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食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第2章:焼印の国

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第18話:東から来た者

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 荷馬車を追った。

 街道を外れて草地を走りながら、荷馬車の速度を測った。馬二頭引きで、速い。追いつくのは無理だ。だが止まる場所は分かる。夜になれば野営する。野営地は街道沿いの決まった場所だ。地図に印がある。

 「追うのか」とルカが走りながら言った。

 「夜まで待つ」とリトは言った。「野営したところへ行く」

 「何のために」

 「東の城から来た荷馬車だ。中に小人がいた。城の話を知っている」

 ルカが黙った。それ以上聞かなかった。


 夜になった。

 野営地の焚き火が見えた。ミラが「人間が二人、小人が三人」と言った。「荷台の近くにいる。小人は縄で繋がれてる」

 リトは一人で近づくことにした。

 ミラとルカを草地に残して、腹ばいで進んだ。焚き火から離れた荷台の影に回った。荷台の端に、老いた小人の女性が座っていた。縄が足首に繋がれていた。縄の端は荷台の柱に結ばれていた。

 目が合った。

 女性が口を開きかけた。リトが指を唇に当てた。女性が止まった。

 リトは荷台の影に入った。女性との距離が一メートルになった。

 女性はリトを見た。三十センチの体を見た。スリングを見た。子供の顔を見た。警戒していた。当然だった。見知らぬ子供に城の話をする理由がない。

 リトは袋から干し肉を出した。持っている分を全部出した。

 「情報をくれ」とリトは言った。「代わりにこれを全部やる。逃げる足しにしろ」

 女性が干し肉を見た。リトを見た。

 しばらく何も言わなかった。

 それから「何を知りたい」と言った。声が低かった。かすれていた。

 「東の城だ。中の様子を聞かせてくれ」

 女性が少し目を細めた。リトを値踏みするような目だった。三十センチの子供が、交渉している。その目に何かが動いた。警戒とは別の何かだった。

 「最近、焼印持ちが二人連れてこられた」と女性は言った。「一月ほど前だ。大人の男と女。二人とも生きていた。城の奥に入れられた」


 生きている。

 二人は生きている。

 リトの目が、一瞬だけ揺れた。

 視界がわずかにぼやけた。一瞬だけだった。それだけだった。揺れてから、また動き出した。

 「場所は」とリトは言った。

 女性が城の構造を話し始めた。リトは全部頭に入れた。東棟と西棟があって、焼印持ちは東棟の地下に置かれる。地下は三層ある。新しく来た者は一番上の層だ。守備は昼より夜の方が薄い。大領主は夜に城の西側にいることが多い。東棟の守備が手薄になるのは夜明け前の二刻だ。

 「その二人は今も東棟にいるか」とリトは聞いた。

 「一月前にはいた。今は分からない」

 「動かされることはあるか」

 「ある。大領主の気分次第だ。気に入った者は奥へ連れていく。気に入らなければ別の場所へ送る」

 「どのくらいの頻度で動かされる」

 「読めない。一週間で動くこともある。半年いることもある」

 リトは頭の中で地図を描いた。東棟、地下一層、夜明け前の二刻。

 全部入った。

 リトは立ち上がった。

 女性が「あんた、あそこに行くのか」と言った。

 「行く」とリトは言った。

 「なんで」

 リトは少し黙った。

 答える必要はなかった。情報は得た。干し肉は渡す。それで取引は終わりだ。なぜ行くかを説明する理由はない。

 だが口が動いた。

 「俺の父さんと母さんが、そこにいる」

 言ってから、少し驚いた。自分が言ったことに。

 女性が黙った。

 焚き火の音だけがあった。遠くで虫が鳴いていた。

 女性はリトを見ていた。リトも女性を見ていた。

 何も言わなかった。言う言葉がなかった。言う必要もなかった。

 「ありがとう」とリトは言った。

 干し肉を女性の膝の上に置いた。

 言い終わった後、少しだけ沈黙があった。

 誰かにありがとうと言ったのがいつ以来か、リトには分からなかった。父に言ったのはいつだったか。母に言ったのはいつだったか。あの夜、別れた夜、何か言ったか。何も言わなかった気がした。

 女性が口を開いた。「あの城に一つだけ、入れる隙がある」

 リトは顔を上げた。

 「正面から入ろうとするなら全員死ぬ。守備が固すぎる。でも——」女性が少し間を置いた。「地下から入るなら、話は別だ」

 「地下から」

 「城の地下水路が、城外の川に繋がっている。川から水路に入れば、東棟の地下に直接出られる。守備は水路を見ていない。誰も川から入ろうとしないから」

 リトは川を思った。地図の上の、城の東側を流れる川だ。

 「なぜ教える」とリトは聞いた。

 女性が少し黙った。「子供が親を探しに行く話だから」とだけ言った。

 それ以上の説明はなかった。


 リトは女性のもとを離れた。

 草地に戻った。ミラとルカが待っていた。

 リトは全部話した。父母が生きていること。東棟の地下にいること。水路のこと。二人は黙って聞いた。

 話し終えた後、三人は黙った。

 ルカが「生きてたんだな」と言った。

 「生きてた」とリトは言った。

 またしばらく黙った。


 老奴隷の女性が荷馬車の方へ戻っていく気配がした。

 ミラがリトの方を向いた。

 「ね、リト」とミラは言った。

 リトは地図を広げようとしていた。

 「泣きたかったんじゃないの」

 リトは手を止めた。

 少し間があった。

 「知らない」とリトは言った。

 地図を広げた。川の位置を確認した。城までの距離を測った。

 ミラはそれ以上何も言わなかった。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もよろしくお願いします。

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