↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第3章:城の底

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/34

第22話:地下牢の父

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 廊下を進んだ。

 松明の光が届かない場所は暗かった。足音を殺しながら壁沿いに歩いた。水を含んだ服が体に張り付いて重かった。リトの耳は廊下の奥を捉え続けていた。声がある。近づくたびに大きくなる。

 格子が見えた。

 廊下の左側に、鉄の格子が並んでいた。牢だ。複数ある。奥まで続いていた。

 最初の格子の前で、リトは止まった。

 中に人がいた。

 格子の向こうに、壁に背をもたれて座っている人間がいた。小人だ。痩せていた。服が汚れていた。腕に包帯が巻かれていた。古い包帯だ。滲んでいた。

 頭が、ゆっくりと上がった。

 目が合った。

 リトは動けなかった。

 父だった。


 どれくらいの間、二人は黙っていたのか分からなかった。

 一秒かもしれない。十秒かもしれない。父はリトを見ていた。リトも父を見ていた。父の目が、リトの顔を、体を、腰のスリングを、順番に確かめるように動いた。

 父は泣かなかった。

 「来ると思っていた」と父は言った。

 声がかすれていた。だが父の声だった。八年間、毎日聞いてきた声だった。

 「来るなと言わなかったのか」とリトは聞いた。

 「言えなかった」と父は言った。

 それだけだった。説明しなかった。謝らなかった。ただ、言えなかった、と言った。

 リトは格子の鍵を探した。廊下の壁に鍵束がかかっていた。一つずつ試した。三つ目で錠が外れた。格子を引いた。

 父が立ち上がろうとした。

 立てなかった。

 膝が上がらなかった。壁を押して体を起こそうとしたが、腕に力が入らなかった。父が自分の手を見た。その目に、何かが過ぎた。

 リトは格子の中に入った。父の腕を肩に回した。父の体重がかかった。軽かった。三十センチのリトには重すぎる体重のはずだった。だが軽かった。それが何を意味するのか、リトには分かった。考えないことにした。

 「立てるか」とリトは聞いた。

 「ああ」と父は言った。

 立てていなかった。だが二人で壁を押して、ゆっくりと体を起こした。父が廊下に出た。


 隣の格子に、人がいた。

 リトは顔を向けた。

 母だった。

 格子の内側に立っていた。いつから立っていたのか分からなかった。手が格子の鉄棒を握っていた。指が白くなるほど、強く握っていた。

 母はリトを見た。

 一秒、二秒、三秒。

 母が両手で顔を覆った。声が出なかった。肩が震えていた。声を出さずに泣いていた。格子の鉄棒に額をつけて、ただ震えていた。

 リトは母の格子を開けた。

 中に入った。母の肩に手を置いた。小さな手だった。母の肩に比べて、ひどく小さな手だった。

 「食べろよ」とリトは言った。「ちゃんと、食べろよ」

 母の肩が、一度だけ大きく震えた。

 後ろで、父が小さく笑った。声を出さない笑い方だった。

 リトは袋を開けた。干し肉を取り出した。一枚、また一枚。持っている分を全部出した。

 「全部食え」とリトは言った。「動けるようになるまで食え。時間はある」

 「時間はない」とセイが廊下の入口から言った。「守備の交代まで、あと少しだ」

 リトは父に干し肉を渡した。父が受け取った。口に入れた。噛んだ。飲み込んだ。もう一枚を手に取った。

 母が顔を上げた。目が赤かった。リトを見た。それから干し肉を見た。受け取った。食べた。

 リトは二人が食べるのを見ていた。


 父が干し肉を三枚食べた頃、顔色が少し戻ってきた。

 「足は動くか」とリトは聞いた。

 「動く」と父は言った。今度は本当だった。壁を使わずに立っていた。

 「ここを出る。水路を通る。泳げるか」

 「泳げる」

 「水の中で食べながら進む。干し肉は袋に入れて持て。水に濡れても食える」

 父が頷いた。

 母が「セイは」と言った。セイを見た。セイの手首の焼印を見た。

 「仲間だ」とリトは言った。それ以上は説明しなかった。今は時間がない。

 「行くぞ」とリトは言いかけた。

 父が「リト」と言った。

 振り返った。

 父の目が、廊下の奥——城の内側の方向を見ていた。

 「文書庫には行くな」と父は言った。

 「分かった」とリトは言った。

 「分かったじゃない」父の声が低くなった。「あそこには行くな。俺たちが追われた理由が、そこにある。知れば、もう後戻りできない」

 リトは黙った。

 父はそれ以上言わなかった。リトも聞かなかった。

 二人の間に、短い沈黙があった。


 ミラが「止まって」と言った。

 全員が動きを止めた。

 ミラの索敵の目になっていた。廊下の入口の方を見ていた。

 「来る」とミラは言った。「足音がする。複数だ」

 「交代はまだのはずだ」とセイが言った。

 「早い。想定より早い」

 セイが顔色を変えた。廊下の入口を見た。足音が聞こえ始めていた。重い。複数の足音が揃っている。急いでいる足音ではない。整然としている。

 「人数は」とリトはミラに聞いた。

 「六人以上。こっちに向かってる」

 通常の守備交代ではない。六人以上が揃って地下に来る理由がない。

 セイが「罠かもしれない」と言った。声が低かった。「俺たちが入ったことを、最初から知っていたのかもしれない」

 リトはスリングを手に取った。

 廊下の入口に目を向けた。松明の光の端に、影が見え始めていた。


お読みいただきありがとうございました。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。