↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第3章:城の底

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第21話:水路

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 川に入った。

 水が冷たかった。予想していたより冷たかった。練習のときは昼間だった。今は夜明け前だ。水温が違う。三十センチの体が一瞬で芯まで冷えた。

 「行く」とリトは言った。

 潜った。


 水路の入口は川底に開いていた。

 葦の根元、水面下に口を開けた石造りの穴だ。セイが事前に言っていた通りの場所にあった。幅は一メートルほどある。高さも同じくらいだ。大人の人間には狭すぎる。小人なら通れる。

 リトが先に入った。

 暗かった。川の中はまだ水面からの光が届いていたが、水路に入った瞬間に光が消えた。目を開けても閉じても変わらない暗さだ。手を前に伸ばすと、石の壁が触れた。冷たい。滑らかではなく、表面に藻が生えていた。

 後ろからセイが入ってくる気配がした。その後ろにミラとルカだ。

 リトは水中推進を始めた。

 前方の水圧を下げる。後方との差を作る。川の練習でやった通りだ。体の周囲に流れが生まれた。体が前へ動き出した。

 暗い中を進む。水路は真っ直ぐだった。天井が低い。泳ぐというより這い進む感覚だ。前方に何もない。どこまで続いているのか分からない。

 三十秒が経った。

 熱の残量を確かめた。練習より消費が速い。水温が低いせいかもしれない。体が冷えていると、熱を維持するためにエネルギーが余分に使われる。想定外だった。

 一分が経った。

 熱が半分を切った。

 まずい。城まであと半分以上ある。このペースでは途中で切れる。

 リトは速度を落とした。水中推進の出力を下げた。体が前へ進む力が弱くなった。その分、消費が落ちる。遅くなるが、途中で止まるよりはいい。

 さらに一分が経った。

 熱が三分の一を切った。落とした出力でも、消費が止まらない。水温のせいだけではない。水路の水圧が川より高い。それに抵抗するために余分な力が必要になっている。

 止まりそうだった。

 その時、後ろから何かが触れた。

 ミラの手だった。

 手のひらに何かを押し付けてきた。干し肉だった。水の中に持ち込んでいた干し肉を、ミラが前に伸ばして渡してきた。

 水の中で食べる。

 やったことがなかった。水が入る。噛めるかどうか分からない。だが熱が切れれば溺れる。やるしかない。

 口を少し開けた。干し肉を押し込んだ。水が一緒に入った。噛んだ。硬い。だが噛める。飲み込んだ。水も一緒に飲み込んだ。

 数秒後、腹の奥で何かが動いた。

 小さい。陸上で食べるときほどではない。だが確かに熱が戻った。三分の一から、半分近くまで。

 できる。

 リトは出力を元に戻した。体が前へ加速した。


 分岐が来た。

 水路が二股に分かれていた。左と右。セイが「右だ」と言った。水の中で声は伝わらないが、セイが体で方向を示した。リトは右へ折れた。

 右の水路は天井が低かった。頭が石に触れそうになった。体を縮めながら進んだ。

 壁に何かがあった。

 指先に触れた。滑らかではない。刻まれた跡だ。

リトは手を止めて指で輪郭を辿った。線が複数ある。交差している。

焼印に似ていたが、違う形だった。線の数が多い。角度が違う。同じ系統の記号だが、父の手首にあるものより複雑だ。

 後ろからセイが追いついてきた。リトの手が触れている場所を、セイも指で確かめた。

 セイが体を動かして先を急かした。後で、ということだ。

 リトは進んだ。

 光が見えた。

 前方の遠くに、薄い光の筋があった。出口だ。水路の終わりだ。

 リトは出力を上げた。光へ向かって進んだ。光が大きくなった。石の縁が見えてきた。水路の端だ。

 顔を水面に出した。

 息を吸った。冷たい空気が肺に入った。

 周囲を見た。

 石造りの天井が低かった。壁が続いていた。地下だ。水路の出口は床に開いた穴のような場所に繋がっていた。水が溜まっている。その先に、石の廊下が続いていた。松明が一本だけ遠くに見えた。橙色の光が壁を染めていた。

 セイが上がってきた。次にミラが上がった。ルカが最後だった。ルカが水から出た瞬間、水が大きく跳ねた。

 四人は廊下の壁に背をつけて、息を整えた。

 体が冷えていた。服が水を含んで重かった。だが全員、上がれた。

 「右で合ってた」とリトはセイに言った。

 セイは頷いた。それだけだった。

 ミラが廊下の奥に目を向けた。索敵の目だ。遠くを見る、焦点が定まらない目になった。

 「人の気配がする」とミラは言った。「複数いる。この廊下の奥だ」

 「守備か」とリトは聞いた。

 「違う。動いていない。一か所に固まっている」ミラが少し黙った。「一人、声が聞こえる。低い声だ」

 リトは耳を澄ませた。

 水の音。自分たちの呼吸の音。それから——廊下の奥の、かすかな声。

 低い。押さえつけているような声だ。だが聞こえた。

 リトの耳が、その声を拾った瞬間、手の中のスリングを握り直していた。

 知っている声だった。


お読みいただきありがとうございました。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。