第27話:川岸の朝
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
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目が覚めると、川の音がしていた。
三十センチの視界から見上げると、夜明けの空はまだ紺色で、星がいくつか残っていた。草の葉が顔に当たっている。リトは起き上がり、周囲を確認した。
全員いる。
川の音の向こうに、東の城の輪郭がかすかに見えた。見えるはずがない距離だが、そう感じた。
リトは首元に触れた。服の上から、焼印の場所を押さえた。
大領主が「来ると思っていた」と言った。
六年前から知っていたと言った。
なぜ六年前なのか。リトが生まれた年だ。
ルカが岩にもたれて口を開けて寝ている。ミラが膝を抱えて丸くなっている。セイが木の根元で背中を壁にして目を閉じている。母が父の肩に頭を預けて、父は目を開けたまま川の流れを見ている。
父と目が合った。
「起きてたのか」
「ああ」
それだけだった。
リトは立ち上がって川岸に歩いた。東の城の底から这い上がってきた水路の出口はここから二百メートル上流にある。昨夜、六人でそこから出てきた。父の足が本調子でないせいで川沿いをここまで下るのに一時間かかった。それ以上動けず、草むらに倒れ込んで夜が明けた。
川に手を入れる。冷たい。
リトは顔を洗って、もう一度全員を確認した。
父の足首が腫れている。城の地下で足場の悪い通路を長時間歩いたせいだ。普段は気にならない段差も、六メートル規格で作られた通路では、三十センチの体には腰の高さになる。それを何度も乗り越えた。
母は外傷はない。ただ、目の下に濃い影がある。一ヶ月以上を城の地下で過ごした痕跡だ。立っているときに膝がわずかに揺れていた。
ルカの左腕に包帯代わりに巻いた布がある。第23話の守備兵六人との戦闘で受けた傷で、深くはないが塞がりきっていない。
ミラとセイに目立った傷はない。
リトは自分の腕を確認した。擦り傷が二本。水路の壁に当たった跡だ。
全員、動ける。
それだけ確認して、リトは川岸にしゃがんだ。
朝日が出る頃に全員が起きた。
ミラが周辺で採取してきた根菜を川の水で洗って火にかけた。焚き火は小さくした。煙が上に伸びるより横に流れる場所を選んで、岩の陰に火を置いた。追跡者がこちらに来る可能性を考えれば煙の量は少ないほど良い。
「足りないね」とミラが言った。
「味がついてれば十分だ」とルカが言った。
「味、ついてない」
沈黙の後、ルカが「まあ十分だ」と言い直した。
母が根菜を半分に割って父に渡した。父は受け取って、一口食べて、リトを見た。
「食べてるか」
「食べた」
「もっと食べろ」
城の地下で父と再会してから、父がリトに向けて言う言葉はいつも同じだった。食え、食べたか、もっと食べろ。リトは根菜をもう一本取って口に入れた。味はほとんどなかったが、熱だけは感じた。胃袋の奥が少しあたたかくなる。
それで十分だった。
食事が終わると、セイが鞄から文書庫の本を取り出した。
分厚い革表紙の本で、大きさはセイの胴体ほどある。城の文書庫で大領主が投げ渡してきたものだ。あの夜、リトたちは文書庫の中で父の指が震えた図版を見た。小人の体の内側を描いた線と、そこから全身に放射状に広がる何かの回路の図。それが自分たちのことを描いたものだと父が確信していた。
セイがページを開いた。
見たことのない文字が並んでいる。縦に走る線と横に走る線が組み合わさった記号で、日常的に使われている巨人の文字とも違う。リトが城の壁に刻まれた焼印の記号とも違う。もっと古い。もっと細かい。
セイがページをめくった。まためくった。また。
「読めるか」とリトが聞いた。
「一文字も」とセイが答えた。
間があった。
「図版はある」とミラが言った。
セイがページを止めた。確かに、文字だけではなく、図が描かれているページが何枚かある。線で描かれた地形図のようなもの、丸と直線で構成された構造図のようなもの、そして、城の文書庫でリトたちが見た——人の体の内側を描いた図と同じ形式のものが複数ある。
父が手を伸ばして、その図版のページを指で押さえた。
何も言わなかった。ただ、指が止まっていた。
「後で話す」とリトが言った。
父は顔を上げた。
「今じゃなくていい。でもいつかは話してもらう」
父は一秒だけリトを見て、頷いた。
出発の前に、リトは父に聞いた。
「次はどこへ行く」
