第25話:文書庫の記録
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
今回もよろしくお願いします。
扉を押した。
重かった。だが開いた。蝶番が低い音を立てた。
中に入った。
天井が高かった。
壁一面に本棚があった。床から天井まで、本が詰まっていた。革装丁のもの、木の板で挟んだもの、紐で束ねた羊皮紙のもの。古いものほど奥に収まっていた。埃の匂いと古い紙の匂いが混ざっていた。
その奥に、人がいた。
大きかった。
本棚の前に立っていた。三メートルを超える体格だ。首輪も鎧もつけていなかった。地味な色の服を着ていた。装飾がない。王族の格好ではなかった。だが、その体が持つ重さは、リトがこれまで感じたどの人間とも違った。空気が違う。立っているだけで、部屋の密度が変わる。
大領主だった。
全員が入口で止まった。
大領主はリトたちを見た。動かなかった。武器に手を伸ばさなかった。ただ、立っていた。
「来ると思っていた」と大領主は言った。
声が低かった。廊下の向こうまで届きそうな声だった。
リトは何も言わなかった。
父が廃屋の床に伏せたまま言った言葉と同じだった。同じ言葉が、全く違う場所から来た。
大領主は本棚に向き直った。
棚を指でなぞった。一冊を引き抜いた。分厚い本だ。表紙は黒い革で覆われていた。銀の留め具がついていた。
リトに向かって投げた。
受け取った。重かった。自分の体と同じくらいの重さがあった。表紙に記号が刻まれていた。線が三本、交差している。右上に小さな丸がある。
焼印と同じ形だった。
「この記録の意味が、お前には分かるか」と大領主は言った。
リトはページを開いた。
文字は読めなかった。文字の形が違う。知っている文字ではない。古い書き方なのか、別の言語なのか、判断できなかった。記号が並んでいた。数字のようなものが並んでいた。地図のような図版があった。城と森と川の形が書かれていた。見慣れた地形ではなかった。
何が書いてあるのか、分からなかった。
父がリトの隣に来た。本を覗き込んだ。
一瞬、父の息が止まった。
「父さん」とリトは言った。
父は答えなかった。本のあるページを、指で押さえた。それだけだった。何も言わなかった。
父の指が、かすかに震えていた。
リトは父の指が押さえているページを見た。
図版があった。
小さな体の輪郭が描かれていた。人の形だ。その中心に、結晶のような形が描かれていた。そこから全身に向かって、細い線が走っていた。血管のような線だった。輪郭の外まで線が伸びていた。伸びた線の先に、小さな丸がいくつか描かれていた。
リトは自分の腹の奥を思った。食べるたびに溜まる熱を。石一発に乗せる圧力を。体の内側から外へ向かう力の流れを。
父の指が震えている理由が、言葉なしに分かった。
これは、俺たちのことだ。
ページをめくった。
数字が並んでいた。表のようなものがあった。読めない文字と数字が組み合わさっていた。次のページに地図があった。広い地図だった。城よりも広い範囲が描かれていた。いくつかの場所に、焼印と同じ記号が打たれていた。城の位置だけでなく、もっと遠い場所にも記号があった。
セイが横から覗き込んだ。地図のある場所で、セイの目が止まった。
「これは——」とセイが言いかけた。
「なぜこれを俺に見せる」とリトは大領主に聞いた。
大領主は答えなかった。
ただ、リトを見ていた。何かを確かめるような目だった。品定めではない。敵意でもない。もっと別の、リトには名前のつけられない目だった。初めて見る目だった。
その目が、何を見ているのか分からなかった。
本を見ているのではなかった。リトを見ていた。リトの腹の奥を見ているような目だった。
「もう限界だ」とミラが叫んだ。「廊下に来てる、逃げて」
リトは本を閉じた。
セイに向かって投げた。「持て」と言った。
セイが受け取った。両手で抱えた。
リトは大領主を見た。大領主は動いていなかった。入口との間に立っていなかった。道が開いていた。
なぜ塞がないのか分からなかった。
考える時間がなかった。
「行くぞ」とリトは言った。
六人は文書庫を出た。
走りながら、リトは父の指の震えをまだ感じていた。あの図版の意味を、父は知っていた。知っていて、何も言わなかった。廃屋で「食べろよ」と言ったときも、スリングを作ったときも、父はずっと知っていた。
いつから知っていたのか。
なぜ言わなかったのか。
走りながら、リトには聞けなかった。
水路の入口まで戻った。
追手の足音が聞こえた。近かった。
「先に入れ」とリトは言った。
セイが本を抱えたまま穴に入った。父が続いた。母が続いた。ミラが続いた。ルカが最後に入った。
リトが入る直前に、振り返った。
廊下の奥に、大領主がいた。
文書庫の入口に立っていた。追ってこなかった。ただ立っていた。
距離があって表情は見えなかった。だが、あの目をしているのだと分かった。確かめるような目をしているのだと。
リトは穴に入った。水が体を包んだ。冷たかった。
川に出た。
全員が岸にたどり着いた。夜明け前の空だった。川面が白く光り始めていた。
六人が岸に座った。呼吸を整えた。誰も何も言わなかった。
セイが本を胸に抱いていた。水に濡れていた。それでも離さなかった。
しばらくして、セイが口を開いた。
「兄の名前があった」とセイは言った。「文書庫の記録に、兄の名前が載っていた」
誰かが息を呑んだ。
「生きている可能性がある」とセイは言った。「どこにいるかは、まだ分からない。でも、生きているかもしれない」
セイの目に、初めて確かな方向性が生まれた。この一ヶ月、大領主の情報部隊として動いてきた目ではなかった。自分の行き先を、初めて自分で決めた者の目だった。
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