第28話:高圧縮の朝食
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
今回もよろしくお願いします。
父の足首の腫れが引くまで二日ある。
リトはその二日を無駄にするつもりがなかった。
翌朝、ルカとセイが周辺の索敵に出ている間に、リトは川岸に持ち込んだ食料を全部並べた。ミラが狩ってきた山鳥が二羽、川魚の干物が七本、根菜が両手に収まる程度、木の実が少し。六人で北の山脈を目指すとして、歩いて十日かかる。父の見立てでは追跡者を避けながら動けば一日の行程は短くなる。十日が十四日になる可能性もある。
足りない。
それ以前に、問題は量よりも「運び方」だとリトは思っていた。
三十センチの体で運べる重量には限界がある。同じくルカもミラもセイも、小人の体格では大型の荷物は持てない。父と母は体格があるとはいっても、人間の標準から見れば三十センチから六十センチの範囲に収まる小さな体だ。六人全員の食料を十四日分運ぶとなると、荷物の重さだけで移動速度が落ちる。
体積を減らせばいい。
リトは山鳥の一羽を手に取った。羽をむしり、解体して、骨を外した。残った肉の塊は、生の状態では小人の両手でちょうど抱えられる程度の大きさだ。
リトはこれを圧力魔法で押した。
外側からではなく、肉の繊維の隙間に入り込むように、均等に、内側から閉じていく方向で。水分が滲み出た。形が変わった。みるみる小さくなる。縮んだ。縮んだ。縮んで——
最終的に、親指の先ほどの大きさになった。
リトはそれを地面に置いた。黒ずんだ、硬い、石ころのような形になっている。指で押してみる。びくともしない。
食えるのか、という問題がある。
リトはそれを口に入れた。
硬い。歯が立たない。これは駄目だ。
もう少し圧を緩める。再度試す。今度は歯が入った。嚙み続ける。三十秒ほど嚙んでいると、肉の繊維がほぐれてきて、旨味が出てきた。濃い。山鳥一羽分の旨味が親指の先ほどの体積に詰まっているのだから、当然そうなる。
呑み込むと、熱が来た。
早い。普通に食べるより変換が速い気がした。繊維がすでに圧縮されているせいで、消化の過程が短縮されているのかもしれない。正確なことは分からないが、胃の奥があたたかくなるまでの時間が明らかに短い。
リトは残りの食材を全部解体し始めた。
ルカが戻ってきたのは、リトが三羽目の処理を終えた頃だった。
ルカは川岸に並んだ小石のような物体を見て、首を傾けた。
「何これ」
「食料だ」
「どこに?」
「これが食料だ」
ルカはしゃがんで、一個を指でつまんだ。
「肉か?」
「山鳥一羽分」
ルカの顔が変わった。
「これ一個で?」
「ああ」
ルカはしばらくそれを眺めた。それから口に入れた。嚙む。嚙む。嚙み続ける。
「……濃い」
「二十回は嚙め。そうしないと喉に詰まる」
ルカは嚙み続けた。呑み込んだ。目を閉じた。一秒あって、目を開けた。
「熱が来た」
「早いだろ」
「早い」 ルカがもう一個手を伸ばした。
リトが手で制した。「それは全部で六人分だ」
「じゃあ俺の分はどこだ」
「今から作る」
ルカが「俺の分も作れ」と言ったのはそういう意味ではなかったと思うが、リトは気にしなかった。
ルカが圧縮された塊をもう一度手に取って、しばらく見ていた。
「これ、子供でも食えるか」
「嚙む力があれば」
ルカが頷いた。それ以上何も言わなかった。
リトは作業を続けた。
ルカが子供の話をしたのは、それが初めてだった。
ミラが戻ってきたのはそれからしばらく後だった。
周辺の茂みで採取してきたものを腕に抱えている。緑の葉、黄色い小さな実、灰色の木の皮のようなもの。ミラは川岸の状況を確認して、リトが並べた圧縮食料の列を見た。
「何本作った」
「六人×十四日分。今三十二個」
「あと何個いる」
「五十二」
ミラは少し考えた。
「食材が足りない」
「分かってる。昼にもう一度狩りに行く。それまでは今ある材料で続ける」
ミラは頷いて、それから自分が抱えてきたものを地面に下ろした。
「その前にちょっと待って」
ミラが動き始めた。
採取してきた材料を分類する。葉は二種類、実は一種類、木の皮のようなものは乾燥したキノコだった。それに昨日の残りの根菜を加えて、川の水を小さな金属の器に入れて火にかける。葉を千切ってキノコを薄く剥いで根菜を小さく切って、順番に器に入れていく。
「何作ってるんだ」とルカが聞いた。
「出発前に一回、ちゃんとしたものを食べておく」とミラが言った。「あの石ころ、栄養はあると思うけど気持ちの問題がある」
「気持ち?」
「食べてる感じがしない」
ルカは一瞬何か言いかけて、やめた。
