第21話:水路
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
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川に入った。
水が冷たかった。予想していたより冷たかった。練習のときは昼間だった。今は夜明け前だ。水温が違う。三十センチの体が一瞬で芯まで冷えた。
「行く」とリトは言った。
潜った。
水路の入口は川底に開いていた。
葦の根元、水面下に口を開けた石造りの穴だ。セイが事前に言っていた通りの場所にあった。幅は一メートルほどある。高さも同じくらいだ。大人の人間には狭すぎる。小人なら通れる。
リトが先に入った。
暗かった。川の中はまだ水面からの光が届いていたが、水路に入った瞬間に光が消えた。目を開けても閉じても変わらない暗さだ。手を前に伸ばすと、石の壁が触れた。冷たい。滑らかではなく、表面に藻が生えていた。
後ろからセイが入ってくる気配がした。その後ろにミラとルカだ。
リトは水中推進を始めた。
前方の水圧を下げる。後方との差を作る。川の練習でやった通りだ。体の周囲に流れが生まれた。体が前へ動き出した。
暗い中を進む。水路は真っ直ぐだった。天井が低い。泳ぐというより這い進む感覚だ。前方に何もない。どこまで続いているのか分からない。
三十秒が経った。
熱の残量を確かめた。練習より消費が速い。水温が低いせいかもしれない。体が冷えていると、熱を維持するためにエネルギーが余分に使われる。想定外だった。
一分が経った。
熱が半分を切った。
まずい。城まであと半分以上ある。このペースでは途中で切れる。
リトは速度を落とした。水中推進の出力を下げた。体が前へ進む力が弱くなった。その分、消費が落ちる。遅くなるが、途中で止まるよりはいい。
さらに一分が経った。
熱が三分の一を切った。落とした出力でも、消費が止まらない。水温のせいだけではない。水路の水圧が川より高い。それに抵抗するために余分な力が必要になっている。
止まりそうだった。
その時、後ろから何かが触れた。
ミラの手だった。
手のひらに何かを押し付けてきた。干し肉だった。水の中に持ち込んでいた干し肉を、ミラが前に伸ばして渡してきた。
水の中で食べる。
やったことがなかった。水が入る。噛めるかどうか分からない。だが熱が切れれば溺れる。やるしかない。
口を少し開けた。干し肉を押し込んだ。水が一緒に入った。噛んだ。硬い。だが噛める。飲み込んだ。水も一緒に飲み込んだ。
数秒後、腹の奥で何かが動いた。
小さい。陸上で食べるときほどではない。だが確かに熱が戻った。三分の一から、半分近くまで。
できる。
リトは出力を元に戻した。体が前へ加速した。
分岐が来た。
水路が二股に分かれていた。左と右。セイが「右だ」と言った。水の中で声は伝わらないが、セイが体で方向を示した。リトは右へ折れた。
右の水路は天井が低かった。頭が石に触れそうになった。体を縮めながら進んだ。
壁に何かがあった。
指先に触れた。滑らかではない。刻まれた跡だ。
リトは手を止めて指で輪郭を辿った。線が複数ある。交差している。
焼印に似ていたが、違う形だった。線の数が多い。角度が違う。同じ系統の記号だが、父の手首にあるものより複雑だ。
後ろからセイが追いついてきた。リトの手が触れている場所を、セイも指で確かめた。
セイが体を動かして先を急かした。後で、ということだ。
リトは進んだ。
光が見えた。
前方の遠くに、薄い光の筋があった。出口だ。水路の終わりだ。
リトは出力を上げた。光へ向かって進んだ。光が大きくなった。石の縁が見えてきた。水路の端だ。
顔を水面に出した。
息を吸った。冷たい空気が肺に入った。
周囲を見た。
石造りの天井が低かった。壁が続いていた。地下だ。水路の出口は床に開いた穴のような場所に繋がっていた。水が溜まっている。その先に、石の廊下が続いていた。松明が一本だけ遠くに見えた。橙色の光が壁を染めていた。
セイが上がってきた。次にミラが上がった。ルカが最後だった。ルカが水から出た瞬間、水が大きく跳ねた。
四人は廊下の壁に背をつけて、息を整えた。
体が冷えていた。服が水を含んで重かった。だが全員、上がれた。
「右で合ってた」とリトはセイに言った。
セイは頷いた。それだけだった。
ミラが廊下の奥に目を向けた。索敵の目だ。遠くを見る、焦点が定まらない目になった。
「人の気配がする」とミラは言った。「複数いる。この廊下の奥だ」
「守備か」とリトは聞いた。
「違う。動いていない。一か所に固まっている」ミラが少し黙った。「一人、声が聞こえる。低い声だ」
リトは耳を澄ませた。
水の音。自分たちの呼吸の音。それから——廊下の奥の、かすかな声。
低い。押さえつけているような声だ。だが聞こえた。
リトの耳が、その声を拾った瞬間、手の中のスリングを握り直していた。
知っている声だった。
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