかを、その名前が示している。命令される者。命令の対象。それが俺たちの正式な呼び名だ。

「これが俺たちの正式な呼び名か」

 声に出したら、思っていたより静かな声になった。

 怒ってはいなかった。腹が立っていないわけではないが、今感じているのは怒りより別の何かだった。

 名前がついていた、ということだ。

 制度の中に、ちゃんと名前がついていた。「焼印を持つ小人」という曖昧な括りではなく、固有の呼び名がついていた。それはつまり、この制度は曖昧に運用されていたのではなく、設計されていたということだ。

「書状の残りは」とリトが聞いた。

「まだ読めない。でも続けて照合すれば、もう少し分かるかもしれない」

「時間をかけて読め。急がなくていい」

 セイが書状を丁寧に折りたたんで、文書庫の本と一緒に鞄にしまった。


 出発しようとしたとき、後ろから声がした。

「待ってほしい」

 振り返った。

 ガドの集団のいた窪地の方向から、人が来ていた。

 若い女性だった。二十代の前半くらいに見える。背がリトより少し高い。走ってきたのか、息が少し乱れていた。手に小さな布の袋を持っている。それだけで、他の荷物は何もなかった。

 リトは見覚えがあった。ガドの集団の中にいた一人だ。食事のとき、子供の隣に座っていた。

「一人か」とリトが言った。

「一人だ」と女性が答えた。

「ガドは」

「話した。止めなかった」

 リトはその言葉の意味を測った。止めなかった、というのは許可したということではないかもしれない。止めることができなかったか、止めないと決めたか。どちらかは分からない。

「なぜ来た」とリトが聞いた。

 女性がリトを見た。

「あなたたちが北へ行くと聞いた。焼印の記号に関係する場所へ行くと」

「そうだ」

「私も行く。理由はそれだけだ」


 リトは少し考えた。

 ガドは来なかった。子供と老人を答えのない場所へ連れていけないと言った。それは正しい判断だとリトも思った。

 でもこの女性は一人で来た。自分の判断で。

「危険だと分かってるか」とリトが聞いた。

「分かってる」

「答えがない場所へ行く。何があるか分からない」

「分かってる」

「止めない理由を聞いていいか」

 女性が少し間を置いた。

「ガドたちはあの窪地に三年いた。これからも何年いるか分からない。私も二年いた。でも——」

 女性が言葉を選んだ。

「いつまでいるのかが、分からないのが嫌だった。どこへ行くのかが分からなくても、動いている方がいい。私はそう思う」

 リトはその言葉を聞いた。

 壊した後に何があるのか、という問いにリトはまだ答えを持っていない。ガドには「答えが出てから来い」と言われた気がした。だがこの女性は、答えがない場所へ自分で来た。

 それが、リトが第32話で気づきかけていたことの、最初の形だった。

 壊した後に何があるのか。

 自分で決める者がいる。それが答えの始まりかもしれない。

「名前は」とリトが聞いた。

「エラ」と女性が答えた。

「危険だと分かってるか」とリトが聞いた。

「分かってる」

「答えがない場所へ行く。何があるか分からない」

「分かってる」

 リトは少し考えた。

「北の山脈を越えるまでは、ここで待ってくれ」とリトが言った。「帰ってくる。その時に一緒に来い」

 エラが少し間を置いた。

「待てる」と言った。「ずっと待ってたんだから」


 七人になった。

 エラは歩くのが速かった。荷物が少ないせいもあるが、足元が安定している。森の中での移動に慣れている。二年間、あの窪地の周辺を動き回っていたからだろう。

 しばらく歩いてから、ミラがエラの隣に並んだ。

「食料が少ないな」とミラが言った。

「森で取れるものは自分で取れる」とエラが答えた。

「何が取れる」

「季節によるけど、今なら——」

 エラが歩きながら、周辺の植物を指し始めた。この葉は食べられる、この実は毒がある、この根は煮ると甘くなる。ミラが黙って聞いていた。

 ルカがリトの隣に来た。

「なんか増えたな」とルカが言った。

「そうだな」

「いいのか」

「いいと思う」

 ルカが少し考えた。

「まあ、なんか頼りになりそうだし」と言って、それきりだった。


 その日の夜営は、山脈の手前の最後の平地になった。

 明日から本格的な登りが始まる。ガドが教えてくれた西の獣道は、ここからさらに西に折れてから北へ向かう経路だ。追跡者の定期巡回が少ない代わりに、道が険しい。

 焚き火を囲んで七人が座った。

 リトは書状の文字列を頭の中で繰り返した。

 スモール・オーダー。小さき者への命令。

 命令される者として名前がついていた。設計されていた。それがいつ、誰によって設計されたのかは、まだ分からない。北の山脈の向こうに、その答えの一部があるかもしれない。

 父が地図を広げていた。明日の経路を確認している。

 セイが書状と文書庫の本を見比べていた。まだ解読しようとしている。

 エラが持ってきた布の袋を開いた。乾燥させた食材が入っていた。ミラに差し出した。ミラが受け取って、中を確認して、頷いた。

 ルカがすでに高圧縮干し肉を嚙んでいた。

 母が父の地図を横から覗いていた。

 七人分の火だった。

 リトは北の方角を見た。山脈は暗くて見えない。ただ、空の星が少ない部分がある。山が空を隠している場所だ。

 その向こうに次の記号がある。

 スモール・オーダーの意味の続きがある。

 セイが「一行だけ、読めた」と言った。

 全員が顔を上げた。

「——対象の排除は、三番目の記号に委ねる」

 誰も何も言わなかった。

「それともう一つ」とセイが言った。「この書状の末尾の印。大領主の印じゃない」

「誰の印だ」

「分からない。ただ——大領主より、上の印だ。追跡者として、こういう書状は見たことがない」

 リトは父の地図の、三番目の印の場所を見た。

 行ったことがない、と父が言っていた場所。

 北西の方角、山脈よりさらに遠い場所。

 その場所が、誰かを「排除する」ために使われている。

 排除。

 俺たちを、ということかもしれない。

「明日から山だ」とリトが言った。

 全員が顔を上げた。

「急がない。ただし止まらない。それだけだ」


お読みいただきありがとうございました。

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次回もよろしくお願いします。

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