第26話:城の外で
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
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岸に座ったまま、しばらく誰も立ち上がらなかった。
川の音がしていた。水が石を踏む音だ。東の空が少しずつ白くなっていた。夜明けが近かった。城の輪郭がまだ見えた。灯りが並んでいた。変わらなかった。何事もなかったように、城は立っていた。
父が干し肉を食べていた。ゆっくり噛んでいた。顔色が戻ってきていた。一枚食べ終わって、また一枚取った。
母がリトの隣に座っていた。肩が触れるくらいの距離だった。何も言わなかった。川を見ていた。
しばらくして、母が口を開いた。
「大きくなったね」と母は言った。
「三十センチのままだ」とリトは言った。
母が笑った。声を出して笑った。久しぶりに聞く笑い方だった。最後に聞いたのがいつだったか、リトには思い出せなかった。それくらい前のことだった。
ルカが「三十センチで大きくなったって言われても」と言った。
「うるさい」とリトは言った。
ミラが小さく笑った。セイも口元が動いた。
父が干し肉を食べ終えて、「本は」と聞いた。
「セイが持っている」とリトは答えた。
父がセイを見た。セイが本を岸に置いた。水に濡れて表紙が膨らんでいた。それでも留め具は外れていなかった。
「読んだか」と父は聞いた。
「少しだけ」とリトは言った。「文字は読めなかった。図版だけ見た」
父が黙った。
「なぜ焼印を刻まれたのか、まだ分からない」とリトは言った。「なぜ食べると強くなるのかも、全部は分からない。なぜ俺たちが追われていたのかも」
父は川を見ていた。答えなかった。
「父さんと母さんを追った理由は」とリトは聞いた。
父がまた黙った。今度は長かった。川の音だけがあった。
「そのうち話す」と父は言った。
「また同じことを言う」とリトは言った。
父が振り返った。目が笑っていた。口は笑っていなかったが、目だけが笑っていた。あの夜の食卓で、最後に見た目と同じ目だった。
「今夜は食べろ」と父は言った。
リトは何も言わなかった。干し肉を取り出した。一枚、父に渡した。父が受け取った。
夜明けの光が川面を染め始めた。
橙色が水の表面を走った。城の石壁が光を受けて、灰色から薄い金色に変わった。鳥の声がどこかから聞こえた。森の奥から来た声だった。
セイが「これからどうする」と聞いた。
全員がリトを見た。
リトは川の向こうを見た。城がある方向だ。城壁の上の松明は、夜明けの光の中でも消えていなかった。
大領主が文書庫に立っていた姿を思った。あの目を思った。確かめるような、名前のつけられない目を。
「分からない」とリトは言った。「でも、戻ってくる」
セイが頷いた。ルカが何も言わずに川を見た。ミラが膝を抱えた。
しばらく黙っていた。
川面に光が増えてきた。水が白く輝いた。リトは川面を見ていた。
遠くの森の中で、何かが光った。
一瞬だった。橙色ではない。白い光だった。木々の間に見えて、消えた。
気のせいかもしれなかった。夜明けの光が何かに反射したのかもしれなかった。
リトは何も言わなかった。
父が「リト」と言った。
振り返った。
父は川を見たまま言った。「お前たちの焼印の記号と同じ印が、他にもある場所を俺は知っている」
リトは黙って聞いた。
「東の城よりも遠い場所だ。もっと遠い。どのくらい遠いのかは、地図でしか見たことがない」父が少し間を置いた。「そこに何があるのかは、俺にも分からない。でも、ある」
六人の呼吸が、夜明けの空気の中に白く見えた。
リトは川面を見た。水が光を返していた。
「教えてくれ」とリトは言った。
父が頷いた。
目は笑っていなかった。
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