父と母が川岸に来た。父は足首に巻いた布を確認しながら歩いている。まだ完全ではないが、昨日よりは確実に動けている。母が火の近くに座って、ミラの作業を見ていた。
「これは?」と母が聞いた。
「食べます」とミラが答えた。
器に蓋をして少し待つと、匂いが立ち始めた。
キノコと根菜が煮えた匂いで、葉の青い香りがそれに混じっている。川岸の冷たい空気の中で、その匂いだけが温度を持っていた。
セイが戻ってきた。
川岸の状況を確認して、ミラの器を見て、無言で場所を作って座った。
六人が火を囲む格好になった。
ミラが器の蓋を取った。湯気が上がった。すぐに器を傾けて、リトが石で作った小さな受け皿に注ぐ。人数分に分けていく。六人分の椀になる量ではないが、全員が一口ずつ飲める程度にはなった。
父が受け皿を両手で受け取った。
一口飲んだ。
何も言わなかった。ただ、もう一口飲んだ。
母が飲んだ。ルカが飲んだ。セイが飲んだ。リトが飲んだ。
出汁の味だった。肉はないが、キノコと根菜と葉の組み合わせから、ミラが何かを引き出していた。後味に黄色い実の酸味が少し残る。
「こういうのが作れるのか」とルカが言った。
「材料があれば」とミラが答えた。
「山ん中で?」
「これ全部、さっきそこで採ってきたやつ」
ルカが少し黙った。
「すごいな」
「ありがとう」
ミラがそれ以上何も言わなかったので、ルカも何も言わなかった。
午後の狩りでルカがイノシシに似た動物を仕留めた。
体長一メートル近くある動物だが、小人の体格で仕留めるには正面から戦うより足を止めて転倒させるほうが効率的だ。リトが地面を局所的に圧縮して足場を不安定にして、ルカが転んだところに飛び乗った。
肉の量が一気に増えた。
リトは日が傾き始めてから圧縮の作業を再開した。解体して、骨を外して、部位ごとに分けて、圧縮する。硬くなった塊を並べていく。この動物の脂は多く、圧縮すると特に濃い塊になった。嚙んだときに旨味が長く続く。
ルカが横に座って、作業を見ていた。
「それ、水の中でも食えるか」とルカが聞いた。
「食える。水で少し戻るくらいだ」
「戦闘中でも?」
「嚙める口があれば」
ルカが腕を組んだ。「俺、戦いながら食えるな」
「知ってる」とリトが言った。
「前の練習で一回やったことある」
「知ってる。使える」
ルカが少し考えた。「嚙んでる間も熱が来るのか」
「嚙んでる間から来る。呑み込んでから全部来る」
「じゃあ嚙んでる途中でも補給になってる」
「そういうことだ」
ルカが「なるほど」と言って、もう一度腕を組んだ。
リトは作業を続けた。圧縮。並べる。圧縮。並べる。
日が落ちる前に八十四個になった。
「六人×十四日、足りるか?」とミラが横から確認した。
「一人一日一個で計算すると六人×十四日で八十四個。ちょうどだ」
「ちょうどは余裕がない」
「分かってる。明日の朝にもう少し作る」
ミラが頷いた。
二日目の夜、ミラが最後の食事を作った。
残った食材を全部使った。圧縮しない、普通の調理だ。イノシシの肉を薄く切って岩の上で焼いた。脂が落ちて煙が出た。ミラが葉を揉んで香りを出して、焼いた肉の上に載せた。
匂いが川岸に広がった。
誰も何も言わなかった。
ただ、全員が火の近くに自然に集まった。
父が肉を一切れ取って口に入れた。嚙んだ。
リトは父の横顔を見た。父は川を見ていた。地図のことを考えているのかもしれない。三番目の印の場所を、考えているのかもしれない。
リトは肉を食べた。
脂が熱い。葉の香りが強い。肉の繊維がほぐれるのに合わせて旨味が広がる。胃の奥に熱が落ちていく感覚がある。体の隅まで行き渡る感覚がある。
これが普通の食事だ、とリトは思った。
明日からしばらくは、石ころみたいな塊を嚙み続けることになる。栄養にはなる。熱にもなる。でもこれとは違う。
ミラが「おかわりある」と言った。
ルカが即座に手を伸ばした。
セイが少し遅れて手を伸ばした。
母が父の皿にもう一切れ乗せた。父は母を見て、何も言わずに食べた。
火が小さくなっていった。
川の音が続いていた。
翌朝、夜が明ける前にリトは起きた。
最後の圧縮分を二十個追加して、合計百四個になった。それを六つに分けて、それぞれが自分の分を持つ形にした。重さは均等ではなく、体力のある者が多く持つ。ルカが一番多く、父が次で、リトとミラとセイで残りを分けた。母には軽いものを持たせた。
「出るか」とルカが言った。
「出る」とリトが答えた。
父が地図を確認して、北の方角を指した。
川岸を離れた。東の城が遠ざかっていった。
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