父は何も言わなかった。川の流れを見ていた。リトは待った。急かさなかった。
しばらくして、父が「ちょっと待て」と言って、上着の内側に手を入れた。
折りたたまれた紙が出てきた。
城の地下に閉じ込められていた一ヶ月以上の間も、父はそれを持ち続けていた。リトが城外で持っていたものとは別の、もう一枚の地図だった。
父がそれを広げた。
羊皮紙に描かれた地図で、リトが持っていたものより細かく、広い範囲を描いている。東の城を中心として、北の山脈、西の大河、南の砂漠地帯まで含んだ広域図だ。地名の多くはリトには読めないが、地形の輪郭は分かる。
父が地図の三か所に指を置いた。
「この記号がある場所は三つある」
父の指が示した三点を、リトは目で追った。一つは東の城のある場所、今いる位置のすぐそば。一つは北の山脈を越えた先、山の反対側の斜面に入り込んだ場所。そしてもう一つは——
「ここ」と父が言って指を置いた場所は、地図の端だった。北西の方角、山脈よりさらに遠い場所に描かれた印。「俺は行ったことがない」
リトは三点を繋ぐ線を頭の中で引いた。
等間隔ではない。東の城と北の山脈は比較的近い。だが三番目の場所は、そこからさらに倍以上の距離がある。
「この記号は」とリトが言った。「焼印と同じか」
「同じだ」と父が答えた。「城の廊下で見たやつとも、お前の母の首のやつとも——根っこは同じ形だ。ただ」
「ただ?」
「細かいところが少しずつ違う」
ルカが地図を覗き込んでいた。
「どう違う」
「分からない」と父が言った。「分からないから、知りたかった」
その言葉の重さをリトは測った。分からないから知りたかった。八年間、ツリーハウスで隠れ住みながら、父はこの地図を持ち続けていた。どこへも行けなかった。どこへ行けばいいかも分からなかった。ただ記号が三か所にあることだけを知っていた。
「どこで手に入れた」とリトが聞いた。
「お前が生まれる前だ」と父が答えた。「もう少し経ったら話す」
リトは頷いた。今日ではないと分かっていた。それでも父が地図を広げたことが、昨日までと違う何かだった。
ミラが地図を見ながら「北の山脈の向こうまで、どのくらいかかる」と聞いた。
「歩いて十日」と父が言った。「ただし追跡者に見つからなければ」
「見つかる可能性は」
「高い」
全員が少し黙った。
「行くのか」とルカが聞いた。
リトはルカを見た。それからセイを見た。セイは地図を見ていた。その目が文書庫の本に移った。読めない文字が並ぶページを、それでも何かを探すように見ている。
「行く」とリトが言った。
理由は一つではなかった。父が知りたかったものがそこにある。焼印の記号の意味がそこにある。セイが抱えている本の答えが、そこにあるかもしれない。
でも一番単純な理由は、そこへ行かなければ次が分からないからだ。
「出発は」とミラが聞いた。
「今日は動かない」とリトが言った。「父さんの足が治ってから」
父が「俺のことは」と言いかけると、リトが遮った。
「足が治ってから。それまでに食料と経路を整える」
父は何も言わなかった。
母が父の足首を診ている。腫れを指で確認して「二日あれば」と言った。
「二日」とリトが繰り返した。「二日で出る」
川の音が続いていた。東の城はここから視界に入らない距離にある。追跡者が来るとすれば城から出た後、水路の出口を発見してからだ。二日は持つ。
リトは地図をもう一度見た。
記号が三か所にある。その記号が焼印と同じ根を持っている。
理由は分からない。行ってみれば分かるかもしれない。分からないかもしれない。
でもここにいても分からないことだけは確かだった。
昼過ぎ、ミラが川で魚を捕ってきた。
三十センチの視界では川の流れの中に差す光の角度から魚の位置を読むことができる。ミラが熱で水面の一点を局所的に温めると、魚がそこに集まる。ルカが岩の上から手で掬う。原始的だが、有効だった。
火にかけると川魚の匂いが広がった。
母が香草を探してきて振りかけた。城の地下に一ヶ月以上いた後で、外の空気の中で調理された食べ物の匂いがどういうものか、リトには改めて分かった。
父が魚を食べながら、地図をもう一度広げていた。今度は一人で見ていた。三番目の印の場所に、指を置いていた。
リトはそれを見ていた。
父が何を知っていて、何を知らないのか、まだ半分も見えていない。
でも父が地図を広げたことは確かだ。
それで、今日は十分だった。
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